Special Feature
強みを磨く大塚商会のAI活用 外販は先進企業への導入に注力
2022/10/10 09:00
週刊BCN 2022年10月10日vol.1941掲載
大塚商会が、人工知能(AI)の活用を進めている。強みとする営業に適用した結果、商談件数や受注率は増加し、社員の働き方にも変化をもたらしている。社内のノウハウを基にしたソリューションの外販では、社内の体制を拡充したほか、パートナーとの関係を強化している。ただ、主な顧客層の中堅・中小企業の間では、導入によって効果を上げている企業がある一方、二の足を踏む企業もあり、受け入れ方に濃淡があるのが実情だ。新たなビジネスとして育てていくために、当面は先進的な企業への導入と、市場での認知度の向上に注力する方針だ。
(取材・文/齋藤秀平)
業務の効率化に一役買っているのがAIだ。同社は2019年以降、AIを活用して各営業担当の活動を支援している。例えば、訪問先を発掘する「行き先・商材推奨」の機能では、20年ほど前から蓄積してきた累計約5000万件の商談データを分析。新たに受注につながりそうな顧客や商材の情報を営業担当の予定が空いているタイミングで提案する。
男性社員は、CRM(顧客管理)とSFA(営業支援)を組み合わせた同社の独自システム「SPR(Sales Process Re-engineering)」に加え、スケジュール帳で顧客の情報を管理している。しかし、担当する全ての顧客の情報を完璧に把握するのは難しく、「販売後のフォローを忘れてしまうこともある」と話す。
こうした時、行き先・商材推奨機能は案件獲得に役立っている。男性社員は「AIからの提案は、お客様に連絡を取るきっかけになり、見込み客の記憶を思い出させてくれる点で非常に助かっている」と語る。顧客と商談を進めるうちに、提案内容とは別の商材の受注につながることもあるという。
同社によると、AI活用による商談件数は、20年が6万6800件だったのに対し、21年は15万6600件と2倍以上になった。また、AI活用による受注率は21年1月以降、おおむね同社全体の受注率と同じか若干上回る水準で推移した。新型コロナウイルスの感染が広がった“第5波”の影響を受け、営業活動が制約された同年7~9月期は全体の受注率を下回ったが、それからは上回る幅が目立ち、全体として緩やかな上昇傾向を示している。
営業支援では、スマートフォンの専用アプリ上で提供するチャットボットもある。男性社員は「以前はお客様から見積もりの依頼を受けた後、会社に戻ってから見積書の作成に着手し、場合によっては翌日に作成を回すこともあった。今はチャットボットに見積書の作成を依頼しておけば、できあがったものを少し修正すれば済み、お客様からの依頼にすぐに対応できるようになった」と語る。
男性社員は、主に数人から50人規模の企業を担当し、複合機をメインに扱っている。顧客のニーズが多様化する中、複合機とは別の商材について相談を受けることもある。その場合もチャットボットを使うことで、「具体的な商材を示しながら提案することが可能になり、ビジネスチャンスは増えた」と実感する。
多くの企業がAIの導入や活用を進める中、大塚商会も取り組みを進めてきた。核となっているのは、09年から本格的にスタートした「大戦略II」だ。営業人員を増やして業績を拡大するよりも、「リアル」「ウェブ」「センター」の三つのチャネルを整備し、三位一体による顧客との接点維持を目的としている。
データ分析とAI活用のリーダーを務める地主隆宏・上席執行役員マーケティングオートメーションセンター長は「三つのチャネルが相互にデータ連携していないと、シームレスにお客様に対応できない。当社が持っているさまざまなデータをAIで分析し、お客様への最適なアプローチを具現化するために着々と手を打ってきた」と説明する。
同社は15年、全社のデータを横断的に捉える社長直属の組織を新設した。AIの利用目的を明確にした上で実証実験を繰り返し、実際の業務に適用する流れでプロジェクトを進行。自前でシステムを構築するために人材も育成してきた。
