Special Feature
富士フイルムBIのDynamics導入プロジェクト 経営資源の大胆な再配分を可能に ITソリューション事業の拡大に役立てる
2022/02/24 09:00
週刊BCN 2022年02月21日vol.1911掲載

富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)は事業の再編、転換に向けてマイクロソフトのERP「Dynamics 365」の全社導入を決めた。既存の複合機を中心としたビジネスを堅持しつつ、注力分野のITソリューションを軸とした新規事業の立ち上げには、経営資源の配分を臨機応変に変えることが求められる。リアルタイムに資源を可視化し、可能性がありそうな領域へと瞬時に経営資源を配分するには、「統一されたプラットフォーム上で、全社員がデータを参照でき、数字に基づいた正しい判断を下す環境整備が必要」(稲永滋信・取締役常務執行役員)だと判断した。富士フイルムBIの基幹システム刷新プロジェクトをレポートする。
(取材・文/安藤章司)
Azure基盤上で一気通貫に統合
富士フイルムBIは、基幹業務(ERP)にオラクルの「E-Business Suite(EBS)」、顧客管理(CRM)に「Salesforce」を主に使ってきた。オラクルEBSは、主力事業である複合機の巨大で複雑なビジネスを15年余りにわたって支えてきたもので、既存事業だけに限ってみれば「何かの不満があるどころか、営業支援のSalesforceを含めて非常に優秀なシステム」だと稲永常務は高く評価している。
だが、富士フイルムBIは既存の複合機を中心としたドキュメント事業に加えて、ITソリューション事業を大きく伸ばす経営方針を打ち出しており、どのようなかたちで軌道に乗るか分からない新規ITソリューション事業に対応していくためには、基幹系システムもそれに見合うかたちで入れ替える必要があると判断した。
では、なぜ富士フイルムBIが新規事業を創出するのに際して適している基幹システムがDynamics 365なのか。これについて稲永常務は「現場の部門担当者から経営層まで、全社でのデータ共有が容易に実現でき、収益構造が大きく変化したときも数字に基づいて最適な判断が下しやすくなるため」と捉えている。
具体的には、Dynamics 365とメガクラウドのAzure基盤、データ分析系アプリを集めた「Power Platform」、さらには日常業務のユーザーインターフェース(UI)の役割を担うオフィスソフトが、マイクロソフトの基盤上で一気通貫に統合されており、データが散逸しない点を重視した。
例えば、ERPやCRMのデータをPower Platformで分析し、その結果を手元の「Excel」で引き出すといったことが容易に実現できる。これによって収益構造をリアルタイムで可視化することができ、「ぶっつけ本番で体当たりするのではなく、日々の数字に基づいて的確な判断が下しやすくなる」(稲永常務)と見ている。
「富士フイルムの成功」を再現する
富士フイルムBIがデータ分析を重視する背景には、親会社の富士フイルムが的確にデータを分析して事業を立て直した成功体験が挙げられる。富士フイルムは、デジカメの台頭で当時主力だった写真フィルム事業が急速に縮小するなか、経営リソースを大胆に配分し直して、今の稼ぎ頭である健康医療や化学素材などの事業を立ち上げて経営を成長軌道に戻した。長らく会計畑を歩み、富士フイルムの事業変革を会計の観点から推進してきた稲永常務は「企業が変革するには、ヒト・モノ・カネの経営資源をいかに素早く的確に再配分できるかにかかっている」と話す。一例を挙げれば、新規事業を立ち上げる際に本社部門は投下資本利益率など財務諸表の数字を見ているが、事業部門の担当者によっては在庫回転率を見たり、売掛金や滞留債権が重要な指標になったりと、それぞれ注視すべき数字が異なる。
新規事業となれば、うまく進む事業もあれば、軌道を修正しなければならない事業もある。榎本圭孝・全社改革室マネジャーは「社内のすべての担当者が見たい数字を自在に引き出し、分析をかけ、可視化できる仕組みが欠かせない」とし、Dynamics 365とPower Platform、Azure、UIとしてのMicrosoft 365を組み合わせることで、それが実現可能になると見る。
もう一つの選択理由は、富士フイルムBIでは自社の基幹刷新の知見を生かして、一般顧客向けにDynamicsなどを活用したビジネスを立ち上げることを決めており、中堅・中小企業から大企業の顧客まで幅広く使えることを重視した。確かにDynamics 365やPower Platform、Azureであれば、中堅・中小から大規模な企業まで幅広く応用することが可能であり、Excelなどオフィス系のソフトに至ってはほぼすべての企業が慣れ親しんだ業務アプリである。ちなみに、自社導入するERPと、外販するERPのどちらが先に決まったかの問いに対して稲永常務は「ほぼ同時だが、僅かな差で自社ERP刷新が先行した」と答えている。
M&Aで優秀なDynamics人材を確保
課題は、連結従業員数約3万7000人の巨大組織である富士フイルムBIの基幹刷新に必要な人的資源をどのようにして確保するかだ。同社では昨年11月に旧バージョンのDynamics AX時代からDynamicsシリーズの構築に実績を積んできたHOYAデジタルソリューションズ(現富士フイルムデジタルソリューションズ=富士フイルムDS)をグループに迎え入れ、まずは200人規模の人員を確保。加えて富士フイルムグループの情報システム子会社で従業員数550人規模の富士フイルムシステムズの協力を取り付けるかたちでプロジェクトをスタートさせている。とはいえ、富士フイルムDSは外部顧客向けのDynamics 365関連プロジェクトが好調に推移しており、富士フイルムシステムズもすぐにDynamics 365に長けた人材をまとまった規模で揃えることは難しい。そこで、まずは2022年はSEの業務管理からDynamics 365の活用をスタートさせ、23年以降、順次本丸である販売・物流管理、財務会計、顧客管理の刷新に取り組む二段階の手順を踏むことにした(下表参照)。稲永常務は「本来ならビッグバン(一括導入)方式にしたかったが、人員面とリスクの最小化を踏まえ、まずはSE業務管理で手慣らしをしてから本丸に取りかかることにした」と話す。

