Special Feature
有望視されるドローン市場 可能性の広がりに期待高まる
2022/03/07 09:00
週刊BCN 2022年03月07日vol.1913掲載

国内でドローン(小型無人機)ビジネスの市場が盛り上がっている。民間の調査によると市場規模は右肩上がりを続けており、2025年度には20年度比で3.5倍に成長する見通しだ。22年度は、これまで認められていなかった「有人地帯での目視外飛行(レベル4)」が解禁される予定で、今後は市街地でもドローンの飛行が増えるとみられている。IT業界では、活用シーンの拡大をにらんで協業の動きが活性化し、可能性の広がりに期待が高まっている。
(取材・文/齋藤秀平)
「空の産業革命」の実現に向けて
政府が設立した「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」は17年から毎年、「空の産業革命に向けたロードマップ」を策定。レベル4を目標に、「目視内での操縦飛行(レベル1)」「目視内での自動/自律飛行(レベル2)」「無人地帯での目視外飛行(レベル3)」の各段階(図1)での利活用や技術開発、環境整備の方向性を示してきた。
ロードマップを基に、民間企業などは、国内各地で実証実験を実施。ドローンは「人手不足や少子高齢化といった社会課題の解決や新たな付加価値の創造を実現する産業ツール」として注目され、活用の広がりとともに市場は拡大している。
インプレスのシンクタンク部門「インプレス総合研究所」がまとめた「ドローンビジネス調査報告書2021」(図2)によると、「機体」と「サービス」「周辺サービス」の三つで構成する国内のドローンビジネスの市場規模は、16年度が353億円、17年度が503億円、18年度が931億円、19年度が1409億円と年々拡大。20年度は前年度比31%増の1841億円と推定され、その後も成長を続けて25年度には6468億円に達する見込みだ。

このうちドローンを活用した業務提供企業の売上額をまとめたサービス市場では、農業や土木・建築、点検、公共といった分野で活用効果が明確化し、現場実装の段階に進みつつあるという。また、20年度は特に物流分野の動きが際立っており、22年度のレベル4の実現に向けた新しい取り組みが多数見られたとしている。
ドローンは現在、航空法によって飛行に関するルールが定められている。レベル4については、現行制度では認められていないが、昨年6月に成立し、今年12月頃に施行される改正航空法によって認められる予定だ。
具体的には、国土交通省は機体の安全性を認める「機体認証」と、操縦者の技能を証明する「操縦ライセンス」を新たに創設する。レベル4で飛行させる場合、機体認証を受け、操縦ライセンスを取得することが必須になる。
また、ドローンの操縦者に対して、事故発生時の国への報告などを義務づける。事故や無許可飛行が相次いでいることから、今年6月からは100グラム以上のドローンの登録も義務化する。
昨年6月の官民協議会で示された「空の産業革命に向けたロードマップ2021」では、レベル4を実現した後の方向性として「航空機、空飛ぶクルマも含め一体的な“空”モビリティ施策への発展・強化」の文言が初めて盛り込まれた。政府は、未来のサービスを支えるインフラとして、引き続きドローンの活用を推進する方針だ。
新たなソリューションで市場を開拓
ドローンは、IT製品の活用範囲の利用拡大につながる可能性がある。TeamViewerジャパンは昨年11月、ドローンとリモート接続ソフトウェア「TeamViewer」シリーズを使い、空撮映像を遠隔地で共有する実証実験をSB C&Sと実施し、成功した。この結果を受け、SB C&Sは今月から、実験で活用したソリューションの販売を始める。
両社は昨年夏頃から、ドローンとTeamViewerの新しい活用について検討を開始した。SB C&SICT事業本部クラウド・ソフトウェア推進本部ビジネスソフトウェア推進統括部ビジネスソフトウェア販売推進部CAD&ドローン&AR事推課の長谷川裕氏は「災害現場をはじめ、ユーザーの間では、遠隔で映像を配信したいとのニーズがあった。これまではドローンを飛ばす現場に行かないと状況が分からないケースがほとんどだったが、遠隔で操作できれば、今まで以上にドローンの使い勝手がよくなると考えた」と語る。
