Special Feature
働き続けられる会社になるために IT業界は人材定着にどう挑むか
2023/07/06 09:00
週刊BCN 2023年07月03日vol.1975掲載
どの業界でも、人材不足が叫ばれている。IT業界も例外ではなく、生産年齢人口の減少とともに、人材の確保がより一層難しくなっている。採用時から戦力となるまで育てた人材が定着し、長く活躍することは、企業の安定経営には欠かせないが、子育てや介護などのライフイベントによって退職せざるを得ないケースは少なくない。安心して働き続けるために、企業に求められているものは何なのだろうか。積極的に従業員支援策に取り組むIT企業の事例から考えてみたい。
(取材・文/堀 茜)
青山学院大学 山本 寛 教授
働く人のキャリアとそれに関わる組織マネジメントを研究する青山学院大学経営学部の山本寛教授は、企業に求められる姿勢について「新卒採用が質・量ともに潤沢であればいいが、どこも採用はさらに厳しくなっていく。企業にとっては、今勤めている人に長く活躍してもらうことが重要」と指摘。「そのためには、従業員エンゲージメントをいかに高めるかが大切になる」と説明する。
企業の取り組みとして▼現状のどこに問題があるかを分析する▼改善策を立て実施する▼エンゲージメントが向上すると人材定着率も上がる──という循環を生み出すことが、業績の安定向上には欠かせないという。
さらに山本教授は「各企業が従業員の働きやすさを支援する施策を実施することは重要だが、もっと大切なのはそれを運用する上で、管理職の意識を変えることだ」と話す。
例えば、時短勤務が認められていたり、休暇制度があったりしても、その人がいないと仕事が回らない状況では安心して休むことができない。山本教授は「急に仕事を休まざるを得ないときに、休む人が肩身の狭い思いをしているのが実態。部署内のマルチタスクを進め、互いにサポートし支えあえるような職場の雰囲気づくりをしてほしい」と管理職のマネジメント力向上をかぎとして挙げる。
育児休業については、岸田文雄首相が3月、「男性の育児休業取得率を25年度に50%、30年度に85%まで引き上げることを目指す」と表明。男性の取得率向上に取り組む企業も増加している。男性の育休について山本教授は「育児休業の取得がキャリアにマイナスになるようでは取得は進まない」とみる。「一歩も二歩も踏み込んで、育休をよりプラスに捉えるような人事評価をしていくことは、従業員に大きなインパクトを与えるので、実施する企業が出てくることを期待したい」とみている。
IT業界は昔から、人材の流動性が比較的高いと言われている。ある意味、その高い流動性は企業にとっては優秀な人材を得るチャンスを広げ、労働者にとってはキャリアアップしやすい環境を生み出しているとも考えられる。しかし、近年の旺盛なIT需要に応え、ビジネスを成長させる観点から、人材をいかに定着させるかは、大きな経営課題となりつつある。各社はどのような対応を図っているのだろうか。
サイボウズ
サイボウズは、従業員のフレキシブルな働き方を支援するための新しい休暇制度「ケア休暇」「プロアクティブ休暇」を1月にスタートした。ケア休暇は、家族の看病などに利用できる看護休暇では対象外だった、自分自身の通院にも利用範囲を広げたのが特徴。1時間単位で取得でき、最大年40時間を付与する。プロアクティブ休暇は、目的を問わず、自由に年5日間の休暇が取れる。これまで、結婚・出産といった特定のライフイベントに限定して付与していた休暇を統合し、どんな理由でも全社員が取得できるのがポイントだ。結果として、人を問わず、トータルの休暇日数が以前より増えたことになる。
休暇制度を変更した背景には、同社が掲げる「100人100通りの働き方」というコンセプトがある。週何日働くかは個別に会社と合意し、副業や家族の問題でリソースが割けない時期は、週3日だけ働くといった社員も少なくない。自由な働き方が定着する中で、休暇制度もフレキシブルにしたいとの議論があり、社員の意見も反映して刷新した。
サイボウズ 浅賀佑子 副部長
人事本部人事労務部の浅賀佑子・副部長は、「特定のライフイベントを会社が指定して、それを迎えた人だけが休暇を取れるということに違和感があった。価値観が多様化し、人生の選択もさまざま。その現状に合わせるかたちで休暇制度もアップデートした」と説明する。
