中堅ディストリビュータのネットワールドが売上増による企業規模の拡大を目指している。2006年度(06年12月期)は、売上高300億円を達成する見通し。しかし、「若干控えめだった」と中村康彦社長は振り返る。これまで同社は、「仮想化」など他社が参入しにくい商材を多く取り扱うことで差別化を図ってきた。これにより、利益確保の体制は整った。今後は、他社と同様にコモディティ製品の販売も積極的に行っていき、“ITインフラストラクチャのソリューション・ディストリビュータ”としての確固たる地位を築いていく方針だ。
予算策定が控え目すぎた 量販商品も積極的に売る
──昨年度は業績が伸び、順調だったようですね。
中村 売り上げが300億円を超え、増収増益の見通しです。予算もクリアしました。業績が順調なのは良いことなのですが、予算の策定が若干控え目になってしまった。このことに対して悔いが残っています。そこで、07年度は何としてでも大きくブレイクしたい。そのために、ビジネススタイルの改善を図っていきます。
──具体的には。
中村 コモディティ化した製品の販売量を増やすことです。コモディティ製品は、粗利が取れないといわれています。ですので、これまでは利益率が高いものを中心に販売してきました。しかし、“物量のパワー”というものを改めて考えなければなりません。高利益の製品とコモディティ製品をバランスよく売っていくことが重要と考えました。他社は、コモディティ製品を大量に販売しています。そのため、売り上げの総額が当社よりも大きい。当社も、利益率が高い製品だけに集中するのではなく、大量出荷が可能な製品も積極的に販売していきます。
──利益率が低い製品を販売することで、売り上げが増えても金額が伸びないといったリスクを招きませんか。
中村 それよりも、競争に勝てなくなることを危惧しています。コモディティ製品は、ほとんどのユーザー企業が導入しています。そこらじゅうに案件が転がっているということです。なのに、力を入れないというのは間違っている。そのため、絶対に無視できないと判断しました。
これまで当社は、“ITインフラストラクチャのソリューション・ディストリビュータ”をコンセプトに、サーバーやネットワーク、ストレージの各分野で他社に真似できないソリューションを提供してきました。とくに、昨年度は「ビジネス・コンティニュイティ(事業継続)」や、ディザスタ・リカバリ(災害対策)」などを中心に多くのシステム案件を獲得してきた。これは、「VMware」をはじめとした仮想化など、高度に熟練した技術者が揃っているためだと自負しています。また、EMCジャパンの販売代理店となったことで、ストレージ機器の販売強化が図れるようになった。“ITインフラストラクチャのソリューション”という点では、他社との差別化が図れる人材と製品が、ともに整ってきました。そのため、増収増益を達成できた。しかも、高利益であるシステムの保守を中心としたサポート&サービス(S&S)事業は、粗利益の3割を占めるようになっています。
ところが、“ディストリビュータ”としての側面では他社と比べて売り上げ規模が小さい。それに、販売量が少ないにもかかわらず、S&Sの粗利益に占める割合が高いというのもどうかと考えています。
付加価値の高いソリューションを提供すれば、S&S案件も付いてくるので、S&Sの利益率が高いのは確かに良いことではあります。しかし、当社は保守サービス会社ではない。あくまでもディストリビュータです。製品を販売したうえで、S&Sも行わなければならない。
──課題は、売り上げ規模の拡大ですね。
中村 その通りです。これまでの課題は、売り上げ規模が拡大できなかったこと。そこで、本業であるディストリビューション事業を伸ばしていくのです。
しかも、高付加価値のソリューションを提供できることが、競合するディストリビュータと根本的に異なります。そのトリガーを変更するつもりはありません。他社にはない製品やソリューションを核に、まずは仮想化システムなどで獲得した顧客に対してコモディティ製品の提案も行う。いずれは、コモディティ製品と、高度な技術が要求されるソリューション提案のどちらが先でも導入企業が増えるようにしていきます。
──業績目標はどの程度に。
中村 今後2年間で売り上げを330─350億円に引き上げます。経常利益については売り上げ規模によりますが、最低でも10億円は目指します。現在、経常利益率は2%程度で推移しています。これを3%以上に増やすことになります。まず売り上げ規模を拡大させ、それに付随する成長事業を一段と伸ばすことで、数値目標は実現できると確信しています。
300人超に人員増強 市場の好環境も追い風
──売り上げを伸ばすために、どのような面に力を入れますか。
