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国内に安住しない 世界市場で闘う

メルコ 社長 牧 誠

取材・文/安藤章司 撮影/ミワタダシ

2003/02/24 18:03

牧 誠

週刊BCN 2003年02月24日vol.979掲載

 国内でいくらシェアを獲っても、世界で通用しなければ、本当の優位にあるとは言えない。メルコの牧誠社長は、海外市場の開拓に並々ならぬ意欲を示す。国内パソコン市場が成熟期を迎えた今、ブロードバンドを基盤としたホームエンターテインメントに軸足を移し、海外市場に打って出る。メルコの世界戦略を、牧社長はどのように描いているのだろうか。

30億円近くの海外投資
世界での競争力を身につけたい

 ──海外事業は、予想以上に難しいと聞きます。

 牧
 1998年頃から米国や欧州への進出に力を入れてきました。しかし、今年度(03年3月期)に至っても、海外で収益を上げるまでにはなっていません。これまで、損失も含め海外事業で30億円近く投資してきましたが、残念ながら黒字化は来年度以降に持ち越す見通しです。海外での売上比率はメルコグループ全体の約1割程度で、来年度もほぼ同じ比率を見込んでいます。ただし、海外で赤字を出し続けるという構図は今年度で終わります。 
 


 ──牧社長は、1年の大半を海外で過ごしているとのことですが。

 牧
 昨年は、1年の半分くらいを海外で過ごしました。欧米の子会社の立て直しで陣頭指揮に立っていたからです。収益が上がらないのは、やはり蕫人﨟が原因だと考え、98年当時、100人ほどいた米国子会社の人員を今は20人に減らしました。欧州もイギリスとアイルランドの拠点を合わせて、最盛期の半分近い50人弱に減らしました。

 これは、事業規模に比べて人員が増え過ぎてしまったからです。今回の削減で、来年度からはようやく海外拠点が独り立ちできる見込みです。そうなれば、私も年の半分も海外に行かなくて済むかもしれません。(笑)

 ──「BCN AWARD 2003」では、11部門でトップシェアを獲り、ソニーと並んでパソコン業界での蕫独り勝ち﨟と称されています。

 牧
 私は蕫お山の大将﨟にはなりたくありません。確かに国内だけ見れば強さを発揮していますが、それだけでは、どうしても国内であぐらをかいてしまいがちです。日本の市場規模は所詮、世界市場の10分の1でしかありません。パソコンの販売台数では、お隣の中国に抜かれてしまいました。こうしている間にも、海外ベンダーは世界市場で揉まれて、技を磨いているわけです。

 国内で頑張っている当社の連中には少々酷ですが、私はあえて「世界水準から見れば、おまえらみんな三流だ」と、常にハッパをかけていいます。

 製品力だけでなく、コスト競争力や効率的な生産方式など、世界で闘っている企業には目を見張るものがあります。これは、海外でビジネスをして、初めて体感できることです。国内でぬくぬくとしていては、とても経験できません。国内でいくらメルコが強くても、世界で実力を発揮している企業からみれば、吹けば飛ぶようなちっぽけな存在です。こうしたことを、きちんと認識することが大切なのです。

 日本の10倍もある世界市場で鍛え抜かれ、力を蓄えてきた企業が、いざ日本に進出してきたらどうなりますか。想像したくありませんが、メルコでさえも元も子もなくなるほど負けてしまうでしょう。パソコンは世界で共通化した商品であり、参入障壁が低い。このことを考えると、やはり世界での競争力を身につけなければ、生き残れません。

 とはいえ、当社の海外事業は、世界市場制覇のロードマップを描くどころか、ようやく、これ以上赤字が出ない体制を組めるようになったという初歩的な段階です。海外に投資した30億円近い資金の回収はもう少し先のことになりそうですが、世界市場での厳しい競争に鍛えられたという面では、十分勉強になりました。
 

これからはブロードバンド
軸はホームエンターテインメント

 ──パソコン市場は依然として厳しい状態が続いています。

 牧
 1000万台という国内のパソコン販売台数が、劇的に拡大するとは考えていません。ひと昔前までは、個人向けのカラーテレビが最盛期に年間2500万台売れたという記録と比較して、個人向けにも法人向けにも売れるパソコンは、最低でも年間2000万台は売れると予測していました。しかし、実際に蓋を開けてみると、パソコンが今の形態である限り、国内では年間1000万台規模で頭打ちになると考えた方が現実的だと思うようになりました。今後、すべてのパソコンが5万円という価格になるなら話は別ですが、そうはならないでしょう。

