リコーグループの保守サービス会社、リコーテクノシステムズ(RTS)がITサービス事業を強化している。親会社のリコーは、2008年度(09年3月期)にグループ全体のITサービス事業の売上高を1000億円に拡大させる方針を掲げており、同事業はリコーグループ全体の強化ビジネス。RTSはその中核的役目を担う。川村收社長は、ITサービス事業を拡大するためのカギは「CE(カスタマーエンジニア)のスキル向上」と説き、“提案力を持つCE”の育成に力を注ぐ。
全国239か所のサービス拠点を武器に、ワンストップでサービス提供
──ITサービス事業を積極化させています。IT市場でOA機器保守サービス会社の強みをどのように生かしていきますか。
川村 リコーテクノシステムズは、OA機器の保守サービスがメインビジネスです。リコーの販社が販売してきたPPC(複写機)やMFP(デジタル複合機)の保守・修理サービスに強みを持っています。リコー製PPCだけでも、保守サービスを提供している顧客数は約30万社に及びます。
ですが、これら顧客に情報システムやネットワーク構築などのITサービス領域でもユーザーになってもらえているかというと、そうではありません。PPCやMFPはリコー製品を使い、リコーテクノシステムズと保守契約を結んでいたとしても、IT関連の案件は他のITベンダーに任せている顧客が少なくとも半分以上はいるでしょう。
ITサービスといっても、これまで全くやっていなかったわけではありません。提供できる基盤があったのに、ITサービスの要望があった時にだけ提供していた程度で、積極的に売り込んではいなかったのです。ですから、まずはこの意識を変え、PPCやMFPの保守サービスを提供している全顧客に、ITサービスでも積極的にアプローチしていきます。すでにPPCやMFPの保守でお付き合いしているということは、大きなメリットですから。
PPCやMFPは、パソコンやサーバー、そしてネットワークにつながるようになり、OA機器とIT機器の垣根はなくなりつつあります。この流れは、リコーテクノシステムズのビジネスにとって追い風です。ユーザーはOA機器だけでなく、ITシステムの保守や新たなITサービスもワンストップで提供して欲しいと望んでいます。リコーテクノシステムズは、OA機器の保守・修理も、ITシステムの保守・修理も手がけられるノウハウがあります。保守だけでなく、ITサービスメニューも揃っています。また、全国239か所にサービス拠点を置き、カスタマーエンジニア(CE)は約3000人おり、充実した営業・サービス提供体制も築いています。コンピュータメーカー系の保守サービス会社にも、システムインテグレータにもない武器がいくつもあるわけです。ITもOA機器もネットワークもすべて含んだ“オフィスソリューション”を全国レベルで提供していくつもりです。
──ITサービスの強化は、リコーテクノシステムズだけでなく、リコーグループとしての方針でもありますね。
川村 確かに、ITサービスはリコーグループ全体の強化ビジネスです。リコーは2004年6月に、03年度(04年3月期)の売上高で300億円だったグループ全体のITサービス事業を、08年度(09年3月期)には1000億円まで拡大させる方針を掲げました。リコーテクノシステムズはその中核をなす存在です。目標売上高1000億円のうち、約半分はリコーテクノシステムズが稼ぐつもりです。
──グループ間の連携も必要になります。
川村 その通りです。売上高1000億円の突破を達成するうえで、全国に点在する約40社のリコーの販売会社とは、特に連携・協業する必要があると思いましたから、すでに手は打っています。
リコーグループとして、ITサービス事業は最近始めたわけでなく、リコーテクノシステムズやリコー販社からも、そしてリコーからも提供していたのですが、足並みが揃っていませんでした。各販売会社や各地域で提供しているサービスレベルやメニューが統一されていなかったのです。
ここに問題があると思い、サービスレベルとメニューの統一を図りました。これまで各社、各地域の営業拠点ごとに個別で持っていたサービスやノウハウを集結させ、リコーのグループ会社すべてが統一して販売するITサービスメニューを作ったのです。それが、ITサービスの総合メニューである「ITキーパー」です。「ITキーパー」が生まれたことによって、リコーグループの社員がITサービスを売る時、全国にあるすべての案件で同じサービスを提供できるようになり、サービスレベルの標準化も図れるようになりました。
さらに、リコーの販社とは体制面でも協力しています。東京など一部の地域では、リコー販社のサービス拠点とリコーテクノシステムズのサービス拠点を統合し、体制のスリム化とお互いの企業のノウハウの蓄積を進めています。この取り組みは全国レベルで行っていくつもりで、現在、順次統合を進めている最中です。
