構造改革を進めるNEC。パソコン製造分野で改革の中枢を担うのがNECカスタムテクニカだ。海外への製造委託を進め、国内では設計開発に専念する。製造経費を削減する一方、設計開発力を高め、宿敵のソニーやデルに対抗する。電話による故障診断や修理サービスを拡充し、製造開発の受託(OEM)も増やす。片山徹社長は、昨年10月の会社設立から1年間で「目に見える形で改革効果を出す」と公約する。
PC生産の7割を中国へ、国内ではBTOに対応
――パソコン分野においてNECの優位性が失われつつあります。
片山 パソコン販売は「大企業」、「中堅・中小企業」、「個人」と、主に3つの対象があります。大企業は、NEC本体の直販部門が、巨大な情報システムを納品したついでに、パソコンの契約も取り付けてきます。パソコンの単価は安く設定しますが、大した営業経費もかけずにまとまった数が売れるという点で効率がいい販売手法です。当社は経費削減の一環として、2002年度(03年3月期)内に、パソコン生産の7割を中国に移管します。
中国には、たくさんの台湾パソコンメーカーが進出しており、主にこうした台湾メーカーに生産を発注します。在庫リスクも軽減します。しかし、大企業や中堅・中小企業向けのパソコン販売では、受注組み立て(BTO)する必要があります。この部分は、国内の工場に残します。中国で生産すると、どうしても納期が長くなるからです。デルやコンパックのように、受注してすぐに組み立てて納品するメーカーに対抗するには、ある程度、国内に組み立て工場を残す必要があるのです。
――国内の工場はどうしますか。
片山 当社の管轄は、米沢事業場(山形県)、群馬事業場(群馬県)、府中事業場(東京都)、大森本社(同)の4つあります。このうち、今年10月までに群馬事業場の社員700人を500人に減らし、パソコンの生産を取り止めます。これまで群馬事業場は、デスクトップを生産していましたが、これを中国と米沢事業場に振り分けます。米沢事業場では、ノートとデスクトップの両方を生産します。群馬事業場でのパソコン生産は取り止めますが、残った500人で電話による故障診断サービスとパソコンの修理をします。
これまで顧客から、「故障じゃないか」と問い合わせを受けても、電話対応する者が故障かどうか分かりませんでした。「とりあえず、パソコンを宅配便で送って下さい」とお願いし、修理センターに来てみたら、故障じゃなかったこともありました。電話できちんと技術サポートができるようになれば、「故障ではない不具合」をその場で直せるようになります。また、これまで修理のために一旦預かったパソコンは、顧客に返却するまで12-13日くらい日数がかかりました。群馬事業場を修理専門にすることで、半分の6日で修理・返却できるようにします。
群馬事業場は、今年7月から人員削減と新しい体制づくりを進め、10月には24時間365日で電話による修理診断サービスができるようにします。「故障診断電話サービス」、「修理拠点」に続く3つ目の機能として、「リサイクル拠点」にします。まだ使えそうな中古パソコンを群馬事業場に集め、ここで手直ししたあと、中古パソコンとして販売します。最後に、開発設計の拠点である府中事業場ですが、パソコンを開発している精鋭技術者150人を今年10月、東京の大森本社に異動させます。とくに個人向けのパソコンは流行の波がありますので、府中に引っ込んでいてはダメです。より市場動向をつかみやすいところに勤務する必要があります。
――関連会社のNECカスタマックス(片岡洋一社長)との連携強化ですね。
片山 そうです。パソコン営業販売を担当するNECカスタマックスは、常に顧客と接しているので、市場の動向をつかみやすい。10月から大森に来る技術者150人は、電車で30分ほどの距離にある田町(東京都)のNECカスタマックス営業部門に足を運び、彼らの意見を積極的に製品開発に活かします。
バランスがいい収益構造、今年秋には新製品で勝負
――個人向けのパソコンは、ソニーが一人勝ちです。