地主隆宏 上席執行役員
社内でのAI活用を進めるに当たり、地主上席執行役員は「はじめから自分たちでAIの良しあしをしっかりと理解し、自分たちで試してみることを大切にしてきた」と説明する。
AIエンジンについては、まずは日立製作所のLumadaのコア技術「Hitachi AI Technology/H(AT/H)」を自社向けにチューニングした。その後、より幅広い分析をできるようにするため、大量のデータ分析と自動化が実現できる米dotData(ドットデータ、18年にNECからカーブアウトして創業)のデータ分析ソフトウェア「dotData」を組み合わせて構築した。
市場が激しく変化する中、10年、20年以上前のデータにはどのような価値があるのか。地主上席執行役員は「直近のデータに加え、過去のデータも組み合わせて分析することで、これまでのお客様との関係性が把握できるようになる。どんなデータにも価値はある」と解説する。
AI活用は、過去のデータを俯瞰し、必要なポイントを各営業担当に伝え、全体のレベルアップを図ることが狙い。地主上席執行役員は「人の考える力を補完したり、人がやっていることを補助したりするのがAIの役割だ」と話す。
同社は現在、行き先・商材推奨の機能に加え、20年に初期活動から受注までを支援する「商談プロセス促進」の機能を追加。さらに顧客満足度を向上させ、アップセルやクロスセルにつなげる「導入後フォロー」の機能をパイロット展開中だ。
今年6月末現在、同社グループの正社員数は約9300人となっており、営業職は約3000人で3割程度を占める。営業力の高さには定評があるが、仕事の進め方が属人化していることが課題になっているという。AIで各社員の働き方や意識を変え、会社としてさらなる成長を目指す。
その後、21年にdotDataを活用した「大塚商会dotData AI分析サービス」と「dotData Lite」の提供を始め、主な顧客層である中堅・中小企業への展開を開始した。今年4月にはドットデータと戦略的アライアンスと資本業務提携を締結し、協力関係をより強固にしている。
AI分析サービスは、月額5万円から利用できる。同社が保有するAI環境を利用するため、顧客側にシステムやソフトウェアは不要。分析や予測の作業は同社のデータサイエンティストが実施するため、顧客はデータを用意するだけで分析結果が得られる。オプションとして、中小企業診断士などがアドバイスする経営支援サービスもある。
一方、dotData Liteは、月額35万円から利用可能で、中堅・中小企業は自らデータ分析をすることができる。大企業向けの「dotData Enterprise」が最小5ノード構成からであるのに対し、dotData Liteは、保有するデータ量が少ない企業向けに1ノード構成としているのが特徴だ。
山口大樹 執行役員
外販ビジネスを統括する山口大樹・トータルソリューショングループ経営支援サービス兼AIビジネス推進プロジェクト執行役員(中小企業診断士)は、dotDataを利用する場合、見積もりベースで数千万円レベルになる場合があると説明。低価格を実現した理由について「当社の取引先の多くは中小企業で資金的に厳しいため、当社が購入したdotDataの資産の一部をお客様に使ってもらえるようにした」とし、さらに「一般的な中堅・中小企業では、使う機会がほぼない最先端のテクノロジーを使ってAIモデルを作成できることは、最大の付加価値だ」と強調する。
現在、dotDataのソリューションの導入企業は計50社で、年内に100社への導入を目標に掲げている。山口執行役員は、これまで商材を軸に営業をしてきた社員は、経営課題の把握などで今まで以上に顧客との関係を密にする必要があるとの見解を示し、「従来のモノ売りからコト売りに営業スタイルを転換できるようにするため、社員への教育に力を入れている」と話す。
導入の拡大に向けて、SIerにも積極的にサービスを紹介している。同社としては、まずはSIerにdotData Liteを使ってもらい、導入効果を理解してもらった上で、エンドユーザーに広げていく戦略を想定。エンジニアが足りない場合は、同社のエンジニアが支援するとしている。
