Special Feature
必要性高まる農業のデジタル化 協業の枠組み拡大が成長のかぎに
2024/05/16 09:00
週刊BCN 2024年05月13日vol.2013掲載
農業を取り巻く環境は厳しい。国内では、高齢化や後継者不足などの課題が山積しており、デジタル化の必要性は高まっている。農業機械メーカーやIT企業は、最新技術を駆使した支援を展開中で、自社の製品やサービスを強化している。他社との連携も重要視しており、協業の枠組み拡大は今後の成長に向けたかぎになりそうだ。変革に向けた最新動向と各社の取り組みを紹介する。
(取材・文/袖山俊夫 編集/齋藤秀平)
クボタ
世界各地でビジネスを展開するクボタといえば、機械メーカーのイメージが強い。だが、カスタマーソリューション事業推進部スマート農業推進室の美馬京志・KSAS(ケーサス)開発推進課長は「ハードとソフトの両面からスマート農業を推進している」とし、「ハード面では、農機自動化による省力化。ソフト面ではKSASを用いたデータに基づくPDCA型農業の実現を目指している」と付け加える。
クボタ 美馬京志 KSAS開発推進 課長
KSASは、農業経営の課題解決をサポートするために提供している営業・サービス支援システムで、「農業データを活用した新しい営農サイクルを構築できる」(美馬課長)のが特徴。PCやスマートフォンを利用して農地の管理や作業の記録などが可能で、農業経営の「見える化」を実現。KSAS対応機と連動することで、より効率的に肥料散布状況や作物情報を把握したり、機械の稼働データを収集したりすることができる。
同社が2014年にKSASのサービスを始めた背景には、高齢化による農業人口の減少や、それに伴う農地の集約が加速していることがあるという。美馬課長は「勘や経験だけではなく、データに基づくスマート農業の必要性が高まっている」と指摘。同部の小林義史・スマート農業推進室長は「大規模化や法人化が進む農家を支援するために、KSASを新規プロジェクトとして立ち上げた」と振り返る。
クボタ 小林義史 スマート農業推進 室長
その後、食味・収量マップや可変施肥マップなどの農機連携機能を順次リリースし、21年に使い勝手の改善やセキュリティーの強化を目的に「新KSAS」を提供。基盤には米Microsoft(マイクロソフト)の「Microsoft Azure」を採用した。KSASの会員(契約軒数)は順調に拡大しており、小林室長は「農業に必要不可欠なツールとして位置づけられていると言っていい」と胸を張る。
24年には、KSASの利用者が追加機能の取得などができるWebサイト「KSAS Marketplace」をリニューアルし、新機能の追加や利便性の向上を図った。将来的に他社製営農関連サービスの拡大を目指しており、オープンイノベーションの取り組みに力を入れている。
オープン化を進める意図について、美馬課長は「さまざまな背景がある。具体的には、求められるソリューションやニーズの多様化、農業を取り巻く環境の劇的な変化、テクノロジーの急速な進化、農業に関するデータ収集の難しさなどが挙げられる。これに迅速かつ的確に対応するには、もはや1社では困難で、オープンイノベーションが必要だ」と解説する。
既に他社との取り組みが進んでおり、「『一緒に取り組んでいきたい』という機運が高く、病害虫診断AIをはじめとして何社かの企業とは、KSAS MarketplaceにAIと接続した連携機能を出そうという話が進んでいる」(美馬課長)との状況だ。
ただ、連携するアプリケーションやサービスをやみくもに増やすつもりはないようだ。小林室長は「農業向けのアプリやサービスであることが大前提。しかも、データを連携することでお互いのサービス価値が上がるのかどうかを十分に検証しないといけない」との考えを示す。
美馬課長は「当社は、長期ビジョンに『命を支えるプラットフォーマー』になることを掲げている。その実現に向けて、KSAS Marketplaceでは、社会や生産者、企業の課題を解決するプラットフォームになることを目指している」と力を込める。
NTTアグリテクノロジー
NTT東日本グループのNTTアグリテクノロジーは、「AGRI-TECHで、地域を次世代に」をミッションに掲げ、多様なパートナーと連携したり、グループの強みを生かしたりしながら「農業×ICT」を軸とした地域経済の活性化やまちづくりを目指している。
同社は現在、▽自らIoT/AIを活用し農産物の生産などを行う自社ファーム▽農産物の生産から流通、販売までを視野に入れたフードバリューチェーンシステムの提供▽次世代施設園芸の圃場建設を行うエンジニアリング―の三つの事業を柱にしている。
