これまでIT資産管理ツールの導入は、一部の中堅規模企業や大規模企業などに限られていたが、最近では、中堅・中小企業(SMB)がIT資産管理ツールを導入するケースがみられるようになった。その要因として、クライアントPCやプリンタ、スマートデバイスなど、企業システムに接続されるデバイスが増加していることが考えられる。それに加えて、2014年4月にサポートが終了するWindows XPからクライアントPCをリプレースする際にIT資産管理を見直す企業が増えていることも追い風になっている。また、クラウドを活用したIT資産管理ツールや、ライセンス管理やセキュリティなどを含めた統合IT資産管理ツールなどさまざまなツールが登場し、市場が活性化していることもその一因と考えられる。この「IT資産管理座談会」では、IT資産管理ベンダー3社のキーパーソンに、2013年の戦略を明らかにしてもらった。(司会/『週刊BCN』編集長 木村剛士  写真/大星直輝)

(写真左から)日立製作所 市川孝子 主任技師、日本マイクロソフト 小黒信介 シニアプロダクトマネージャー、クオリティソフト 山崎誠司 室長

2012年前半のIT投資は抑制傾向
後半から2013年にかけて好調に

──まずは、それぞれ提供しておられるIT資産管理に関するプロダクトを紹介してください。

クオリティソフト
営業戦略室
山崎誠司室長
市川 日立製作所の市川です。当社は、「JP1/IT Desktop Management(JP1/ITDM)」を提供しています。この製品は、IT資産管理、セキュリティ対策状況を把握し、一元管理できる統合IT資産管理製品です。分かりやすく直感的に操作が行える点が特長で、好評を得ています。

 
山崎 クオリティソフトの山崎です。当社は、クオリティが開発しているソリューションのマーケティング活動を行っています。プロダクトは、オンプレミス型の「QND」シリーズとクラウド型の「ISM CloudOne」を提供しています。「ISM CloudOne」は2007年から提供していますが、ここ数年で契約者数が顕著に伸びています。企画の段階からSMBを強く意識してきて、現在の市場ニーズにマッチしたことが伸びた要因だと捉えています。

 
小黒 マイクロソフトの小黒です。当社は、オンプレミスのシステム管理ソフトウェアとして知られる「Microsoft System Center」や、クラウド型の統合管理ツール「Windows Intune」を提供しています。販売実績はオンプレミスのほうが多いのですが、SMBのお客様を中心に「Windows Intune」を選択していただくケースが増えており、着実に伸びています。とくに国内市場については「Windows Intune」が健闘しており、大型の案件も獲得しています。

──2012年度を振り返って、IT資産管理市場の全般的な市場観、販売実績について聞かせてください。

市川(日立製作所) 2012年当初は、災害などの影響で企業投資が抑制されている傾向がありましたが、年度後半から2013年にかけては市況が戻り、IT投資が増えているように感じています。さらに、近年では企業でのスマートデバイスの導入も進み、IT投資が加速していると実感しています。

 当社では、2012年10月に「JP1スマートデバイス管理サービス」というMDMサービスをリリースし、新しいご提案をできる状況を整えることができました。「JP1/ITDM」については、「スマートデバイス管理サービス」と連携することで、PCなどのIT資産管理とスマートデバイスを一元的に管理できるようになっており、お客様にご満足いただける内容になったと自負しております。

山崎(クオリティソフト) これまでの資産管理は、中堅規模企業や大規模企業を中心に導入が進んでいました。しかし最近では、企業規模を問わずIT資産管理を求めるニーズが高まっています。その背景として、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスの普及があると考えられます。クライアントPCだけでなく、これらのスマートデバイスも企業のネットワークに接続されてしまうので、すべての端末を企業が管理しなければならない状況となっていることが、市場拡大の追い風になっていることは間違いないと思います。

 また、ソフトウェア監査も要因の一つになっています。これまでソフトウェア監査といえば中堅規模以上の企業が中心でしたが、最近では100名程度の企業でも実施されるケースが増えています。表計算ソフトによる管理では、ソフトウェア監査には対応しきれません。これまでIT資産管理をしてこなかった企業も、IT資産管理の必要性を実感し始めているのだと思います。

