デジタルカメラや携帯電話機など、映像・コミュニケーション分野を中心に需要が拡大している中小型液晶ディスプレイ。セイコーエプソンと三洋電機の液晶ディスプレイ事業を統合し、新たに10月1日に創業したのが、三洋エプソンイメージングデバイスだ。田端輝夫社長は、両社の持つ技術や人材など有形・無形の資産を武器に、「中小型液晶ナンバーワン」を目指す。
お互いの不足する力を補える事業統合としてベストの組み合わせ
──セイコーエプソンと三洋電機の液晶事業統合の背景は。
田端 三洋電機は、現在の当社の鳥取事業所(鳥取県鳥取市)で低温ポリシリコンTFT(薄膜トランジスタ)とアモルファスシリコンTFTの2種類のパネルを手掛けていました。デジタルカメラや携帯電話機の需要が拡大し、パネルの小型化を進める必要がありましたが、小型パネルの生産能力はともに足りず、03年4月から小型化への取り組みを加速させました。しかし、アモルファスシリコン型は、もともと大型パネル向けの工場であり、設計のマンパワーも足りませんでした。さらにモジュールに組み立てる能力も不足しており、思ったように小型化は進められませんでした。
一方、セイコーエプソンは、同じく現在は当社の松本本社(長野県豊科町)でSTN(超ねじれネマティック)とMD─TFD(モバイル・デジタル薄膜ダイオード)型の液晶パネルを手掛けていました。つまり、ローコスト、ボリュームゾーンを対象とした商品で、世界有数の生産量を誇っており、海外も含めモジュール組み立て能力は高かった。しかし、ディスプレイの高精細化が進み、その対応の必要を感じていました。
両社で互いの不足する力を補えるうえに、中小型パネルをすべてカバーできる。事業統合としてはベストの組み合わせでした。
──具体的な事業統合によるメリットはどこにありますか。
田端 三洋電機には、デジカメなど映像用が中心という考えがありました。このため、携帯電話機のように生産の変動が激しく、TAT(ターン・アラウンド・タイム)の短い製品向けの環境、つまりビジネスモデルやサプライチェーンは持っていませんでした。そうしたノウハウは、セイコーエプソンにあります。携帯電話機用パネルにとって最も重要な生産変動への対応というテーマは、セイコーエプソン流のサプライチェーンで解決できます。
また、従来は販売部門がそれぞれ三洋電機のセミコンダクターカンパニーやセイコーエプソンの電子デバイス営業本部の中にありました。今回の事業統合で、自ら販売部門を持つことができました。顧客であるセットメーカーへの対応も従来より手厚くできますし、マーケティング情報もダイレクトに入手できるようになります。これも大きな変化であるといえます。
──中小型液晶パネルは非常に好調ですが、アジアの液晶パネルメーカーにも参入を目指す動きが見られます。
田端 競争は激しくなるでしょう。しかし、中小型パネルは、モニタ用などの大型パネルとは異なります。大型パネルは、パネルも駆動用ICも標準品で組み立てられるものであり、いわば「ねじ・くぎ」のようなもの。これに対して中小型パネルは、顧客ごとのカスタム性が高く、顧客の要求をどれだけ満たせるかという製品です。「安ければ、どこの製品でもいい」という「力まかせ」の性質のものではありません。
しかも、中小型パネルをセットメーカーに採用してもらうには、設計段階からデザインインしていかねばなりません。このため、どこかのメーカーが市場を独占するというような形にはならず、競争が激化しても、シェアもある程度は分け合うということになるでしょう。顧客との信頼関係も必要で、簡単にアジアの液晶メーカーが参入できるというものではないと考えます。サプライチェーンの違いもあるので、やはり強敵となるのは国内メーカーです。
人材の有効活用で設計部門強化 顧客対応力の向上を図る
──カスタム性が高いだけに、顧客対応力が問われます。
田端 事業統合によるメリットは多くありますが、人材の有効活用という点も大きいです。かつては、両社がそれぞれに品質保証の部門を持たねばなりませんでしたが、事業統合により共通化が図れます。そこにいた技術者たちを設計に回すことが可能になりますから、技術者の数は両社を足して2倍になるのではなく、3倍になります。顧客企業に対しては、使い方だけでなく、基礎技術の提案をする必要もありますし、長期の商品戦略を互いにキャッチボールできる力も必要です。人的資源が有効に使えるというのは大きなメリットです。
