アジア勢による攻勢と国内市場の成熟化で、競争に拍車がかかるパソコン関連製品。大手各社は、生き残りを賭け、新規分野への参入やブランド力浸透のための戦略を加速させている。パソコンサプライ最大手のエレコムも、周辺機器メーカーのロジテックを傘下に収めるなど、攻めの姿勢を明確に打ち出している。
ロジテックは買収でなく、事業再生 選ばれるベンダーを目標に領域拡大
──メモリ分野への進出や周辺機器メーカーの買収と、積極的な事業領域拡大が目立ちます。
葉田 エレコムのキーワードは、常に成長し続けることです。3年ほど前までは堅調に推移しましたが、市場自体の成長が減速し、当社のシェアは上昇するものの、売り上げの伸びが鈍化してしまいました。このため、この3年は私も外に出ることを控え、開発人員の増強や品質管理・ユーザーサポート部隊の設置など内部体制の充実に積極投資してきました。既存分野の市場拡大が鈍化するなか、さらなる成長戦略として考えたのが、パソコン、周辺機器とデジタル家電の融合領域です。そういうジャンルに進出し、新しいマーケットに打って出ようということです。
──パソコンの普及が一巡し、関連製品市場もいったんは踊り場にきたということですか。
葉田 あくまで軸足はパソコン関連事業に置きますが、そういう認識というか、危機感をもって経営に臨むべきだということです。ハードディスクにしても、買っている量からすれば家電メーカーの方が多いわけですから。
販売店の統合が進む一方で、ベンダーは乱立しています。経済の原則から考えて、ベンダーもある程度は統合があって当然です。そこで勝ち残るには、「選ばれるベンダー」にならなければなりません。販売店を通さないパソコン販売が登場し、米国では店頭に並ぶパソコンは数社という状態になっています。日本の店頭市場も変わる可能性があります。そのなかで、ゴルフに例えるならベンダーが「ミドルホールは常に1オンしていた」というようなかつての成功体験にひきずられ、経営手法を見直さないというのでは、成り立っていきません。エンドユーザーを真摯に見つめ、品質やサポート、保証といったものもトータルに考えて信用力を高め、マーケティングを行うというのは、本来当然です。選ばれるベンダーになるための自助努力が必要ということです。
──ロジテックの買収も、そこに結びつくということですか。
葉田 買収という取り上げられ方をされることが多いですが、これは「友好的な事業再生」です。いい商品を作らなければ、選ばれるベンダーになりません。一方で、機器はいろいろな使い方をされるようになっており、検証も複雑になってきます。ロジテックを傘下に収めることで、そうしたスキルも強化できます。もともと製品の競合はありませんし、エレコムにはマーケティング力・販売力・海外調達力があり、ロジテックには技術力・検証力・保守メンテナンスのノウハウがあります。互いの強みを結びつければ、これほど相乗効果の見込める組み合わせはありません。たまたま経営不振に陥っているが、当社から見ればロジテックは〝宝の山〟です。構造不況業種とは違い、まだまだ成長の余裕があり、打つべき手もいくらでもあります。
──具体的に期待するものはなんでしょうか。一方で、企業文化の違いもあると思いますが。
葉田 互いにフィードバックできるものは無数にあると思いますが、商品面でのシナジーとしては、ロジテックのNAS(ネットワーク・アタッチト・ストレージ)とエレコムのネットワーク事業をどのように結びつけていくかということでしょう。もちろん、そのほかにもいろいろ考えていきます。
企業文化については、エレコムは「お客様に喜んでいただく」という成果に焦点をあててきており、それを理解して仕事をするなら誰でも構わない、という風土があります。ロジテックは、技術や信頼性は素晴らしいが、マーケティングや調達に問題がありました。これは、エレコムのチャネルを使えば解決できますので、成果を生み出すことができるでしょう。
──法人向けビジネスの強化も、ロジテックをグループに加えることで期待できます。
葉田 ロジテックの筆頭株主であった丸紅インフォテックは、エレコムとロジテックにとって共に大事なお客様です。当社による株式取得後も、2年かけて販売体制を徐々に再構築しますし、2年後以降も、丸紅インフォテックに販売していただくロジテック商品の比率は高いと思います。株式取得は友好的な事業再生が目的であって、販売面も含め、ウィン─ウィンの関係を目指します。もちろん、ロジテックが独立系の当社のグループに入ることで、他の代理店にご協力をお願いすることも出てきますし、それによる法人向けビジネスの強化も期待しています。
