データ通信カードなど通信関連機器を開発・製造する本多エレクトロンが、ビジネス領域の拡大に向け第2ステージに立った。ハードウェアビジネスに加え、システムインテグレーション(SI)ビジネスにも乗り出す。この4月から同社を陣頭指揮する鵜野正康社長は、「ハードだけを売るカラーから脱却し、ビジネスソリューションを提供していく」と意欲を燃やす。
R&Dセンターを持つ強みを生かす、システム開発組織の設置を計画
──本多エレクトロンは、データ通信カードなどの通信関連機器が主力事業ですが、このビジネスを踏襲していくのですか。
鵜野 当社は、R&D(研究・開発)センターを持っており、製品企画から設計、開発、製造、販売といった入り口から出口までのSCM(サプライチェーンマネジメント)が確立していることが強みです。そこで、今後は通信関連機器の販売だけを手がけていくのではなく、当社の強みを最大限に発揮するために、第2ステージとして通信関連機器を含むシステムインテグレーション(SI)ビジネスに着手します。近くシステム開発を専門に手がける組織を立ち上げる計画です。
──具体的にはどのようなシステムを開発していくのですか。
鵜野 まずはデータベースにアクセスできるシステムやメール管理を可能とするシステムです。たとえば、外出先からデータ通信カードを使ってパソコンやPDA(携帯情報端末)から社内イントラネットにアクセスできるという、ハードとシステムを組み合わせたビジネスソリューションを提供していきます。
現段階では、PHS事業者のウィルコムと共同でビジネスを手がけていくことが決まっています。これを機に、携帯電話事業者と協業するなど、通信キャリアとのアライアンスを強化していくことを視野に入れていきます。
また、今後はCRM(顧客情報管理)が可能となるソリューションのニーズが一段と高まってくると思われます。そのため、IP電話ビジネスに参入した、これまでは競合していた企業とも協業できるのではないかと睨んでいます。当社がシステムを開発し、アライアンスを組んだIP電話ビジネスを手がけている企業がCRMを実現するアプリケーションを提供する仕組みです。当社が競合他社が参入しない“隙間”を埋める基盤を作ることで、さらにビジネス領域の拡大を実現できると考えています。
──SI事業を手がけることになった理由は。
鵜野 これまでもシステム開発をビジネスとして行ってきたのですが、顧客から要求があれば開発するという受動的なものでした。しかし、このビジネスは利益が高い。SIビジネスを立ち上げることになったのは、受け身のままにしておくのは業績伸長の機会を失うと判断したからです。しかも、顧客企業からは、通信関連機器と社内システムがシームレスにつながるソリューションのニーズが高まっています。通信関連機器の開発とSIを事業の2つの柱とする。これを実現すれば、大きくビジネス領域を広げることが可能となります。
現段階では開発できないシステムを顧客企業から受注する可能性もあります。そのため、自社で足りない部分をM&A(企業の合併・買収)で補完していくことも視野に入れています。
──国内通信関連機器市場は、国内メーカーをはじめ海外ベンダーも多く参入しており、競争が激しいといえます。勝算はありますか。
鵜野 確かに、通信関連機器ビジネスはグローバルで展開していくことが主流になりつつあり、海外ベンダーが日本市場でシェアを拡大しようと躍起になっています。しかし、基本はいかにローカル性を理解してビジネスを展開できるかどうかです。日本では携帯電話1つとってみても、さまざまな通信事業者やメーカーが存在しています。通信関連分野を細分化し、足りないものは何かというローカルニーズを捉えられるかどうかがカギといえます。
ほかにも、通信関連機器メーカーはIP電話ビジネスにシフトするなど、システム開発のなかでもアプリケーションソフトの開発に力を入れています。当社が展開していくビジネスは、アプリケーションの下のレイヤーですので、他社が参入していない領域でもあります。他社が参入しない理由は、IP電話関連ビジネスを拡大するためのアプリケーションソフト開発に力を入れなければならないためで、その下のコアとなるシステム開発まで軸足を置くことができないからだと認識しています。
──SI事業が軌道に乗るのはいつですか。
鵜野 できるだけ早急に確立していくことに力を注ぎますが、今年度はSIビジネス拡大に向けた種まきの年になると見てます。しかし、もちろん実績は上げていきます。来年度にハードウェア販売とシステム開発の2つを柱としたビジネスで確実に成長する路線を作り、2007年度には当社の売上全体を現状の2倍に引き上げることを狙います。