導入した顧客の中には、大きな成果を出している例がある。例えば、アウトバウンドコール(営業電話)を受託している企業が、電話営業用の顧客リストの作成に分析サービスを適用した結果、ベテランのマネージャーが作成したリストよりも、AIが作成したリストのほうが、受注率は7倍向上したという。
dotDataのソリューションを利用することで、抱えている課題が解決できるのは魅力的だ。しかし、投資した分の見返りがあるかどうかは、やってみないと分からない部分があり、導入する側の企業にとっては、比較的ハードルが高いといえる。同社の顧客の間でも、興味を示しつつも自社に合わないと判断したり、AIが何をするのか分からないと敬遠したりする声があるという。
山口執行役員は「導入が難しい企業は一定数あるが、データを使って市場の厳しい競争を生き残るんだというモチベーションがあり、なおかつAI活用にチャレンジしてみようという企業を中心に導入を進める」とし、「まだ市場での認知度が低く、もう少し一踏ん張りが必要になっている状況なので、これからが勝負だ」と意気込む。
(取材・文/齋藤秀平)

顧客のニーズに迅速対応
「業務の負荷はかなり減った」。営業を担当する30代の男性社員は、最近の働き方の状況について、こう説明した。忙しい日々は変わらないが、業務の進め方は大きく変わったと感じている。業務の効率化に一役買っているのがAIだ。同社は2019年以降、AIを活用して各営業担当の活動を支援している。例えば、訪問先を発掘する「行き先・商材推奨」の機能では、20年ほど前から蓄積してきた累計約5000万件の商談データを分析。新たに受注につながりそうな顧客や商材の情報を営業担当の予定が空いているタイミングで提案する。
男性社員は、CRM(顧客管理)とSFA(営業支援)を組み合わせた同社の独自システム「SPR(Sales Process Re-engineering)」に加え、スケジュール帳で顧客の情報を管理している。しかし、担当する全ての顧客の情報を完璧に把握するのは難しく、「販売後のフォローを忘れてしまうこともある」と話す。
こうした時、行き先・商材推奨機能は案件獲得に役立っている。男性社員は「AIからの提案は、お客様に連絡を取るきっかけになり、見込み客の記憶を思い出させてくれる点で非常に助かっている」と語る。顧客と商談を進めるうちに、提案内容とは別の商材の受注につながることもあるという。
同社によると、AI活用による商談件数は、20年が6万6800件だったのに対し、21年は15万6600件と2倍以上になった。また、AI活用による受注率は21年1月以降、おおむね同社全体の受注率と同じか若干上回る水準で推移した。新型コロナウイルスの感染が広がった“第5波”の影響を受け、営業活動が制約された同年7~9月期は全体の受注率を下回ったが、それからは上回る幅が目立ち、全体として緩やかな上昇傾向を示している。
営業支援では、スマートフォンの専用アプリ上で提供するチャットボットもある。男性社員は「以前はお客様から見積もりの依頼を受けた後、会社に戻ってから見積書の作成に着手し、場合によっては翌日に作成を回すこともあった。今はチャットボットに見積書の作成を依頼しておけば、できあがったものを少し修正すれば済み、お客様からの依頼にすぐに対応できるようになった」と語る。
男性社員は、主に数人から50人規模の企業を担当し、複合機をメインに扱っている。顧客のニーズが多様化する中、複合機とは別の商材について相談を受けることもある。その場合もチャットボットを使うことで、「具体的な商材を示しながら提案することが可能になり、ビジネスチャンスは増えた」と実感する。
どんなデータにも価値はある
