業務のデジタル化の急速な進展で、関西圏のITビジネスに大きな変化が起きている。地場の独立系複合機販社が、複合機メーカー販社と二人三脚でITソリューションビジネスを伸ばす取り組みや、共創コミュニティや共創カレッジを舞台にした異業種との交流によって地域ITビジネスの可能性を探るといった動きが起こっている。また、コロナ禍の約3年間で普及したリモートワークを定着させ、勤務地にとらわれることなく優れたIT人材を全国から集める施策を打つITベンダーも出始めた。関西ITビジネスの現状をレポートする。
(取材・文/安藤章司)
プリントマシンセンター
ITソリューションの提案力を強化
大阪に本社を置くOA機器販売のプリントマシンセンターは、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン(富士フイルムBIジャパン)と組んでITソリューションの提案力強化に力を入れている。コロナ禍の約3年間はリモートワークが強く推奨されたことから、職場でのペーパーレス化や業務のデジタル化が進展。複合機販売を主軸としていたビジネスにITソリューションを加えることで、ユーザー企業の働き方の変化に適応する考えだ。
右からプリントマシンセンターの長畠智郎営業本部長、篠原立樹代表取締役、
富士フイルムBIジャパン大阪支社の瀧川隆部長、姫井秀之部長
プリントマシンセンターは理想科学工業や富士フイルムBI、コニカミノルタ、キヤノンなどの製品を取り扱うマルチベンダー販社。1979年に創業し、印刷機や複合機をメインに販売してきた。売上高の構成比は民需、自治体、文教の三つのセグメントがそれぞれ約3分の1とバランスよく占める。とはいえ、コロナ禍期間において、とくに民需セグメントでのペーパーレス化や業務デジタル化が進んでおり、「複合機とITソリューションを絡めたビジネスの伸びしろが大きくなっている」(篠原立樹代表取締役)と判断、ITソリューション事業に注力することにした。
取引のある複合機メーカーは、こぞってITソリューション商材の開発に力を入れているなか、プリントマシンセンターは富士フイルムBIジャパンのITソリューション商材を軸にビジネスを伸ばす方向性を打ち出す。
富士フイルムBIの前身である富士ゼロックス時代から、文書管理の「DocuWorks(ドキュワークス)」などのソフトウェア製品を取り扱っていたことに加え、中堅・中小企業向けのITソリューションを体系化した「Bridge DX Library(DX Library)」が2022年5月に投入され、「ITソリューション商材が分かりやすく整理された」(長畠智郎・営業本部長)ことが、ITソリューション分野で富士フイルムBIジャパンをビジネスパートナーとして選んだきっかけとなった。
複合機メーカー販社と二人三脚
長畠営業本部長は、「複合機やパッケージソフトの単品の販売にとどまらず、顧客の業務上の課題を聞き込んで体系的に解決するソリューション営業の確立が急務」と指摘している。富士フイルムBIジャパンはこうした要望を踏まえて、大阪市中心部にあるショールームを、デジタル化や業務プロセス改革を主軸としたものに改装し、「Bridge for Innovation OSAKA」として23年1月にリニューアルオープン。ユーザー企業やビジネスパートナーが、ITソリューションを分かりやすく体験できるようにした。
中堅・中小企業ユーザーを販売ターゲットとしているDX Libraryでは、同規模のユーザー企業が抱えがちな課題を整理し、例えば「ITインフラの課題であればこのソリューション、情報セキュリティであればこのソリューション、とメニュー化」(富士フイルムBIジャパン大阪支社の瀧川隆・ビジネスパートナー営業一部部長)した。売り手であるプリントマシンセンターは、ユーザーの課題を聞き込み、親和性の高いものを選んで提案することで、「効率よくユーザーの課題を解決できる利点が得られる」(同支社の姫井秀之・ソリューション営業一部部長)といい、手離れのよさも特徴となっている。
複合機に関連した課題解決を主に手がけてきたプリントマシンセンターにとって、ITソリューション関連の課題の聞き込みは、慣れていない側面があった。そうしたとき「富士フイルムBIジャパンの担当者と二人三脚でヒアリングに出向いたり、毎日のように案件の進捗を共有したりと密接な支援をしてくれた」といい、販売パートナー支援策が充実していると篠原代表取締役は話す。
