システム開発は、顧客の要望に応じて個別に開発する受託開発や、エンジニアを派遣するSES(システムエンジニアリングサービス)が一般的だ。しかし、多くの企業がDXの実現を目指す中、現場を中心とした開発が増え、開発基盤となるクラウド型の共通プラットフォームに注目が集まりつつある。関連のビジネスを手掛けるSIerは、市場でのニーズの高まりを感じており、今後の可能性の広がりに期待を寄せている。
(取材・文/齋藤秀平)
ビジネス拡大の「入り口」に
日立ソリューションズは、以前は米Microsoft(マイクロソフト)の業務アプリケーション群「Dynamics」(現Dynamics 365)を中心にビジネスを展開していた。しかし、当時の製品の特性上、幅広いニーズに応えるのは難しく、産業イノベーション事業部グローバル本部グローバル推進センタの江角忠士・センタ長は「Dynamicsは、対象とする業務が限定的で、お客様の要件によってはオーバースペックになってしまうことがあった」と話す。
日立ソリューションズ 江角忠士 センタ長
その後、ローコードアプリケーション開発プラットフォーム「Power Platform」が登場し、早い段階で採用を決定。ウォーターフォール型のスクラッチ開発を対象に、Power Platformの導入支援サービスの提供を始めた。
導入支援サービスは、IT部門主導で開発を進めるケースと、現場主導で開発を進めるケースの2パターンを想定。前者では、システム構築や稼働後の保守などを提供する。後者では、トレーニングやプロトタイプ開発などによってDXの推進を後押しする内容になっている。
同社は、売上高100億円以上の製造業などを主な顧客にしている。Power Platformのビジネスでも同様の規模の顧客を主なターゲットにしていたが、最近は「日本を代表するような大手自動車メーカーから、売上高100億円を下回るような中小規模のお客様からも引き合いをいただいている」(江角センタ長)状況だ。
日立ソリューションズ 松野貴史 ユニットリーダ
顧客層が拡大している背景には、システム開発についてのニーズが変化していることがある。同センタ第1グループの松野貴史・ユニットリーダは「IT部門が取り仕切ってシステム開発をするよりも、現場の業務に合わせてシステム開発がしたいという声が増えている」と説明する。
導入支援サービスでは、引き合いは同じくらいになっているものの、売り上げはIT部門主導で開発を進めるケースのほうが大きいという。今後、Power Platformのビジネスをさらに伸ばしていくためには、現場主導で開発を進めるケースを入り口に、いかに顧客のビジネスに入り込み、IT部門主導で開発を進めるケースにつなげていくかがかぎになると江角センタ長はみる。
さらに「ユーザー部門が自分たちだけで使うという点がスタートかもしれないが、会社全体で考えると、同じプラットフォームにデータを集めて経営に生かしたいといった要望は出てくる。そういった部分はわれわれの出番になる」とし、Power Platformの利用が広がることによって新たなニーズが生まれ、それがビジネスのさらなる拡大につながる可能性があるとの考えを示す。
新サービスで“脱下請け”
プラットフォームの活用によって、ビジネスモデルを変革しているSIerもいる。ミューチュアル・グロースは、当初はSESをビジネスの柱にしていた。しかし、プロジェクトに振り回されるなどのリスクがあり、今はサイボウズの業務改善プラットフォーム「kintone」を軸に“脱下請け”を目指している。
ミューチュアル・グロース 宮原克博 社長
同社は、IT業界出身者ら10人が2016年に設立した。ITベンダーでエンジニア畑を歩んできた宮原克博社長は、自社がSESを手掛けていた際の問題点について「急にプロジェクトが終わった場合、元請けに派遣していた社員が余ってしまうのは、われわれにとっては死活問題につながる可能性があった。また、定期的に入ってくる仕事がないことに加え、仕事に備えて要員を抱えていることもリスクになっていた」と振り返る。
SESに代わるサービスを提供する上で必要になる開発ツールについては、kintoneを含めてさまざまな製品を比較した。最終的にkintoneを選んだ理由について、宮原社長は「価格の安さに加え、社員が同じ言語で開発できることや、機能を追加しやすい点が採用の決め手になった」と話す。
同社は、Strategy(戦略)とSolution(問題解決策)を組み合わせた「Strution」(ストリューション)と名付けたサービスを打ち出し、打ち合わせから試作、本番反映、検証のサイクルを回しながら顧客にシステムを提供している。経営戦略などについて助言するコンサルティングは実施せず、あくまで顧客が設定した目標を実現するために、短期間で必要なシステム構築を目指すのが特徴だ。
Strutionでは、カスタマイズ開発の有無などに応じて四つのプランを設定している。価格の内訳については、人月ではなく、打ち合わせや機能ごとに設定したポイント数で提示。顧客からの納得感を得やすくしているほか、エンジニアによる過剰サービスを防ぐようにしている。
会社を設立してから約3カ月後にStrution事業を開始し、しばらくは赤字が続いていたが、2年ほど前に初めて単月での黒字化を達成した。顧客は、DXに向けて積極的な大企業の部門が最も多いが、中堅・中小企業の課題意識も高まっているという。
社内の変化については、宮原社長は「SESは、言われたことをしっかりとこなすことが大切で、自分がどのシステムをつくっているか分からないまま仕事をしているケースが多い。一方、Strutionのビジネスでは、お客様から直接、話を聞いて、何をしているかをしっかり把握することが重要になる」とし、顧客目線を持ったエンジニアが育っていることを挙げる。
これまでに累計30社がStrutionを導入したものの、稼働中は15社。目的達成が解約理由としてある一方、十分な満足が得られなかったこともあるという。継続的な利用が課題となる中、宮原社長は「これまでに蓄積した知見を生かし、業務ごとのパッケージやプラグインをつくってビジネスにつなげていく」と話す。