サーバー仮想化ソフトウェアの開発で急成長するヴイエムウェア。遅れ気味だった国内でのビジネスも今年から本格的な拡大フェーズに突入した。サーバー統合やディザスタリカバリ(DR、災害復旧)、SaaSをはじめとするオンデマンドサービスを支えるデータセンターなど、あらゆる局面で仮想化需要が拡大すると予測する。既存の仮想化技術とは何が違うのか──。日本法人トップの三木泰雄社長に聞いた。
単純な仮想化は枯れた技術 運用に軸足を置いた優位性
──仮想化技術はメインフレーム時代からありました。どこに新規参入の余地があったのですか。
三木 メインフレームとオープンシステムではアーキテクチャがまったく違うからです。オープンシステムが基幹系システムに使われるようになった今、メインフレーム並みの堅牢性、可用性が求められている。ここに仮想化技術の新たな需要が生まれました。アーキテクチャが切り替わるタイミングで当社が参入し、ビジネスを伸ばしてきたというわけです。
──それだけではどうもよく分かりません。メインフレーマなど他社の追随があると思いますが、どうかわしているのですか。
三木 コンピュータシステムはハードウェアの上にOSやミドルウェア、アプリケーションが折り重なるように搭載されています。仮想化プラットフォームは一般にハードとOSの間に入れ、ハードの制約からソフトを解き放つ仕組みですが、実はこれ自体、何ら珍しいものではないのです。すでに確立された技術だといっていい。
当社の優位性は、オープン時代特有の問題にいち早く着目した点にあります。メインフレーム時代は限られた高度なハードを有効に使うために仮想化が用いられてきましたが、オープン時代には無計画に増え続けるハードやソフトをどう効率的に運用するのかが大きな問題になりました。同じ仮想化といってもメインフレーム時代とはまったく性質が異なります。
──具体的にはどんな技術を開発されたのですか。成長の余地はまだあるのですか。
三木 たとえば、2003年にOSやミドル、アプリなどからなる仮想マシンを他のハードウェアへ移動させる技術を業界に先駆けて実用化したり、複数あるサーバーの負荷調整を自動的に行ったりと、運用に重点を置いた開発を行ってきました。この運用技術で他社に数年間は先行していると自負しています。
実際、調べてみるとPCサーバーの仮想化ソフトの導入を予定しているユーザーのうち7割近くが当社ソフトの導入を優先して検討していたり、当社自身のグローバルでの年商が年率70─80%前後で伸びていることを考えると、競合他社に比べて優位に立っているといえるのではないでしょうか。
世界で新規に出荷されているサーバー台数のうち、仮想化ソフトを適用している比率はまだ4%程度だとみられています。2010年には10倍の40%に適用率が高まるという予測もあるほどで、この分野の成長余地は十分にあります。
顧客満足度を高める段階へ 親会社EMCとは一線画す
──国内でのビジネスはどうですか。
三木 今年からようやく本格的にビジネスが立ち上がってきた段階です。昨年までにNECや日本IBM、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、富士通、デル、日立製作所の主要サーバーベンダー6社とパートナー契約を結び、仮想化の認知度を高めるためのセミナーを積極的に開催してきました。この成果もあって今年に入ってから引き合いが急増しています。
今年4月からはエンドユーザー向けのアフターサービスも始めました。従来はサーバーベンダーなど一部の代理店にしか提供していませんでした。普及啓発のフェーズから、顧客満足度を高めていく新たな段階に入っているからです。
──ヴイエムウェアはストレージベンダー大手のEMCのグループ会社ですが、サーバーベンダーと競合しませんか。
三木 グループ会社ではあるものの、EMCとの線引きはしっかりできています。EMCの営業が顧客に当社の製品を勧めることはありますが、直接売ることはありません。当社のビジネスパートナーを経由して販売します。
サーバーの仮想化を進めていくと、当然ストレージの仮想化も必要になってきます。EMCからみれば当社のサーバー仮想化技術は大いに相乗効果があります。一方で当社のパートナーからみればEMCは競合する側面があるのも事実。この点に十分に配慮した企業経営をしていく方針です。