同社は、かつて社員の離職率が高く、人材の定着に悩んでいた。そこで、社員の働きやすさにフォーカスし、柔軟性の高い制度に改革。05年に28%だった離職率は、現在3~5%程度と大幅に改善された。子育てや介護などがあっても、社員は働き方を変えることで退職せずに働き続けられるようになった。根底には「人生の中で、当社で働く時間の比率はジグザグでいい」(浅賀副部長)という方針がある。働き方、休み方のいずれも、一人一人自分に合った選択ができることで、結果として自立した人材が集まり、会社の業績も向上していくとの考え方だ。大塚商会
大塚商会は4月、仕事と家庭の両立に関する支援策「OWL's(オウルズ)」を全社員向けに導入した。社員が働き続ける上で壁になりやすい「妊活」「育児」「介護」の三つにフォーカスし、ライフプランに合わせて、月2万円までの手当を受け取ることができる。社員が働き続けるための環境づくりを会社が支えるのが狙いだ。
同社では22年夏、「家庭と仕事の両立に不安はあるか」とのテーマで全社員にアンケートを実施。想定の5倍ほどにあたる約1500人から回答があった。個人を特定せずに悩みを自由記載してもらったところ、特に妊活、育児、介護について、切実な声が多数寄せられた。介護の悩みについては、男性社員からの回答も多かったという。
大塚商会 鈴木雅美 課長代理
直近3年間で、育児や介護を理由とした退職が多くなっていたこともあり、人材開発部HR推進課の鈴木雅美・課長代理は「早急に何か対策をしないと、多くの退職につながってしまうとの危機感から、支援策を検討しオウルズにつながった」と説明する。社員のライフプランの変化に寄り添った支援策は、同社では初となる。
支援策では、利用した領収書の提出で手当が支給され、妊活は治療、育児では病児保育や民間学童の利用、介護はヘルパーや家事代行などの利用を想定する。自身も子育て中という鈴木課長代理は「会社が金銭面を支援することで、大変な育児や介護に外部サービスを使うきっかけにしてほしい」と狙いを語る。
導入後の反響は大きく、自身の状況で制度を使えるかといった問い合わせは250件以上、6月の利用申請は約40件あった。反響の中には、「会社が仕事を続けてほしいと思ってくれているんだ、というメッセージとして受け取った」との声もあったという。
支援策は性別に関係なく利用できることも大きなポイントだ。対象となる三つは、男女どちらにも大きく影響があるライフイベントであることから、社員本人だけでなく、福利厚生としてオウルズを配偶者ら家族向けにも周知することにしている。
オウルズを導入したところ、「こういったケースにも適応してほしい」といった具体的な要望も寄せられるようになった。鈴木課長代理は「社員が仕事に集中できる環境づくりをサポートできるよう、支援策も適用範囲の拡大などブラッシュアップしていければ」と展望する。日立ソリューションズ
働き続けられる支援策を外販しているのが、日立ソリューションズだ。同社は人事総合ソリューション「リシテア」の新機能として、女性の健康を支援するフェムテック分野の新サービス「リシテア/女性活躍支援サービス」を3月から販売している。
新サービスは、月経や妊娠、更年期など、女性従業員がそれぞれのライフステージにおける心身の不調に早期に対処できるよう、オンライン健康相談やセミナーの案内などを通して、パフォーマンス向上をサポートする。
医療機関と連携しており、ビデオ通話で看護師や助産師と面談、悩み相談ができる。上司などに知られず利用できるため、妊活などセンシティブな問題でもためらわずに相談できる。導入企業には、サービスの利用状況や満足度をレポートとしてフィードバック、エンゲージメント向上に貢献できるとしている。
日立ソリューションズ 小倉文寿 部長
開発の背景に、女性の活躍が進む中、より能力を発揮してもらうためには女性特有の体調やメンタルのサポートが必要だとの認識がある。製品化に際し、社内の女性社員70人が試験的に利用。ストレスやメンタルの悩みを相談したいといった声を反映させた。開発を担当したスマートワークソリューション本部HRソリューション開発部の小倉文寿・部長は「医療機関と協業したのが特徴の一つ。女性ならではの悩みを気軽に安心して相談できる場として活用していただける」とアピールする。社内でも同サービスを9月ごろに導入予定だ。
販売戦略としては、まずは人事管理などでリシテアを導入している既存顧客に直販で紹介する方針で、女性従業員の割合が高い金融や生命保険、流通などの業種を中心に販売に注力する。販売パートナーには、介護や保育など女性が多く働く業種、地方企業や自治体などへのアプローチを期待。間接販売の割合を半分程度にすることを目指す。
(取材・文/堀 茜)

制度とともに管理職の意識改革を
人材不足はこの先、より深刻になっていくことがデータから裏付けられている。内閣府の推計によると、15歳から64歳までの生産年齢人口は、2065年に約4500万人となり、20年より約2900万人減少する見通し。構造的な少子高齢化の中で、あらゆる業界で人手不足がさらに問題となっていくことが予想される。
