“主張するシマンテックジャパン”の確立──。杉山隆弘社長は、「日本市場の声を最大限、製品開発に生かす」と、ワールドワイドのなかで日本法人の発言力を高めることに力を注いでいる。情報セキュリティ市場が一層の注目を集めるなかで、総合セキュリティベンダーを謳うシマンテック日本法人が、さらに成長路線を築くために主張し始めた。
品質とサービスレベルを維持 ユーザーからの期待に応える
──情報セキュリティ対策へのニーズがますます高まるなか、総合セキュリティベンダーであるシマンテックに求められる要求も高度化していると思います。今のセキュリティ市場をどう捉え、進めるべき戦略は何ですか。
杉山 情報セキュリティはもともと、インターネットのなかに存在するコンピュータウイルスを発見し、駆除するといった基本的な部分からスタートしました。しかし、今はインターネットを取り巻く環境も変わり、必要なセキュリティ対策も急激に増え、しかも複雑化しています。ウイルス対策ソフトを導入すれば、パソコンや情報システムを守ることができる、とはいえない状況です。
シマンテックは、自他ともに認められている情報セキュリティ分野のナンバーワンベンダーです。セキュリティニーズの多様化・高度化を予測し、1989年から29社もの企業買収をワールドワイドで進め、技術および製品力を強化してきました。ウイルス対策だけでなく、ファイアウォール、スパム対策、IDS(不正侵入検知システム)、VPN(仮想私設網)などすべてのネットワークセキュリティ製品を揃えていることがその証であり、コンサルティングなどサービス面も充実させています。
ナンバーワンとしての地位を維持すること、つまり、変化の激しいIT業界のなかで現状の品質・サービスレベルを維持することが、まずは重要だと捉えています。
インターネットを活用した公共サービスが当たり前になり、もはやインターネットは、電気やガス、水道といった社会インフラと同様のポジションにあると考えています。一般消費者、法人ともにユーザーからの期待が大きいことを実感しています。
シマンテックの社長に就任して約1年4か月が経ちましたが、大きな期待を背に仕事をしていることを日に日に痛感しています。重要なインフラを安全に保つという大変責任が重い仕事ですが、挑戦的な仕事であり、エキサイティングです。
──日本はブロードバンド先進国であり、世界第2位のITマーケットです。要求されるニーズも高く、日本市場独自の施策も必要になります。
杉山 日本は“モノ作り大国”であるがゆえに、品質に対する要求が非常に高い市場です。世界のどの国に比べても、トップレベルだと断言できるでしょう。そのため、日本のユーザーの要求を満たす品質を確保することが、日本法人の社長として最大の仕事です。それが、シマンテックグループの製品力を上げる意味で、大きな役割を果たすことになりますから。
就任直後から一貫して進めているのが、日本の発言力を強めることです。日本のプロダクトマーケティング担当者が渡米する人数は、就任前に比べ2─3倍に増やしましたし、担当者が米本社に出張する回数も2倍にはなったと思います。販売パートナーなどの取引先にも米本社に同行してもらい、チャネルの声を直接届けたこともあります。日本市場のニーズを最大限、製品開発に反映できる体制作りに努めました。
従来もこのような取り組みがなかったわけではないのですが、しっかり機能していたとは言えませんでした。
今は、“モノをはっきり言えるシマンテックジャパン”、“主張するシマンテックジャパン”を、シマンテックグループに認識させることができていると思います。今後も継続的に日本市場のニーズを米本社に伝え、反映させていきます。
3つのレイヤーでの対策を訴求、地方公共団体向けも本格始動
──ワールドワイドのなかで、日本法人は一般消費者向け事業が強く、法人向けビジネスの強化が課題になっています。
杉山 今、企業には3つのレイヤーでセキュリティ対策を施す必要があります。3つのレイヤーとは、ネットワークゲートウェイ、サーバー、そしてクライアントを指しますが、シマンテックはこの3つのレイヤーをカバーし、しかもウイルス対策機能だけでない複数のセキュリティ機能を提供できる唯一のベンダーです。
この3つのセキュリティ対策をすべてカバーする製品・サービスを持っていることを印象づけることが今の段階では重要でしょう。まだウイルス対策ソフトメーカーとしてのイメージが強いですから。
──官公庁向けビジネスも手薄な印象がありますが。
杉山 中央省庁へのアプローチは、約3年前から本格化させており、それなりの評価を得ていると思います。しかし、地方公共団体へのアプローチは少なかったかもしれません。
