松下寿電子工業は、高付加価値製品を軸にした事業展開により、連結売上高で年率10%の成長を目指す。次世代DVDドライブの開発やリアプロジェクション式薄型テレビの拡販などIT分野に加え、血糖値測定機器などヘルスケア事業の規模拡大にも力を入れる。千葉富泰社長は、競争優位性を発揮できる領域に経営資源を集中させながら、「戦略性と安定性のバランス」を意識した経営を目指す。
松下グループの総合力を発揮 06年から次世代DVDドライブ量産
──次世代DVDのブルーレイディスクドライブや小型大容量のハードディスクドライブの開発動向に注目が集まっています。
千葉 当社は松下グループの事業再編にともない、2002年に松下電器産業の100%出資子会社となりました。次世代DVDや小型大容量ハードディスクなど、これからの新商材は非常に高度なプラットフォーム設計が必要となります。再編後、2年余りが経過し、松下グループのプラットフォーム設計能力は大幅に高まりました。個々のグループ会社がそれぞれに設計するのではなく、松下グループの総合力を発揮して設計することで、より競争力の高い商材開発に取り組んでいます。
CDやDVDなど光ディスクは、気軽に持ち運ぶことができるメディアとして広く普及してきましたが、最近は、これまで固定で使うことの多かったハードディスクドライブも、持ち運ぶことのできる記憶メディアの1つとして急速に普及しています。ハードディスクを内蔵した携帯オーディオプレイヤーなどがその代表です。こうした小型ハードディスクドライブは付加価値が高く、今後は1インチ以下の超小型サイズで、かつ数ギガバイトクラスの大容量製品の開発に力を入れます。
パソコンなどに使われる汎用的なハードディスクは3.5インチや2.5インチが主流ですが、これらハードディスクは価格競争が激しく、各社とも収益面で苦労しています。当社は、こうした生産規模の拡大によるコスト削減で競争する領域には手を出さない方針です。
1インチ以下のモバイル用途のハードディスクと競合するコンパクトフラッシュメモリなども、汎用的なハードディスク製品と同様、生産規模による“数の論理”で勝敗が決まる分野であるため、当社は手を出しません。
コンパクトフラッシュメモリは、大容量になると割高になるため、小型ハードディスクを活用した方が容量あたりの単価が安くなることが判明しています。デジタルカメラや携帯オーディオプレイヤーなどの普及が進み、持ち運べる大容量記憶装置の需要が日増しに高まっており、将来有望なハードディスク技術を活用したモバイルストレージ分野での競争優位性を高めていく方針です。
──ブルーレイディスクドライブの開発スケジュールはどうですか。ブルーレイディスクと規格上競合するHD-DVD陣営は本格的な製品化に着手しています。
千葉 05年中には、記憶容量が最大で50ギガバイトに達するブルーレイディスクドライブの生産に着手する予定です。大容量DVDに対する需要動向やメディアとなるディスクの価格動向などを見極めながら、06年半ば以降には月間10万台規模のブルーレイディスクドライブの生産を目指しています。
DVDの大容量化は確実に進む一方で、たとえば光ディスクのなかで最も記憶容量の少ないCD-Rメディアが、今でも現役で活躍していることを考えると、大容量のDVDメディアがすぐに少容量のメディアを駆逐するということには結びつかない可能性があります。
現在、当社では、DVD-RやDVD-RW、CD-RW、CD-Rなど複数の光ディスクに対応したスーパーマルチ仕様の記録型DVDドライブを主力製品に位置づけています。このスーパーマルチ仕様の記録型DVDドライブを含め、記録型DVDドライブ全体の今年度(05年3月期)の生産台数は、前年度比約2倍の300万台に達する見通しです。パソコンメーカー各社が、テレビ番組などを記録型DVDで録画する“テレビパソコン”の製品開発に力を入れていることなどから需要が拡大しました。
今後は、既存の記録型DVDの需要を高めつつ、さらにブルーレイディスクの需要喚起へとスムーズに結びつけられるかどうかがDVDドライブビジネスのカギとなります。
リアプロ式薄型テレビ、年産15-20万台へ 安定需要見込めるヘルスケア分野にも期待
──リアプロジェクション(リアプロ)方式の薄型テレビが米国市場で伸びています。60インチの大型リアプロ式薄型テレビを製品化していますが、今後の動向をどう分析しますか。
