Special Issue

特集 動き出す「工事進行基準」 迫られる!「工事進行基準」への対応

2008/10/01 19:56

週刊BCN 2008年09月29日vol.1253掲載

工事進行基準、対応が開発競争力に~2009年4月1日以降の開始事業年度から適用!~
工事進行基準はテンプレート作成が重要!
効果的なプロジェクト管理ツール「Microsoft Office Project 2007」

2009年4月1日以降に開始する事業年度から、受注ソフトの制作が長期請負工事とみなされるようになり、収益計上が原則「工事進行基準」となる。これは単に計上の方法が切り替わるだけでなく、要件変更に伴う赤字プロジェクトの商慣習を自ら見直す契機になるだろう。そこで、工事進行基準に必要な準備として欠かせない要件、ツールについて、マイクロソフトでMicrosoft Office Project 2007を担当する相場宏二氏に話を聞いた。

工事進行基準に欠かせない3つの重要なポイント

 2009年4月1日以降に始まる事業年度から、工事(ソフトウェア開発、システム開発)の進捗度に応じて、分散して計上する「工事進行基準」が収益計上の原則として適用される。相場宏二氏は、「工事進行基準の導入にあたって必要な取り組みは、業務プロセスの定義、精度の高い見積もりの作成、迅速な進捗の管理の3つです」と語る。

 ITプロジェクトの見積誤差の大半は、属人的なプロジェクトマネージャのスキルに起因している、その属人的な部分を排除して開発プロセスを定義し、さらにマネジメントプロセスを定義することで、効率的かつ平準的なプロジェクトが遂行できるようになり、見積精度が向上する。

 工事進行基準は原価比例法が基準となるため、見積もりの精度が重要で、従来のような見込みスタートや要件が不確定な受注の甘い見積もりに代わり、プロジェクト全体を俯瞰したWBS(Work Breakdown Structure)を用いた詳細レベルでの精度の高い見積もり、リソース計画が求められる。

 「いまだにWBSを作成せずにソフトウェア開発を行っている企業は少なくありません。しかし、最近はエンジニア一人ひとりに、より専門的なスキルが求められています。与えられたタスクに対して、スキルを持った人材をアサインできるかは、プロジェクトの受注、計画通りの納品に大きく関わってきます。精度の高い見積もり作成においても、WBSを詳細化して、個々のタスクに対して見積もりを行い、ボトムアップで見積もりを作成することが精度の向上につながります」(相場氏)。

 さらに、見積もり作成後のトラッキングとして発生したコストの迅速な把握も欠かすことはできない。ソフトウェア開発の場合、コストの大部分は人件費が占める。プロジェクトにかかる人材、作業時間、残存時間などをリアルタイムに管理、監視することが進捗管理の肝になる。

テンプレート作成で開発を定常化 Microsoft Office Project 2007の活用

クリックで拡大 工事進行基準に対応する3つのポイントを実現するには、ツールの効果的な活用が大切だ。

 「Microsoft Office Project 2007には、デスクトップとサーバ製品があり、デスクトップ製品は、主に業務プロセスの定義、見積もりの作成といった部分で利用できるツールです。特に標準テンプレートの作成は業務の標準化と生産性の向上に大きく寄与します」と、相場氏はツールの有効性を強調する。

 標準テンプレートは、開発フローに加え、標準工期、標準スキル、会社のルールや必要なタスク、承認などの業務フロー、成果物、スキル指標、工数などを定義することにより、各担当者の業務、役割が明確になり、システム開発の質を一定レベルに引き上げることができる。さらに、テンプレートに再計画の情報なども保存して管理しておけば、再利用の際、タスク漏れ防止や新規見積りの精度向上に役立てることが可能だ。

 「実際にテンプレートを作成している企業では、詳細なWBSを作成しています。Project 2007にはカレンダーとの連動機能や、確認事項や保存先の管理を指定できるメモ機能、リソースシートによって、人、モノ、金を定義しコスト計算を容易にする機能があります。WBSの根拠が明確になるうえ、お客様への説明、監査においても有効です」

 ソフトウェア開発では担当者の残業も大きな問題となる。Project 2007はリソース配分を自動化する機能を搭載しており、スケジュールを再計算して作業時間の調整や納期の調整ができる。

進捗管理を支援するProject Server会計システムと連動

 原価比例法では、発生したコストによって進捗率を把握する考え方のため、どのプロジェクトのどの部分にコストが発生したのかを、つまり誰が何の作業でどれだけ働いたのかをリアルタイムに収集することが必要になる。開発メンバーの作業時間管理を厳密に行うことが必要なのだ。この作業を低価格で実現するのがProject Server 2007である。開発メンバーが自分の作業時間、進捗状況、達成率を簡単に報告できる機能を搭載している。

 プロジェクトマネージャは、計画を作成してリソースをアサインし、サーバに発行すれば、開発担当者はブラウザベースでタスクの確認、作業報告を実施。プロジェクトマネージャも、工数をかけることなく、作業時間の収集や達成率を迅速かつ正確に把握できる。

 「Outlookと連携しているので現場は抵抗なく、報告が行えます。ERPや勤怠管理システムで作業時間収集を実施する企業も少なくありません。しかし、複数プロジェクト、複数タスクが個人にアサインされている場合、発生原価のトラッキングには専門ツールの活用が必要になるでしょう。そのコストも削減できます」と相場氏は語る。

 このほかにも、横断的な分析による、危険なプロジェクトの早期発見、赤字の是正が可能になる。プロジェクトを再計画して、必要に応じて工事損失引当金を計上する判断を迅速に行うことが可能になるのだ。また、公開している日本語SDKのPSIインタフェースを使用することで、外部の会計システムとの連携アプリケーションの開発が可能。プロジェクトごとの実績コストや会計システム上で仕訳処理も実施できる。さらに、ERPコネクターによって、SAPのmySAP ERPとの連携モジュールのテンプレートを提供している。これらを活用することで、業務が自動化され迅速な会計処理が実現していく。

 相場氏は、「現在見積作成は、営業担当者が人月ベースでざっくりと作成する一方で、実際の開発計画は現場で作成しており、見積と開発計画がリンクされていない会社が多数あります。しかし工事進行基準においては、開発現場が責任を持って、開発計画を立て、計画に基づく積み上げの見積をお客様に提示し、お客様の承認を得て初めて開発作業に着手する業務フローが必要になります」と語り、プロジェクトマネジメントの徹底が工事進行基準への準備に必要になるという。開発現場には、さらなるお客様に対しての責任が求められてくるわけだ。

 プロジェクト管理の徹底は、いわゆるデスマーチを削減し、IT業界の健全性、働く人材の活性化をもたらす。工事進行基準の導入を一つのきっかけとして、日本のIT産業にプロジェクト管理のさらなる普及が促進されていくに違いない。