NTTアグリ テクノロジー 小林弘高 取締役
取締役の小林弘高・マーケティング統括本部長は「地域会社として地域の課題をデジタルソリューションで解決していくと考えたとき、農業分野に取り組まなければ価値が提供できない」とし、「地域における新たな価値創造」が農業に焦点を当てる理由だと語る。また「農業にネットワークやICTを掛け合わせると言っても、机上論を振りかざすだけでは意味がない。農産品を自分たちでつくることで、初めて地域の方々と同じ目線で課題を見ることができる。自ら実証・実装した自信の持てるものを世の中に展開させていきたい」と見通す。
19年7月の会社設立からもうすぐ丸5年。今は日本全国でさまざまなプロジェクトを進めている。例えば、ローカル5Gを活用した遠隔営農支援やプライベートネットワークを活用したデータ駆動型農業、農業から始まる地域版スマートシティ構築支援、IoT/AIを活用した生産性向上や省力化支援などがある。実績は徐々に評価され、最近は海外からもプロジェクトが持ち掛けられているという。
小林取締役が特に注目しているのは、AIを活用した収量予測の取り組みだ。「生産農地の収量予測データを販売側と共有できれば、販売計画が立てやすい。逆に、販売側の動向を生産側が把握できれば生産量のコントロールにつながり、お互いが安定的に取引できる」と強調する。
また、24年2月2日に提供を開始した施設園芸向け生産・労務管理サービス「Digital Farmer」にも大きく期待している。「このサービスを活用することで、農地全体の作業の進展をリアルタイムで把握できるだけでなく、農業従事者の労務管理に加え、バイタルデータを取ることで健康面にも配慮したマネジメントが実現できる」とみている。
農業のICT化に向け、さまざまな取り組みを進める中、他社との連携にも関心を寄せている。小林取締役は「営業連携の観点ではDigital Farmerの拡販を図りたい。農業領域に強い営業チャネルを持つ企業に一つの商材だと捉えてもらえるとありがたい」と要望。一方で「農業DXを実現するには、いろいろなハードやソフトが欠かせず、アグリテックベンチャーと組む可能性はあり得る。例えば、現場での生産効率を上げるロボットは興味深い」とし、他社との技術連携も視野に入れる。
同社の目標は、他社との共存・共創の輪を広げながら、農業を憧れの産業にすることだ。小林取締役は「農業における持続的なモデルを構築することで、地域に活力をもたらすことができる。われわれはその実現を社会にロングタームでコミットし、挑み続けていきたい」と意気込む。NEC
NECは、「つながる農業」をキーワードに、ICTソリューションで農業が抱える課題解決を目指している。農地と管理者、熟練者と後継者、産地と消費者などをつなぎ合わせ、収益を上げられる農業をつくることを見据える。
NEC 村川弘美 ディレクター
同社は、この領域にいち早く取り組み、国内でさまざまな実績を積み重ねてきたが、現在は海外事業にかなりの力点を置いている。その理由について、コーポレート事業開発部門AgriTechビジネスグループの村川弘美・ディレクターは「海外は大規模生産であり、効率もかなり重視されている。われわれが提供できるサービスソリューションでマネタイズがしやすい」と説明する。
さまざまなソリューションを展開しているが、主力になっているのはAIを活用した自動かんがい制御機能だという。かんがい設備と連携し、水や肥料をリモート・自動で制御可能で、村川ディレクターは「世界の主要産地で水が潤沢にある国は少ない。どこも水との戦いを繰り返している。それだけにニーズが高く、特に欧州各国から多くの引き合いが寄せられている」と話す。
注目のきっかけとなったのは、同社が戦略的パートナーシップ契約を締結するカゴメとポルトガルで設立した合弁会社「DXAS Agricultural Technology」の取り組みだ。NECの農業ICTプラットフォーム「CropScope」のサービスメニューであるAI営農アドバイスと自動かんがい制御機能を組み合わせたサービスを北イタリアとポルトガルのトマト農地に導入した結果、高い収量が得られたという。
村川ディレクターは「北イタリアの実証実験では、CropScopeを活用していない区画と比較して、約19%少ないかんがい水量で収量を約23%増加できた。ポルトガルでも、約21ヘクタールの大規模な商用農地で現地の平均を大幅に上回る高い収量を実現した」と補足する。