もちろん、これだけで十分ではありません。05年度からSTN型パネルの生産を中国の蘇州に全面移管するなど、生産再編で効率化が図れ、生産能力は高まります。が、それをフルに稼動させるには、セットメーカーとの窓口となる設計部隊が不足します。関西では大阪の都心に三洋電機が設計部隊数10人を配置したデザインセンターを置いていましたが、これを引き継ぎ100人規模に強化します。一方、東京にも、05年度にはデザインセンターを設置するつもりです。東京は、顧客数も多いため、将来は200人規模にしたいと考えています。設計の場合、液晶パネルの特性を熟知していなくても、半導体や回路技術に精通していればよく、東京や大阪なら新規の採用も比較的容易でしょう。
──セイコーエプソン、三洋電機との関係はどうなりますか。
田端 セイコーエプソンは半導体と水晶製品、三洋電機も半導体と電池や電子部品に特色ある技術を持っており、これらに液晶パネルをプラスします。液晶は画像処理技術を必要としますが、逆に半導体部隊だけでは画像処理技術を使いこなすことは困難です。液晶が半導体をリードし、どういう技術を半導体の中に組み込むべきかを考え、液晶システムとして顧客に提案するかがポイントです。セットメーカーに対しては、セイコーエプソンや三洋電機も巻き込んだコンポーネント・クロスファンクショナル・チームとして対応する。単なる中小型の液晶パネルメーカーではなく、半導体との連携で日本の技術力や顧客企業のノウハウを守りたい。「三洋エプソンイメージングデバイス」という社名も、こうした考えを表しています。
──中小型液晶の将来性と三洋エプソンイメージングデバイスとしての目標は。
田端 04年度はデジカメメーカーが強気の計画を立てていましたが、予想より伸びず下方修正を行っています。しかし、4500万台が6000万台になるというのは、大きな伸びです。携帯電話機も含め、世界的には市場拡大が続くと考えています。さらに携帯映像端末など、新たな用途も広がっていくと考えられます。
当社が持つ4種類の液晶パネルを徹底的にチューンアップし、基本性能を高めることで、10年後には売上高1兆円の会社にしたいと考えています。また、できるだけ早い時期に利益率15%と、デジカメ・携帯電話機で50%、車載端末で30%のシェアを獲得することを目指します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
一貫して半導体畑を歩んできた田端社長。新会社にとっても「母体であるセイコーエプソンや三洋電機の半導体部門との連携がキーポイントになる」とみており、ディスプレイ側から、今後求められる画像処理技術の開発を引っ張っていく考え。
また、新潟県中越地震により被害を受けた新潟三洋電子が供給していた液晶駆動ICを東北エプソンから代替供給させるなど、グループ内の資源を有機的に活用することにも意欲的だ。
一方、「半導体に比べ、信頼性が2ケタ低い」という液晶パネルの高信頼化も大きなテーマ。まずは、現有のパネルの基本性能を高めることに注力し、トップメーカーとしての地位を確保する。その先のステップとしては、エプソンや三洋が開発する新たなディスプレイの量産に円滑につなげていきたい考えだ。(逢)
プロフィール
田端 輝夫
(たばた てるお)1949年5月6日生まれ、群馬県出身。74年3月、東京大学大学院電子工学科修士課程修了。74年4月、東京三洋電機入社。94年12月、半導体事業本部BIP-LSI事業部技術部長。00年4月、新潟三洋電子副社長。01年2月、三洋電機セミコンダクターカンパニーLSI事業部長。02年4月、セミコンダクターカンパニー副社長を兼務。02年6月、執行役員。03年4月、執行役員コンポーネント企業グループディスプレイカンパニー社長兼鳥取三洋電機取締役。04年4月、常務執行役員。04年10月から現職。
会社紹介
セイコーエプソンと三洋電機の合弁会社として、2004年10月1日にスタートした新会社。資本金は150億円で、出資比率はセイコーエプソン55%、三洋電機45%。セイコーエプソンと三洋電機およびその子会社の鳥取三洋電機・三洋LCDエンジニアリングが保有する液晶ディスプレイ事業を統合し、STN、MD─TFD、アモルファスシリコンTFT、低温ポリシリコンTFTの4種類の液晶ディスプレイをラインアップに持っているのが特徴。
事業統合にともない、鳥取事業所はアモルファスシリコンTFTと低温ポリシリコンTFT型パネルの小型化推進を加速。一方、松本本社はSTN型パネルの生産を04年度中に終了させ、中国・蘇州に移管。MD─TFD型パネルの生産に特化する。
会社発足後の04年度下期は、当初2000億円の売上高を見込んでいたが、デジタルカメラ生産が期初見通しを下回ったため、売上高もやや計画を下回るものとみられる。