NTTグループでネットワーク関連のシステム構築を手がけるNTTコムウェアが、NTTグループ向け市場でのシェア拡大に動き出した。固定電話などの通信関連市場は、ブロードバンド網の普及に伴うIP(インターネットプロトコル)電話の登場で厳しい状況が続く。そんななか、NTTコムウェアではIPなどのネットワーク関連分野を自社の強みとし、NTTグループの後方支援に力を注ぐ。無線タグやLinuxなど先進技術の開発にも着手し、ビジネス領域を拡げていく。今井郁次社長は、「NTT関連市場でシェアを伸ばせなければ、他の市場でも伸ばせない」と言い切る。
NTT関連市場でのシェアを確保「選択と集中」を徹底
──ネットワーク関連分野をはじめとして、さまざまなコア技術を持っておられますが、システムインテグレーションという点ではNTTコムウェアの強みが発揮できていない印象があります。
今井 確かに、当社は設立して7年余りとシステムインテグレーション業界では後発組であったため、これまでは手探りにならざるを得ず、どのような案件にも飛びついて「何でも行います」という姿勢をとっていました。そのため、当社の特徴が明確に出せず、結果的にビジネスとして拡大できなかったケースが多かったのも事実です。だからこそ、強みが発揮できる分野や市場に特化していくことが重要だと判断しています。企業規模が縮小する危険性があるため、経営的には難しい決断になりますが、今後は「選択と集中」に徹していこうと考えています。
さまざまなシステム案件を手がけていくうえで、当社の強みとして浮かび上がるのはネットワーク関連分野です。この分野では、当社の技術力はトップクラスだと自負しています。また、どの市場でシェアが高いかといえば、NTT関連市場です。このスタンスを変えずに業績を伸ばしていく方針です。
「選択と集中」は、社員にも当てはまります。当社は、IPネットワーク技術や大規模ソフト開発、運用サポートに関して高い技術力を持っている。これに業務専門性というアプリケーション技術を身につけることで、社員1人ひとりのスキルをアップさせます。そのため、昨年は「業務専門家育成塾」という業務スペシャリストを育成する教育プログラムをスタートしました。これにより、顧客ニーズに即したシステムを提案できるような教育を徹底しています。
──ネットワーク関連分野での拡大策は。
今井 IPをベースとしたソリューションとして、次世代ネットワークシステム「NEXIPT」を開発しました。これは、NTTグループ各社が導入しているほか、NTT以外の市場でも拡販を図っています。このネットワークシステムをベースに、アプリケーションを含めたソリューション提案を行っていきます。
また、IPをベースにしてCRM(顧客情報管理)システム、SCM(サプライチェーンマネジメント)システム、ERP(統合基幹業務システム)との連携ソリューションを提供する計画です。企業がCS(顧客満足)を向上するためには、顧客の声を営業などのフロント部門だけでなく、工場などバックヤード部門にも反映できることがポイントになります。営業担当者だけでなく、工場のスタッフもダイレクトに伝わってくる商品トラブルや修理の問い合わせなどをCRMで蓄積し、新しい商品につなげる。これを、SCMとの連携でできるだけ早い時期に出荷・配送ができる体制を整える。さらに、ERPとの連携で経営部門などが売り上げに計上する。こうした一連の事業サイクルが可能なソリューションに仕上げます。
──NTTグループの業績は厳しい状況が続いています。NTTグループを顧客にして業績が伸びるという確証はあるのですか。
今井 通信関連市場が熾烈な競争下にあり、厳しい状況にあることは確かです。しかし、当社のシェアが高いNTT関連市場でシェアを伸ばせなければ、どの市場でも伸ばせないと考えます。
国内IT市場は数年間、前年比でマイナス成長が続いていましたが、2004年に前年比1%強のプラスに転じました。しかし、ユーザーのIT投資に対する見方は厳しく、高いコストパフォーマンスが求められているのが現状です。システムインテグレータにとっては、売り上げや利益を伸ばすのは大変厳しい状況だと考えています。
特に、当社にとって大きな市場である通信の世界ではダウンサイジングが起こっています。大きな投資が必要だった従来のネットワークインフラ上で展開されてきた各種サービスは、IPベースに取って代わられ、通信サービスの単価が大幅に落ち込んでいます。通信サービスは従来、誰でもどこでも均質で、しかも高信頼性が大前提でしたが、インターネットの登場でベストエフォート型が受容されるようになってきました。
そのため、NTTグループ全体で業績を伸ばしていくためには、グループ全体で提唱しているユビキタス社会の実現に向けた取り組み「レゾナント構想」を拡大していくことが重要になってきます。この構想をベースとしたソリューションを次々と実現していくには、ネットワークを中心としたコア技術を持つ当社が果たす役割は大きいといえます。極端な話ですが、技術面で当社がNTTグループの中核会社として力を発揮し、NTTグループの業績拡大の底上げにつなげたいと考えています。そうすれば、結果的に当社の業績も上がると試算しています。