村川ディレクターが代表的なソリューションとしてもう一つ示したのが、「可変施肥サービス」だ。可変施肥とは、農作物の生育や土壌などのばらつき情報を踏まえて、施す肥料の量を微調整する技術を指す。「当社はCropScopeを活用し、衛星画像や各種センサーにより得られたデータとトラクターを連携させて、エリアごとの効率的な施肥と収量の最大化を図っている。肥料代が高騰する中、農家の経営にメリットがあるだけでなく、環境への負荷を抑制する観点でも非常に意義がある」と語る。同サービスは、北海道を拠点に大型農機の輸入販売を手掛けるエム・エス・ケー農業機械との協業に基づいて国内で提供している。
いずれの事例からも分かる通り、NECが顧客と直接タッチポイントを取ることはなく、ビジネスを拡大するには他社との連携が重要になる。村川ディレクターは「ITはROI(投資収益率)が見えにくい。現地で農業をサポートし、伴走している企業の方々にわれわれのサービスやソリューションの価値を理解してもらった上でエンドユーザーにしっかりと説明していただき、その効果をリアルに実感してもらわないと導入が難しい」との見方を示し、「自社で農業ICTソリューションの全てをカバーしようとすると市場で負けてしまう。当社のコア技術を最大限に生かすとともに、アグリテックベンチャーなどと組んでいく必要があり、常に新たな企業との連携を模索している」と語る。
(取材・文/袖山俊夫 編集/齋藤秀平)

クボタ
オープンイノベーションに注力
世界各地でビジネスを展開するクボタといえば、機械メーカーのイメージが強い。だが、カスタマーソリューション事業推進部スマート農業推進室の美馬京志・KSAS(ケーサス)開発推進課長は「ハードとソフトの両面からスマート農業を推進している」とし、「ハード面では、農機自動化による省力化。ソフト面ではKSASを用いたデータに基づくPDCA型農業の実現を目指している」と付け加える。
KSASは、農業経営の課題解決をサポートするために提供している営業・サービス支援システムで、「農業データを活用した新しい営農サイクルを構築できる」(美馬課長)のが特徴。PCやスマートフォンを利用して農地の管理や作業の記録などが可能で、農業経営の「見える化」を実現。KSAS対応機と連動することで、より効率的に肥料散布状況や作物情報を把握したり、機械の稼働データを収集したりすることができる。
同社が2014年にKSASのサービスを始めた背景には、高齢化による農業人口の減少や、それに伴う農地の集約が加速していることがあるという。美馬課長は「勘や経験だけではなく、データに基づくスマート農業の必要性が高まっている」と指摘。同部の小林義史・スマート農業推進室長は「大規模化や法人化が進む農家を支援するために、KSASを新規プロジェクトとして立ち上げた」と振り返る。
その後、食味・収量マップや可変施肥マップなどの農機連携機能を順次リリースし、21年に使い勝手の改善やセキュリティーの強化を目的に「新KSAS」を提供。基盤には米Microsoft(マイクロソフト)の「Microsoft Azure」を採用した。KSASの会員(契約軒数)は順調に拡大しており、小林室長は「農業に必要不可欠なツールとして位置づけられていると言っていい」と胸を張る。
24年には、KSASの利用者が追加機能の取得などができるWebサイト「KSAS Marketplace」をリニューアルし、新機能の追加や利便性の向上を図った。将来的に他社製営農関連サービスの拡大を目指しており、オープンイノベーションの取り組みに力を入れている。
オープン化を進める意図について、美馬課長は「さまざまな背景がある。具体的には、求められるソリューションやニーズの多様化、農業を取り巻く環境の劇的な変化、テクノロジーの急速な進化、農業に関するデータ収集の難しさなどが挙げられる。これに迅速かつ的確に対応するには、もはや1社では困難で、オープンイノベーションが必要だ」と解説する。
既に他社との取り組みが進んでおり、「『一緒に取り組んでいきたい』という機運が高く、病害虫診断AIをはじめとして何社かの企業とは、KSAS MarketplaceにAIと接続した連携機能を出そうという話が進んでいる」(美馬課長)との状況だ。
ただ、連携するアプリケーションやサービスをやみくもに増やすつもりはないようだ。小林室長は「農業向けのアプリやサービスであることが大前提。しかも、データを連携することでお互いのサービス価値が上がるのかどうかを十分に検証しないといけない」との考えを示す。
美馬課長は「当社は、長期ビジョンに『命を支えるプラットフォーマー』になることを掲げている。その実現に向けて、KSAS Marketplaceでは、社会や生産者、企業の課題を解決するプラットフォームになることを目指している」と力を込める。
NTTアグリテクノロジー
持続的なモデルで地域に活力
