9期連続増収、11期連続増益、9期連続最高益更新。リコーの業績である。IT系メーカーが苦難にあえいでいるなか、ひときわ異彩を放つ。なぜこんな離れ業が可能だったのか。「デジタル複写機で先手を取れたことが大きい」と、桜井正光社長は淡々と語る。1996年の社長就任以来、連続増収増益路線を実現させてきた手腕の秘密、近未来の構想とは――。
デジタル複写機が花開く、欧米での直販力強化も決め手に
──IT業界では考えられない好業績を上げ続けておられます。その秘密はどこにあるとお考えですか。
桜井 大きくは3つの要因があると考えています。1つは、複写機のデジタル化に早くから取り組んできましたが、私が社長に就任してから収穫期に入ったということがあります。初代のデジタル複写機は1984年頃に出しているんですが、性能的に問題があったこともあり、見向きもされませんでしたね。技術者の間にも、「何でそんな回りくどいことをするんだ」という声がずいぶんありました。アナログ複写機というのは、原理はシンプルで、小学生時代に習った太陽写真の発展系だといってもいいんですが、デジタル複写機となると、元原稿をブツブツの小さな点にして読み取り、記憶、再構成して出力する。
スピード、解像度などユーザーが満足してくれるレベルになるには、それなりに技術の成熟が必要なわけです。当社はそれを営々とやってきました。その蓄積が私の代に花開いたわけです。2つ目は、欧州と米国で直販網を強化したことが効きました。ヨーロッパでは印刷機などの名門企業であったゲステットナー社を買収、アメリカでもレニエ社を買収し、それぞれメガディーラーとして機能するようにしました。直販力がこれからの決め手になると考えて踏み切ったのですが、この決断は成功だったと思います。3つ目は、リコーの全員参加型の社風でしょうね。トップがこうしたいと言えば、全社員がそれについてきてくれる。リコーの伝統といってもいいんでしょうが、これも私には幸いしました。
──現在の事業構造はどのようになっているのですか。
桜井 私は事務機事業については4階建てと表現しているんですが、1階に当たるのが当社の伝統的な複写機、OA機器事業です。画像ソリューションと呼んでいますが、ネットワークにつながらず単能機として利用される商品群をここに括っています。いまでも売上高は一番大きいんですが、これから伸ばさなければいけないと考え、力を入れているのは2階から4階の商品です。
2階がネットワーク端末事業で、ネットワークI/Oシステムと呼んでいます。最低限ネットワークにつながる、あるいはネットワークの構成要素になる商品群をここに括っています。MFP(多機能プリンタ)、プリンタ、そしてDVDドライブのようなファイル装置がここに入ります。3階、4階はシステムそのもの、つまりソリューションを売る事業です。3階はプリンティングソリューション、4階がドキュメントソリューションと位置づけていますが、合わせて言うときはネットワークシステムソリューションと呼んでいます。その他半導体事業などもありますので、実際の構成は5階建てになりますが、とにかく2―4階を重点事業と考え、その強化に取り組んでいます。
TDVの観点から顧客に最適のシステムを、さらに業務改善、業務改革を支援
──第14次中期経営計画では、トータルドキュメントボリューム(TDV)の獲得を強調なさってますが、これにはどのような意図を込めているのですか。
桜井 私が社長に就任して、自前でつくった中期経営計画は98年に打ち出した第13次中経からといっていいんですが、この時、強く意識していたのは、単なる複写機やプリンタといった機器の製造・販売だけでなく、機器の提供を通じて顧客の業務改善や業務改革も支援できる会社になろうという点でした。リコーが手がけている事業は、ドキュメントの作成、複写、伝達、保存、検索という一連の製品です。この流れの全体を通じて生産性の向上を図れるようにする。これこそがわれわれの使命なんです。全体の生産性向上のためには、各機器がネットワークにつながる必要がある。ネットワークにつながるためには、デジタル化が大前提となり、そのために複写機のデジタル化に取り組んできたわけですが、実際にネットワークにつながるようになると、また、新たな問題も見えてきました。
