デジタルカメラの普及により、写真の世界がフィルムからデジタルに大きくシフトしつつある。コダックは今年に入り、コンシューマ分野で国内デジカメ市場に再参入。法人分野ではデジタル機器で新規顧客の開拓を活発化するなど、デジタル化の波に乗りビジネス領域の拡大を狙う。今年10月1日付で就任した小島佑介社長は、かつてオリンパスでデジカメ事業の立ち上げに携わった中核の1人。「これまでにない新しいソリューションを提供していく」と自信を覗かせる。
新しい価値の提案でシェアアップへ 11月中には家電量販店の販売網を構築
──10月1日付でコダックの社長に就任しました。国内市場での方向性は固まりましたか。
小島 当社は、フィルムを主体に業績を伸ばしてきましたが、カメラの市場環境はフィルムからデジタルに変わろうとしています。これは国内だけでなく、米国や欧州など世界全体で起こっている変化です。ワールドワイドでは、フィルムを主体としたコンシューマビジネスが売り上げの約3分の2を占めているものの、年率25%の割合で下がっています。国内でも、フィルム関連ビジネスが売り上げの中で最も比率が高い。本来ならば、主力であるフィルム関連ビジネスが拡大すれば業績も伸びます。しかし、デジタル化が進むなかで、今後いかにビジネスを伸ばせるかが重要です。こうした点から、コンシューマ向けデジタル機器を販売する「デジタルイメージング事業」の主力ビジネスとして、国内デジタルカメラ市場に再参入しました。
──再参入とはいえ、デジカメ市場では競合に遅れをとっています。勝算はあるのですか。
小島 デジカメの新しい価値を提案していけば、国内シェアを高めていけると確信しています。
コンシューマ市場では、パソコン上に画像データを保存したり、カメラ付き携帯電話で写真を撮影してメールで送るといったさまざまな用途が出てきました。しかしその一方で、プリンタで印刷するという傾向が減っています。そのため、パソコンに画像データを保存するだけでなく、撮影したら印刷するという意識をユーザーに広めることが重要です。携帯電話で撮影するよりも、デジカメで撮影した方が良いと思わせることも印刷需要を増やすことにつながります。
そこで、簡単にデジタル画像がプリントできる「コダック・イージーシェア・プリンタードックPD─26」を国内市場に投入しました。自分で写真を印刷することの楽しさを訴えていけば、必ず印刷需要が拡大し、利用者の裾野が広がっていくと確信しています。もちろん、カメラメーカーとしてデジカメを開発することが必要ですので、「プリンタードック」と同時に、500万画素で光学10倍ズームの高性能デジカメ「コダック・イージーシェアDX7590ズーム・デジタルカメラ」をこのほど発売しました。
撮影した写真を印刷するということを当たり前にするには、1社だけでアピールするよりも広くパートナーシップを組む方が良いと考え、プリンタ分野でデジカメ各社と協業も行いました。当社を含め主要7社が、「プリンタードック」で採用しているプリント規格「“イメージリンク”プリントシステム」を採用したデジカメを発売することになります。こうしたことで、デジタル画像に対するユーザーの意識を変えていきます。
実は、当社のホームページでデジカメ「コダック・イージーシェアLS743ズーム・デジタルカメラ・オリンピック記念限定バージョン」を今夏に期間限定で発売した際、「プリンタードック」も販売しました。その結果、デジカメ購入者の60%以上が「プリンタードック」も購入しました。高画質の画像データを写真として残しておきたいというニーズは高まっています。デジカメは、普及率が高まり、市場が成熟期に入っています。当社の使命は、デジカメ市場に再参入したことに加え、デジカメ専用のプリンタを発売することで、国内デジカメ市場を再び拡大基調に戻すことだと考えています。
──製品の拡販には販売網が必要です。
小島 確かに、現段階では国内での販売網を持っていませんので、これから広げていくつもりです。当社の考え方を理解してもらえる家電量販店さんと販売契約を結んでいきます。家電量販業界では、価格競争が進んでいます。低価格で単に売り切るだけの店舗では、当社の製品の良さをユーザーに伝えることが難しいといえます。販売後もサポートをしっかりと行う企業とパートナー関係を築いていくつもりですので、決して媚びを売るつもりはありません。年末商戦に向け、11月中には家電量販店の販売網を構築する予定です。
法人にはドキュメントソリューション提唱 コダックの独自性で他社と差別化
──コンシューマ市場以外のビジネスについては。
小島 コンシューマ市場と同様、法人市場でも資料をパソコンやサーバー上に保存してペーパーレスを徹底するなど、デジタル化の波が押し寄せています。
