10月1日付で富士通の完全子会社となった富士通サポート&サービス(Fsas)。富士通グループの保守サービスビジネスの“統率役”として、その位置づけは一層鮮明になった。6月29日に就任した前山淳次社長は、「自社ビジネスだけでなく、グループ内外の保守パートナーのビジネスにも踏み込む」と、全国津々浦々に張り巡らせた保守サービス網を今後どう効率化・最適化するかに考えを馳せる。新生Fsas、さらには富士通グループの保守サービスビジネスの方向性とは?
保守サービス体制を見直す、顧客ごとに区分けし、案件の重複を避ける
──10月1日から富士通の完全子会社として新たなスタートを切りました。富士通グループの保守サービスビジネスの中核的な位置付けがさらに強まりました。現状の課題と、打つべき施策をどのようにお考えですか。
前山 まずは「頭」と「手足」がバラバラだった富士通グループの保守サービス体制を見直し、効率化・最適化を急ピッチで進めます。富士通グループの保守サービスビジネスはこれまで、戦略立案やカスタマーエンジニア(CE)の教育、技術開発、現場担当者に指示を出す部隊、つまり「頭」の機能が富士通にあり、サポート業務の実務部隊である「手足」が、富士通サポート&サービス(Fsas)を含め富士通の保守パートナーにありました。「頭」と「手足」が異なる会社にあったわけです。Fsasは富士通グループの保守・サービス事業のパートナーという位置付けでしかありませんでしたが、完全子会社化により、サポート業務だけでなく、戦略立案から保守パートナーの統率まで、「頭」の役割もFsasが担当し、富士通グループの保守サービス事業全体の陣頭指揮を執ります。
──パートナーの統率に向け、具体的にどのような取り組みを進めますか。
前山 富士通系の保守パートナーは、Fsasを含め88社あります。88社の構成は、FsasやPFU、富士通ビジネスシステム(FJB)など富士通グループが約半分で、残りは富士通の資本が入っていない大手システムインテグレータや各地域の地場ディーラーです。当社を除くこの87社のパートナーをFsasの配下に置いて、Fsasが先頭に立ちパートナーを仕切ります。まず具体的な施策として着手するのが、Fsas自身がサポートを提供する場合と、他の87社のパートナーにお願いする場合を、顧客ごとに明確に区分けしようと思います。
富士通グループの保守サービス顧客は約8万8000社あり、このうち、基幹系システムの保守サービスを請け負っているのが約400社。また、大都市の地方自治体など、Fsasが主要顧客と位置づけているユーザーは約4300社あります。この計約4700社をFsasが担当し、残りの約8万3000社をパートナーに任せようと思います。これまでもなんとなく区分されていた部分はあったようですが、明確に線引きを進めていくことで、案件の重複化を避けます。Fsasとしては、主要顧客約400社に「センターCE」と呼んでいる専任CEを1社ごとに配置することも計画しており、これまで以上に手厚くサポートしていこうと考えています。
──営業・サポート拠点の統廃合や人員の最適化も必要になると思いますが。
前山 当然進めるべきことです。Fsasは、国内の営業・サポート拠点を全国約200か所に設置しています。富士通本体は、東京と大阪にコールセンターを設けていた程度で、サポート拠点を持っていません。全国を網羅するこのサポート拠点網はFsasの強みですので、これらの拠点を減らすことはありません。ですが、余剰人員や案件の重複化など、富士通グループ全体の保守サービス網という観点からすれば、拠点と人員の最適化を進める必要性を感じています。富士通グループ全体の保守サービス拠点は約1000か所ですが、300─400拠点には集約できるのではないかと思っています。
人員に関しては、拠点の統廃合と合わせて最適化を進めます。Fsasの技術者約3600人を含め、富士通グループのサポート担当者は約1万人います。今回、完全子会社化に伴い富士通本体から保守サービス担当者約500人がFsasに出向してきましたが、まずはその最適配置から着手することになるでしょう。集約する拠点数や統廃合すべき地域などについて具体的な計画は今後詰めますが、具体案は今年中に作成し、一部はこの下期から地域を限定して行い、来年末までには、ほぼ終わらせる考えです。
強みは日本全国を網羅する拠点とCE、顧客のITインフラ全体をサポート
──保守サービスビジネスは、安定的なビジネスとして高い収益を上げてきましたが、ここ数年はサービス単価の下落が止まりません。
