東芝デジタルソリューションズは、サイバーフィジカルシステム(CPS)をテコに“稼ぐ力”を強めている。社会インフラや物流、工場など、東芝グループの幅広い事業領域からデータを取得し、そのデータを価値に変えていくCPS事業は、東芝グループの強みを生かしやすく「付加価値の高いデジタルソリューション事業の拡大が期待できる」(錦織弘信社長)という。既存のビジネスに加え、付加価値の高いCPS事業を加速していくことで一段と収益力を高めていく。

サイバーとフィジカルの融合

 CPSとは、実世界(フィジカル)から収集したデータをサイバー空間で蓄積、分析。その結果として見えてきたものを、再びフィジカルに戻して改善、最適化する手法である。東芝グループは、エネルギーや社会インフラ、物流・流通、ビル・施設、ものづくりといったフィジカルに強い。ここから得たデータをAI(人工知能)やIoTなどのデジタル技術によって新たな価値を創出することでビジネスを拡大していくCPS戦略が、今後の東芝における成長の柱になると期待されている。
 

 東芝グループでは現在、「エネルギー」「社会インフラ」「製造」「物流」の4領域に向けたインダストリアルIoT(IIoT)サービスの開発を進めており、12のサービスを「TOSHIBA SPINEX (スパインエックス)」として提供する計画である。エネルギー分野では「運転データを用いた故障予知サービス」「最適発電計画サービス」、社会インフラ分野では「鉄道車両の遠隔監視サービス」「熱源空調遠隔管理・保守サービス」、製造分野では「製造業向けIoTサービス」「車載制御モデル 分散・連成シミュレーションプラットフォーム」「AI画像検査サービス」、そして物流分野では「物流IoTソリューション」などを順次展開していく。

デジタルツインの手法を駆使

 直近の事例を挙げると、英国の鉄道会社グレーター・アングリアとCPS技術を活用した鉄道運行計画作成のプロジェクトを始めると2019年9月に発表。ほかにも、スペインの大手自動車プレス部品メーカーと同じくCPS技術を応用してシャシー部品の溶接検査に関する実証実験などに取り組んでいる。データが蓄積してくれば、サイバー空間でのシミュレーションや分析の精度が高まり、「フィジカル空間での業務負荷の軽減、業務品質の向上に役立つ」と錦織社長は話す。
 
錦織弘信 社長

 現場からデータを収集し、データを双子(ツイン)のようにデジタル空間上に写像し、それを分析・シミュレーションして現場に戻すCPSの手法は、「デジタルツイン」と呼ばれている。東芝デジタルソリューションズは、このCPSの一手法であるデジタルツインを実現する製造業向けのIoTサービス「Meister Cloudシリーズ」の提供を2019年12月に開始した。

 東芝グループの強みは、さまざまな事業ドメインにおける140年以上にわたる経験とICTのノウハウを兼ね備えた総合力である。「フィジカルとサイバー、両方の知見を持つ企業は少ないため、そこにポテンシャルがある。」と錦織社長は話す。さらに、50年以上のAI研究の知見もあり、特にAIは画像だけでなく、音声も扱っている。同社ではモノにかかわるAI「SATLYS(サトリス)」と、人に関わるAI「RECAIUS(リカイアス)」も独自に開発している。

リアルビジネスの価値を最大化

 製造業向けのIoTソリューションであるMeisterシリーズは、自動車、産業機械、電子部品の大手製造業などの国内10社余りの案件が進行中だ。RECAIUSは、幅広い業種からの案件を獲得している。SATLYSも、デジタルツインを実現するのに不可欠な分析エンジンとして引き合いが増加中だ。

 東芝グループでは、23年度までの中期経営計画「東芝Nextプラン」を実行中で、東芝デジタルソリューションズでは既存SI事業に加え、CPSが生み出す価値をベースとしたデジタルソリューション事業に注力していく。

 これまでサイバー空間が中心だったデジタルビジネスが、CPSによって産業分野へ急速に広がる様相を見せている。錦織社長は、「産業分野でまだ活用されていないデータが膨大に存在しており、ビジネスの伸びしろは大きい」と、CPSテクノロジー企業としての成長を加速させていく。