確かにネットワークにつながるだけで、それなりの生産性向上は図れる。しかし、それだけにとどまるなら、生産性向上には限界がある。やり方によっては、もっともっと生産性は上げられるんです。そのやり方というのは、業務改善や業務改革、つまり業務のプロセスそのものを変えていくことです。われわれは、そこまで踏み込んでコンサルティングできなければならない。そのためにはわれわれ自身の体質改善が必要で、第13次中経でその目標を明確にしました。ここまでの能力をもたせるには、直販会社が必要だなと考え、欧州、米国では買収によってメガディーラーをつくったわけです。昨年打ち出したのが第14次中経ですが、技術革新はなお急です。現在、モノクロ機からカラー機への転換――私はBC(ブラック・カラー)変換と呼んでいますが――が急進展しています。また、高速機のニーズも高く、その拡販も大きなテーマです。
そして、何よりも重要なのは、コピーとプリンタを合わせたトータルプリンティングコストの最適化です。TDV、つまりトータルドキュメントボリュームの観点から、それぞれの顧客ごとに最適なシステムを提案していく能力だと考えています。顧客のワークフローを分析しながら、ここには高速機を入れた方がいいですね、ここは業務の流れをこう改善して、中速機を入れればTCO(システム総保有コスト)はこれだけ削減できますよ、などといった提案をしていく。ネットワークにつながった機器の入口から出口まで、生産性向上とTCO削減の観点から最適のソリューションを提案していく。それがTDV獲得の狙いです。
──TCO削減をうたいすぎると、御社にはマイナス影響が出ませんか。
桜井 ペーパーレスということがずいぶん言われてきましたが、現実はなかなかその方向には行ってません。放置すれば、コピーボリュームはどんどん増えるという悩みは、共通のものだと思います。確かにわれわれメーカーにとっては、その方が良いという側面はありますが、私としてはその路線は取りません。TCO削減について顧客と一緒に知恵を絞る。それこそがリコーが顧客から信頼を得て、将来、共に発展できる道だと考えているからです。
──ペーパーレスといえば、DVD事業に力を入れておられますね。
桜井 CD-R/RWから、今はDVD時代を迎えているわけですが、当社としてはファイル装置の位置づけで考えています。情報を貯め、速やかに引き出せる装置として、これからさらに発展することは約束されています。ただ、技術革新は急激で、開発の自転車操業を迫られています。それを何としても乗り切り、収穫期を迎えたいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「単体複写機のリコーから、ネットワーク複写機のリコーへ」桜井社長が就任以来推し進めてきたリコー改革のイメージだ。実は蕫桜井改革﨟のもう1つの大きなテーマに、本文では触れなかったが「環境」への挑戦がある。
リコーは今では、「環境」問題に対する世界のリーダー企業の1社として知られる。「地球再生は人類共通の課題。省エネ、省資源などこのテーマに挑戦すればするほど、品質は上がり、コストダウンも可能になる」と断言する。部品を減らす、工程を減らす、人を減らすという「少なくする」活動こそが環境問題の原点であり、結果的に利益増にもつながるというのは、実体験から生み出した卓見だ。(見)
プロフィール
桜井 正光
(さくらい まさみつ)1942年1月8日、東京都生まれ。66年3月、早稲田大学第一理工学部卒業。同年4月、リコー入社。92年6月、取締役に就任。資材本部長、RICOH EUROPE B.V社長などを経て、94年6月に常務取締役。研究開発担当、研究開発本部長などを経て、96年4月、代表取締役社長に就任。本流(複写機事業)に携わった期間は案外と短いが、「傍流を歩いたからこそ、本流にいては見えないことも見えるようになった」そうだ。
会社紹介
リコーの2002年度(03年3月期)の連結売上高は、前年度比3.9%増の1兆7383億円で、9期連続の増収となった。営業利益は同3.1%増の1336億円、当期純利益は同17.7%増の725億円で、これは11期連続の増益、9期連続の最高益更新となる。
部門別の売上高は、画像ソリューションが前年度比8.0%減の8597億円、ネットワークI/Oシステムが同34.6%増の4633億円、ネットワークシステムソリューションが同4.6%減の1947億円、その他事業が同16.5%増の2177億円だった。国内売上高は同0.7%減の8960億円、海外売上高は同9.4%増の8423億円で、海外事業の好調がリコー躍進の原動力となっている。
今年度(04年3月期)については、売上高で前年度比3.8%増の1兆8050億円、営業利益で同10.0%増の1470億円、当期純利益で同8.9%増の790億円を見込む。これが実現すれば、10期連続増収、12期連続増益、10期連続最高益更新となる。