“マニュアル型CE”はいらない 技術力、解決力、提案力の3つが必要
──ITサービスを売るとなると、修理・メンテナンスを仕事としてきたCEの仕事やあるべき姿も変わってきますね。
川村 これまでのCEの仕事は、顧客から言われたことをこなすだけでした。ご指摘の通り、これからはそうはいかない。決められたことだけをやる“マニュアル型CE”はいりません。もちろん従来通り、保守・メンテナンスサービスは高い品質で提供し続けるように、技術力の向上を図っていきます。ただ、それだけではダメです。
リコーテクノシステムズが求めるこれからのCEは、技術力に加え、顧客に一歩踏み込んで、顧客の情報システムやオフィスでのワークスタイルを理解し、新たな価値を提案できるスキルが必要になります。技術力、解決力、提案力の3つのスキルを持つCEこそが理想像です。
現在、この3つのスキルを備えたCEは1400人ぐらい育成できていると思います。しかしまだまだ足りない。3年後には3000人のCEすべてが3つのスキルを持つよう人材教育に努めていきます。
──“受け身”で仕事してきたCEに、提案力という“能動的”なスキルを身に付けさせるのは容易なことではない印象を受けます。どのような取り組み・施策を用意しているのですか。
川村 全国のサービス拠点で、CEが日々聞く顧客の意見、要望、課題、そして苦情や褒めてもらった点などをデータベース化して、各CEがいつでも見られる情報システムを作りました。約250か所、3000人のCEが顧客から聞いたことは財産であり、ビジネスのヒントも多いわけです。提案力に優れたCEの業務スタイルなどをモデルケースにし、各CEが顧客と会話する際に役立てています。
また、昨年1月に、CEの業務効率化を推進する「SSプロジェクト」を始めました。修理やメンテナンス、報告などの業務を全国レベルで可能な限り効率化・簡素化できるスキームを作り、これを全国のサービス拠点で実行しています。これにより、CEの提案力や解決力を養う時間を創出しています。
CEは、修理やメンテナンスの度に顧客のオフィスに入れるわけですから、顧客と話す機会も多いし、顧客のIT環境を把握するチャンスも多い。営業担当者よりも顧客に近い立場にいるのです。その立場を利用して、ユーザーとコミュニケーションを多く取り、ITサービスのビジネスチャンスを拾い出してもらいたいと思っています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
カスタマーエンジニア(CE)のスキル向上を強化ポイントに置く。教育プログラムの拡充を進め、CEを“褒める”取り組みも始めている。
「CEは、基本的にトラブルがあった場合に呼ばれる。お客さんに怒られることも多い。裏方で地味な仕事で、スポットライトが当たることもめったにない。力のあるCEを表舞台に立たせたい」という川村社長の思いからだ。
いくつかの評価項目を設け、CEの実力テストを行い、優秀なCEを表彰するイベントを定期的に開催。提案力の優れたCEの1日に密着し、それをビデオに残してCD-Rに書き込み、全国のサービス拠点に配布するなど、施策はさまざまだ。
「減点主義より加点主義で評価する」と、新たなCEの評価基準作りも進めている。CEに“3つのスキル”を求めるなど要求は厳しいが、現場の辛さも十分に理解している。(鈎)
プロフィール
川村 收
(かわむら おさむ)1947年11月生まれ、岩手県盛岡市出身。74年4月、リコー入社。同年7月、リコー東京支店。90年4月、リコー大阪支店。94年1月、リコー仙台支店。99年4月、リコー仙台支店長。01年7月、リコー東北代表取締役社長。03年10月、リコーテクノシステムズ(RTS)代表取締役社長に就任。
会社紹介
リコーテクノシステムズ(RTS)は、リコー製品の保守サービス会社として1977年にスタートしたリコーエレクトロニクスサービスが母体で、88年にリコーテクノネットに社名変更。その後、99年に情報システム構築事業を手がけていたリコー情報システムと統合し、現在の社名になった。
事業内容は、保守サービスとITサービスの2つが柱。保守サービスではリコー製OA機器のほか、パソコンやサーバーなどのIT機器保守・修理も手がける。保守サービス体制として、全国239か所にサービス拠点を設置。約3000人のカスタマーエンジニア(CE)を擁する。
ITサービスは、コンサルティング、ネットワークおよびシステム構築、ITアウトソーシングサービスなどを揃える。
保守サービスが主力事業だが、ITサービスの強化を進めており、昨年度(05年3月期)では全売上高の45%をITサービスが占めるまでに急成長している。今後もITサービスをさらに拡大させる方針で、今年度(06年3月期)には、ITサービスを全売上高の55%にまで引き上げる計画を立てている。