沖電気工業が新しいステージに踏み出した。主力事業の情報分野と通信分野の2つの事業を組み合わせ、「情報通信融合」を柱にビジネスを拡大。顧客企業に対し、“付加価値ソリューション”を提供できる企業として生まれ変わる。社長に就任して7年目に入った篠塚勝正氏は、「得意分野に力を注ぎ、安定収益を継続的に確保する」と自信をみせる。
技術、商品、営業を融合した体制へ、システムセンターにソフト開発部門集約
──沖電気工業では、2004年度から情報通信事業を柱にしたビジネス展開を掲げています。主力事業の情報分野と通信分野を融合する意図は。
篠塚 昨年度は、営業利益が200億円を突破するという1つのハードルを超えました。反面、1つの節目を迎えたと捉えることもでき、第2ステージとして新しい沖電気工業を作っていかなければならないと考えています。当社は、昨年度まで情報系と通信系、半導体と3分野で事業を手がけてきました。しかし、現在は情報分野をベースに通信システムを含めたソリューション、通信分野では情報システムを加えたシステムを提供するといった状況が多く出てきており、情報系と通信系の境目がなくなってきました。以前から、ネットワークをベースにしたソリューションの提供に力を注いできたのですが、情報通信融合事業という当社にとって新しい事業領域に踏み出すことで、ネットワークソリューションの提供を加速させます。
──情報と通信を融合したビジネスを拡大させるための戦略は。
篠塚 開発面では、アプリケーションプラットフォームに力を入れていきます。具体的には、基盤となるネットワークインフラ、そのうえに製造業や金融業など業界別のアプリケーション、さらに顧客企業の目的別にアプリケーションを開発するという3階層を組み合わせてシステムを提供していきます。さまざまなシステムを提供できる体制を作るために、社内的には効率的な組織にしていく方針を固めています。
──現在は、情報分野と通信分野で組織が分かれています。組織自体も融合するということですか。
篠塚 そうです。技術の融合、商品の融合、さらに営業面での融合が実現できる体制を整えます。そのために組織の融合は不可欠だと考えています。本格的な融合を行っていくためには、まず人の融合が重要なポイントになります。実際、商品ではCTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)とIP(インターネット・プロトコル)を組み合わせたコミュニケーションシステム「CTステージ」が主力商品に育ってきました。この製品は、通信の製品カテゴリーに入るのですが、情報分野で製品化を実現しました。情報と通信を組み合わせた製品として顧客企業から好評を得ており、CTI市場でトップシェアを維持し続けています。
通信の技術者は本来、「アプリケーション開発とは何か」というレベルだけでなく、「マイクロソフトをはじめとして、OSとは何か」というレベルでさえもコンピュータ関連に疎いケースもあります。逆にコンピュータの技術者は、通信に関連する技術などを理解していない。商習慣を含め、お互いのビジネスを理解させるのには時間がかかります。ビジネスにそのような猶予はありません。ですから、CTステージの開発は人をシフトすることで融合を可能にしました。これまでは、技術レベル、商品レベルで人のシフトは行ってきました。そのため、情報と通信を融合させる基盤作りは03年度で完了したと言えます。最近では、競合他社も積極的に情報と通信の統合を図ろうという動きが出ています。そのため、他社よりも先駆けて社内組織の整備を行っていくことが重要だと考えています。
──“人の融合”という点で強化した取り組みはありますか。
篠塚 組織はそのままですが、今年4月に完成した埼玉県蕨市のシステムセンターにソフト開発部門を集約しました。8月中旬にソフト開発要員すべての異動が完了し、システムセンターでは受託ソフトの開発だけでなく、新しいソフトウェアを開発する開発拠点として本格稼働しています。また、営業担当者やシステムエンジニアなどビジネスに直結する部門は以前から東京・芝浦地区に集結していたのですが、1か所に集約しているというメリットを最大限に生かすため、部門の隔たりを取り除き、各分野の営業担当者やシステムエンジニアが新しいソリューションを提案できる場としてビジネスセンターとしています。社員からは、「契約を獲得するための相談やクレームなどへの迅速な対応が組織を横断して行える」といった声が多く好評です。
顧客企業を向いた組織を作る、新しい付加価値を提供
──今年度下期からの具体的な組織体制は、すでに固まっているのですか。