NTT東日本グループのNTTアグリテクノロジーは、「AGRI-TECHで、地域を次世代に」をミッションに掲げ、多様なパートナーと連携したり、グループの強みを生かしたりしながら「農業×ICT」を軸とした地域経済の活性化やまちづくりを目指している。同社は現在、▽自らIoT/AIを活用し農産物の生産などを行う自社ファーム▽農産物の生産から流通、販売までを視野に入れたフードバリューチェーンシステムの提供▽次世代施設園芸の圃場建設を行うエンジニアリング―の三つの事業を柱にしている。
取締役の小林弘高・マーケティング統括本部長は「地域会社として地域の課題をデジタルソリューションで解決していくと考えたとき、農業分野に取り組まなければ価値が提供できない」とし、「地域における新たな価値創造」が農業に焦点を当てる理由だと語る。また「農業にネットワークやICTを掛け合わせると言っても、机上論を振りかざすだけでは意味がない。農産品を自分たちでつくることで、初めて地域の方々と同じ目線で課題を見ることができる。自ら実証・実装した自信の持てるものを世の中に展開させていきたい」と見通す。
19年7月の会社設立からもうすぐ丸5年。今は日本全国でさまざまなプロジェクトを進めている。例えば、ローカル5Gを活用した遠隔営農支援やプライベートネットワークを活用したデータ駆動型農業、農業から始まる地域版スマートシティ構築支援、IoT/AIを活用した生産性向上や省力化支援などがある。実績は徐々に評価され、最近は海外からもプロジェクトが持ち掛けられているという。
小林取締役が特に注目しているのは、AIを活用した収量予測の取り組みだ。「生産農地の収量予測データを販売側と共有できれば、販売計画が立てやすい。逆に、販売側の動向を生産側が把握できれば生産量のコントロールにつながり、お互いが安定的に取引できる」と強調する。
また、24年2月2日に提供を開始した施設園芸向け生産・労務管理サービス「Digital Farmer」にも大きく期待している。「このサービスを活用することで、農地全体の作業の進展をリアルタイムで把握できるだけでなく、農業従事者の労務管理に加え、バイタルデータを取ることで健康面にも配慮したマネジメントが実現できる」とみている。
農業のICT化に向け、さまざまな取り組みを進める中、他社との連携にも関心を寄せている。小林取締役は「営業連携の観点ではDigital Farmerの拡販を図りたい。農業領域に強い営業チャネルを持つ企業に一つの商材だと捉えてもらえるとありがたい」と要望。一方で「農業DXを実現するには、いろいろなハードやソフトが欠かせず、アグリテックベンチャーと組む可能性はあり得る。例えば、現場での生産効率を上げるロボットは興味深い」とし、他社との技術連携も視野に入れる。
同社の目標は、他社との共存・共創の輪を広げながら、農業を憧れの産業にすることだ。小林取締役は「農業における持続的なモデルを構築することで、地域に活力をもたらすことができる。われわれはその実現を社会にロングタームでコミットし、挑み続けていきたい」と意気込む。
NEC
「大規模生産」の海外に力点
NECは、「つながる農業」をキーワードに、ICTソリューションで農業が抱える課題解決を目指している。農地と管理者、熟練者と後継者、産地と消費者などをつなぎ合わせ、収益を上げられる農業をつくることを見据える。
同社は、この領域にいち早く取り組み、国内でさまざまな実績を積み重ねてきたが、現在は海外事業にかなりの力点を置いている。その理由について、コーポレート事業開発部門AgriTechビジネスグループの村川弘美・ディレクターは「海外は大規模生産であり、効率もかなり重視されている。われわれが提供できるサービスソリューションでマネタイズがしやすい」と説明する。
さまざまなソリューションを展開しているが、主力になっているのはAIを活用した自動かんがい制御機能だという。かんがい設備と連携し、水や肥料をリモート・自動で制御可能で、村川ディレクターは「世界の主要産地で水が潤沢にある国は少ない。どこも水との戦いを繰り返している。それだけにニーズが高く、特に欧州各国から多くの引き合いが寄せられている」と話す。
注目のきっかけとなったのは、同社が戦略的パートナーシップ契約を締結するカゴメとポルトガルで設立した合弁会社「DXAS Agricultural Technology」の取り組みだ。NECの農業ICTプラットフォーム「CropScope」のサービスメニューであるAI営農アドバイスと自動かんがい制御機能を組み合わせたサービスを北イタリアとポルトガルのトマト農地に導入した結果、高い収量が得られたという。