片山 当社の売上比率を見れば、6割が個人向けです。企業向けのパソコンは単価が下がっているため、金額で見ると個人の比率が高くなってしまいます。個人向けで成功するには、N:斬新な商品(ニューカテゴリー)、E:娯楽性(エンタテインメント)、C:通信(コミュニケーション)の3つの要素が欠かせません。われわれは、これを「NEC」と言っているのですが、NとEではソニーが一人勝ちしています。Cは、当社の得意分野です。中国に生産を委託し、国内で手が空いた人員を集め、これから伸びる分野の研究開発に集約させます。これから伸びる分野とは、ホームサーバーやモバイルなどです。ブロードバンド回線を使い、音楽や映像が家庭のホームサーバーに降りてくる仕組みが将来必ず登場します。
この通信分野は、当社が得意とする分野でもあり、各種セキュリティも併せて研究開発に力を入れます。もう1つ、収益の柱を打ち立てます。受託生産(OEM)です。当社は、D:設計(デザイン)、M:製造(マニュファクチャリング)、S:サービスの3機能をもっています。ホームサーバーには通信セキュリティが欠かせないわけですが、ひょっとすれば将来、ソニーや松下電器産業のホームサーバーを当社が製造しているかもしれません。すでにさまざまな顧客から「設計や製造を委託できないか」という問い合わせが来ています。3年後には売り上げ、利益ともに、全体の20%をOEMで稼ぎ出す計画です。残り8割は、パソコンの製造販売です。法人向けが40%、個人向けが40%を想定しています。どこかの分野に偏るのではなく、バランスがいい収益構造にします。
――デルへの対抗策は。
片山 中堅・中小企業向けのパソコンは、営業部門をもつNECカスタマックス任せではダメです。当社も、ビッグローブや121ウェアなどウェブを通じて、デル型の企業向け受注生産販売に力を入れます。デルのように認知度を高めるには、時間と体力が必要ですが、ウェブをうまく使って販売力を高めます。一方で、中小企業向けの販売に強い専門商社と組むことも視野に入れています。昨年10月の当社設立以来、構造改革を進めています。この効果は製品やサービスとして、外に見える形で出します。製品は今年の秋冬モデルから、ぼちぼちと従来にはない製品を出します。併せて、製造経費の削減や24時間故障電話相談などのサービスを拡充することで、ソニーやデルに一方的にやられるのではなく、近いうち反撃できると確信しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「我々は王者ソニーに対する挑戦者である」かつて圧倒的なシェアを誇ったNECの経歴に驕ることなく、謙虚に1から出直す。「今、売れているのは一体型パソコンのバイオW。しかしNECは、1999年の段階でバイオWに決して劣らないシンプレムを出した。だが、バイオWが16万円なのに対し、シンプレムは30万円。製造部門の力が強く、新しい市場を創り出すという戦略的な発想が足りなかった」と振り返る。新カテゴリー製品は思い切った価格を打ち出し、既存の売れ筋は付加価値をつけて収益性を高める――。ソニーの常套手段は、マーケティングの発想だ。工場のコスト積算型の発想ではない。「すでに手は打った。挑戦者として市場創造の一端を担う」(寶)
プロフィール
片山 徹
(かたやま とおる)1945年3月、東京生まれ。67年、早稲田大学理工学部卒業。同年、NEC入社。87年、交換事業部事業計画室長。90年、交換事業部事業部長代理。93年、天津日電電子通信工業有限公司社長。97年、交換移動通信事業本部中国事業統括。98年、米沢日本電気社長。01年7月、NECカスタムテクニカ社長。
会社紹介
今年度(2002年3月期)、NECはパソコン事業で200億円を超す赤字を計上する。パソコンの販売低迷と構造改革費(リストラ費)を合わせた損失額だ。片山社長は、「3年後には200億円を埋めて余りある利益を出す」と意気込む。まずは顧客満足度を高めるため、昨年12月からパソコン購入相談を中心としたコールセンターを24時間運営に切り替えた。今年10月には、不具合や故障診断を受け付ける電話窓口を群馬事業場に開設し、同事業場でのパソコン製造を止める。群馬での生産分は中国の提携工場と、国内の米沢事業場に振り替える。コールセンターは「121ウェア」の総称で提供。現在の人員は、外注分も含めて550人。拠点は大森本社、大阪、沖縄の3か所。今年10月からは、これまで分かれていた購入相談と修理受付の電話番号を統一する。修理受付は、群馬事業場内に開設する修理拠点へと自動的に振り分ける。