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<社会インフラ向けソリューション特集>IT活用のニーズが急拡大 社会構造の変化に柔軟に対応

2014/04/10 15:49

週刊BCN 2014年04月07日vol.1525掲載

 大手SIerなどのITベンダーが社会インフラ領域に経営資源を投入している。国内では、少子高齢化や都市の成熟など、社会の構造が大きく変わる時期であり、社会インフラを変革するITソリューションに大きなニーズが見込める。さらに、海外では新興国を中心に社会インフラの整備が急ピッチで進み、国内で培ったノウハウや商材、サービスは海外成長市場への展開も期待できるからだ。

三大分野は「交通」「防災」「エネルギー」

 社会インフラ領域は、スマートコミュニティから太陽光発電まで幅広いが、具体的なIT投資が見込めるのは「交通」「防災」「エネルギー」の三大分野との見方が強い。

 「交通」の領域では、地方都市を中心にライト・レール・トランジット(LRT)が注目を集め、首都圏では2020年の東京五輪開催に向けて、ライト・レールのバス版であるバス・ラピッド・トランジット(BRT)の整備も活発に議論されている。「防災」の領域では、主に橋梁や道路、トンネルなどの設備管理、カメラの映像分析による防犯などが挙げられ、「エネルギー」の領域では、固定価格買い取り制度(FIT)に支えられる、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの拡大が続いている。

 ITベンダーは、鉄道や橋梁、発電所などをつくれるわけではない。ただ、設備を管理したり、設備の状況をリアルタイムに監視したりするのは、ITの強みを存分に生かせる分野だ。実際、ITを活用した設備管理や、データセンター(DC)の監視などはITベンダーが得意としている領域で、こうしたノウハウを社会インフラに応用していくことが、近年の大きな潮流になりつつある。メインフレーム時代から綿々と培ってきた運用監視、保守サービスのノウハウがここでも生きるというわけだ。

 さらにいえば、業務アプリケーションの開発などのシステム構築(SI)は主にシステムエンジニア(SE)の仕事だが、設備管理の保守サービスや遠隔監視サービスは、カスタマエンジニア(CE)が担うことが多い。社会インフラビジネスは先述のように設備管理の要素が多分に含まれ、場合によっては業務そのものをアウトソーシングするBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の需要も想定される。つまりSEだけでなく、CEの活躍の機会も増えることが期待できる。

社会インフラ維持管理システムを拡充

 SIerは、基本的にSEとCEの両方の人員を揃えているが、最近はハードウェアの大幅な単価下落によってCEの活躍の場が狭まる傾向が続いている。保守料金はハードウェアの単価に連動する性質がある。メインフレーム時代とは異なり、安く大量のハードウェアが手に入る時代にあって、かつてのようなCEの収益モデルは描きにくい。だが、「交通」「防災」「エネルギー」といった社会インフラは、設備管理や遠隔監視、保守サービスのニーズが伴うものなので、メインフレームのようなIT機器に代わって、鉄道設備や橋梁、太陽光パネルなどの運用状況にCEが対応するケースも十分に考えられる。

 現に、大手SIerの日立システムズは自社で開発している「CYDEEN(サイディーン)社会インフラ維持管理システム」の機能拡充を意欲的に進めており、設備管理から設備の健全度評価、劣化予測、保守管理サービス、設備の長寿命化計画策定などの機能を随時追加。さらに、これらのシステムをクラウド方式によるサービスとして提供し、日立システムズが強みとするDC運営ノウハウや、日立グループの日立情報制御ソリューションズが手がける設備・資産管理システム「SmartFAM(スマートファム)」などと組み合わせて国や自治体、社会インフラビジネスを行っている企業に展開している。

 同社は業界でも有数のCEを抱えるSIerとしても有名だが、「CYDEEN」をはじめとする社会インフラ維持管理システムをベースに、多くのCEが実際に現場に足を運んで、社会インフラの維持管理に取り組んでいる。DCや客先の電算室だけがCEの職場ではすでになくなっているのだ。例えば太陽光発電所のソーラーパネルの保守サービスや、橋梁やトンネルなどの設備の点検代行、さらに点検で得られたデータの入力代行といったフィールドサポートとBPOを組み合わせたビジネスを推し進める。

 社会インフラ領域は、スマートコミュニティやビッグデータなどの新しい概念を導入するという華やかなイメージがあるが、一方で国内の老朽化が進む社会インフラを維持管理するといった、欠かすことのできない領域でITを活用するニーズも高まっている。さらに新興国では急ピッチで進む社会インフラ整備に、当初から最先端のITを積極的に導入したいとする要望が強く、海外展開への道も開けやすい。こうした領域に率先して取り組んでいるITベンダーの動きに注目が集まっている。

「CYDEEN社会インフラ維持管理システム」のイメージ


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