部品メーカーとの協業強化で、独自のハードウェアを開発
──通信関連機器の開発および販売では拡大策はあるのですか。
鵜野 通信関連機器市場は価格競争が激しく、なかなか利益が出せない状況にあることは否めません。ユーザー企業からの価格要求が厳しいことが最大の原因ですが、ハードウェアビジネスで利益を確保していくためには、製造コストをさらに削減することで対応しなければならないと実感しています。コスト削減を実現するためには、部品調達でこれまでの「1万ロットでいくら」という商談を打破することが1つの手です。そこで、チップなどコア製品を部品メーカーと共同開発していくことを進めます。共同で当社オリジナルのチップを開発すれば、部品調達でコスト削減が図れることに加え、当社独自の通信関連製品の開発にもつながります。市場では小型の製品に需要が高まっています。部品メーカーとのアライアンスを強化すれば、小型製品の開発も可能になります。
──昨年6月にコンテンツプロバイダーのインデックスの子会社になりました。インデックスグループになった効果は。
鵜野 インデックスグループでは、端末販売からコンテンツサービスまでを網羅した“モバイルソリューション”の提供にシフトしています。コンテンツサービスを有効に生かすには、その環境を作るプラットフォームが必要です。当社がシステム開発を行っていくのは、グループ内でモバイルソリューションを提供する中核会社として力を発揮していくための基盤作りでもあります。モバイルソリューション分野でも、コンテンツを下支えできるプラットフォームを開発していきます。通信関連機器メーカーだけではないカラーを押し出していくことで、競合他社と差別化を図っていきます。
──海外市場への参入は。
鵜野 現段階ではまだ何ともいえませんが、国内ビジネスの基盤が固まる1─2年後には海外での展開を検討しようと考えています。参入の際には、たとえば米国の企業とアライアンスを組み、共同で通信関連機器を開発し、米国と日本のマーケットに合った製品をそれぞれの国で販売していくなど、単に販売代理店契約を結ぶのではなく、開発面で提携関係を築き、各地域の市場に参入していくことを考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
本多エレクトロンの社長として同社に入社し初めて感じたことは、「エキサイティングな会社」だったという。「自社で製品企画から設計、開発、製造までを行えるR&Dセンターを持っているのであれば、新しいマーケットに参入できる」。そうした判断から、システムインテグレーション(SI)事業を立ち上げることになった。
同社の親会社であるインデックスに入社する以前は、スリーコムジャパンや日本アバイアなど、海外メーカーの日本法人社長として国内通信関連機器市場を開拓してきた。新しいマーケットでの基盤作りにかけては通信関連業界屈指の逸材といえる。
これまでのノウハウを、ビジネス領域の拡大を狙う本多エレクトロンでも生かしていく。どこまで領域を拡大できるかどうかは、鵜野社長の手腕にかかっている。(郁)
プロフィール
鵜野 正康
(うの まさやす)1977年3月、慶應義塾大学商学部卒業。81年8月、監査法人中央会計事務所(現中央青山監査法人)に入所。85年9月、インテグランに入社し、専務取締役などを歴任。96年10月、ユーエスロボティックスの代表取締役社長に就任。97年11月、スリーコムジャパンの代表取締役副社長に就任。98年10月、日本ルーセントテクノロジーに入社、取締役事業部長に就任。00年10月、日本アバイアの代表取締役社長に就任。05年3月、インデックス入社を経て、同年4月に同社子会社の本多エレクトロンの代表取締役社長に就任。
会社紹介
本多エレクトロンは、通信関連機器メーカーとして1984年4月に設立。本社(東京都中央区)や岩手県花巻市などにR&Dセンターを持っており、自社で製品企画から、設計、開発、製造、販売までを手がける。
データ通信カードをはじめ、無線モデムや半導体製造装置などの開発が中心だが、最近では電力線を用いた通信技術の開発や、RFIDなど無線タグビジネスにも着手。システム開発も新ビジネスとして立ち上げている。こうした取り組みで、旧来型の通信関連機器メーカーからの脱皮を図る。近く社名の変更も計画している。
04年6月、コンテンツビジネスのインデックスの子会社となった。インデックスグループが掲げる携帯端末などへのコンテンツ配信の付加価値サービス“モバイルソリューション”の提供を強化するため、コンテンツ配信が容易に行えるシステムなど、プラットフォーム開発の一翼を担うことを目指している。