篠塚 具体的な組織体制をどうするか詰めている段階です。今年度の下期からは営業面でも、情報と通信の融合を大々的に行っていこうと考えています。開発面については、ネットワークのインフラストラクチャと業界別のアプリケーションを開発する部門として現在の開発部門を横断的にした組織、業界別のアプリケーションを開発する組織にしていくことはほぼ固まりつつあります。その技術をどのようにして顧客ニーズにあった製品として開発し、ビジネスにつなげていくかという、顧客企業を向いた組織を作ることが、今回の組織改正のカギになってきます。下期の組織改正が定着し、来年度(06年3月期)のスタートは完全に新しい体制となっているわけです。
──情報通信融合事業を手がけることによる収益の効果は。
篠塚 収益への効果については、新しい付加価値をいかに提供できるかにかかってきます。これまでなかった新しいコンセプトの製品やソリューションを競合他社よりも早く市場に出していくことが収益を上げるための最も効果的な方法です。当社は、情報と通信ともに2カンパニー制で事業を展開しています。しかし、大手ITメーカーに比べれば、会社自体が大手の1カンパニー程度の大きさしかありません。つまり所帯が小さい分、小回りが利くという点は競合他社よりも秀でているわけで、これを強みにすれば、新しい製品やソリーションを競合他社に先駆けて開発、提供できると自負しています。また、新市場の開拓で、安定収益を継続的に確保できると確信しています。
──プリンタ事業を第3の柱として育てることを掲げていますが、プリンタ市場も競争が激化しています。
篠塚 プリンタでは、国内でのシェア拡大を図っていくことが最も重要だと考えています。最近では、ビックカメラを中心に大手量販店経由での販売が大幅に伸びてきました。今後は、プリンタ本体の供給に加え、紙やインクなどの消耗品の供給も当社が行うといった販売パートナーへのサポート強化が重要になってくるのではないでしょうか。また、OEM(相手先ブランドによる生産)のほか、システムインテグレータとのアライアンスなどで新規顧客を開拓し国内シェアを拡大していきます。欧米では、当社のカラープリンタのマーケットシェアが13%程度と比較的高く、市場からも良い反応を得ています。この勢いをもって、06年度に20%のシェアに高めていくつもりです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
1998年6月。メモリ不況の影響で厳しい状況にあった沖電気工業の再建を託され、社長に就任。迅速で大胆な施策を次々と打ってきた。98年9月の中期経営計画「フェニックス21」でDRAMからの撤退とシステムLSIへのリソース集中、2001年10月からの中期経営計画「フェニックス21飛翔」で変革の加速と優良企業への成長を掲げた。98年度から03年度までの6年間で社員の3分の1にあたる9000人の削減を断行。コンピュータ畑の出身で、“ネットワークソリューションの沖電気”と、情報と通信の融合を見据えていた。社長就任から今年は7年目。「小学校を卒業し、中学校に入学したような気持ち」と笑いながら、情報と通信の融合を完了させるつもりだ。(郁)
プロフィール
篠塚 勝正
(しのづか かつまさ)1940年11月28日生まれ、埼玉県出身。63年3月、東京大学工学部卒業。同年4月、沖電気工業に入社。83年2月、情報処理事業部金融システム事業推進部長、88年10月、コンピュータシステム開発本部長、90年6月、取締役コンピュータシステム開発本部長。92年10月、常務取締役。97年6月に専務取締役デバイスビジネスグループ担当を経て、98年6月、社長に就任。00年4月、社長兼CEOに就任。現在に至る。
会社紹介
通信機器メーカーとして1881年に設立。現在は、情報と通信、電子デバイスの3事業を主力にビジネスを展開。2003年度(04年3月期)連結決算は、売上高が6542億円(前年度比11.7%増)と増収、営業利益が16.6倍以上の216億円と大幅に伸長し、経常損益で124億円の黒字(前年度は78億円の赤字)、最終損益が13億円の黒字(同65億円の赤字)と黒字転換を果たした。今年度から、情報通信融合事業を第1の柱とし、半導体事業を第2の柱、プリンタ事業を第3の柱に、さらに収益が確保できる体制構築を目指している。今年度第1四半期の連結決算は、売上高が1420億円(前年同期比27.0%増)、営業損失が21億円(前年同期は131億円)、経常損失が31億円(同141億円)、最終損失が26億円(同111億円)と大幅に改善している。今年度通期の業績予想は、売上高6800億円(前年度比3.9%増)、営業利益290億円(同34.2%増)、経常利益200億円(同60.5%増)、最終利益が前年度の7.5倍にあたる100億円を見込む。06年度に売上高7600億円、営業利益400億円規模の達成を目標とする今年度から3か年の中期経営計画も掲げている。