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タブレットレジが店舗DXの入り口に、データに基づく運営を支援

2022/12/08 09:00

週刊BCN 2022年12月05日vol.1948掲載

 テンキーやレシートプリンタを搭載した伝統的なキャッシュレジスターに代わり、汎用的なタブレットとアプリの組み合わせで売り上げを管理できるタブレットレジが普及し、中小規模の事業者が新たな店舗をオープンするときはもはやデファクトスタンダードになりつつある。キャッシュレス対応やコストパフォーマンスで選ばれることの多かったタブレットレジだが、単純な効率化にとどまらず、店舗経営により深く関わる形で浸透している。
(取材・文/日高 彰)
 

キャッシュレスとタッチ式レジを安価に導入可能

 新規店舗ではタブレットレジの導入が標準的になったとはいえ、従来からの店舗では現在もキャッシュレジスターを使用していることが多い。しかし、タブレットへの乗り換え需要は従来店舗でも確実に高まっている。
 
汎用のAndroidタブレットを採用した「EZネットレジ」


 単独利用(POSシステム等に接続されないスタンドアローン型)のキャッシュレジスターで最大手のカシオ計算機は6月、Androidタブレットをベースとした「EZネットレジ」を提供を開始し、タブレットレジの市場に本格参入した。

 タブレットレジでは後発となるカシオだが、長らく従来型のレジを使ってきた店舗の間でも、タブレットへの移行ニーズがあることは認識していた。移行を促す最も大きい力と考えたのが、国内におけるキャッシュレス決済の普及だ。同社システムビジネスユニットの石川和男・戦略部長は、「単独利用型のレジではキャッシュレス決済端末との連動が行われていないことが多く、現金の売り上げとキャッシュレスの売り上げを別々に管理しなければならないという問題があった」と述べ、キャッシュレス決済の導入で、店舗の業務がより煩雑になっていることを指摘する。
 
カシオ計算機 システムビジネスユニット 石川和男 戦略部長

 インバウンド需要や決済事業者による積極的なポイント施策などによって、小規模店舗でもキャッシュレス決済は急速な普及を見せている。しかし、クレジットカード、電子マネー、二次元コードによる決済などさまざまな決済手段に対応するため、店舗のレジの周辺には複数の決済端末が置かれ、乱雑な状態になっている光景はよく見られる。しかも、それらがレジと連動していないために、スムーズな会計を阻害するのに加え、売り上げの集計も決済手段ごとに行う必要があるなど、店舗にとっての業務負担は増している。

 一方でカシオでは、中小店舗支援事業の一つとして、2019年から東京・高円寺の「高円寺パル商店街振興組合」などと共同でIT導入による商店街活性化プロジェクトを開始し、レジを起点とした売り上げ・来店客の分析や、キャッシュレス決済の導入などの実証実験を行っていた。その中でカシオは、実験参加店舗向けに複数のキャッシュレス対応レジを提案したが、参加店舗の半数以上がタッチパネル式のレジを選択したという。それまで従来型のレジを使っていた店舗でも、機能や視認性、操作性の面でタッチパネルへの関心が高いことがわかった。

 ただし、選択肢の中にあった当時のタッチパネル型レジは専用のハードウェアを用いる機種だったため、1台30万円程度とコストの面で小規模店舗には導入のハードルが高かった。EZネットレジでは、カシオは本体に汎用のAndroidタブレット(レノボ製)を採用。キャッシュドロアーやレシートプリンタなどを含めても十数万円で導入できる価格帯を実現し、タッチパネル型レジの本格普及を図りたい考えだ。

 タブレットレジでは後発となるカシオがもう一つの武器としているのが、キャッシュレス決済システムの開発に加え、決済代行サービス(100%子会社のCXDネクストが運営)を自社グループで手がけているという点だ。さらに今年7月、欧州最大手の加盟店契約会社(アクワイアラ)である仏Worldline(ワールドライン)と業務提携することで、業界標準の3.24%よりも低廉な手数料でキャッシュレス決済サービスの提供を開始した。EZネットレジとカシオのキャッシュレス決済サービスを同時に導入する店舗には、ビザ/マスターカードの場合2.95%、交通系電子マネーの場合1.95%の手数料率を適用する。小規模店舗にとって導入の障害となる端末代とランニングコストの両方を低減することで、従来型のレジからの移行を促していく。

 また、高機能なタブレットレジが店舗に導入されると、従来は合計金額や大まかな品目でしか管理できなかった売り上げを、商品単位で分析できるようになる。EZネットレジはクラウド上のダッシュボード画面を通じて、日別の売り上げ実績や客数をリアルタイムで確認することが可能で、データに基づく店舗運営への意識が高まる。

 加えてカシオが狙うのは、商店街に対してのEZネットレジの一括導入だ。EZネットレジを商店街の推奨機とし、商店街側の窓口となる導入担当者を設置した商店街に、キャッシュレス決済サービスでの特別決済手数料率を適用するほか、ビーコン端末を用いた来店客属性調査(有償)などを提供。個店のデジタル化と同時に、街ぐるみでのデータ活用を推進することで、来客数の増加や、ターゲットとする客層とのマッチングなどを図っていく。店舗の許諾が得られれば、商店街全体での売り上げ推移やキャッシュレス利用状況なども集計することが可能という。

 従来型のレジは、税制の改正といった制度対応が必要になるときに引き合いが急増する傾向にあったが、タブレットレジはそのような特需に左右されることなく、店舗経営改革のツールとして提案が可能だ。カシオでは、商店街や自治体とのつながりが深い地場の販売パートナーなどと組んで、「小規模店舗DX」の入り口となるレジやキャッシュレス決済の拡販に力を入れる。
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