近くイタリアに現地法人設立 グループ経営で世界に展開
──成長戦略の一環として海外展開も積極的です。
葉田 当社の海外展開は、日本に来られた外国企業の方がエレコム製品を自分の目で見て、「この製品が欲しい」、「エレコムと商売をしよう」と思っていただいたことから始まっています。やみくもに売り込みに行っても事業としては成功しません。これまで、アジアと欧州に4つの拠点がありますが、すべてお客様からの引き合いがスタートです。今度は新たにイタリアにも現地法人を作る予定です。トップになるイタリア人は、コンピュータ関連分野の開発出身で、開発も手掛けたいというので、イタリアには開発部隊も置きます。欧州は、規格や嗜好も日本と異なり、特有の製品もありますので、イタリアだけでなく、イギリス法人にも開発部隊を置くつもりです。
──事業領域が拡大すると、組織や体制も変えていく必要があります。
葉田 これまでは、私のワンマン経営であったかもしれませんが、ロジテックにも、海外子会社にも、それぞれに社長がいます。これからはグループ経営をやらなければ、と思いました。個人的には一抹の寂しさもありますが、変わらなければいけません。海外の場合なら、経営の現地化も必要で、親会社・子会社という概念に縛られず、相乗効果を得られるようにしたい。
その一方で、グループ全体の管理体制は必要です。本社内に業務統括部を置き、国際的なファイナンシャルプランナー資格を有する人やMBA取得者などを中途採用し、体制構築を進めています。それを踏まえ、拠点の増える欧州では、この時点でいったん地ならしをしようと考えています。
──エレコムは、まだまだ変貌しますか。
葉田 日本国内でのイメージも、まだ定まったものでないと考えており、これからも変わっていきます。ブランドイメージを固定化させたくはありません。今の段階の優先順位は、ロジテックと欧州が高いですが、米国もいろいろ考えています。また、パソコンとデジタル家電の融合領域の製品もどんどん出していきます。新しいイノベーティブな市場において、「イノベーティブで尖がっているエレコム」というイメージを付けていきたいです。そのためにも、当社に興味をお持ちの企業には、どんどん声をかけていただきたい。今は通過点で、M&A(企業の合併・買収)もロジテックで終わりということは絶対にありません。
眼光紙背 ~取材を終えて~
常にエレコムの陣頭に立ち、国内外を飛び回っている、というイメージの強い葉田社長。しかし、本人は「最近は営業にも出ていないし、アクティブなことはしていない」と否定する。
現在、力を注いでいるのは「5年、10年先を見た成長戦略を作って動くこと」という。事業領域が拡大するなか、権限委譲をしたうえで、エレコムグループとしてのマネジメントを確立させることが重要とみている。
その10年後のエレコム像は、「理想を言えば、日本、米国、欧州の3極に統括本部を置く体制」だ。本社もどこになるかはわからないが「間違いなく東京にはいない」という。
もちろん、本心を言えば「大阪を離れるようなことはない」ということのようだが、状況に応じた適地主義という考えであることは確かだ。(逢)
プロフィール
葉田 順治
(はだ じゅんじ)1953年10月13日生まれ、三重県出身。76年3月、甲南大学経営学部卒業。86年5月、エレコムを設立し、取締役に就任。92年8月、常務。94年6月、専務。94年11月から代表取締役社長。
会社紹介
エレコムは、パソコンサプライ製品の最大手。1986年にOA家具からスタートし、さまざまなアクセサリーを展開。90年にフロッピーディスクドライブを発売し、ハードウェアにも参入した。
最近は新たな成長を目指し、製品開発要員を倍増させ、サプライ製品以外の領域への拡大を図っている。04年もメモリ製品への参入やソースネクストとの提携によるパソコンソフト付USBフラッシュメモリの発売、AV(音響・映像)分野への参入第1弾となったスピーカ付イヤホン「イヤホルン」のグッドデザイン中小企業庁長官特別賞受賞、周辺機器メーカー・ロジテックの買収など、常に話題を提供している。
一方、海外での事業拡大にも積極的。03年3月のエレコムUK(英国)に始まり、同年7月にはエレコム・コリア(韓国)を設立。04年も7月に宜麗客(上海)貿易有限公司(中国)、9月にエレコム・ドイチェラント(ドイツ)とペースを緩めず、近くイタリアにも現地法人を設立する予定。