DX LibraryはITインフラやセキュリティなど業種を問わないものに加え、建設、製造、医療、福祉の重点4業種を設定し、100種類余りのメニューを揃えている。長畠営業本部長は、「大阪は商業の街でもあり、流通・卸、小売業向けのメニューが充実してくればより売りやすくなる」と、今後のDX Libraryの拡充に期待を寄せる。
フューチャースピリッツ
全国から優秀なIT人材を集める
京都に本社を置きクラウドインテグレーションなどを手がけるフューチャースピリッツの谷孝大代表取締役は、コロナ禍の約3年間を振り返って「関西圏でもオンライン化、デジタル化が大きく進んだ」と話す。同社は関西地区に偏ることなく、全国に広く顧客を持ち、かつASEANや中国に進出する顧客をサポートするため、マレーシアやタイ、中国にグループ・関連会社を展開している。もともと社内ではリモートワークを積極的に取り入れていたが、コロナ禍で場所に縛られない働き方がいっそう進んだ。
谷孝 大 代表取締役
人材採用を例に挙げても、従来は地元の京都や大阪での採用が多かったが、「今後はリモートワークを前提に全国から優秀な人材を採用したい」と意欲を示す。小さな子供がいる社員は、通勤があると保育園の送迎で時短勤務せざるを得ないが、「リモートワークであれば時間の融通が利きやすく、仕事と子育て・介護の両立もしやすい」と、働きやすい職場づくりに力を入れていく考え。
同社の直近の売上高構成比は、「Amazon Web Services(AWS)」などを活用したクラウド環境の構築やホスティング、ハウジングといったITインフラ事業が約35%、Web構築やマーケティング事業が約30%、問い合わせフォーム作成やWeb社内報など独自SaaSが約20%、その他を海外事業などが占める。
既存の事業とは別に、中期的な新規事業として地域に根ざしたITビジネスの可能性を探っている。きっかけとなったのは、22年3月に開設したNTT西日本のオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」に参加し、QUINTBRIDGEの活動と関連のあるNTT西日本グループ・地域創生Coデザイン研究所の「地域創生Coデザインカレッジ」で学ぶ機会を得たことだった。
宮道幸利 取締役
新規事業担当役員の宮道幸利・取締役は、22年、地域創生Coデザインカレッジの第1期生として参加し、NTT西日本グループが取り組む、デジタルや通信ネットワークを活用した地域の産業集積の支援活動を学ぶ。同カレッジには、新規事業担当の大手企業幹部やスタートアップ企業、自治体の職員など三十数人の多様な人材が参加。普段の活動では接点のなかった異業種のキーパーソンと積極的な意見交換を行うなどして、「地域ITビジネスの可能性に着目することになった」(宮道取締役)と話す。
HappyLifeCreators
意見交換が大きなプラスに
同じくQUINTBRIDGE会員企業で、19年に大阪市内で設立されたITスタートアップ企業のHappyLifeCreators(ハッピーライフクリエイターズ)は、会社設立の初年度にコロナ禍に遭遇する。創業者の牧長心代表取締役CEOは、「脱サラして本格的にHappyLifeCreatorsを立ち上げようという矢先で、コロナ禍は大きな障害となった」と振り返る。
牧長 心 代表取締役CEO
スマートグラスを使った作業支援システムや、ICカードによる保育園児の出欠管理といった保育業務支援システムなどの独自商材を開発しつつ、オンラインのビデオ通話を駆使しながら商談をしてきた。「もともとは対面で雑談しながら相手の課題感を聞き出すスタイルが好みだったため、もどかしい部分もあった」という。そうしたなかQUINTBRIDGEが開設され、「さまざまな業種のキーパーソンと意見交換できる場ができたのは大きなプラスになった」と、移動の制約でなかなか接点を持てなかった人との関係を取り戻すのに有益だと話す。
コロナ禍の制約もほぼなくなりつつある今は、対面を増やしつつ、オンラインやQUINTBRIDGEなどの共創の場をフル活用しながらビジネスを伸ばしていく方針だ。