前山 要因はいくつかあります。1つは保守対応機器が変わってきたこと。以前は高額なメインフレームが中心でしたが、今は低価格のUNIXサーバーやIAサーバーが顧客の情報システムの中に急速に増えてきました。保守サービスの単価は、サポートするハードの価格とリンクしていますから、当然売り上げも下がります。もう1つは、競合他社との価格争いの激化によるものです。サポートサービス会社との価格競争だけでなく、デルの3年間無償保守サービスなど、ハードメーカーのIT機器と保守サービスのバンドル展開を背景にした競争もあり、競合他社の増加で以前よりも価格競争はより激しくなっています。さらに、金融機関を中心とした企業統合の影響もあるでしょう。大手銀行が合併されれば、単純に保守サービスを提供する拠点やATM(現金自動預払機)が減ります。プラス材料もありますが、営業フィールドが小さくなることは、中長期的に見れば明らかにマイナスです。
──IT機器の低価格化による単価下落は今後も続きそうです。保守サービスビジネスの拡大に向けた施策は。
前山 保守サービスビジネスがなくなることは絶対にありませんが、メインフレーム全盛期のように、安定的なビジネスとは言えません。当然、新たな保守サービスを模索しています。Fsasの強みはやはり、日本全国を網羅するサポート拠点とCEです。これを今以上に活用していこうと考えています。単純な保守サービスである修理や点検だけでなく、運用サービスやソフト関連の提案なども手がけ、顧客のITインフラ全体のサポートを提供できるような体制を組んでいければと思っています。人材の能力を高め、保守だけでなく、新たな提案も行えるようなCEがカギになるでしょう。
──人材育成は大きなポイントですね。
前山 その通りです。特にCEの教育については、最も力を入れなければなりません。昨年度(2004年3月期)は約20億円を人材教育に投資しましたが、十分とは言えません。今後はさらに投資します。具体的には、「アドバンストCE」と言って、ハードだけでなく、ソフトの知識も保有するCEの育成に力を入れていきます。これまで富士通の教育設備を借りて研修を行っていましたが、その施設の運用もFsasに移管しましたので、さらに人材教育を活発化できる環境が整いました。富士通が手がけていないハードウェアの研修に関しては、Fsasが独自に研修センターを設けて教育を施してきた実績もあります。今後はハードウェアだけでなく、CEのソフトウェア教育を積極化させ、アドバンスドCEの育成に拍車をかけていきます。サポートビジネスは「人」がすべてですから。
眼光紙背 ~取材を終えて~
保守サービス事業のライバル、NECフィールディングが今月上旬、今年度の業績を大幅に下方修正した。一概に比較はできないが、前山社長はライバル企業の下方修正をどう見たのか。「こっちも大変ですよ」。それだけしか語ってもらえなかったが、ハードウェアの性能向上による保守機会の減少と、サービス単価下落による売上減という下方修正の理由は、他人事ではない。パソコンは価格下落が最も顕著で、日用品化されたIT機器に保守契約を結ぶユーザーは稀で、予備製品を購入したり、壊れたら新しいパソコンに買い替える顧客も少なくなく、「保守いらずの製品」になってきたとか。「保守ビジネスも構造改革が必要」と、保守事業の抜本改革に挑む考えだ。(鈎)
プロフィール
前山 淳次
(まえやま じゅんじ)1943年7月生まれ。68年3月、京都大学大学院工学研究科修士課程終了。同年4月、富士通入社。96年6月、取締役兼ソフトウェア事業本部長。00年4月、常務取締役兼ソフトウェア事業本部長兼ファイルシステム事業本部長。02年6月、常務執行役兼プラットフォームビジネスグループ戦略担当兼ファイルシステム事業本部長。03年4月、経営執行役専務兼プラットフォームビジネスグループ長。同年6月、取締役専務(ものづくり担当)、経営執行役専務兼プラットフォームビジネスグループ長。同年9月、取締役専務(ものづくり担当)、経営執行役専務兼プロダクトビジネスグループ長兼ユビキタスプロダクトビジネスグループ長。04年6月29日、富士通サポート&サービス代表取締役社長に就任。
会社紹介
富士通グループの保守・運用サービス事業分野での中核企業。サポートビジネスのほか、ネットワーク構築事業に強みを持つ。サポートビジネスで約8万8000社の顧客を抱えており、営業およびサポートサービス拠点を日本国内に約200か所設置している。技術者の数は、システムエンジニア(SE)とカスタマーエンジニア(CE)を合わせ約3600人に及ぶ。サポートするハードウェアは富士通製のほか、他社製品にも対応。サポートサービスの全売上高のうち、約3分の1をマルチベンダー製品が占めている。2003年度(04年3月期)の連結業績は、売上高2405億円(前年度比9.0%増)、経常利益87億円(同11.6%減)、当期純利益67億円(同34.6%増)。今年度(05年3月期)は、売上高2415億円、経常利益95億円、当期純利益54億円を見込んでいる。富士通の保守・運用サービス事業強化の一環として、10月1日付で富士通の100%出資子会社となり、富士通グループの保守サービス事業の陣頭指揮を執ることになった。