中村 やはり、人材をさらに強化することです。今年度は、現状の11%増の人員を見込んでいます。来年度には300人超まで増やします。とくに、SE部門は積極的に増強していきます。最近では営業担当者だけが提案に行っても、顧客が付加価値ソリューションの導入に向けて技術的なことを聞いてくるケースが多いために、SEも同行したほうが商売になる。ですから、営業を支えるSEの人材を増やしていく予定です。
──大量に製品を販売するためにはウェブEDIが欠かせないといわれています。ネットワールドではまだ導入していないようですが、今後は。
中村 当面は、導入することを考えていません。ウェブは、かなりの出荷数でなければコストがかかってしまう。今の出荷量では、まだ必要ありませんね。
また、たとえ導入したとしてもウェブだけに固執してしまうことは良いとは考えていません。なぜなら、ウェブでは顧客のニーズに適したソリューションが売れないからです。仮想化など付加価値の高いソリューションは、顧客の声を聞きながら提案しています。人を介さなければ売れないということです。そういった意味でも、まず人材強化を徹底していきます。
──製品・サービスで注目を集める“キーワード”は何だとみていますか。
中村 以前から力を注いでいる「仮想化」ですね。しかし、競合他社も取り扱いを始める可能性はあります。だから、今後はVMwareとシトリックスの製品を組み合わせて、どのようなソリューションが提案できるかを模索するなど他社を引き離す策でビジネスを拡大していきます。
──最近では、ユーザー企業によるIT投資意欲が活性化しているといった見方があります。どのように考えますか。
中村 IT市場全体の成長率は、ここ数年で年平均1・8%増といわれています。しかも、SMB(中堅・中小企業)は毎年5─6%増で推移している。爆発的な伸びはないでしょうが、今後も堅調に成長するとみています。したがって、売り上げ規模を拡大するには適した環境といえます。
昨年度は、本当に慎重になり過ぎてしまった。しかし、今年度は市場の好環境も追い風とし、必ず“ITインフラストラクチャのソリューション・ディストリビュータ”としての地位を確固たるものにします。
My favorite 「YAMASA」ブランドのベルトで、商品名が「Urban Walker」。万歩計メーカーの山佐が開発したもので、歩数や歩行距離の計測、ストップウォッチ機能などが搭載されている。業務とプライベートそれぞれの歩数を把握するため、2つ購入した。「休日のゴルフでは、数万歩といった相当な歩数を稼いでいるよ。本当は、歩かないほうがいいスコアを出していることになるんだけどね(笑)」という
眼光紙背 ~取材を終えて~
ネットワールドは、サーバーとストレージ、ネットワークの3分野で他社が扱っていない、もしくは取扱量が少ない製品を多く販売しているイメージが強い。
実は、「取引企業から、『一般的な製品も扱っているんだね』と言われることも多い」とか。このようなコミュニケーションを、ユーザー企業や販売代理店などと図れるのは、ニーズに適した他社に真似できない製品・サービスの提供で、絶対的な信頼を得ているからといえよう。加えて、「“ユニーク”なシステムだけでなく、パソコンなどもネットワールドから購入したい」と、多くの顧客企業が意識しているのではないか。そのため、コモディティ化した製品の積極的な販売に踏み切った。
今年は、「“ブレイク”の年と位置づける」という。ビジネススタイルの改善で、ディストリビューション業界にどのようなセンセーショナルを巻き起こすのか。注目を集めるところだ。(郁)
プロフィール
中村 康彦
(なかむら やすひこ)1970年3月、慶應義塾大学を卒業。82年に大塚商会入社。経理部に従事する。90年、ネットワールドの管理本部長に就任。91年に取締役、94年に常務取締役、97年に代表取締役専務を経て、00年、代表取締役社長に就任、現在に至る。
会社紹介
ネットワールドは、大塚商会の子会社として1990年8月に設立された。サーバー関連製品やストレージ機器、ネットワーク機器のディストリビューション事業を手がける。
00年10月にネットワーク関連機器のディストリビュータであるネットサーブと合併し、企業規模が拡大した。それ以降は堅調に成長し、05年度の売上高は296億円。06年度は300億円を見込んでいる。
最近では、サーバーの仮想化を中心に関連製品の販売やサービスを提供するケースが増えている。社内には、仮想化技術のノウハウを持つSEが多く、販売代理店のSI支援なども行っている。
売上規模の拡大に向け、コモディティ製品の販売にも力を入れ始めており、これにともない人員の増強を図っていく。現段階で250人程度の社員を、今後2年間で300人超にまで増やす計画を立てている。