カメラ映像を活用した各種のAI解析システムが登場して実証実験が行われているが、実際に商用展開していくには課題も多い。EDGEMATRIXでは、現場(エッジ)でカメラ映像などをAI処理する「映像エッジAI」を簡単に導入・管理できるプラットフォーム「EDGEMATRIXサービス」を開発した。さらに用途別のAIアプリを購入できるストアも用意し、専用装置の提供から現場実装まで、一連の商用展開をワンストップで提供する。

「映像エッジAI」の商用展開に向けて考慮すべき三つのポイント

 AIによる映像認識技術が身近になり、街・人・モノの見守りにカメラ映像を活用する流れが加速している。だが、4K/8Kなどの高精細なカメラ映像をネットワーク経由でクラウドやデータセンターに伝送すると、大きな負荷がかかりコスト高にもなる。また、伝送遅延で映像をリアルタイムに識別・活用することが困難になる。こうした課題を解消するのが、映像データが生成される現場(エッジ)でAI処理する「映像エッジAI」で、次のようなメリットがある。

・伝送遅延がなく現場でリアルタイムに制御できる
・画像圧縮せず高画質のまま映像解析ができるためAI識別精度が上がる
・処理結果のデータだけを送信することでネットワーク全体の利用効率が高まる
・クラウドやデータセンター側での映像処理のシステム負荷が軽減できる
 
映像エッジAIのイメージ

 だが、EDGEMATRIXの本橋信也・代表取締役副社長は「AIアルゴリズムを開発し、実証実験を終えて『映像エッジAI』を現場実装するには、映像エッジAIの専用装置の仕様、映像エッジAIプラットフォーム機能、映像エッジAIの現場最適化という三つのポイントをしっかり押さえておかなければならない」と指摘する。

 まず、映像のAI処理の多くにはGPUが使用され、GPUベースのAI開発ツールが充実しているため、専用装置もGPU対応が必須だ。また設置環境を考えれば、きょう体はできるだけ小型で故障率の低いファンレス仕様が望ましい。屋外に設置するなら防塵防水、落雷対策も求められる。加えて、遠隔管理のための通信機能の装備も欠かせない。
 
Edge AI Box

 次に、故障や障害検知、保守に不可欠なのが映像エッジAI用プラットフォームだ。本橋副社長は「遠隔で多数の装置を監視、管理、制御できることが求められる。AIの認識精度を高めるためにカメラの画角などを調整するほか、装置の盗難や破壊に備えて保管データやAIアルゴリズムを安全に保護する機能を備えていなければならない。また、現場のAIが検知した危険や異常の映像をインターネットブラウザですぐにモニターできることも求められる。プラットフォームにより、AIが分析した現場データをお客様が効果的に活用できるようになる」と強調する。
 
EDGEMATRIXサービス

 最後のポイントが映像エッジAIの現場最適化だ。「開発段階や実証実験で使う映像では高い識別性能が得られても、商用化に向けて現場に導入しようとすると思うようにいかないケースがほとんど。なぜならば、現場では画角、光、天気、時間などのさまざまな変化が起こるためだ」(本橋副社長)という。

用途別のAIアプリを購入できるストアが充実

 「映像エッジAI」の商用化における上記の課題をクリアすべく、EDGEMATRIXでは専用装置「Edge AI Box」の提供から、プラットフォーム「EDGEMATRIXサービス」、現場実装を担う「映像エッジAIソリューション」の3事業を展開する。同社は、米シリコンバレーが本社のCloudianのプロジェクトとしてスタート。2019年にスピンオフし、NTTドコモ、清水建設、日本郵政キャピタルなどから資金調達し事業を開始した。そして、このたび新たにSONY INNOVATION FUNDとDGベンチャーズが出資者に加わった。

 「当社自身が映像エッジAIの開発、実装で多くの経験をしてきただけに、課題や躓くポイントを熟知している。だからこそ、装置、プラットフォーム、現場実装までのワンストップ提供にこだわった」と本橋副社長は力を込める。

 まず、Edge AI Boxでは高性能GPUと通信モジュールを内蔵。防塵・防水・落雷対策済機種から低価格機種までのラインアップをそろえる。次いでEDGEMATRIXサービスは、装置の死活監視やAIアプリのインストール・変更、設置場所の地図表示、現場映像監視などの機能を提供。同プラットフォーム上で利用するAIアプリが購入できる「EDGEMATRIXストア」を用意する。そしてソリューションでは、現場に最適なカメラなど周辺機器の選択と調達、現場への設置工事、画角等調整を含め、映像エッジAIの識別精度を最適化するためのコンサルティングとソリューションを提供する。各工程を個別の専門業者に手配するとなれば負担は大きく連携も大変だけに、一本化するメリットはとても大きい。
 
映像エッジAIソリューション

 「ストアに登録されたアプリはすでに20種を超えた。今後も順次追加すべく、AI開発ベンダー40~50社と登録に向けて話を進めている。われわれがしっかりと検証した上で登録しているので、時間をかけているが、それだけ高品質のアプリがそろう」と本橋副社長は力を込める。

 現在提供中のアプリには、ナンバープレート検知、禁止エリアへの侵入検知、人数カウンター、赤ちゃんうつぶせ寝検知、徘徊者検知、密接・密集検知、発熱検知などがあり、毎月増えている。監視カメラを使用して施設やプラント、工事現場、倉庫などの管理・監視を行うケースは多いが、これまでは、その裏でカメラ画像を人の目で判断していた。そこに映像エッジAIを導入することで、膨大な数の画像でも見落しなく不正侵入の検知、防止が可能になる。人を常時、配置できない現場の安全管理や、人手不足が問題化する介護・医療分野にとっても、大きな助けになるはずだ。

【YouTube】EDGEMATRIXストア専用AIアプリ例

 一方、AI開発パートナー向けには、短時間で効率的な開発を行うための技術文書や画像処理用のソフトウェア開発キット「EDGEMATRIX Stream Toolkit」を提供する。

 「当社はいわゆるAIの開発企業ではない。AIのプラットフォームを核に、ユーザーのAI活用やAI開発パートナー企業の橋渡しを通じて、ビジネス機会を提供していく。海外展開も進めており、製造工場の多いアジア地域を足掛かりに、欧米などへの拡大も計画している」と本橋副社長は抱負を語る。