クレオがビジネスの方向転換を始めた。ソフトウェアのパッケージ製品の販売に加え、ミドルウェアビジネスの拡大を図っていく。ソフト開発の価格競争が激しさを増すなか、技術力という強みを生かし、顧客企業ニーズに合わせた付加価値サービスの創出を徹底。その一方で、開発コストの抑制に努めることで低価格化にも対応する。昨年12月7日付で社長に就任し、再び経営の指揮を執ることになった川畑種恭氏は、「他社には真似できない新しい“モノづくり”に徹する」と意欲を燃やす。
ミドルウェアビジネスに参入、05年度に20億円の売り上げ狙う
──ソフトウェアのパッケージ販売だけでなく、ミドルウェアビジネスにも力を入れるそうですね。
川畑 当社は、ハガキ作成ソフト「筆まめ」の住所録機能をはじめ、会計システムの「CBMS(クレオ・ビジネス・マネージャー・シリーズ)」など、データ管理分野の技術に関して他社より優れているという自信があります。ミドルウェアは、ハードウェアとの接点を見出すことで効果を発揮します。ユーザーニーズを的確に捉え、当社がこれまで開発してきたパッケージ製品の各機能を取り出し、さまざまなハードウェアとつなぐことで新しいサービスを提供していきます。
新サービスの1つとして、筆まめの住所録機能の技術を応用し、携帯電話向けにアプリケーションサービスとして仕上げた「携帯レスキュー」を今年2月から提供開始しました。このサービスは、インターネットサービス「筆まめBBサービス」を通じて、携帯電話の中にあるアドレス帳など、個人データのバックアップおよびセキュリティ保護を行うというものです。携帯電話を紛失した際に、遠隔から個人情報の更新や消去などができるほか、パソコン上で筆まめを利用していれば、パソコンの住所録データと携帯電話のアドレス帳が連係します。
ミドルウェアビジネスという観点では、このサービスが第1弾となります。
──ビジネスの方向転換を決断された背景は。
川畑 多様化するニーズに対応していくためには、これまで開発してきた各製品それぞれの機能を切り分けたり、組み合わせられるカスタマイズ力が勝負になってきます。
また、本来は全ての社員が当社の強みであるベーシックソフトを次々と開発するマインドを持っていたのですが、「“背骨”を忘れてしまった」と言えばいいのでしょうか、“モノづくり”という意識が社内の中で薄れているように思えます。
それは、売り上げを増やすことだけを重視したからだと考えます。もちろん、企業が存続するうえで売り上げを伸ばすのは重要なことですが、強みを持たなければ激しい競争のなかで生き残っていけません。当社は、売り上げを重視するあまり、根幹になるソフト開発の部分をアウトソーシングしてしまいました。そのため、市場環境が激しく変化しているにもかかわらず、新しい技術を使ったビジネスが展開できなかったり、価格競争などに対応できなくなってしまったのが現状です。
地に足が着いた状態で業績を伸ばすことは良いのですが、環境が変わった途端、売り上げが極端に落ち込むのでは意味がない。これまで当社が蓄積してきたノウハウを強さに変えるためにも、ミドルウェアの強化が必要だと判断しました。他社が真似できないサービスを次々と提供し、確実に業績が伸ばせる企業に生まれ変わってみせます。
──ミドルウェア開発の分野は競争が激しいと聞きます。勝算はあるのですか。
川畑 確かに、ソフト開発の分野はユーザー企業の価格要求が厳しく、ミドルウェア開発でも、価格競争が激しくなっているのは事実です。低価格でも利益を増やしていくためには、パッケージ製品を開発する際、各機能を容易に切り離せるような作り込みを徹底することがポイントとなります。これまで当社が開発してきたパッケージソフトは、各機能を切り分けて提供できるようにしています。その機能をミドルウェアとして提供できるので、こうした点で、先行している競合他社に対抗できると考えています。
──ミドルウェアが利益を生むビジネスとして定着するのはいつですか。
川畑 来年度(2006年3月期)です。ミドルウェアに方向転換したからといって、すぐには成果が出ないため、残念ながら今年度(05年3月期)は売上高で前年度並みという見通しを立てています。しかし、悠長なことは言ってられません。来年度には、ミドルウェアビジネスで20億円の売上規模を見込んでいます。これが上乗せされることに加え、ミドルウェアによる他事業との相乗効果も期待できますので、全体の売り上げも確実に増加させます。
ヤフーとの資本・業務提携、新しいサービスの創出が狙い
──ヤフーと資本・業務提携を結んだ意図は。
川畑 ヤフーさんと当社のコラボレーションで、新しいサービスを創出するのが最大の狙いです。500万人の会員を持つヤフーさんのバリューやコンテンツ提供のノウハウに、当社の技術を組み合わせれば、ユーザーに対して付加価値が提供できるのではないか、と考えました。