実験は群馬県板倉町で実施した。20倍の光学ズームレンズや赤外線センサーを搭載したDJI製のドローンを使い、テザリング機器経由で4Gのモバイルネットワークに接続したドローンのスマートコントローラーと実験現場のホストPC、東京オフィスのPCをリモート接続し、空撮映像の共有や音声通信を試みた。運動場内で活動する人の状況について、顔が識別できるレベルの高解像度なズーム映像やサーモグラフィーで確認でき、東京のオフィスでもリアルタイムに問題なく映像を共有できた。
今後、SB C&Sは点検や空撮、災害対応などでドローンを活用する企業や自治体を主なターゲットとしてソリューションを提案していく考え。TeamViewerジャパンは、動作の検証や確認などの技術的な部分をサポートする。
長谷川氏は、レベル4が実現しドローンの活用が広がった場合は「今まで見えなかった箇所について、ドローンを遠隔操作して見るような使い方が増えてくると思っているので、ソリューションのニーズは上がっていくだろう」とし、「長距離でドローンを飛ばす際、リアルタイムのモニタリングは必須になるため、ソリューションを転用していくケースは増えていくはずだ」と展望する。
その上で「まずは実証実験で活用したセットの販売になるが、TeamViewerにはさまざまな機能がある。ドローンとの組み合わせによって、今までできなかったことができるようになるので、第二、第三のソリューションをつくっていきたい」と意気込む。
映像を遠隔地に配信する場合、市場には既に同じようなソリューションがある。ただ、同課の鈴木克哉・担当課長は「専用の機材が必要でコストが高い上、オペレーターは飛ばし方や伝送の方法を覚えなければならない」と指摘し、「TeamViewerを利用することで、価格は安くなり、使い勝手もよくなる。これらは市場での差別化ポイントになる」と説明し、「今回のソリューションは、販売店が売りやすいかたちになっているので、今後は各販売店と協力しながら市場を開拓していく」と力を込める。
一方、TeamViewerジャパンの小宮崇博・ビジネス開発部部長は、ドローンを組み合わせた活用はグローバルで初のケースと紹介。「われわれのソフトは、リモートコントロールが大きな強み。コントローラーにソフトを入れるだけでなく、将来的に、ドローン本体にソフトを導入できるようにすることも目指していくので、アイデア次第でさまざまな活用ができるようになる」とし、「今回の組み合わせについては、問題なく動くことが実証されている。これからSB C&Sと一緒にいろいろなプログラムを展開していくので、まずはそこにしっかり注力していく」と話す。
異業種協業で新たな価値を生み出す
ドローンをめぐっては、異業種間で協業し、新たな価値の創出につなげようとする動きも出ている。KDDIは2月15日、日本航空(JAL)と協業し、空のドローン運航管理を強化すると発表した。JALの航空安全技術をKDDIの運航システムに適用し、ドローンの衝突回避など、安全な飛行環境を構築する考えだ。
KDDIスマートドローンの博野雅文社長
両社は、KDDIが開発した複数ドローン事業者の運航管理システムに、JALが培ってきた航空運送事業の技術・知見を組み合わせ、複数のドローンが飛び交う上空で衝突回避などの運航管理業務を行う体制を構築する。
また、ドローンの活用を進める企業や自治体向けに、コンサルティングやリソースを提供するビジネスモデルを検討する。22年度内に離島地域で小型・大型ドローンによる物品輸送などの実証を行い、それを基にドローン活用ビジネスの具体化も目指す。
KDDIは今年1月、ドローン事業を継承する連結子会社「KDDIスマートドローン」を4月1日付で設立すると発表済み。24年度にはドローン関連事業全体で売上高100億円を掲げており、新たにJALと協業することで事業を加速させる。
KDDIの松田浩路・執行役員事業創造本部長は「レベル4飛行を起爆剤と考えている」と長期的な事業拡大に意欲を示し、「昨年度のドローン事業の売り上げは約8億6000万円。本年度はおよそ倍増する見通し」と話した。
