VAリナックスシステムズジャパンの上田哲也社長は、自信をもって言う。「当社は国内ナンバーワンの技術スタッフ陣を擁する」社名にLinuxを冠するとはいえ、必ずしもLinuxだけにはこだわらない。重要なのはオープンソース・ソフト開発で培った高度な技術力だ。「この技術力をうまく市場に訴求することができなかった」と上田社長は振り返る。今年1月、資本構成の変更と機構改革を実施。新たな挑戦が始まった。
信頼を勝ち得たLinux 優れた技術スタッフを擁す
――米国と日本で、Linux市場の違いはあるのでしょうか。米VA リナックスシステムズがLinuxビジネスから撤退するなど、米国の市場は厳しいという印象があるのですが。
上田 個人的な認識ですが、日米で大きな違いはないと思います。北米市場では、IBMやHP、コンパック、サン・マイクロシステムズといった大手メーカーがLinuxを搭載したハードを積極的に販売していますし、研究・開発も熱心に行っています。日本でも、日本IBMやNEC、富士通、日立製作所がかなり前向きな姿勢を見せています。
確かにOSの分野に限って言えば、マイクロソフトのウィンドウズが圧倒的なシェアを誇っていますし、実際のシステム構築を行うシステムインテグレーターの取り組みはまだまだです。しかし、日本では日本オラクルがミラクルリナックスを立ち上げるなど、状況は変わりつつあります。
(VAリナックスシステムズジャパンを立ち上げた)00年の時点では、ユーザーのLinuxに対する認識は低かった。それは日米とも共通です。Linuxとは一体なんだ、と。しかし、今ではシステム構築時の選択肢の1つとして考えられるようになってきました。
従来は受注できるのが100件のうち1件だったのが、5件のうち1件にまで高まった感があります。
重要なのは、どのOSを使うかではなく、顧客の要望に合うシステム構築を行うことでしょう。Linuxが信頼性を勝ち得てきたことで、最初の選択肢から外されることもなくなってきたわけです。
――国内ナンバーワンの技術スタッフ陣を揃えているということですが。
上田 Debian/GNU Linuxというオープンソースの理念に基づき開発が進められているプロジェクトがあります。日本からも約30人(全世界で約800人)が開発に参加しているのですが、このうち4人が当社の技術スタッフとして開発業務に携わっています。
当社の技術スタッフはLinuxのカーネル実装をはじめ、各種通信プロトコルなどプリミティブレベルからのシステム構築技術をもっており、Linuxカーネルのコアレベルから各種サービス群の分析・チューニング・強化を行うことが可能なんです。
現在22人の技術スタッフがいますが、全てがこれまでLinuxをベースにした開発を行ってきたという訳ではありません。それぞれがUNIXを基礎とする技術力をもっており、これまでの職場で、きちんとビジネスを行ってきた下地があり、それが今につながっているのです。
技術力をビジネスに パートナーを倍増へ
――Linux技術者の育成に関して、国内ではまだまだ少ないとの声を聞きます。LPIジャパンが資格認定制度を設け、国内のLinux技術者育成を促すなど、技術者育成の動きが活発になってきています。
上田 LPIジャパンの試みは裾野を広げるという意味では、当社にとっても喜ばしいことです。ただ、当社が同様に資格制度を設けて同じ様なことをするかと言えば違います。
当社ではOSDN(オープンソース・デベロップメント・ネットワーク、http://www.osdn.co.jp/)を通じてオープンソース・ソフトウェアの開発を促し、日本のソフトウェア技術者のレベルを向上させることを狙っています。必ずしもLinuxだけにこだわっているわけではないんです。
元々日本の技術者は優秀なんですが、海外のオープンソース・ソフト開発のプロジェクトに参加するには言葉の壁がありました。
当社ではこのような障壁をなくすためにも、OSDNの日本語版の運営を行っているのです。
――御社の技術者はどのように自らのスキルを高めているのですか。
上田 開発系のメーリングリストに参加したり、オープンソース系のサイトを通じてユーザーと接したり、基本は仕事をしながら自分たちのスキルを向上させる努力をしています。仕事を通じた経験が技術力を高める最も重要な要素だと思います。あとは自分自身の努力ですね。