働く人のキャリアとそれに関わる組織マネジメントを研究する青山学院大学経営学部の山本寛教授は、企業に求められる姿勢について「新卒採用が質・量ともに潤沢であればいいが、どこも採用はさらに厳しくなっていく。企業にとっては、今勤めている人に長く活躍してもらうことが重要」と指摘。「そのためには、従業員エンゲージメントをいかに高めるかが大切になる」と説明する。
企業の取り組みとして▼現状のどこに問題があるかを分析する▼改善策を立て実施する▼エンゲージメントが向上すると人材定着率も上がる──という循環を生み出すことが、業績の安定向上には欠かせないという。
さらに山本教授は「各企業が従業員の働きやすさを支援する施策を実施することは重要だが、もっと大切なのはそれを運用する上で、管理職の意識を変えることだ」と話す。
例えば、時短勤務が認められていたり、休暇制度があったりしても、その人がいないと仕事が回らない状況では安心して休むことができない。山本教授は「急に仕事を休まざるを得ないときに、休む人が肩身の狭い思いをしているのが実態。部署内のマルチタスクを進め、互いにサポートし支えあえるような職場の雰囲気づくりをしてほしい」と管理職のマネジメント力向上をかぎとして挙げる。
育児休業については、岸田文雄首相が3月、「男性の育児休業取得率を25年度に50%、30年度に85%まで引き上げることを目指す」と表明。男性の取得率向上に取り組む企業も増加している。男性の育休について山本教授は「育児休業の取得がキャリアにマイナスになるようでは取得は進まない」とみる。「一歩も二歩も踏み込んで、育休をよりプラスに捉えるような人事評価をしていくことは、従業員に大きなインパクトを与えるので、実施する企業が出てくることを期待したい」とみている。
IT業界は昔から、人材の流動性が比較的高いと言われている。ある意味、その高い流動性は企業にとっては優秀な人材を得るチャンスを広げ、労働者にとってはキャリアアップしやすい環境を生み出しているとも考えられる。しかし、近年の旺盛なIT需要に応え、ビジネスを成長させる観点から、人材をいかに定着させるかは、大きな経営課題となりつつある。各社はどのような対応を図っているのだろうか。
サイボウズ
働き方も休み方も柔軟に
サイボウズは、従業員のフレキシブルな働き方を支援するための新しい休暇制度「ケア休暇」「プロアクティブ休暇」を1月にスタートした。ケア休暇は、家族の看病などに利用できる看護休暇では対象外だった、自分自身の通院にも利用範囲を広げたのが特徴。1時間単位で取得でき、最大年40時間を付与する。プロアクティブ休暇は、目的を問わず、自由に年5日間の休暇が取れる。これまで、結婚・出産といった特定のライフイベントに限定して付与していた休暇を統合し、どんな理由でも全社員が取得できるのがポイントだ。結果として、人を問わず、トータルの休暇日数が以前より増えたことになる。休暇制度を変更した背景には、同社が掲げる「100人100通りの働き方」というコンセプトがある。週何日働くかは個別に会社と合意し、副業や家族の問題でリソースが割けない時期は、週3日だけ働くといった社員も少なくない。自由な働き方が定着する中で、休暇制度もフレキシブルにしたいとの議論があり、社員の意見も反映して刷新した。
人事本部人事労務部の浅賀佑子・副部長は、「特定のライフイベントを会社が指定して、それを迎えた人だけが休暇を取れるということに違和感があった。価値観が多様化し、人生の選択もさまざま。その現状に合わせるかたちで休暇制度もアップデートした」と説明する。
同社は、かつて社員の離職率が高く、人材の定着に悩んでいた。そこで、社員の働きやすさにフォーカスし、柔軟性の高い制度に改革。05年に28%だった離職率は、現在3~5%程度と大幅に改善された。子育てや介護などがあっても、社員は働き方を変えることで退職せずに働き続けられるようになった。根底には「人生の中で、当社で働く時間の比率はジグザグでいい」(浅賀副部長)という方針がある。働き方、休み方のいずれも、一人一人自分に合った選択ができることで、結果として自立した人材が集まり、会社の業績も向上していくとの考え方だ。
大塚商会
会社が社員を支える姿勢を見せる