近年、AIはさまざまな業界で注目され、2000年代に入ってからは「第3次ブーム」を迎えたとされている。新型コロナ禍でデジタル化の機運が高まり、注目度はさらに向上した。AIを導入済み、あるいは導入検討中の企業(売上高500億円以上)の部長職以上300人を対象にPwC Japanグループが実施した「AI予測調査」によると、AIの導入企業は21年の43%から22年は53%に上昇。活用度合いについて、米国との差はほとんどなくなっているとした。多くの企業がAIの導入や活用を進める中、大塚商会も取り組みを進めてきた。核となっているのは、09年から本格的にスタートした「大戦略II」だ。営業人員を増やして業績を拡大するよりも、「リアル」「ウェブ」「センター」の三つのチャネルを整備し、三位一体による顧客との接点維持を目的としている。
データ分析とAI活用のリーダーを務める地主隆宏・上席執行役員マーケティングオートメーションセンター長は「三つのチャネルが相互にデータ連携していないと、シームレスにお客様に対応できない。当社が持っているさまざまなデータをAIで分析し、お客様への最適なアプローチを具現化するために着々と手を打ってきた」と説明する。
同社は15年、全社のデータを横断的に捉える社長直属の組織を新設した。AIの利用目的を明確にした上で実証実験を繰り返し、実際の業務に適用する流れでプロジェクトを進行。自前でシステムを構築するために人材も育成してきた。
社内でのAI活用を進めるに当たり、地主上席執行役員は「はじめから自分たちでAIの良しあしをしっかりと理解し、自分たちで試してみることを大切にしてきた」と説明する。
AIエンジンについては、まずは日立製作所のLumadaのコア技術「Hitachi AI Technology/H(AT/H)」を自社向けにチューニングした。その後、より幅広い分析をできるようにするため、大量のデータ分析と自動化が実現できる米dotData(ドットデータ、18年にNECからカーブアウトして創業)のデータ分析ソフトウェア「dotData」を組み合わせて構築した。
市場が激しく変化する中、10年、20年以上前のデータにはどのような価値があるのか。地主上席執行役員は「直近のデータに加え、過去のデータも組み合わせて分析することで、これまでのお客様との関係性が把握できるようになる。どんなデータにも価値はある」と解説する。
AI活用は、過去のデータを俯瞰し、必要なポイントを各営業担当に伝え、全体のレベルアップを図ることが狙い。地主上席執行役員は「人の考える力を補完したり、人がやっていることを補助したりするのがAIの役割だ」と話す。
同社は現在、行き先・商材推奨の機能に加え、20年に初期活動から受注までを支援する「商談プロセス促進」の機能を追加。さらに顧客満足度を向上させ、アップセルやクロスセルにつなげる「導入後フォロー」の機能をパイロット展開中だ。
今年6月末現在、同社グループの正社員数は約9300人となっており、営業職は約3000人で3割程度を占める。営業力の高さには定評があるが、仕事の進め方が属人化していることが課題になっているという。AIで各社員の働き方や意識を変え、会社としてさらなる成長を目指す。
年内に100社への導入が目標
同社は、AIビジネスの推進を目的に、19年に社内とグループ会社の人員による推進会議を立ち上げ、サービスメニューの整備などを進めてきた。20年には、後方支援や顧客対応、ソリューションの開発などを担う「AI・IoT課」を新設し、体制を拡充した。その後、21年にdotDataを活用した「大塚商会dotData AI分析サービス」と「dotData Lite」の提供を始め、主な顧客層である中堅・中小企業への展開を開始した。今年4月にはドットデータと戦略的アライアンスと資本業務提携を締結し、協力関係をより強固にしている。
AI分析サービスは、月額5万円から利用できる。同社が保有するAI環境を利用するため、顧客側にシステムやソフトウェアは不要。分析や予測の作業は同社のデータサイエンティストが実施するため、顧客はデータを用意するだけで分析結果が得られる。オプションとして、中小企業診断士などがアドバイスする経営支援サービスもある。
一方、dotData Liteは、月額35万円から利用可能で、中堅・中小企業は自らデータ分析をすることができる。大企業向けの「dotData Enterprise」が最小5ノード構成からであるのに対し、dotData Liteは、保有するデータ量が少ない企業向けに1ノード構成としているのが特徴だ。