 これからは、パソコン本体の販売台数を追い続けるのではなく、見方を変えて、ブロードバンド市場を切り開くべきだと考えています。

 われわれは「パソコン業界」と称していますが、これまでのように右肩上がりで伸びるとは考えにくい。そろそろ頭を切り換えて、「ブロードバンド業界」とでも言うべきか、とにかくパソコンからは離れて、ブロードバンドの市場を切り開くべきです。

 これからは、無線LANにせよ、DVDなどのストレージ製品にせよ、今後立ち上がるホームエンターテインメントに向かって伸ばしていくべきです。数年前までは後れを取ってきた日本のブロードバンドですが、ここにきて、ヤフー!BBなどの活躍で一気に世界水準まで漕ぎ着けました。

 家庭内にある複数台のパソコンを無線ネットワークで結び、テレビやオーディオ機器とのデータ連携も実現する。日本の市場は、こうしたホームネットワーク、ホームエンターテインメントを好む性質があります。その結果、世界的にも進んだ製品やサービスが成長しやすい土壌があるからです。

 ──メルコもホームエンターテインメントの分野に進む考えですか。

 牧
 パソコン本体の国内出荷台数がこのまま下降を続け、例えば500万台にまで下がると悲観的に考えてるわけではありません。しかし、少なくとも、今の形態で1000万台を大きく超えることは難しくなってきました。一方で、ブロードバンド経由によるコンテンツが家庭に溢れるのは、ほぼ確実です。こうした方向に事業を伸ばしていくのが自然な流れなのです。

 これまで海外では、メモリの販売が大半を占めてきました。販売形態も、国内のようにパッケージで販売するというより、中堅、中小のパソコンメーカー向けにメモリを納品する比率が高かった。今は、これらのビジネスを黒字化するという第1段階に過ぎませんが、次の第2段階では、ブロードバンドに絡めたホームエンターテインメントを軸とした製品を、海外市場向けに販売します。

 ソニーや松下電器産業など、世界的な家電メーカーも、ブロードバンドを基盤としたホームエンターテインメント分野に進んでいます。しかし、彼ら家電メーカーが無線LANやストレージなど、すべてのIT系商材を水も漏らさずに造り出すとは考えにくい。われわれIT技術をもつベンダーが活躍できる領域は必ずあるはずです。

 今後、彼らと競合することなく、互いに補完する協業関係を築きながら、世界市場を攻めていきたい。これが、世界市場に向けた第2段階であると位置づけています。

 繰り返しになりますが、世界の強豪とコスト競争力や機能、品質などの面で、常に激しい荒波に揉まれながら成長します。世界市場で優位に立つ、つまり競争力をつけるということは、結果的に国内でも有利に働きます。蕫お山の大将﨟で甘んじていては、いずれ先細りになってしまいます。

眼光紙背 ~取材を終えて~

 取材のなかで、NECや富士通といったパソコンメーカーの名前は、最後まで出てこなかった。代わりに出てきたのはソニーや松下電器産業といったホームAV(音響・映像)に強いメーカーだ。
 「従来型パソコンの国内市場規模は、年間1000万台が限界。これに付随する周辺機器も成熟期に入る。しかし一方で、IT技術は、今後、ホームエンターテインメントの領域に進んでいく」と、牧社長は読む。
 少なくとも家庭向けのビジネスでは、周辺機器の在り方、および、つながる先が、パソコン本体だけではないことを端的に示したものだ。
 世界企業との切磋琢磨、世界市場での競争を通じて、日本発の次世代における家庭向け周辺機器の開発を急ぐ。(寶)

プロフィール

牧 誠

(まき まこと)1948年、愛知県生まれ。73年、早稲田大学大学院理工学研究科応用物理学修了。同年、ジムテック入社。75年、メルコ(個人経営)創業。78年8月、株式会社メルコを設立し、代表取締役社長に就任。中部エレクトロニクス振興会理事、社団法人日本システムハウス協会理事。

会社紹介

 2001年度の9月中間期(01年9月期)で、7億円の営業赤字を計上したメルコだが、今年度中間期(02年9月期)では一転して、営業損益、経常損益とも13億円の黒字を叩き出した。01年度通期(02年3月期)の売上高は、前年度比21%減の699億円と落ち込んだが、今年度(03年3月期)は、同13%増の791億円、経常利益は同236%増の28億円を見込む(いずれも連結ベース)。
 「BCN AWARD 2003」では、無線LANなどの各種ネットワーク機器や外付けハードディスクドライブ、メモリなど、昨年の「BCN AWARD 2002」に比べ、さらに3部門も多い主要11部門でトップシェアを獲り、メルコの強さを改めて示した。
 来年度は、グループ全体の約1割を占める海外事業の黒字化を図り、国内、海外ともにホームネットワークやホームエンターテインメントの構築に不可欠な周辺機器の売り込みに本腰を入れる。

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