大塚商会は4月、仕事と家庭の両立に関する支援策「OWL's(オウルズ)」を全社員向けに導入した。社員が働き続ける上で壁になりやすい「妊活」「育児」「介護」の三つにフォーカスし、ライフプランに合わせて、月2万円までの手当を受け取ることができる。社員が働き続けるための環境づくりを会社が支えるのが狙いだ。同社では22年夏、「家庭と仕事の両立に不安はあるか」とのテーマで全社員にアンケートを実施。想定の5倍ほどにあたる約1500人から回答があった。個人を特定せずに悩みを自由記載してもらったところ、特に妊活、育児、介護について、切実な声が多数寄せられた。介護の悩みについては、男性社員からの回答も多かったという。
直近3年間で、育児や介護を理由とした退職が多くなっていたこともあり、人材開発部HR推進課の鈴木雅美・課長代理は「早急に何か対策をしないと、多くの退職につながってしまうとの危機感から、支援策を検討しオウルズにつながった」と説明する。社員のライフプランの変化に寄り添った支援策は、同社では初となる。
支援策では、利用した領収書の提出で手当が支給され、妊活は治療、育児では病児保育や民間学童の利用、介護はヘルパーや家事代行などの利用を想定する。自身も子育て中という鈴木課長代理は「会社が金銭面を支援することで、大変な育児や介護に外部サービスを使うきっかけにしてほしい」と狙いを語る。
導入後の反響は大きく、自身の状況で制度を使えるかといった問い合わせは250件以上、6月の利用申請は約40件あった。反響の中には、「会社が仕事を続けてほしいと思ってくれているんだ、というメッセージとして受け取った」との声もあったという。
支援策は性別に関係なく利用できることも大きなポイントだ。対象となる三つは、男女どちらにも大きく影響があるライフイベントであることから、社員本人だけでなく、福利厚生としてオウルズを配偶者ら家族向けにも周知することにしている。
オウルズを導入したところ、「こういったケースにも適応してほしい」といった具体的な要望も寄せられるようになった。鈴木課長代理は「社員が仕事に集中できる環境づくりをサポートできるよう、支援策も適用範囲の拡大などブラッシュアップしていければ」と展望する。
日立ソリューションズ
女性の健康サポート製品を外販
働き続けられる支援策を外販しているのが、日立ソリューションズだ。同社は人事総合ソリューション「リシテア」の新機能として、女性の健康を支援するフェムテック分野の新サービス「リシテア/女性活躍支援サービス」を3月から販売している。新サービスは、月経や妊娠、更年期など、女性従業員がそれぞれのライフステージにおける心身の不調に早期に対処できるよう、オンライン健康相談やセミナーの案内などを通して、パフォーマンス向上をサポートする。
医療機関と連携しており、ビデオ通話で看護師や助産師と面談、悩み相談ができる。上司などに知られず利用できるため、妊活などセンシティブな問題でもためらわずに相談できる。導入企業には、サービスの利用状況や満足度をレポートとしてフィードバック、エンゲージメント向上に貢献できるとしている。
開発の背景に、女性の活躍が進む中、より能力を発揮してもらうためには女性特有の体調やメンタルのサポートが必要だとの認識がある。製品化に際し、社内の女性社員70人が試験的に利用。ストレスやメンタルの悩みを相談したいといった声を反映させた。開発を担当したスマートワークソリューション本部HRソリューション開発部の小倉文寿・部長は「医療機関と協業したのが特徴の一つ。女性ならではの悩みを気軽に安心して相談できる場として活用していただける」とアピールする。社内でも同サービスを9月ごろに導入予定だ。
販売戦略としては、まずは人事管理などでリシテアを導入している既存顧客に直販で紹介する方針で、女性従業員の割合が高い金融や生命保険、流通などの業種を中心に販売に注力する。販売パートナーには、介護や保育など女性が多く働く業種、地方企業や自治体などへのアプローチを期待。間接販売の割合を半分程度にすることを目指す。
どの業界でも、人材不足が叫ばれている。IT業界も例外ではなく、生産年齢人口の減少とともに、人材の確保がより一層難しくなっている。採用時から戦力となるまで育てた人材が定着し、長く活躍することは、企業の安定経営には欠かせないが、子育てや介護などのライフイベントによって退職せざるを得ないケースは少なくない。安心して働き続けるために、企業に求められているものは何なのだろうか。積極的に従業員支援策に取り組むIT企業の事例から考えてみたい。
(取材・文/堀 茜)
青山学院大学 山本 寛 教授
働く人のキャリアとそれに関わる組織マネジメントを研究する青山学院大学経営学部の山本寛教授は、企業に求められる姿勢について「新卒採用が質・量ともに潤沢であればいいが、どこも採用はさらに厳しくなっていく。企業にとっては、今勤めている人に長く活躍してもらうことが重要」と指摘。「そのためには、従業員エンゲージメントをいかに高めるかが大切になる」と説明する。