この課題には、10月下旬に設置した新たな専門部署・人員を通じ解決していきます。中央省庁に比べ、情報セキュリティ管理者が不足気味の地方公共団体向けに、専用のウェブサイトや、地方公共団体のシステムに精通している専任コンサルタントの確保、また、地方公共団体専用のライセンスプログラムも作りました。体制を強化したことで、一気に地方公共団体向けビジネスを拡大させていきます。
──日本はセキュリティ対策への意識が遅れていると言われます。セキュリティ業界全体が抱える問題は何だとお考えですか。
杉山 情報セキュリティ技術者の育成でしょう。これは、シマンテックを含めセキュリティ業界全体が持っている大きな課題でしょうね。
セキュリティ対策には技術だけでなく、ルールと人が必ず必要です。技術を適切に使うのも、セキュリティルールを作るのも人です。優秀なセキュリティ技術者を育成し、確保することは、先進的な技術をキャッチアップすることと同じくらいに重要なのです。
大手ITベンダーを中心に、徐々に情報セキュリティ専門の技術者育成が進んできた印象は受けますが、まだまだ少ない。シマンテックでは、自社のセキュリティ技術者の育成を進めるとともに、業界全体でもスキルレベルの高いセキュリティ技術者がもっと増えるように、協力していきたいと考えております。
その取り組みの一環として、来年4月からは、大学や専門学校向けに当社が開発した情報セキュリティ技術者育成のための教育プログラムを提供する予定です。東京都新宿区の日本電子専門学校では、すでに今年4月からテスト稼動させており、評判は良好です。
また、自社の技術者認定資格制度を、情報処理推進機構(IPA)などの中立的な機関が運営するセキュリティ資格制度と連携させるなど、自社製品の知識だけではない幅広い知識を持った技術者育成に努めています。ナンバーワンセキュリティベンダーとして、業界全体の底上げにつながる取り組み、施策を今後も継続していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
シマンテックが力を入れている複数のセキュリティ機能を盛り込んだアプライアンス製品は、IDSメーカーやファイアウォールメーカーなども次々参入し、開発に力を入れている。ウイルス対策ソフトに飽和感が出ているとあって、今のセキュリティ市場で、最も競争が激しいジャンルである。
杉山社長はこの競合他社の動きに、「当然ウェルカム。新しい分野だけに、競合が出てくることで市場が活性化する」と冷静だ。競合との争いを「ビジネス拡大のためのコラボレーション」と呼ぶ。
日本と米本社を行ったり来たりの多忙な毎日が続くが、「今の仕事は、責任は重いが、エキサイティング」と、声は力強く、表情も明るい。
ワールドワイドの中で日本市場の発言力が高まり、“モノを言う日本法人”を確立しつつある自信の表れだろう。(鈎)
プロフィール
杉山 隆弘
(すぎやま たかひろ)1946年10月生まれ、熊本県熊本市出身。70年、佐賀大学経済学部経済学科卒業。同年、日本ナショナル金銭登録機(現日本NCR)入社。85年、ネットワークプロダクト事業部営業部長。91年、ニューウェイオブコンピューティング推進部長。92年、ネットワークプロダクト兼官公庁システム事業部長。95年、通信事業システム本部長。96年、日本ディジタルイクイップメント(現日本ヒューレット・パッカード)入社、通信・メディア営業統括部長、ソフトウェア事業本部事業本部長を歴任。99年、サイベース入社、代表取締役社長に就任。米サイベース副社長を兼務。01年、バーンジャパン入社、代表取締役社長に就任。03年7月1日、シマンテックに移り代表取締役社長に就任。米シマンテックコーポレーション副社長を兼務する。
会社紹介
一般消費者および法人の両市場でネットワークセキュリティ関連製品とサービスを提供するセキュリティベンダー。1994年に日本法人を設立し、本格的に日本での営業活動を開始した。
ウイルス対策ソフトのほか、ファイアウォール、IPS(不正侵入防御システム)など複数のセキュリティ機能を提供するアプライアンス、ウイルスなどのセキュリティ対策情報を提供する情報サービス、コンサルティングサービスなどを提供する。
日本法人の社員は約200人。大阪市と名古屋市に営業所がある。法人市場では販売パートナー経由の間接販売をメインのチャネルとして、現在4つのパートナープログラムを展開。さらに、中堅・中小企業向けビジネスを拡大させるため、販売パートナーの拡充を急ピッチで進めている。
一般消費者向けビジネスでは、セキュリティソフト「ノートンインターネットセキュリティ」が、「BCN AWARD」セキュリティソフト部門で、3年連続最優秀賞を受賞している。