SIerである旧三井情報開発とNIerである旧ネクストコムの統合で誕生した三井情報。コンピュータとネットワークの両業界から注目を集めている。なぜなら、SIとNIの融合ビジネスが手がける体制が整い、両業界で主導権を握る可能性を秘めているからだ。社長として新しいビジネスモデル構築の舵を切ることになった増田潤逸氏は言う。「他社には真似できないビジネスに挑戦していく」と。事業拡大に向けた秘策は果たして何なのか。飛躍を期すための方向性を聞いた。
現実を踏まえて体制を整備 これまでにない“色”を出す
──4月1日から「三井情報」として再スタートを切り、今年度(2008年3月期)で増収増益を見込むなど統合効果を発揮すると聞いています。社内体制は万全ですか。
増田 正直言って、万全というわけではありません。現在の組織は、現実を踏まえたうえでの体制ですので、理想には程遠いでしょう。間接部門のように、効率化を図れば効果が早急に現れるセクションもある。しかし、業務のフローやシステム統合、慣習や企業文化の統一などは時間がかかると考えています。
──統合効果が発揮できるように、現段階で実施していることは?
増田 2つの会社を1つにするということですから、それに絡んだことを行っています。社長に就任してから、真っ先に実行したのは就業規則を1つにすることです。当たり前のことですが、どちらに合わせるかを決めなければならないですから。組織に関しても、2社の体制を単に組み合わせるだけでは意味がない。しかも、組織というのは社内の“壁”でもありますので、最初からきっちりとしたものをつくっても社員としてはやりにくい。そこで、あまり細かく区切らずに「コミュニケーションビジネス本部」や「エンタープライズシステム本部」「インダストリーソリューション本部」など大きなくくりのフラットな体制にしました。しかも、各本部では階層を減らしている。幹部も、1社だけに偏らず適切な人材の配置を意識しました。また、単なる縦割りの組織だけでなく、コンサルティングやR&D(研究開発)など横断的な組織を設置することも早急に行っていきます。
さらに、統合効果を発揮することで業績が伸ばせる指標として中期経営計画を立てました。当面は利益重視を念頭に置いていますので、営業利益率については現状の6.2%から09年度に9.0%に引き上げる目標を立てています。こうした取り組みで、新会社としての方向性を定めていきます。
──「SIとNIの融合」について、どのような考えを持っていますか。
増田 色に例えれば、白と赤を混ぜ合わせた色をつくるのではなく、これまでとは全く違う色をお互いが出し合うことで新しい色をつくることだと考えています。SIとNIは全く異質な世界です。無理やり1つに融合することは現段階では不可能だし、意味がないと考えています。しかも、両社とも従来のビジネスモデルに限界を感じていた。新しいビジネスモデルを構築する必要性を求めていたのです。単にそれぞれの“色”を出し合っても会社にとって良い結果が出るとは限らない。業績を伸ばすために、どのような“色”が理想なのか、その“色”にするためにどのような持ち味を発揮すべきなのか、そういったことを考慮しなければなりません。
それを実現する1つの策として、新しいビジネスを創造するために「営業統括本部」を設置しました。この部門は、“点”だけのビジネスを“面”に広げることが目的です。顧客企業の声を聞き、そのニーズに対応するためには当社のノウハウのどの部分を出せばいいのか、ノウハウを組み合わせることにより新しいソリューションを提供できないかを検証します。実際、SIとNIを融合させたシステム案件が出始めています。全く異質の2社が統合したことから、当社は多様な顧客を多く抱えている。その顧客の声を吸い上げるだけでも大きなビジネスチャンスがあると確信しています。
──昨年度の業績をみると、SIerの旧三井情報開発は増収増益、一方、NIerの旧ネクストコムは減収減益でした。新会社では、NIの部分を伸ばせるのですか。
増田 昨年度の実績では、確かに数字的にはNIが足を引っ張っている。これは、ハードウェアの販売に偏っていたためです。売り上げを重視したために無理をしていたのではないかと捉えています。結果、身の丈に合わない案件を取ってきてしまい、不採算案件の発生で利益が減ってしまった。今後は、利益に軸足を置いてビジネスを展開していきます。
ネットワーク機器販売のビジネスは、相当な見直しをしなければならない。ですので、旧ネクストコムで主力事業だった「ネットワーク機器販売」を1つの独立したビジネスとして手がけるつもりはありません。一方、NIのなかでも機器販売だけではないソリューションビジネスは好調です。そこで、ネットワーク機器を販売するのであれば、VoIPシステムやサービスと組み合わせるなどソリューションベースでの提供を徹底していきます。
創造に向けたアライアンスへ グループ内は連携を意識せず
──事業強化にはベンダーとのアライアンスも必要だと思いますが、協業や提携などで重視していることはありますか。
