IT業界に大きな影響を与え続けている新型コロナ禍。プロジェクトの遅延や一時保留といった打撃があった一方、テレワーク環境の整備など特需につながった面もある。昨年がコロナへの対応に迫られた“混乱期”だったとすれば、今年はデジタル変革に向けたアクセルを再び踏み始める“再始動期”だったと言えるだろう。2021年のIT業界がどのように揺れ動いたのか、週刊BCNの紙面を通じて振り返る。
(構成/日高 彰)

DXで変わるITビジネスの構造

 本紙7月5日・1881号の特集「『共創』ビジネスがDXで活性化 ITベンダーとユーザー企業の合弁事業」では、近年デジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈で相次いで設立されている、ITベンダーとユーザー企業との共同出資による新たなIT事業会社の実例を紹介した。
 
(7月5日vol.1881掲載)

 従来もITベンダーが事業会社のIT子会社に出資するケースはあったが、それらは主にユーザー企業のシステム運用をアウトソーシングすることが目的だった。これに対して昨今の合弁事業は、最新のテクノロジーや外部の知見なども積極的に取り入れ、ユーザー企業のデジタル戦略の立案にも積極的に関与していく考え方のものが多い。合弁会社は受託業者として仕事を請け負うのではなく、デジタル変革の仕掛け役・実行役となるわけだ。今年の具体的な事例としては、資生堂とアクセンチュア、日本IBMとJTB、富士通とファナックとNTTコミュニケーションズなどの合弁があった。

 逆に、非IT企業が、事業の現場で生まれたIT活用のアイデアを商品化し、外部への販売を開始するといった例も見られる。いわば、「非IT企業のITベンダー化」である。6月28日・1880号では、特集「『非IT企業のIT事業』に学ぶDX時代のITビジネス」の中で、自動車部品メーカー・旭鉄工の改善活動から生まれたIoTソリューションや、三重県伊勢市の老舗食堂・ゑびやが開発した店舗管理ツールなどを紹介した。

 DXが進み、デジタル戦略が企業の事業戦略そのものに近づけば近づくほど、ITベンダーとユーザー企業の関係は、発注者と受託者という単純なものではなくなっていく。来年は新たな形をもつITビジネスの実例がより多く生まれてくることだろう。

ローコード/ノーコードと「内製化」がキーワードに

 最小限のプログラミング作業で、もしくはプログラミング作業なしでアプリケーションを開発できる、ローコード/ノーコード開発ツールも、今年のIT業界で注目のキーワードとなった。そこには、ユーザー企業がITベンダーの力を借りることなく、現場主導でシステム開発にまい進できるようになれば、業務や事業の変革に必要なアプリケーションをより素早く手に入れることが可能になるという期待がある。

 しかし、ユーザー企業自身がシステム開発のスキルを身につけた場合、ITベンダーの仕事が消滅することにならないか。3月1日・1864号の特集「ローコード/ノーコード開発による『内製化支援』のあり方」では、ローコード/ノーコード開発ツールを活用した内製化支援サービスを手がけるベンダー3社に取材し、内製化の進展とSIビジネスの将来を占った。
 
(3月1日vol.1864掲載)

 取材先の3社はいずれも、「内製化支援を提供することでITベンダーの仕事はむしろ拡大する」との見方を示した。内製化のニーズが大きいのは業務が頻繁に変化する現業部門や、競合他社との差別化につながる部分であり、安定稼働が求められるバックオフィス部門のシステムは引き続きITベンダーに頼るケースが多い。また、いかに開発のハードルが下がるといっても、ユーザー企業だけでできることには限界がある。ITベンダーが内製化支援という形でユーザーと関係を築いていれば、ユーザーが新しいことをやりたいときにはおのずとそのベンダーに声がかかる形となり、むしろビジネスの継続性を強化できるという格好だ。

 また、10月11日・1894号ではローコード開発基盤の導入で内製化シフトに成功した学習塾・東京個別指導学院の事例をレポート。同社では内製化によってシステムのブラックボックス化を防ぐとともに、データ活用の推進を目指している。