外販ビジネスを統括する山口大樹・トータルソリューショングループ経営支援サービス兼AIビジネス推進プロジェクト執行役員(中小企業診断士)は、dotDataを利用する場合、見積もりベースで数千万円レベルになる場合があると説明。低価格を実現した理由について「当社の取引先の多くは中小企業で資金的に厳しいため、当社が購入したdotDataの資産の一部をお客様に使ってもらえるようにした」とし、さらに「一般的な中堅・中小企業では、使う機会がほぼない最先端のテクノロジーを使ってAIモデルを作成できることは、最大の付加価値だ」と強調する。
現在、dotDataのソリューションの導入企業は計50社で、年内に100社への導入を目標に掲げている。山口執行役員は、これまで商材を軸に営業をしてきた社員は、経営課題の把握などで今まで以上に顧客との関係を密にする必要があるとの見解を示し、「従来のモノ売りからコト売りに営業スタイルを転換できるようにするため、社員への教育に力を入れている」と話す。
導入の拡大に向けて、SIerにも積極的にサービスを紹介している。同社としては、まずはSIerにdotData Liteを使ってもらい、導入効果を理解してもらった上で、エンドユーザーに広げていく戦略を想定。エンジニアが足りない場合は、同社のエンジニアが支援するとしている。
導入した顧客の中には、大きな成果を出している例がある。例えば、アウトバウンドコール(営業電話)を受託している企業が、電話営業用の顧客リストの作成に分析サービスを適用した結果、ベテランのマネージャーが作成したリストよりも、AIが作成したリストのほうが、受注率は7倍向上したという。
dotDataのソリューションを利用することで、抱えている課題が解決できるのは魅力的だ。しかし、投資した分の見返りがあるかどうかは、やってみないと分からない部分があり、導入する側の企業にとっては、比較的ハードルが高いといえる。同社の顧客の間でも、興味を示しつつも自社に合わないと判断したり、AIが何をするのか分からないと敬遠したりする声があるという。
山口執行役員は「導入が難しい企業は一定数あるが、データを使って市場の厳しい競争を生き残るんだというモチベーションがあり、なおかつAI活用にチャレンジしてみようという企業を中心に導入を進める」とし、「まだ市場での認知度が低く、もう少し一踏ん張りが必要になっている状況なので、これからが勝負だ」と意気込む。
大塚商会が、人工知能(AI)の活用を進めている。強みとする営業に適用した結果、商談件数や受注率は増加し、社員の働き方にも変化をもたらしている。社内のノウハウを基にしたソリューションの外販では、社内の体制を拡充したほか、パートナーとの関係を強化している。ただ、主な顧客層の中堅・中小企業の間では、導入によって効果を上げている企業がある一方、二の足を踏む企業もあり、受け入れ方に濃淡があるのが実情だ。新たなビジネスとして育てていくために、当面は先進的な企業への導入と、市場での認知度の向上に注力する方針だ。
(取材・文/齋藤秀平)
業務の効率化に一役買っているのがAIだ。同社は2019年以降、AIを活用して各営業担当の活動を支援している。例えば、訪問先を発掘する「行き先・商材推奨」の機能では、20年ほど前から蓄積してきた累計約5000万件の商談データを分析。新たに受注につながりそうな顧客や商材の情報を営業担当の予定が空いているタイミングで提案する。
男性社員は、CRM(顧客管理)とSFA(営業支援)を組み合わせた同社の独自システム「SPR(Sales Process Re-engineering)」に加え、スケジュール帳で顧客の情報を管理している。しかし、担当する全ての顧客の情報を完璧に把握するのは難しく、「販売後のフォローを忘れてしまうこともある」と話す。