村川ディレクターは「北イタリアの実証実験では、CropScopeを活用していない区画と比較して、約19%少ないかんがい水量で収量を約23%増加できた。ポルトガルでも、約21ヘクタールの大規模な商用農地で現地の平均を大幅に上回る高い収量を実現した」と補足する。
村川ディレクターが代表的なソリューションとしてもう一つ示したのが、「可変施肥サービス」だ。可変施肥とは、農作物の生育や土壌などのばらつき情報を踏まえて、施す肥料の量を微調整する技術を指す。「当社はCropScopeを活用し、衛星画像や各種センサーにより得られたデータとトラクターを連携させて、エリアごとの効率的な施肥と収量の最大化を図っている。肥料代が高騰する中、農家の経営にメリットがあるだけでなく、環境への負荷を抑制する観点でも非常に意義がある」と語る。同サービスは、北海道を拠点に大型農機の輸入販売を手掛けるエム・エス・ケー農業機械との協業に基づいて国内で提供している。
いずれの事例からも分かる通り、NECが顧客と直接タッチポイントを取ることはなく、ビジネスを拡大するには他社との連携が重要になる。村川ディレクターは「ITはROI(投資収益率)が見えにくい。現地で農業をサポートし、伴走している企業の方々にわれわれのサービスやソリューションの価値を理解してもらった上でエンドユーザーにしっかりと説明していただき、その効果をリアルに実感してもらわないと導入が難しい」との見方を示し、「自社で農業ICTソリューションの全てをカバーしようとすると市場で負けてしまう。当社のコア技術を最大限に生かすとともに、アグリテックベンチャーなどと組んでいく必要があり、常に新たな企業との連携を模索している」と語る。
農業を取り巻く環境は厳しい。国内では、高齢化や後継者不足などの課題が山積しており、デジタル化の必要性は高まっている。農業機械メーカーやIT企業は、最新技術を駆使した支援を展開中で、自社の製品やサービスを強化している。他社との連携も重要視しており、協業の枠組み拡大は今後の成長に向けたかぎになりそうだ。変革に向けた最新動向と各社の取り組みを紹介する。
(取材・文/袖山俊夫 編集/齋藤秀平)
クボタ
世界各地でビジネスを展開するクボタといえば、機械メーカーのイメージが強い。だが、カスタマーソリューション事業推進部スマート農業推進室の美馬京志・KSAS(ケーサス)開発推進課長は「ハードとソフトの両面からスマート農業を推進している」とし、「ハード面では、農機自動化による省力化。ソフト面ではKSASを用いたデータに基づくPDCA型農業の実現を目指している」と付け加える。
クボタ 美馬京志 KSAS開発推進 課長
KSASは、農業経営の課題解決をサポートするために提供している営業・サービス支援システムで、「農業データを活用した新しい営農サイクルを構築できる」(美馬課長)のが特徴。PCやスマートフォンを利用して農地の管理や作業の記録などが可能で、農業経営の「見える化」を実現。KSAS対応機と連動することで、より効率的に肥料散布状況や作物情報を把握したり、機械の稼働データを収集したりすることができる。
同社が2014年にKSASのサービスを始めた背景には、高齢化による農業人口の減少や、それに伴う農地の集約が加速していることがあるという。美馬課長は「勘や経験だけではなく、データに基づくスマート農業の必要性が高まっている」と指摘。同部の小林義史・スマート農業推進室長は「大規模化や法人化が進む農家を支援するために、KSASを新規プロジェクトとして立ち上げた」と振り返る。
クボタ 小林義史 スマート農業推進 室長
その後、食味・収量マップや可変施肥マップなどの農機連携機能を順次リリースし、21年に使い勝手の改善やセキュリティーの強化を目的に「新KSAS」を提供。基盤には米Microsoft(マイクロソフト)の「Microsoft Azure」を採用した。KSASの会員(契約軒数)は順調に拡大しており、小林室長は「農業に必要不可欠なツールとして位置づけられていると言っていい」と胸を張る。
24年には、KSASの利用者が追加機能の取得などができるWebサイト「KSAS Marketplace」をリニューアルし、新機能の追加や利便性の向上を図った。将来的に他社製営農関連サービスの拡大を目指しており、オープンイノベーションの取り組みに力を入れている。
オープン化を進める意図について、美馬課長は「さまざまな背景がある。具体的には、求められるソリューションやニーズの多様化、農業を取り巻く環境の劇的な変化、テクノロジーの急速な進化、農業に関するデータ収集の難しさなどが挙げられる。これに迅速かつ的確に対応するには、もはや1社では困難で、オープンイノベーションが必要だ」と解説する。