小黒(マイクロソフト) 当社の状況をいえば、「Windows Intune」のようなクラウド型IT資産管理ツールの場合、管理サーバーなどが必要なく、非常に手軽に始めることができます。そのため、これまで当社が攻めきれていなかったお客様に対しても、アプローチできるようになりました。また、モバイル専用の貸し出し端末、スマートデバイス、VPNで接続されていない拠点の端末など、既存のIT資産管理ツールでは管理することが難しかった端末も、「Windows Intune」であれば管理できます。こういった点も、高い評価につながったと自負しています。

──スマートデバイスの管理(MDM)というお話が出てきていますが、MDMが必要とされているのは、BYOD(Bring Your Own Device)が普及したためでしょうか。

山崎(クオリティソフト) MDMを使う場合、会社が支給しているスマートデバイスを管理するケースが圧倒的に多いと感じています。BYODが成功している会社は、以前からリモートアクセスの仕組みを用意して活用してきた一部の企業だけで、ほとんどの企業ではリモートアクセスの仕組みもありませんし、さまざまな問題をクリアしなければいけません。例えば、BYODを本格的に実施した際、業務時間外に業務に関する連絡を個人が所有するデバイスで受けるというケースも出てくるでしょう。この場合、労務に関する問題を解決する必要があります。このように、BYODに関連して発生する細かい問題をどう解決していくのかという結論が出せないために、BYODに踏み切れない企業が多いのではないでしょうか。

市川(日立製作所) 当社でも、BYODを利用している例はあまり耳にしませんね。MDMについては、会社が支給しているスマートデバイスをどう管理していくのかという話が中心になっています。やはり、個人が所有するデバイスは労務問題やセキュリティ、コンプライアンスなどの問題を含んでいるため、扱いづらいというのが正直なところなのでしょうね。どちらかといえば、個人で所有するデバイスと業務システムを接続できないようにする企業が多いように思います。

小黒(マイクロソフト) 実は「Windows Intune」の一つの柱がBYODです。ワールドワイドでは数多くの事例がありますが、国内ではあまり強く打ち出してはいません。それは、企業ポリシーでBYODがNGとなるケースが多く、個人の端末を会社がどこまで管理していいのかという線引きが難しいためです。BYODをきっかけとした資産管理を実際に導入するのは、現時点の日本ではまだ難しいのではないかと感じています。

Windows XPからの移行で
IT資産管理ツールの見直しが進む

──それでは、資産管理のニーズはどのようなところにあるのでしょうか。

日本マイクロソフト
Windows本部
Windowsコマーシャルグループ
小黒信介 シニアプロダクトマネージャー
市川(日立製作所) 最近では、「グローバル」が一つのキーワードになっています。海外展開している企業は、これまで国や拠点ごとに分けてIT資産を管理してきましたが、最近では海外の拠点ごとの端末を国内で一括管理し、ガバナンスを広くきかせていく動きが顕著になっています。

 また、「Windows XPからの移行」も重要なキーワードとなっています。Windows XPのサポート終了を2014年4月に控え、相当な台数のクライアントPCがプリレースされようとしています。IT資産管理については、このリプレースのタイミングで導入・見直しを検討するケースが多く、これをきっかけに需要が増加していると感じています。

小黒(マイクロソフト) 当社の事例をみると、サーバーをリプレースするタイミングでIT資産管理ツールを検討されているお客様が多いですね。特に「Windows Intune」は、Office 365と統合できるため、サーバー資産をクラウド化する目的で利用したいというケースが増えています。「クラウドへ舵を切る」という決定が、導入のきっかけになっているといって間違いないでしょう。

 「Windows XPからの移行」という点では、「Windows Intune」にはWindows ソフトウェア アシュアランス(SA)が含まれているエディションがあって、Windowsをアップグレードすることもできます。ユーザーニーズにも合致していることもあって、今後の利用も増えていくことが予想されます。さらに、アップグレード後もすぐにアンチウイルス対策ができるという点も、エンドユーザーのメリットになります。当社では、こういった点を含め、市場への訴求を強めていきたいと考えています。