企業の取り組みとして▼現状のどこに問題があるかを分析する▼改善策を立て実施する▼エンゲージメントが向上すると人材定着率も上がる──という循環を生み出すことが、業績の安定向上には欠かせないという。
さらに山本教授は「各企業が従業員の働きやすさを支援する施策を実施することは重要だが、もっと大切なのはそれを運用する上で、管理職の意識を変えることだ」と話す。
例えば、時短勤務が認められていたり、休暇制度があったりしても、その人がいないと仕事が回らない状況では安心して休むことができない。山本教授は「急に仕事を休まざるを得ないときに、休む人が肩身の狭い思いをしているのが実態。部署内のマルチタスクを進め、互いにサポートし支えあえるような職場の雰囲気づくりをしてほしい」と管理職のマネジメント力向上をかぎとして挙げる。
育児休業については、岸田文雄首相が3月、「男性の育児休業取得率を25年度に50%、30年度に85%まで引き上げることを目指す」と表明。男性の取得率向上に取り組む企業も増加している。男性の育休について山本教授は「育児休業の取得がキャリアにマイナスになるようでは取得は進まない」とみる。「一歩も二歩も踏み込んで、育休をよりプラスに捉えるような人事評価をしていくことは、従業員に大きなインパクトを与えるので、実施する企業が出てくることを期待したい」とみている。
IT業界は昔から、人材の流動性が比較的高いと言われている。ある意味、その高い流動性は企業にとっては優秀な人材を得るチャンスを広げ、労働者にとってはキャリアアップしやすい環境を生み出しているとも考えられる。しかし、近年の旺盛なIT需要に応え、ビジネスを成長させる観点から、人材をいかに定着させるかは、大きな経営課題となりつつある。各社はどのような対応を図っているのだろうか。
(取材・文/堀 茜)

制度とともに管理職の意識改革を
人材不足はこの先、より深刻になっていくことがデータから裏付けられている。内閣府の推計によると、15歳から64歳までの生産年齢人口は、2065年に約4500万人となり、20年より約2900万人減少する見通し。構造的な少子高齢化の中で、あらゆる業界で人手不足がさらに問題となっていくことが予想される。
働く人のキャリアとそれに関わる組織マネジメントを研究する青山学院大学経営学部の山本寛教授は、企業に求められる姿勢について「新卒採用が質・量ともに潤沢であればいいが、どこも採用はさらに厳しくなっていく。企業にとっては、今勤めている人に長く活躍してもらうことが重要」と指摘。「そのためには、従業員エンゲージメントをいかに高めるかが大切になる」と説明する。
企業の取り組みとして▼現状のどこに問題があるかを分析する▼改善策を立て実施する▼エンゲージメントが向上すると人材定着率も上がる──という循環を生み出すことが、業績の安定向上には欠かせないという。
さらに山本教授は「各企業が従業員の働きやすさを支援する施策を実施することは重要だが、もっと大切なのはそれを運用する上で、管理職の意識を変えることだ」と話す。
例えば、時短勤務が認められていたり、休暇制度があったりしても、その人がいないと仕事が回らない状況では安心して休むことができない。山本教授は「急に仕事を休まざるを得ないときに、休む人が肩身の狭い思いをしているのが実態。部署内のマルチタスクを進め、互いにサポートし支えあえるような職場の雰囲気づくりをしてほしい」と管理職のマネジメント力向上をかぎとして挙げる。
育児休業については、岸田文雄首相が3月、「男性の育児休業取得率を25年度に50%、30年度に85%まで引き上げることを目指す」と表明。男性の取得率向上に取り組む企業も増加している。男性の育休について山本教授は「育児休業の取得がキャリアにマイナスになるようでは取得は進まない」とみる。「一歩も二歩も踏み込んで、育休をよりプラスに捉えるような人事評価をしていくことは、従業員に大きなインパクトを与えるので、実施する企業が出てくることを期待したい」とみている。
IT業界は昔から、人材の流動性が比較的高いと言われている。ある意味、その高い流動性は企業にとっては優秀な人材を得るチャンスを広げ、労働者にとってはキャリアアップしやすい環境を生み出しているとも考えられる。しかし、近年の旺盛なIT需要に応え、ビジネスを成長させる観点から、人材をいかに定着させるかは、大きな経営課題となりつつある。各社はどのような対応を図っているのだろうか。
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