既に他社との取り組みが進んでおり、「『一緒に取り組んでいきたい』という機運が高く、病害虫診断AIをはじめとして何社かの企業とは、KSAS MarketplaceにAIと接続した連携機能を出そうという話が進んでいる」(美馬課長)との状況だ。
ただ、連携するアプリケーションやサービスをやみくもに増やすつもりはないようだ。小林室長は「農業向けのアプリやサービスであることが大前提。しかも、データを連携することでお互いのサービス価値が上がるのかどうかを十分に検証しないといけない」との考えを示す。
美馬課長は「当社は、長期ビジョンに『命を支えるプラットフォーマー』になることを掲げている。その実現に向けて、KSAS Marketplaceでは、社会や生産者、企業の課題を解決するプラットフォームになることを目指している」と力を込める。
(取材・文/袖山俊夫 編集/齋藤秀平)

クボタ
オープンイノベーションに注力
世界各地でビジネスを展開するクボタといえば、機械メーカーのイメージが強い。だが、カスタマーソリューション事業推進部スマート農業推進室の美馬京志・KSAS(ケーサス)開発推進課長は「ハードとソフトの両面からスマート農業を推進している」とし、「ハード面では、農機自動化による省力化。ソフト面ではKSASを用いたデータに基づくPDCA型農業の実現を目指している」と付け加える。
KSASは、農業経営の課題解決をサポートするために提供している営業・サービス支援システムで、「農業データを活用した新しい営農サイクルを構築できる」(美馬課長)のが特徴。PCやスマートフォンを利用して農地の管理や作業の記録などが可能で、農業経営の「見える化」を実現。KSAS対応機と連動することで、より効率的に肥料散布状況や作物情報を把握したり、機械の稼働データを収集したりすることができる。
同社が2014年にKSASのサービスを始めた背景には、高齢化による農業人口の減少や、それに伴う農地の集約が加速していることがあるという。美馬課長は「勘や経験だけではなく、データに基づくスマート農業の必要性が高まっている」と指摘。同部の小林義史・スマート農業推進室長は「大規模化や法人化が進む農家を支援するために、KSASを新規プロジェクトとして立ち上げた」と振り返る。
その後、食味・収量マップや可変施肥マップなどの農機連携機能を順次リリースし、21年に使い勝手の改善やセキュリティーの強化を目的に「新KSAS」を提供。基盤には米Microsoft(マイクロソフト)の「Microsoft Azure」を採用した。KSASの会員(契約軒数)は順調に拡大しており、小林室長は「農業に必要不可欠なツールとして位置づけられていると言っていい」と胸を張る。
24年には、KSASの利用者が追加機能の取得などができるWebサイト「KSAS Marketplace」をリニューアルし、新機能の追加や利便性の向上を図った。将来的に他社製営農関連サービスの拡大を目指しており、オープンイノベーションの取り組みに力を入れている。
オープン化を進める意図について、美馬課長は「さまざまな背景がある。具体的には、求められるソリューションやニーズの多様化、農業を取り巻く環境の劇的な変化、テクノロジーの急速な進化、農業に関するデータ収集の難しさなどが挙げられる。これに迅速かつ的確に対応するには、もはや1社では困難で、オープンイノベーションが必要だ」と解説する。
既に他社との取り組みが進んでおり、「『一緒に取り組んでいきたい』という機運が高く、病害虫診断AIをはじめとして何社かの企業とは、KSAS MarketplaceにAIと接続した連携機能を出そうという話が進んでいる」(美馬課長)との状況だ。
ただ、連携するアプリケーションやサービスをやみくもに増やすつもりはないようだ。小林室長は「農業向けのアプリやサービスであることが大前提。しかも、データを連携することでお互いのサービス価値が上がるのかどうかを十分に検証しないといけない」との考えを示す。
美馬課長は「当社は、長期ビジョンに『命を支えるプラットフォーマー』になることを掲げている。その実現に向けて、KSAS Marketplaceでは、社会や生産者、企業の課題を解決するプラットフォームになることを目指している」と力を込める。
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- NTTアグリテクノロジー 持続的なモデルで地域に活力
- NEC 「大規模生産」の海外に力点
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