山崎(クオリティソフト) 状況をみると、確かに、Windows XPのサポート終了による需要は増えています。Windows XPのサポート終了まで1年を切る今の時期は、実際の移行プランを考えるとリミットが間近に迫っています。当社では、Windows XPからWindows 7への移行を検討しているお客様のために支援ツールを提供し、従来であれば人海戦術で行っていた移行作業を短期間で完了させよう、というメッセージを送っています。

──実際、Windows XPからの移行が完了していない端末は、かなりの数になるとみておられますか。

小黒(マイクロソフト) 2012年末の時点で、法人市場の約40%が依然としてWindows XPで利用されていました。4月9日に行った弊社からのサポート終了に関する再告知や、さまざまなメディアを通じた報道や露出から、サポート終了については多くのお客様にご理解をいただいていると思います。ただサポート終了が迫るにつれて、ITベンダー各社のリソースも逼迫してくる可能性が高く、IT業界一丸となって、すぐにでもお客様への早期移行検討の提案や支援を進める必要があると思います。

さまざまなニーズが顕著化しているIT資産管理市場ですが、今後の市場の成長率などについて教えてください。

市川(日立製作所) IT資産管理市場は、管理規模で考えると、非常に伸びています。スマートデバイスや仮想環境などを考えれば、今後も着実に伸びていくでしょう。それに伴い、市場の拡大も期待できます。しかし、製品の単価が下落しているため、市場全体の成長率は金額ベースで10%から20%程度に落ち着くのではないかと予想しています。

増え続ける管理対象デバイス
仮想化/スマートデバイスがキーワードに

──ここまでIT資産管理市場の状況を分析してもらいましたが、それに基づく各社のマーケティング戦略を聞かせてください。

日立製作所
情報・通信システム社
統合PF開発本部
ITマネジメントソリューション開発部
市川孝子 主任技師
小黒(マイクロソフト) 「Windows Intune」の強みは、Office 365との統合と、セキュリティにあるとみています。この強みを生かして、従来のオンプレミスではできない領域をあぶり出して、徹底的に訴求しています。とくに持ち出しPCやタブレットなど、会社の外に持ち出すモバイル端末の管理については、まだまだ伸びしろがあります。当社では、ここを強力に押さえていきたいと考えています。

市川(日立製作所) 「JP1/ITDM」では、グローバルニーズに応えながら各国や国内のITガバナンスの強化などを提供していきます。また、統合運用管理製品という強みを活かして、「JP1/ITDM」からイベントが上がったときにJP1製品を使って企業システムを含めた統合的な運用を行うことができることも大きなメッセージポイントとして発信していく予定です。

山崎(クオリティソフト) 当社の場合、6月頃まではWindows XPからの移行を中心に訴求していきます。それ以降は、あらためてBYODについてのメッセージを強化していく予定です。先ほど、BYODをきっかけとした資産管理の導入は期待できないというお話がありましたが、OS環境の移行を考えると、将来的にはBYODも考えていかなければいけない状況になるはずです。Windows XPからの移行に際して、仮想環境も選択肢に入ってくると思います。仮想環境なら、どんな端末からも接続できるため、BYODのニーズは必ず出てくるでしょう。そこで、あらためてBYODを訴求していこうと考えています。

──最後に、パートナー施策について教えてください。

小黒(マイクロソフト) 「Windows Intune」は後発ですので、より高い目標設定で展開していきたいと考えています。それには、パートナー様のご協力が不可欠です。「Windows Intune」についてはライセンスや価格も変更しているので、それを正しくお伝えし、パートナー様と一緒に展開していける体制を整えていきたいと思います。

市川(日立製作所) 当社の資産管理製品は、セキュリティやライセンス管理などいろいろな機能を提供していますので、ぜひそれらの機能を評価していただき、お客様の課題解決や提案に生かしていただけるよう、パートナー様を支援していきたいと思います。

山崎(クオリティソフト) 当社は直販を一切やっておらず、パートナービジネスで展開してきました。こういった背景から、当社のソリューションは、すべてパートナー様の強みを出せるように工夫されています。これからも、パートナー様のメリットが生かせるよう、さまざまな面で支援していきます。

──長時間にわたって貴重なご意見をきかせていただき、ありがとうございました。

【関連ページはこちら】