コロナ禍を機に、コンタクトセンターの変革が進んでいる。調査会社によると、2020年度以降、市場規模は堅調に推移しており、要因の一つとしてクラウドの利用拡大が挙げられている。23年度以降も需要は続くとみられ、各ベンダーはビジネスチャンスの取り込みに向けて新たなサービスやソリューションを続々と投入している。直近の市場の動向を紹介する。
(取材・文/堀 茜、大向琴音、齋藤秀平)
中小企業への普及にも期待
矢野経済研究所が22年11月に発表した調査結果では、20年度のコンタクトセンターソリューションの市場規模は4191億円で、21年度は4271億円だった。22年度は4479億円、23年度は4524億円、24年度は4569億円となる見通しだ。
背景には、コロナ禍でデジタルシフトやDXが求められるようになったことに加え、顧客体験(CX)の向上を目指す企業が増加し、顧客の生の声を拾う上でコンタクトセンターの重要性が増していることがあるという。
特にニーズが高いのはクラウド型コンタクトセンターだ。同社は比率の高まりによって「単価低下を招く」としつつ、「これまで利用の少なかった中小企業への普及が期待されることや、Webチャネルとコールセンターを融合させた新たな顧客サポート体制の強化を目的としたシステム整備も進んでいくと想定される」と予想する。
その上で「非対面における顧客との接点としてコンタクトセンターに求められる役割が大きくなるとみられ、今後も堅調に推移していく」と分析している。
企業のコンタクトセンターへの投資が堅調に推移する中、各ベンダーは、顧客のニーズに応えるため、価格の低さや導入期間の短さに加え、AI活用といった機能面の独自性を強調。別の領域からの参入も目立っており、市場での競争は激しくなっている。
楽天コミュニケーションズ
低コストと導入スピードを訴求
楽天コミュニケーションズは7月4日、コンタクトセンター向けのクラウド型新サービス「楽天コネクトSmaCom(スマコム)」を9月から提供すると発表した。小規模な事業者でも利用しやすく既存サービスを改良し、より低コストで利用できるようにした。導入までの期間の短さも特徴だ。
スマコムは、初期費用無料で、基本機能に絞ったプランは、1席月額1980円で利用できる。最短5営業日から導入でき、PCとインターネット環境があれば、在宅コールセンターをすぐに開設できる。契約期間は最低1カ月からで、キャンペーン時などのスポット利用にも対応する。
同社のコンタクトセンターサービスは、コロナ禍で在宅での開設ニーズの高まりなどから順調に契約数を伸ばしてきた。これまで主な顧客は席数の多い大企業で、通信会社や保険会社などの業種での利用が目立っていた。一方で最近の市場動向として、オペレーターの採用難などを背景に、席数5~10程度の小規模で利用したいとのニーズが高まっていると説明。そういった企業にも使い勝手の良いサービスを提供しようと、サービスを刷新することにした。
楽天 コミュニケーションズ 金子昌義 社長
金子昌義社長は「新サービスはよりコンタクトセンターを導入しやすくなっている。事業規模にこだわらず、あらゆる業種に訴求したい」と話した。
同社は、コンタクトセンターを導入したい企業にとって、導入の費用と時間が課題だと分析。料金面では、フル機能を備えたプランを従前の1席月額9500円から5980円に値下げする。導入スピードの速さも顧客の課題解決につながるとみている。
機能面では、利用企業が重視する全通話録音機能をオプションで提供。最上位プランでは、アウトバウンドで電話を掛ける機能を新たに追加しており、「保険や教材の勧誘、不動産といった業種がターゲットになる」(金子社長)と展望する。販売については基本的に直販を想定しているという。
コンタクトセンター市場全体が伸びている中、他社サービスと比べた優位性について、金子社長は「電話のキャリアとしてワンストップでサービスを提供しているところだ」と説明。自社で通信回線網を保有する楽天グループの強みを生かし、通話品質のよさをアピールする考えだ。
ZVC JAPAN
CCaaSで顧客対応を効率化
ZVC JAPANは7月6日、コンタクトセンター向けソリューション「Zoom Contact Center」の提供を開始した。顧客対応時にビデオ通話や音声、チャット、電話を含むさまざまなチャネルをシームレスに活用できるオムニチャネル・コンタクトセンター・アズ・ア・サービス(CCaaS)と位置付けており、顧客とのコンタクトを効率化し、より大規模なコミュニケーションの支援を目指す。