コンシューマ市場では、印刷需要を増やしデジカメ市場を拡大させるという使命もあると同時に、フィルム販売の減少をデジタルイメージング事業で補うという意味合いもあります。しかし、一般企業向けにスキャナやマイクロフィルムの販売を手がける「コマーシャルイメージング事業」は、当社にとって、まだまだ開拓の余地がある領域です。売り上げの伸び率でいえば、コンシューマビジネスはフィルムが落ち込む分だけデジタル化への対応で堅調な成長、法人ビジネスがデジタル化による新規顧客の開拓で急拡大が期待できます。よって、法人ビジネスが収益を増やすカギでもあります。
──競合他社との差別化となるポイントは何ですか。
小島 システムインテグレータなどとのパートナー関係を強化し、ドキュメントを中心としたソリューションを提案していくことです。当社が持つ高速ドキュメントやスキャナなどと、パートナーが持つインテグレーションのノウハウを組み合わせ、新規顧客を獲得していきます。古いやり方かもしれませんが、まずはマイクロフィルムにデータを残すことを提案することも1つの手だと考えています。
また、「デジタルイメージング事業」で手がけるインクジェットプリンタを法人にも販売していく方法もあります。システムインテグレータとのパートナーシップに加え、家電量販店の販売網を確立し、オンデマンドプリンティングやネットワークなどのソリューションを店頭で提案していくことも考えています。
現段階では、これまでにない新しいソリューションを具体的に提供したという例を挙げることはできませんが、コダック製品でなければ実現できないソリューションを提供していくことで、競合他社との差別化を図っていきます。
──ワールドワイドでも、法人ビジネスで売上増を狙っているのですか。
小島 その通りです。日本と比較して、コンシューマ分野のフィルム市場でトップシェアにある一方、フィルム事業の落ち込みが激しいことから、法人向けビジネスはワールドワイドでも拡大させていかなければならない領域でもあります。
米国では、M&A(企業の合併・買収)を繰り返すことにより、このビジネスを拡大していく体制を整えてきました。経営陣には、フィルム事業出身者や、ヒューレット・パッカード(HP)、IBMといったパソコンやサーバーなどのビジネスを手がける企業の出身者もいます。フィルム分野のノウハウとコンピュータ分野のノウハウを生かし、これまでとは全く異なったビジネスを展開できると自負しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
小島さんがデジタルカメラ事業に着手したのは1994年。オリンパスで新事業開発タスクフォースリーダーとしてデジカメ事業の立ち上げに参画したのがきっかけだ。
96年に80万画素のCCD(電荷結合素子)を搭載する、当時のデジカメでは最高画質を実現した製品を市場に投入。オリンパスの「キャメディア」シリーズは、国内市場を代表するデジカメとして、その名を轟かせた。
コダックの社長に就任した今でも、「デジカメは画質がすべて。画質の向上に関係ない機能は必要ない」との考え方は変わっていない。デジカメで撮影した画像をいかに美しく印刷できるかを念頭に置いているからだ。
「“絶対プリント主義”を広める」
コダックが国内デジカメ市場に再参入する最大の理由だ。(郁)
プロフィール
小島 佑介
(こじま ゆうすけ)1945年1月6日生まれ、東京都出身。67年3月、慶應義塾大学商学部卒業。同年4月、オリンパス商事(現オリンパス)に入社、カメラ国内営業を担当する。01年6月、オリンパス光学工業(同)執行役員。02年4月、映像カンパニー副カンパニー長。03年4月、米イーストマン・コダック社に入社、バイスプレジデント兼D&Iグループデジタルカメラ事業部長に就任。04年3月にコダック(日本法人)副社長を経て、04年10月に社長に就任。
会社紹介
コダックは、米イーストマン・コダック社および長瀬産業の出資により、コダック・ナガセとして1986年6月28日に設立された。89年1月に日本コダック、98年5月にコダックへ社名を変更。現在では、米イーストマン・コダック社が100%出資している。
フィルム事業を主体とし、コンシューマ分野と法人分野双方でビジネスを展開。一方で、国内では01年に国内コンシューマ向けデジタルカメラ市場から撤退した。メーカー間の競争が激しくなり、採算を確保するのが難しいと判断したためだ。
しかし、デジタル化の進展にともない、フィルム事業の落ち込みをカバーする狙いから、今年に入り再び国内デジカメ市場に参入。7月12日から「コダック・イージーシェアLS743ズーム・デジタルカメラ・オリンピック記念限定バージョン」を8月31日まで限定販売し、市場再参入の足がかりにした。
デルとの協業により、オンラインショップ「デル・オンライン・ストア」で「コダック・イージーシェアLS743ズーム・デジタルカメラ」を11月1日から販売開始している。