最も難易度が高いのは販売・物流管理で、例えば複合機では売り切りやリース、保守サービス、卸販売、OEM、プリントサービスなど多様な販売形態があり、それらすべてに対応させる必要がある。製造業でありながら、流通・小売業さながらの複雑さがある。財務会計は会計基準が決まっているのでそれに合わせて移行できるが、「経営分析や経営資源の配分を決めるのに欠かせない管理会計はそういうわけにはいかない」(稲永常務)と、富士フイルムBI独自の管理会計の手法をDynamics 365に的確に落とし込んでいくハードルの高さがある。
手元の画面ですべてを可視化
自社導入でDynamics 365やPower Platform、Azureなど一連の関連技術を身につけるのと並行して、一般顧客に向けた販売準備も急ピッチで進める。販売の中心部分を担うのは、約1万人の営業やSEを全国に配置する国内マーケティング子会社の富士フイルムビジネスイノベーションジャパン(富士フイルムBIジャパン)であり、「顧客企業の業種・業務を熟知した人材が数多くいる」(榎本マネジャー)と、業務知識の宝庫だと話す。こうした人材にDynamics 365関連の技術を身につけてもらい、顧客の業種・業務に必要なテンプレートを開発。外販ビジネスの迅速な立ち上げにつなげる。富士フイルムBIは、これまでも国内の主に中堅・中小企業向けに業務アプリパッケージを販売してきたが、「クラウド上でのデータ分析や、すべての部門で数字を参照し、活用できるようにするなど、顧客の経営革新、デジタル変革を支援するのは今回が初めて」(稲永常務)と指摘。販売管理や財務会計など個別の業務アプリを販売するのが従来のスタイルだとすれば、業務をフルデジタル化し、非定型のドキュメントから帳簿に記帳する定型データに至るまで、横断的に可視化、分析できる仕組みを提案する点が大きく異なる。
稲永常務は、非定型のドキュメントから定型のデータに至るまで一気通貫で統合する考え方に不慣れな自社社員や顧客に向けての分かりやすい例え話としてスマホを挙げる。スマホはメール、ビデオ、音楽、カメラ、地図、スケジュールなどを統合することで、従来の電話機や携帯端末にはない利便性を実現した。規模は違えども「一つの画面にすべてのデータを集約し、手元で国内外の自社事業のすべてを可視化する」のが今回の基幹系刷新プロジェクトの神髄だと話す。
富士フイルムBIはITソリューション事業を拡大させ、既存の複合機ビジネスとの相乗効果を高めるとともに、海外の事業所にも新しい基幹システムを展開し、グローバル規模での事業変革に取り組んでいく構えだ。

富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)は事業の再編、転換に向けてマイクロソフトのERP「Dynamics 365」の全社導入を決めた。既存の複合機を中心としたビジネスを堅持しつつ、注力分野のITソリューションを軸とした新規事業の立ち上げには、経営資源の配分を臨機応変に変えることが求められる。リアルタイムに資源を可視化し、可能性がありそうな領域へと瞬時に経営資源を配分するには、「統一されたプラットフォーム上で、全社員がデータを参照でき、数字に基づいた正しい判断を下す環境整備が必要」(稲永滋信・取締役常務執行役員)だと判断した。富士フイルムBIの基幹システム刷新プロジェクトをレポートする。
(取材・文/安藤章司)
Azure基盤上で一気通貫に統合
富士フイルムBIは、基幹業務(ERP)にオラクルの「E-Business Suite(EBS)」、顧客管理(CRM)に「Salesforce」を主に使ってきた。オラクルEBSは、主力事業である複合機の巨大で複雑なビジネスを15年余りにわたって支えてきたもので、既存事業だけに限ってみれば「何かの不満があるどころか、営業支援のSalesforceを含めて非常に優秀なシステム」だと稲永常務は高く評価している。
だが、富士フイルムBIは既存の複合機を中心としたドキュメント事業に加えて、ITソリューション事業を大きく伸ばす経営方針を打ち出しており、どのようなかたちで軌道に乗るか分からない新規ITソリューション事業に対応していくためには、基幹系システムもそれに見合うかたちで入れ替える必要があると判断した。
では、なぜ富士フイルムBIが新規事業を創出するのに際して適している基幹システムがDynamics 365なのか。これについて稲永常務は「現場の部門担当者から経営層まで、全社でのデータ共有が容易に実現でき、収益構造が大きく変化したときも数字に基づいて最適な判断が下しやすくなるため」と捉えている。
具体的には、Dynamics 365とメガクラウドのAzure基盤、データ分析系アプリを集めた「Power Platform」、さらには日常業務のユーザーインターフェース(UI)の役割を担うオフィスソフトが、マイクロソフトの基盤上で一気通貫に統合されており、データが散逸しない点を重視した。
例えば、ERPやCRMのデータをPower Platformで分析し、その結果を手元の「Excel」で引き出すといったことが容易に実現できる。これによって収益構造をリアルタイムで可視化することができ、「ぶっつけ本番で体当たりするのではなく、日々の数字に基づいて的確な判断が下しやすくなる」(稲永常務)と見ている。
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- データ分析を重視する背景は?「富士フイルムの成功」を再現する
- M&Aで優秀なDynamics人材を確保
- 「手元の画面ですべてを可視化」が今回の基幹系刷新プロジェクトの神髄
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