──引き合いが増えているといっても、複数のサーバーを統合したり、開発環境をつくる用途に限定されているとの印象を受けます。
三木 開発環境で仮想化の導入が進み、次にサーバー統合の波に乗って本番環境での仮想化に火がつきました。しかし、仮想化はこうした用途だけに限定されるものではありません。実際、ハードディスクを搭載していないシンクライアントパソコンのバックエンドを担うサーバー部分や、ディザスタリカバリ(DR)の仕組みに応用されたり、データセンターの省電力化に活用されたりと用途の幅は着実に広がっています。
──具体例をあげて説明していただけますか。
三木 ここに10台のサーバーがあったとします。業務時間中の昼間はアクセス数が多いのでフル稼働させる。アクセス数の少ない夜間は先ほどお話しした仮想マシンを移動させる技術を使って1台のサーバーに“片寄せ”し、9台分の電源を落とす。こうすることでシステムの機能を生かしたまま、電力を節約できます。シンクライアントを支えるサーバーなどをイメージしてもらえれば分かりやすいと思います。
この考え方はDRにも応用できます。先の例で言えば、通常環境の10台分を普段使わないDR先でも維持するとなるとコストがかさむ。たとえばDR先は1台のみで稼働させ、いざ必要になったときにハードを増強し、仮想マシンを展開すれば維持費を抑えつつ、迅速な復旧が可能になります。
仮想マシンを需要に応じて片寄せしたり、全面展開させる自由度の高さは、データセンターの省電力化にも役立ちます。SaaSなどオンデマンドサービスを提供するプラットフォームとしても有望でしょう。
──発展性があるわけですね。そうした有望商材を抱える日本法人の経営目標は。
三木 世界のソフトウェアに対する投資額のうち国内が占める比率はおおよそ7─8%だといわれていますが、ここ1─2年でグローバルの売上高に占める日本法人の売上比率もこの程度まで高めたいと考えています。グローバルでの売上高は過去数年と同様に高い伸び率が期待されていますので、日本法人としてはそれを上回る勢いで伸ばしていくつもりです。
My favorite マーライオンのペーパーナイフ。シンガポールで購入した。NEC時代に米ITベンチャーとシンガポールで合弁会社をつくるプロジェクトを担当。そのときの交渉相手が後に米ヴイエムウェアの副社長を務めるマイク・クレイビルさん。日本法人社長を引き受けたのもこの縁だとか
眼光紙背 ~取材を終えて~
顧客がサーバーを買い替えたり、買い足すときが「ビジネスチャンス」と、三木社長はみる。
サーバープロセッサの「平均稼働率はせいぜい10%」といわれる状況下で、本当にハードを買い足す必要があるのか。仮想化技術を使えば仮想マシンを片寄せするなどして稼働率を高めることができる。
サーバー購入を抑制する可能性がある構図だが、あるサーバーベンダー幹部は、「仮にうちがヴイエムウェア製品を売らなかったとしても他社が売る」と断言する。それだけ仮想化に対する需要が高まっているということなのだろう。
顧客はサーバーというモノを求めているのではなく、リソースというサービスを欲している。ソフトウェアのサービス化が叫ばれるなかにあって、ハードウェアだけが例外にはなり得ない。とはいえ実際に、「仮想化が進んだからサーバーが売れない」とは聞かないから不思議だ。(寶)
プロフィール
三木 泰雄
(みき やすお)1955年、愛媛県松山市生まれ、大阪府育ち。77年、大阪大学工学部通信工学科卒業。同年NEC入社。製造業向けのシステム販売を担うプロセス・CPGソリューション事業部長などを歴任。化学や繊維、医薬、食品業界の顧客を担当する。05年10月、ヴイエムウェア日本法人の社長に就任。
会社紹介
米ヴイエムウェアは1998年設立。カリフォルニア州パルアルトに本社を置く。04年にストレージベンダー大手のEMCの傘下に入る。昨年度(06年12月期)のグローバルでの売上高は前年度比約83%増の約7億900万ドル(約850億円)。03年度の売上高は約1億ドル(約120億円)に過ぎなかったが、わずか3年で約7倍に急成長した。グローバルの社員数は約2000人。米本社は今年夏に本国での株式公開を目指しており、その準備を進めている。