具体的なサービス内容は今後詰めていきますが、ヤフーさんのポータルサイトに、当社の住所録機能や会計システム機能、電子会議システム機能、携帯電話のアプリケーション開発技術などを提供することを模索しています。たとえば、インターネットで住所録が管理できるだけでなく、住所録機能を搭載した筆まめのパッケージソフトとネットの連係をさらに強化することで、これまでにない新しいサービスが生まれると確信しています。すでに、新しいサービスを創出するためのプロジェクトがいくつか動いています。来年度早々には、2社共同による第1弾のサービスを開始する予定です。また、ヤフーさんが行っているコンテンツ提供をサポートするために、当社の技術者を派遣しています。
──今後も、提携やアライアンスを行っていくのですか。
川畑 現段階では、具体的なものは出ていませんが、アプリケーションを持つシステムインテグレータなどと積極的にアライアンスを組んでいきたいと考えています。また、当社の技術をOEM(相手先ブランドによる生産)で提供することも計画しています。
極端な話ですが、当社に依頼してくるシステム案件は変わったものが多かった。これは、顧客企業が「クレオにしかできない」と考えたからで、当社を信頼している証です。当社はとことん技術力で勝負する。協業できる企業とは当社の技術力を余すことなく提供するなど、パートナー関係を深め、当社に足りないものはパートナーから支援を受ける。このようなスタイルを構築することで、当社でなければ開発できないものを作っていきます。
──コンシューマ向けパッケージソフトの拡販策については。
川畑 積極的に販売拡大に向けた施策を打っていきますが、箱売りは今後も厳しいと考えています。しかし、売り上げは伸ばさなければならない。ビジネスソフトにおけるハードウェアはパソコンでなければならないという考えを捨て、携帯電話への対応といったパソコン以外のハードウェアをインフラにすることや、インターネットと絡めたサービスなどが重要になってきます。ユーザーがパッケージソフトを購入すれば、パソコンでの活用に加え、さまざまな付加価値が得られるようなビジネスを展開していくつもりです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
会長兼最高経営責任者から取締役相談役として一旦はトップから退いた川畑氏が、社長として再びクレオの舵を取ることになった。相談役になったのは、「これからは若い者に任せたほうがいい」との思いからだった。しかし、「技術力で勝負できる企業に復活させる」と再び社長に復帰した。
同社の現状を、「“背骨”が弱くなっている」と例える。ソフト開発の技術力が衰えたわけではないにもかかわらず、売り上げを伸ばすために、根幹のソフト開発をアウトソーシングし、強みとなる技術力を捨てようとしていたからだという。
「“背骨”をしっかりとした固いものにしていく」。ハガキ作成ソフトの「筆まめ」はトップシェアを維持している。同社のソフト開発の質は決して落ちたわけではない。新しいクレオに生まれ変われるかどうか。川畑氏の手腕にかかっている。(郁)
プロフィール
川畑 種恭
(かわばた たねやす)1940年9月8日生まれ、東京都出身。66年3月、東京理科大学理学部卒業。74年3月、東海クリエイト(現クレオ)設立に参加し、代表取締役専務に就任。79年6月、代表取締役社長。93年6月、代表取締役副社長。97年6月、代表取締役会長。00年6月、代表取締役会長兼最高経営責任者。04年4月、取締役相談役を経て、同年12月に代表取締役社長に就任。
会社紹介
クレオは、「東海クリエイト」という社名で1974年に設立。80年にパソコン用パッケージ分野に進出した。83年には、日本語ワープロソフト「ユーカラ」シリーズを発売。同製品は、累計販売で約15万本を達成した。コンポーネント型ソフト「BUSI COMPO」は、89年の発売後1年間で約3万5000本の販売実績をあげた。
90年には、ハガキ作成ソフト「筆まめ」シリーズを市場に投入。ハガキ作成ソフト市場では、現在、同社がシェアトップに君臨している。
00年には、ウェブサイト「筆まめネット」を開設。02年には、ブロードバンドに対応した「筆まめBB」のサービスを提供開始し、ユーザーが筆まめの住所録機能をサイトで管理できるなど、パッケージソフトとインターネットの連係を追求した。
ユーザーが住所録機能を年賀状などのハガキ作成で使うことに加え、会社員が取引先の住所録管理にも活用するなど、用途が広がっている。今年に入ってからは、携帯電話からも住所録の閲覧や管理が可能なサービスを提供している。