ICタグやOSSを拡大、先進技術の開発に意欲
──新しいビジネス領域への参入は。
今井 IPで発展していくビジネス領域には、ユビキタス社会を象徴する技術として期待されるRFIDなどの無線タグがあります。当社は、RFIDの研究開発および具体的なシステムへの適用に積極的に取り組んでいます。経済産業省の「平成16年電子タグ実証実験事業」で日本百貨店協会と日本アパレル産業協会が主体となり実施されたICタグの実証実験にも参加しました。実証実験では、「RFIDミドルウェア」の提供とシステム構築を当社が担当し、参加者から実用性で高い評価を得たと確信しています。
──LinuxなどのOSS(オープンソースソフトウェア)についても積極的に取り組んでいますね。
今井 ネットワーク構築を中心に顧客ニーズに合ったソリューションを提供するには、ウィンドウズOSだけでなく、OSSも視野に入れていかなければなりません。
OSSは、日本のIT市場の新しい潮流になると考えています。国内では、産学官の連携基盤となる「日本OSS推進フォーラム」が設立され、政府および関係団体などでOSSを普及させる活動が盛んになってきました。地方自治体レベルでは、40を超える自治体がOSSを活用するケースが出ています。海外では、アジア地域でOSSをテコにIT化を推進する動きが加速しています。日本、中国、韓国の3国連携によるOSSの普及、活動もあります。
OSSにおける当社の取り組みについては、99年に「Linuxセンター」を設置したほか、「日本OSS推進フォーラム」や、ワールドワイドのLinuxコミュニティである「オープン・ソース・デベロップメント・ラボ(OSDL)」などに参画しています。 また、NTTグループでは次世代ネットワークおよびLinuxを社内導入するプロジェクトがあります。当社が中心となり、NTTグループ各社との連携でプロジェクトを遂行していきたいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
今井氏がNTTコムウェアの社長に就任したのは2004年6月。10か月近くが経過し同社の方向性として、「当社の強みをとことん伸ばしていく」決断を固めた。同社が強みとするビジネスは、NTTグループ関連を顧客としたシステム構築。「NTT市場でのシェアをさらに伸ばしていく」と意欲を燃やす。
これは、「強い市場でシェアを伸ばせなければ、新しい市場に参入してもビジネス拡大は難しい」との考えから。まずは土台を固めるわけだ。
しかし、NTT関連市場だけに固執しているのでは、業績が落ち込むリスクもある。現にNTT本体は業績が伸び悩んでいる。だが、「当社がコア技術を提供し、NTTグループのビジネス拡大に貢献する。そうすれば、NTT市場はさらに拡大し、当社の売上増にもつながる」と判断。NTTグループの業績アップに手腕を発揮する方針だ。(郁)
プロフィール
今井 郁次
(いまい ゆうじ)1943年1月8日生まれ、三重県出身。68年3月、信州大学卒業。同年4月、日本電信電話公社(現日本電信電話)入社。85年6月、日本電信電話データ通信本部公共事業部システム統括部長。88年7月、NTTデータ通信人材部長。95年7月、同社理事産業事業本部システム事業部長。97年6月、同社カードサービス本部長。99年6月、NTTデータ常務取締役関西支社長。02年4月、同社常務取締役法人システム事業本部長を経て、03年6月にNTTコムウェア代表取締役副社長に就任。04年6月、代表取締役社長。
会社紹介
NTTコムウェアは、1997年4月1日に「NTTコミュニケーションウェア」として発足。同年9月から営業を開始した。NTTグループの社内システム構築を中心としたビジネスを手がけ、NTT向け市場からの売上高が全体の8割以上に達している。
ネットワーク関連システムの構築を得意としており、最近ではIP電話ビジネスの拡大に力を注ぐ。これにより、NTTグループ以外からのシステム案件も増えている。また、無線タグビジネスにも着手。経済産業省の「平成16年電子タグ実証実験事業」では、日本百貨店協会と日本アパレル産業協会が主体となり実施したICタグの実証実験にも参加した。
Linuxをベースとしたシステム開発にも力を入れている。99年には、Linuxのシステム開発・検証を行う「Linuxセンター」を設置。OSS(オープンソースソフトウェア)を推進する政府主導の「日本OSS推進フォーラム」や、ワールドワイドのLinuxコミュニティ「オープン・ソース・デベロップメント・ラボ(OSDL)」などに参画している。
最近では、大規模基幹システムの構築も行っている。Linuxビジネスでは、ブロードバンド対応の超小型Linuxサーバー「L-Box」が大阪の国立循環器センターに、実用化に向けてテスト導入されている。同サーバーを核に、救急車内の患者の容体画像や心電図、体温、脈拍などの生体情報を、病院のパソコンにリアルタイムでモバイル伝送するシステムを提供。病院の医師から救急車の救命士に的確な指示が伝えられ、適切な病院への搬送、病院到着前の最適な受け入れ準備が可能になった。