Zoom Contact Centerは、コミュニケーション手段がZoomプラットフォーム上に統合されており、クラウドベースで利用できる。Zoomの強みであるビデオ通話を活用できるのが特徴だ。
ツールを変更することなく顧客との一連のやり取りを完了できる上、ビデオ通話や電話を使って担当者が直接会話に参加することも可能。問い合わせに対応する時間を減らすことができるため、CXの向上が見込めるとしている。
同社によると、コンタクトセンターでは、使用するツールの増加によって仕事が煩雑になってしまうことが課題になっている。そのほか、受け付けた問い合わせのうち、30~50%は専門の担当者の助けを借りなければ解決ができず、引き継ぎなどで手間がかかっていたという。
また、会話型AIとチャットボットを融合したソリューション「Zoom Virtual Agent」の日本語版の提供も開始した。Zoom Contact Centerと合わせて活用でき、問い合わせ対応の負担を軽減する。50~60%の問い合わせがAIエージェントによる対応で解決できるという。単体の会話型AIソリューションとしても導入できるという。
米Zoom Video Communications
フィリップ・ザミット
APJカスタマー エクスペリエンス部門責任者
米Zoom Video Communications(ズームビデオコミュニケーションズ)のフィリップ・ザミット・APJカスタマーエクスペリエンス部門責任者は「コールセンター向けのソリューションは、顧客からの要望を受けて開発した。3年ほど前から、ビデオの活用が幅広く受け入れられるようになったが、コンタクトセンターでビデオは活用されてこなかった。顧客からの要望があっただけでなく、私たちにとってビデオは重要な要素であることから、コンタクトセンター向けの戦略にも取り入れることにした」と語った。
販売に関しては「チャネルが非常に重要だと考えている。既存のZoomのチャネルや、CXに特化したチャネルの企業と連携して、どのようなパートナーと連携するのが適しているか議論を重ねている」と述べた。
トゥモロー・ネット
独自開発AIの導入拡大につなげる
ITインフラの販売などを手がけるトゥモロー・ネットは7月10日、AIテクノロジーと人を融合させたコンタクトセンター「ICXセンター(Innovative Customer eXperience Center)」をゲートシティ大崎イーストタワー(東京)に開設した。コンタクトセンター業務の運用代行とCXの向上を一気通貫でサポートできることを周知し、独自開発したナビゲーションAIサービス「CAT.AI(キャットエーアイ)」の導入拡大につなげる方針だ。
CAT.AIは、同社が約2年前から開始したAIプラットフォーム事業の一環で開発し、22年3月に提供を始めた。ボイスボットとチャットボットが同時利用できるCXマルチモードの機能を搭載し、初めてAIに触れるユーザーでも直感的に操作できるという。Webサイトや公式アプリなどとの連携も可能で、企業とユーザーのコミュニケーションを自由にデザインできるとしている。フルカスタマイズ版だけでなく、業種向けパッケージも順次提供する予定だ。
ICXセンターでは、CAT.AIによる顧客対応のほか、蓄積された音声やテキストから、離脱要因などに関するデータを抽出。専任スタッフによる分析結果をCAT.AIにフィードバックし、応対品質や完了率の改善に対応する。AIの認識率の向上に必要な学習データの作成や、サービスの利用状況や顧客の声に関する詳細なレポーティングなども実施する。
同社は、CAT.AIについて、23年度は20社、25年度には100社への導入を目標に掲げており、営業の体制を強化している。販売チャネルは、直販と販売パートナー経由の両方を想定している。パートナーの関係では、現在、コールセンターのアウトソーシング企業や、コールセンターシステムを開発・販売する企業などと契約手続きやテストを進めているという。
トゥモロー・ネット 松浦 淳 副社長
7月4日の発表会で、松浦淳・副社長/最高執行責任者クラウドソリューション本部長は「いろいろな企業がAI事業にチャレンジしようとしているが、提供するサービスの下で動くサーバーやネットワーク、ストレージなどを熟知している人がいないと、最適なパフォーマンスやコストは生み出せない」と指摘した。
さらに、同社が10年以上にわたって培ってきたITインフラの技術や豊富な経験は、AIサービスを提供する上で他社との大きな差別化要素になると力を込め、「われわれのAIプラットフォーム事業が唯一無二となるように、(CAT.AIを活用した)ICXセンターを立ち上げることにした」との考えを示した。