コニカミノルタグループの国内中核事業会社コニカミノルタジャパンは、今年7月にWorks Human Intelligence(ワークスHI)のタレントマネージメントシステムを本稼働させる。顧客の働き方や業務の変革を支援するためには、従業員のスキル転換や高度化が欠かせないと判断したからだ。複合機の販売を中心とした従来のビジネスに加え、ソリューションやサービスのビジネスを伸ばして事業構造の転換を図る。
(取材・文/安藤章司)
揺らぐ伝統的な幹部候補の人材像
タレントマネージメントは、職務を重視する欧米の人事管理の手法から発達してきた仕組みで、国内の総合職重視の人事管理とは馴染まないと言われてきた。実際、コニカミノルタジャパンの伊崎公司・コーポレート本部人事総務統括部人事部長も2016年ごろに市場の状況を調べたことがあったが、北米のスタートアップが開発している製品が主流で、調査・検討のみにとどまった経緯がある。
コニカミノルタジャパン 伊崎公司 人事部長
今回、導入に踏み切った背景には、国産のタレントマネージメント製品の完成度が高まるとともに、タレントマネージメント導入事例が増えて、日本企業に馴染む活用の方法が確立されつつあることが挙げられる。ワークスHIのタレントマネージメントシステムを選んだのは「計画性をもってスキルを管理、転換するのに非常に役立つ」(伊崎人事部長)と判断したからだ。
タレントマネージメントの「プロファイル検索」画面イメージ
伝統的な日本企業の人事制度は、幹部候補の総合職と一般職に分かれ、総合職は転勤や単身赴任、長時間の残業で、どれだけ努力してきたかが評価ポイントになることが多かった。上司が認めれば仕事を振られ、うまく成果を出せれば出世する。しかし、少子高齢化による就労人口の減少で、男女関係なく就労する共働き世帯が主流になった今、伝統的な総合職の人材像が受け入れられなくなっている側面がある。
伊崎人事部長は「近年では特定のスキルや技能を伸ばすキャリア重視の従業員が増えた」と従業員側の意識に変化が起きたと話す。会社組織に過度に依存するのではなく、自らのスキルや技能が生み出す価値を高め、労働市場や顧客からよりよい評価や報酬を得ようとする考え方だ。「なんでもやります」「なんでもできます」ではキャリアは形成しにくく、どういった職務経験を積んで、どのような人材になりたいのかを明確にしていくことが欠かせない。
会社側から見ても、経営戦略を実現するのに必要な従業員のスキルセットを計画的に獲得していくことが、より確実な経営目標の実現につながる。
コニカミノルタジャパンは、従来の複合機の販売を中心としたビジネスだけでなく、顧客企業の働き方改革や業務変革を軸としたソリューション・サービス事業を拡充していく経営戦略を掲げており、タレントマネージメントは、経営戦略を実現するのに必要な人材スキルを計画的に習得、転換していくのに役立つ。伊崎人事部長は「従業員のスキルセットを可視化し、足らない要素があれば優先的に補っていく仕組みをタレントマネージメントのシステム上で構築していく」と話す。
計画性をもって不足スキルを補う
タレントマネージメントによるスキルの可視化では、例えばプロジェクトマネージャー(PM)経験の度合いや、参加したプロジェクトの内容、外国語スキルといった項目をデータベース化し、経営戦略で掲げた「なりたい姿」に到達するために必要なスキルと比較。もし、PM経験者の人数が不足していたり、経験の内容が求めているものと違ったりした場合、「計画性をもって不足分を補う経験を積んでもらう」(伊崎人事部長)ことが容易になる。
タレントマネージメントの「社員プロファイル」画面イメージ
また、課長や部長といった管理職が部下のスキルを正確に把握するのにもタレントマネージメントは役立つ。従業員一人一人が「なりたい自分」を設定し、目的意識をもってキャリアを積み上げ、自分自身の市場価値を高めていくに当たり、従業員の近くにいる管理職が個人の目指したいキャリア像を把握。会社や部門の目指す方向性とすり合わせながら、個人にとっても会社にとってもメリットのあるキャリアを積んでいくことが、双方の合理的、かつ効率的な成長につながる。
同社には3300人余りの従業員が在籍しており、人事部門だけで個々の従業員の「なりたい自分」を把握するのは難しい。直属の上長であれば、十分な時間をとって部下の話に耳を傾けることもできるため、その内容を会社や部門の目標と乖離がないようチェックし、もし開きがでてしまうようであれば他の部門と調整するなどの対策も打ちやすい。
こうした上司と部下のキャリアに関する対話が定期的に行われていないと、「部下が持つスキルセットやキャリアの志向、ライフステージに関して上長が知らない状態で仕事を進めてしまうことになりかねない」(伊崎人事部長)と指摘する。例えば、ある上長から「英語試験のTOEICが800点ある人はいないか」と、人事部に問い合わせがあって調べてみたら、実はその上長の部下にいたというケース。他にも男性従業員が育休を取得できる状態にあったにも関わらず取得していなかったため、上長に問い合わせたところ、上長は男性従業員の妻が出産していることすら知らなかったというケースもあった。
個人情報保護の観点から開示しにくい部分もあるが、タレントマネージメントをしっかり運用していれば、人事部にいちいち問い合わせなくても、「部下のスキルセットやライフステージを考慮したキャリア形成がよりスムーズにできるようになる」と、伊崎人事部長は考える。
システムを採用するに当たっては、ワークスHIを含む4社に提案を依頼した。すでにワークスHIの人事給与システム「COMPANY」を使っていることに加え、タレントマネージメントを導入するに当たってのコンサルティングサービスが充実していることが決め手となって、21年10月に採用を決めた。
ワークスHIでは、COMPANYシリーズのなかでタレントマネージメントを重要機能と位置づけており、集中的に開発を進めている。
ワークスHI 阿弥 毅 グループマネージャー
コニカミノルタジャパンの導入コンサルティングを担当しているワークスHIの阿弥毅・WHI総研タレントマネジメント推進グループマネージャーは、「ユーザー企業の経営戦略、構想や展望、課題感を聞き込んで、タレントマネージメントのシステムに落とし込んでいく橋渡し役を担う」と、今年7月の本稼働に向けて伴走を続けている。
重視される従業員エンゲージメント
阿弥氏は、これまでにシステムの稼働支援を手がけてきた経験から、従業員エンゲージメントの一つのあり方として、経営戦略に必要なスキルセットを従業員が理解し、それに沿う形で自発的に自らのキャリア形成を図っていけるよう取り組む企業も増えてきているとし、国内においてもタレントマネージメント市場が着実に広がっているとの見方を示す。
コニカミノルタジャパンは、システムの運用によって蓄積されるデータ活用にも期待している。例えば効率的にキャリアを形成し、成績も優秀な、いわゆる“ハイパフォーマー”従業員に適性検査を受けてもらい、検査結果の傾向と一致する若手従業員を次世代を担うハイパフォーマーとして早くから育成に着手する。あるいは従業員エンゲージメントを指数化し、業界平均を上回るエンゲージメント指数を目指すといった活用方法も検討する。ワークスHIの製品は外部ツールとの連携も容易に行えることから、他の専門ツールとの併用も視野に、導入効果の最大化を進めていく。