増田 これまでは、顧客ありきのアライアンスばかりに気を取られていました。もちろん、顧客あってのビジネスですので悪いことではありませんが、ニーズに対応するだけでは顧客のためにもならない。技術革新が進んでいる今日のコンピュータシステムやネットワークで、顧客の業務やビジネスがどのように変わるかを伝えなければならないと考えているからです。そこで、今後は顧客からの要請に対応できるように、当社が主体となって新しいソリューションを提案していくことを主眼として、新しい形でベンダーとのアライアンスを組んでいきます。
また、人材面でのアライアンスも重要となってきます。なかでも、地方でアライアンスを組んでいこうと考えています。最近は、中国やインドなど海外で人材を確保する動きがあるけれども、国内にも優秀な人材はたくさんいます。しかも、地場企業とアライアンスを組めば、その地方のビジネスを確立できる可能性もあります。
──具体的なアライアンスは出てきていますか。
増田 ソリューション面でのアライアンスでは具体的な予定はありませんが、マイクロソフトをはじめとしてコンピュータ側のソフトメーカーがネットワーク分野にも入り込もうとしていますよね。そういったベンダーと話を進めようと模索しています。地方については、現段階で地場の保守会社やソフト開発会社といくつかの話を進めています。
──アライアンスの強化策として、三井物産グループ内での連携強化は。
増田 日本ユニシスは、ネットマークスのTOB(株式公開買い付け)を完了し、一段と規模が拡大したことに加えて、ビジネス領域も広がっています。同じグループ内として協業が必要ですが、一歩先を考えたとき、当面は連携強化を図らないほうが適切だと判断しています。日本ユニシスは当社と進んでいる方向が同じといえ、新しいビジネスモデルの構築を模索しなければなりません。まずは、お互いにしっかりと地に足をつけ、自社のビジネスを確立していくほうがよいと思うからです。もし、アライアンスを強化するにしても同じグループ内というのを意識しないほうが、新しいビジネスチャンスが生まれるとみています。
──同じ方向に進んでいるということで統合の可能性はありますか。
増田 同じような状態でM&Aしても意味がないでしょう。私は、M&Aするのであれば当社が弱い部分や足りないところを補うことが重要と考えています。お互いのビジネスが確立し、しかも(親会社の)三井物産が当社と日本ユニシスを統合させる意志があれば、当社は本意でなくても10年後など将来的には可能性はあるかもしれませんが(笑)、現段階では絶対にあり得ません。
My favorite 約20年前に記念品でもらったというレターオープナー。以前はきちんと使っていたが、最近は悩んだ時に弄んでいるのだとか。「そうすると良い考えがひらめくこともある」そうだ。“アイデアオープナー”ということか
眼光紙背 ~取材を終えて~
統合前の2社について、「三井情報開発は“農耕民族”、ネクストコムは“狩猟民族”」と例える。三井情報開発は顧客のニーズを深掘りする傾向があり、ネクストコムは次々と新しいビジネスを手がけるからだという。
これには、長所と短所があった。深掘りすれば、顧客との関係が深まる。一方、周りのニーズが見えていなかったという面もある。ネットワークインフラを熟知したビジネスは、顧客のさまざまなニーズにどのようなアプリケーションサービスで対応できるかどうかの判断が下せるため、新しいシステム提案を行う術を持っている。半面、身の丈に合わない案件を獲得する危険性もあった。
「両社の強みを組み合わせれば、他社には獲得できない案件に対応することも可能になる」。SI/NI融合ビジネスの確立に向けて増田社長の手腕に期待がかかる。(郁)
プロフィール
増田 潤逸
(ますだ じゅんいち)1945年9月7日、神奈川県出身。69年3月、京都大学法学部卒業後、同年4月に三井物産に入社。同社にて運輸・物流総括部長や運輸・物流本部長、執行役員などを経て、04年6月に三井情報開発社長に就任。07年4月、三井情報社長に就任。
会社紹介
今年4月1日に旧三井情報開発と旧ネクストコムが合併して「三井情報」として再スタートを切った。両社の統合により、ネットワーク分野のインフラ構築や保守に加え、コンピュータ分野でシステム構築や保守、内部統制を中心としたコンサルティングまで製品・サービスの幅が広がった。
昨年度の業績は、旧三井情報開発の売上高が253億7700万円(前年度比4.9%増)と増収、営業利益は19億6000万円(53.8%増)と大幅に伸長。一方、旧ネクストコムは売上高414億8400万円(6.4%減)で、営業利益21億9900万円(21.0%減)と落ち込んだ。合併初年度である今年度の業績予想は、単純合算した2社の昨年度業績と比べ売上高が1.7%増の680億円、営業利益が17.8%増の49億円と増収増益の見通し。09年度には、営業利益率として9.0%を目指す。