JALの西畑智博・常務執行役員デジタルイノベーション本部長は「短期的には離島地域におけるドローンのビジネスモデル、中長期的にはドローンの運航管理や空域管理の制御を行う体制を検討するなどして、ドローンの社会インフラ化に貢献したい」と展望を語った。
KDDIスマートドローンの博野雅文社長も「安全な運航管理を構築してドローンの未来をつくっていきたい」と意気込みを見せた。月額4万9800円(税込)でドローンの遠隔運用に必要な通信と運航管理、クラウドをパッケージとして提供するサービスの導入拡大にも力を入れる。

国内でドローン(小型無人機)ビジネスの市場が盛り上がっている。民間の調査によると市場規模は右肩上がりを続けており、2025年度には20年度比で3.5倍に成長する見通しだ。22年度は、これまで認められていなかった「有人地帯での目視外飛行(レベル4)」が解禁される予定で、今後は市街地でもドローンの飛行が増えるとみられている。IT業界では、活用シーンの拡大をにらんで協業の動きが活性化し、可能性の広がりに期待が高まっている。
(取材・文/齋藤秀平)
「空の産業革命」の実現に向けて
政府が設立した「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」は17年から毎年、「空の産業革命に向けたロードマップ」を策定。レベル4を目標に、「目視内での操縦飛行(レベル1)」「目視内での自動/自律飛行(レベル2)」「無人地帯での目視外飛行(レベル3)」の各段階(図1)での利活用や技術開発、環境整備の方向性を示してきた。
ロードマップを基に、民間企業などは、国内各地で実証実験を実施。ドローンは「人手不足や少子高齢化といった社会課題の解決や新たな付加価値の創造を実現する産業ツール」として注目され、活用の広がりとともに市場は拡大している。
インプレスのシンクタンク部門「インプレス総合研究所」がまとめた「ドローンビジネス調査報告書2021」(図2)によると、「機体」と「サービス」「周辺サービス」の三つで構成する国内のドローンビジネスの市場規模は、16年度が353億円、17年度が503億円、18年度が931億円、19年度が1409億円と年々拡大。20年度は前年度比31%増の1841億円と推定され、その後も成長を続けて25年度には6468億円に達する見込みだ。

このうちドローンを活用した業務提供企業の売上額をまとめたサービス市場では、農業や土木・建築、点検、公共といった分野で活用効果が明確化し、現場実装の段階に進みつつあるという。また、20年度は特に物流分野の動きが際立っており、22年度のレベル4の実現に向けた新しい取り組みが多数見られたとしている。
ドローンは現在、航空法によって飛行に関するルールが定められている。レベル4については、現行制度では認められていないが、昨年6月に成立し、今年12月頃に施行される改正航空法によって認められる予定だ。
具体的には、国土交通省は機体の安全性を認める「機体認証」と、操縦者の技能を証明する「操縦ライセンス」を新たに創設する。レベル4で飛行させる場合、機体認証を受け、操縦ライセンスを取得することが必須になる。
また、ドローンの操縦者に対して、事故発生時の国への報告などを義務づける。事故や無許可飛行が相次いでいることから、今年6月からは100グラム以上のドローンの登録も義務化する。
昨年6月の官民協議会で示された「空の産業革命に向けたロードマップ2021」では、レベル4を実現した後の方向性として「航空機、空飛ぶクルマも含め一体的な“空”モビリティ施策への発展・強化」の文言が初めて盛り込まれた。政府は、未来のサービスを支えるインフラとして、引き続きドローンの活用を推進する方針だ。
この記事の続き >>
- TeamViewerジャパンとSB C&S 新たなソリューションで市場を開拓
- 異業種協業で新たな価値を生み出す KDDI、日本航空(JAL)と協業
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