――直接ぶつかる競合企業はどこになるのでしょうか。
上田 Linuxという側面でぶつかる企業はないですよ。例えばUNIXやウィンドウズなど、どのOSをベースに開発するかという問題ではなく、案件そのものでぶつかるケースが多いのです。
当社はハードがNEC製ですが、業種・業態によってさまざまなハードメーカー、システムインテグレーターと競合関係にあると言っていいと思います。ただ、なかにはハードだけ欲しいという顧客もあります。ハードだけの問題だったらデルコンピュータが最大のライバルになるんじゃないでしょうか。
――御社のビジネスは、システム事業とプロフェッショナルサービス事業、OSDN事業の3つがあります。このうち、パートナー企業を通じLinuxシステムを販売するプロフェッショナル事業が主力です。パートナーは今後も増やしていく計画ですか。
上田 現在のパートナー企業は、NTTコムウェア、東芝ITソリューション、NEC、住商情報システム、沖電気工業などです。それぞれのパートナーによって強みが違います。
今後も、技術オリエンテッドな企業で、あるマーケットに強みを発揮する企業、そして開発にオープンソースを適用している企業に焦点を絞って拡大していく計画です。02年度中にはパートナー数を倍にする予定です。
――最後に、現時点での問題点と解決策を聞かせて下さい。
上田 高い技術力をもっていることが最大の利点ですが、その技術力をうまく市場に訴求しきれていないことが問題だったのではないかと考えています。
OSからアプリケーション、そしてソリューションへと、技術力をビジネスに変換していく仕組みがうまく作用していなかったのかもしれません。
この技術力を活かして何ができるのか。そんな訴求活動、営業活動、マーケティング活動を強化していくことが重要です。それをバネに、少なくとも03年までは売上倍増での成長を計画しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
VAリナックスシステムズジャパンの設立は、時期的にすごく良いタイミングだったと上田社長は言う。
「早すぎても遅すぎても事業を続けるのは難しかったのではないか」
同社が設立された00年当初は、Linuxといえばまだ海のものとも山のものともわからないというのが業界の通念だったような気がする。その時点でビジネスをスタートしたタイミングは、現在の状況を見るとまさに絶妙だった。
新会社を設立するのは、大きな賭けの気分だったのではないか。市場そのものが未知の領域だった。ビジネスとしてやる以上、利益を出さねばならない。
Linux市場が拡大しつつあるなか、今度は市場の中で一定の地歩を固める段階に入った。これからが勝負である。(薊)
プロフィール
(うえだ てつや)1986年3月、大阪大学工学部通信工学科卒業。同年4月、住友商事に入社。入社後「その大半を住商の外で過ごした」。92年5月に住商データコムへ出向、97年4月にアイアイジェイテクノロジーへ出向。98年10月、住友商事情報電子部課長としてシリコンバレーベンチャーへの出資業務に従事。住友商事はLinux関連ビジネスへ参入し、VAリナックスシステムズジャパンを設立。上田氏が代表取締役社長に就任。
会社紹介
2000年9月13日、米VAリナックスシステムズの日本法人として設立。同年11月に第三者割当増資により、NTTコムウェア、東芝ITソリューション、NEC、住商情報システムが株主として参加する。国内でのビジネス展開は順調な滑り出しを見せたが、01年6月に米VAリナックスがハードウェア部門から撤退。国内でのハードウェア調達はNECからのOEM供給となる。
その後、米VAリナックスは北米市場でのLinuxビジネスの継続は困難と判断。Linuxビジネスから撤退し、社名もVAソフトウェアに変更した。そんななか、VAリナックスシステムズジャパンは資本構成の変更と機構改革に迫られる。住友商事が筆頭株主となり、再出発したのが02年1月。上田社長は同社設立当初から、「もちろん楽観的に考えてはいなかったが、Linuxが今後伸びることは確信していた」とし、高度な技術力に裏打ちされたシステム構築のノウハウを武器に新たな舵取りを開始する。