千葉 当社は60インチのリアプロ式大型薄型テレビを主に米国市場に投入しており、好調に推移しています。リアプロ式テレビは、昨年度(04年3月期)の年間生産台数が10万台弱だったのに対し、今年度は15-20万台の生産台数に増える見込みです。1インチあたりの価格が日本円で6000-7000円台と割安なのが好評の理由の1つです。
日本国内で人気の液晶方式やプラズマ方式の薄型テレビがインチあたり1万円を切るか切らないかで推移しているのに対し、リアプロ方式の薄型テレビは、画面が大きく、インチあたりの単価が安いのが特徴です。国内で見る60インチのテレビはとても大きく感じましたが、米国に持っていくと意外に違和感が感じられないという印象を受けました。家屋の大きさが違うのもありますが、慣れの問題の方が大きいように思います。
──ストレージやオーディオビジュアル(AV=音響・映像)製品に加えて、ヘルスケアやデバイス事業をどう伸ばしていきますか。
千葉 今年度のざっくりとした売上構成比は、ストレージが約30%、AVが約45%、デバイスが約15%、ヘルスケアが約10%になる見込みです。経営の観点から見れば、ストレージやAVに比べてヘルスケアの比率が低く、今後、もう少し伸ばしたいと考えています。
ヘルスケア分野の主力製品は、糖尿病患者などが使う血糖値測定機器などが挙げられます。血糖値測定機器では世界シェアの約20%を獲得しています。血糖値を測定するとき、わずかな血液から血糖値を測定できるよう特殊なICチップを使うのですが、このチップは1回だけの使い切り方式であるため、生産数は今年度17-18億個と膨大な数になります。仮にシェアを1%伸ばすと、それだけで1億個近い増産となり、経営を支える安定した収益源になります。
現在、血液を採取しなくても血糖値や乳酸値を測定できる「非侵襲性」、「低侵襲性」の機器も、今後5-10年の間に実用化に漕ぎ着けたいと考えています。体を傷つけない測定が可能になれば、測定需要の拡大にも結びつき、さらに測定結果や分析など当社のストレージやAV、デバイス技術をフルに活用した“融合製品”づくりの道が開けることも期待しています。
ストレージやAV製品は、市場環境がめまぐるしく変化しているので、うまく需要をつかめば大きく成長しますが、逆にタイミングを外すと痛い目に遭いかねません。これに対してヘルスケア事業は、日々の積み重ねで安定した需要が期待できます。戦略性と安定性のバランスをうまく保ちながら、連結売上高で年率10%近い成長を維持できる体制づくりに力を入れます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
市場環境がめまぐるしく変化するストレージやオーディオビジュアル(AV)事業に対し、安定した成長の見込めるヘルスケア事業──。千葉社長は、「それぞれの事業の特性を生かして持続的な成長を目指す」と、バランスの良い収益構造の確立を急ぐ。
次世代DVDのブルーレイディスクドライブや米国で人気の大画面リアプロジェクション式薄型テレビ、ヘルスケア分野の血糖値測定システムなど、成長が期待できる商材を複数持つ。「これらの技術を組み合わせた“融合商品群”の開発に力を入れる」と、異なる分野の技術を効果的に組み合わせた付加価値の高い融合商材の開発にも余念がない。
「汎用的なハードディスクドライブなど、生産規模の拡大によるコスト削減力だけで競争する領域には手を出さない」と、数の論理に振り回されない、高付加価値路線を突き進む。(寶)
プロフィール
千葉 富泰
(ちば とみやす)1944年生まれ、北海道出身。67年、千葉工業大学工学部電子工学科卒業。69年、松下電器産業入社。82年、松下電子部品の集積回路事業部微小素子回路工場技術課課長。89年、集積回路部技術部長。93年、高周波部品事業部長。96年、取締役。97年、常務取締役。98年、専務取締役。00年、取締役副社長開発・製造担当。01年、同技術・品質・環境・IT担当。同年、松下寿電子工業代表取締役社長に就任(現任)。03年、松下電器産業役員に就任(現任)。
会社紹介
2002年10月、松下グループの事業再編の一環として松下電器産業の100%子会社となる。ストレージ、オーディオビジュアル(AV=音響・映像)、ヘルスケア、デバイスの4事業を柱としている。
90年代後半、ハードディスク生産の全盛期には連結売上高7000億円余りに達したが、競争激化などの影響で3000億円を切るまでに落ち込んだ。
今後は、競争優位に立てる高付加価値商材を中心に開発を急ぎ、連結売上高で年率10%の伸びを掲げ、安定した成長ビジネスモデルを構築する。今年度(05年3月期)の連結売上高は前年度比7.1%増の3000億円、来年度(06年3月期)は同10%増の3300億円を目指す。