こうした時、行き先・商材推奨機能は案件獲得に役立っている。男性社員は「AIからの提案は、お客様に連絡を取るきっかけになり、見込み客の記憶を思い出させてくれる点で非常に助かっている」と語る。顧客と商談を進めるうちに、提案内容とは別の商材の受注につながることもあるという。
同社によると、AI活用による商談件数は、20年が6万6800件だったのに対し、21年は15万6600件と2倍以上になった。また、AI活用による受注率は21年1月以降、おおむね同社全体の受注率と同じか若干上回る水準で推移した。新型コロナウイルスの感染が広がった“第5波”の影響を受け、営業活動が制約された同年7~9月期は全体の受注率を下回ったが、それからは上回る幅が目立ち、全体として緩やかな上昇傾向を示している。
営業支援では、スマートフォンの専用アプリ上で提供するチャットボットもある。男性社員は「以前はお客様から見積もりの依頼を受けた後、会社に戻ってから見積書の作成に着手し、場合によっては翌日に作成を回すこともあった。今はチャットボットに見積書の作成を依頼しておけば、できあがったものを少し修正すれば済み、お客様からの依頼にすぐに対応できるようになった」と語る。
男性社員は、主に数人から50人規模の企業を担当し、複合機をメインに扱っている。顧客のニーズが多様化する中、複合機とは別の商材について相談を受けることもある。その場合もチャットボットを使うことで、「具体的な商材を示しながら提案することが可能になり、ビジネスチャンスは増えた」と実感する。
(取材・文/齋藤秀平)

顧客のニーズに迅速対応
「業務の負荷はかなり減った」。営業を担当する30代の男性社員は、最近の働き方の状況について、こう説明した。忙しい日々は変わらないが、業務の進め方は大きく変わったと感じている。業務の効率化に一役買っているのがAIだ。同社は2019年以降、AIを活用して各営業担当の活動を支援している。例えば、訪問先を発掘する「行き先・商材推奨」の機能では、20年ほど前から蓄積してきた累計約5000万件の商談データを分析。新たに受注につながりそうな顧客や商材の情報を営業担当の予定が空いているタイミングで提案する。
男性社員は、CRM(顧客管理)とSFA(営業支援)を組み合わせた同社の独自システム「SPR(Sales Process Re-engineering)」に加え、スケジュール帳で顧客の情報を管理している。しかし、担当する全ての顧客の情報を完璧に把握するのは難しく、「販売後のフォローを忘れてしまうこともある」と話す。
こうした時、行き先・商材推奨機能は案件獲得に役立っている。男性社員は「AIからの提案は、お客様に連絡を取るきっかけになり、見込み客の記憶を思い出させてくれる点で非常に助かっている」と語る。顧客と商談を進めるうちに、提案内容とは別の商材の受注につながることもあるという。
同社によると、AI活用による商談件数は、20年が6万6800件だったのに対し、21年は15万6600件と2倍以上になった。また、AI活用による受注率は21年1月以降、おおむね同社全体の受注率と同じか若干上回る水準で推移した。新型コロナウイルスの感染が広がった“第5波”の影響を受け、営業活動が制約された同年7~9月期は全体の受注率を下回ったが、それからは上回る幅が目立ち、全体として緩やかな上昇傾向を示している。
営業支援では、スマートフォンの専用アプリ上で提供するチャットボットもある。男性社員は「以前はお客様から見積もりの依頼を受けた後、会社に戻ってから見積書の作成に着手し、場合によっては翌日に作成を回すこともあった。今はチャットボットに見積書の作成を依頼しておけば、できあがったものを少し修正すれば済み、お客様からの依頼にすぐに対応できるようになった」と語る。
男性社員は、主に数人から50人規模の企業を担当し、複合機をメインに扱っている。顧客のニーズが多様化する中、複合機とは別の商材について相談を受けることもある。その場合もチャットボットを使うことで、「具体的な商材を示しながら提案することが可能になり、ビジネスチャンスは増えた」と実感する。
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