NECソフトはソフトウェアの生産革新を遂行する。社会を支えるインフラであるITは、ソフトのQC(品質管理)なしには成り立たない。ソフトの不具合が大きな社会的混乱を招く事態を“新たなソフトウェアクライシス”と位置づけ、開発基盤の整備や内製率を高めることなどによって品質向上に全力をあげる。今年6月にトップに就いた国嶋社長に生産革新への取り組みを聞いた。
NECとの一体化のなか、ビジネスの主導権を握る
──NEC本体と一体化が急速に進み、NECソフトとしての独自性が少し薄れている印象があります。
国嶋 矢野(薫NEC社長)が「NECは1つ」「ワンNEC」とよく言っているように、NECの戦略が、つまりわれわれの戦略です。NECと一体となって事業を展開していくのがここ数年の流れであることは間違いありません。同時に、こうした動きのなかでもNECソフトらしさ、主体性をどう確立していくかが課題でもあります。
NECグループのなかで中核的なソフト開発会社であることは自他共に認めるものであって、ここで培ったノウハウや技術をNECのビジネスに生かしていかなければなりません。
──NECのビジネスを支える“縁の下の力持ち”であるとともに、独自に顧客層の開拓を進めていくのが大切だと。
国嶋 その通りです。昨年度(2007年3月期)の連結売上高は前年度比約7%増の1200億円余りと好調に推移しています。うち約7割はNEC本体を経由して受注し、その他の約3割が、当社がプライム(元請け)となって受注したものです。この比率は今後も大きく変わらないでしょう。
ただ、NEC経由で受注した約7割についても、その中身をみると営業はNECでも、システムの設計・構築は実質当社が主導権を握って手がけているケースが少なくない。こうした主体性が業界の伸びを上回る成長を維持する原動力になっています。 ここ数年の情報サービス業界の伸びは3-4%程度だとみられていますので、当社はこれを上回る伸長率を着実に達成していく計画です。
──今年4月、これまでNEC本体の中に2つあったソフト開発のビジネスユニットが1つに統合されました。どういう効果が出ていますか。
国嶋 2つのビジネスユニットを1つにしたことで、当社を初めとするソフト関連子会社のトータルで約1万7000人のSE、ソフトウェア開発技術者を一元的に運用できるようになりました。わたしも昨年度までソフト開発のビジネスユニットを担当し、人的リソースの最適な配分に神経をつかってきました。今年度からは、よりダイナミックにリソースの割り当てができるようになったと実感しています。
──米IBMはインドの開発拠点を拡充し、年内にも従業員数が6万人に達する見通しです。コスト高の国内で開発を続けるのは徐々に難しくなるのではないですか。
国嶋 その点についていえば、当社も中国などでオフショア開発を行っています。しかし、同時に国内の開発人員も増やしていく方針です。人を増やして、売り上げも増やす。顧客に対するコンサルテーションや設計など上流工程を充実させていくには国内の人員拡充が欠かせない要素だからです。
ソフト開発の効率化の取り組みは行っていますが、それでも劇的に少ない人数で開発できる方向には向かっていない。コストの関係で海外で開発する比率が高まることはあっても、とくに上流工程は国内や社内で開発する内製率は保つ必要があります。内製率が下がると当社のコアコンピタンス、アイデンティティの確保が難しくなる。
──直近の内製率はどのくらいですか。
国嶋 社内が2、協力会社が1の比率にむしろ近い状態になりつつあります。人員ベースでみると社内が6割弱くらいなのですが、金額ベースでみると6割以上、つまり2対1に近づいています。社内の技術者がプロジェクトを進めていくノウハウをしっかり身につけ、リーダーシップをとっていくことが当社の競争力を高めることになります。
生産革新で品質を向上 設計開発基盤を共通化
──自動車メーカーなど大手製造業も顔負けの“生産革新”を遂行していると聞きます。オーダーメイドのソフトウェアで、量産をメインとする製造業の手法が通用するのですか。
国嶋 生産革新の源流はトヨタ自動車など自動車業界にあります。実際、トヨタOBの指導を参考にして、ソフトウェアにおけるQC活動を独自に進めています。これは今後も強化していきます。
オーダーメイドの一品モノと言っても、顧客の要望をすべてゼロからつくっていたのでは進歩がない。共通する部分はパッケージ化を進めることで生産性を高めたり、設計段階におけるシステムの標準化を進める必要があります。プロジェクトごとにバラバラの設計思想、開発手順では生産性は低いままですし、技術者も育ちません。
NECと協力して.NETやJava、組み込みソフトなどの開発を標準化する統合的な管理基盤の整備も急ピッチで進めています。昨年には「システムディレクター」という製品名で一部外販も始めているほどです。こうした標準化やパッケージを多用していくことで、生産性の向上やQCをさらに強化します。
──ITは社会を支えるインフラになっており、ソフトウェアの品質が大きな問題になっています。一度トラブルを起こすと生活全般に大きな混乱を招くことになる。
国嶋 いま、新たなソフトウェアクライシスを抱えています。発注側と受注側の役割が不明確であることや、納期と価格だけが先に決まって中身が曖昧なまま開発に入る慣習など、ソフトウェアの品質を劣化させる要因は多くあります。
品質問題の大本は顧客との契約や、上流設計の確かさにあると考えています。こうした意味においてはインドや中国で何万人技術者を確保しても効果が期待できない。上流工程の標準化を進め、顧客と向き合う技術者を育てていくことが欠かせません。
とはいえ、ソフトウェアには必ずバグが生じます。どれだけカネと時間を費やしてもゼロにはならない。これを前提にトラブルが起こっても別ルートでシステムを維持するとか、一部機能を停止させても全体として主要な機能を維持させるなどの安全策をわれわれベンダーの責任領域として捉えることが求められています。
ハードウェアでは多重化によってシステムダウンの確率が低く抑えられています。これと同じように、ソフトウェアも設計の段階で多重化の仕組みをより多く織り込んでいく必要があります。
──具体的にはどんな取り組みを行っているのですか。
国嶋 上流工程でバグを極力排除する仕組みを強化しています。たとえば、「1000ステップのソフトにはこれだけのバグがあるはずである」と仮定し、考え得るすべてのバグを列挙。このうち65%は設計段階で潰していく目標を立て検証作業を行っています。直近ではこの目標値をほぼ達成できており、今後は、開発に入る前にさらに高い確率でバグを見つけ出すことを目指します。開発してからバグを修正すると、手戻りが発生して効率も悪いからです。
顧客にもこの点をよく理解してもらい、品質向上に努めていきます。過去に赤字プロジェクトによる採算悪化に苦しんだ時期がありましたが、開発基盤の整備、設計開発の標準化、日常の地道な“カイゼン活動”を通じて、収益性は大幅に高まってきました。“継続は力なり”で、これからもソフトウェアの生産革新を進めていく考えです。
My favorite写経に使う墨と硯。20年余り前から続けている。就寝前の15分間、墨をすって般若心経を写すと心が安まる。ソフトウェアの生産革新と同様、続けることが大切という
眼光紙背 ~取材を終えて~
「“オレについてこい”と引っ張っていくタイプではない」と自らを評する。社員の話をじっくり聞き込んだうえで、「じゃあ、こうしよう」と、静かに決める。
現場の主体性を生かしたボトムアップ式の“カイゼン”にも取り組む。10人前後の小さな集団をつくり、日々の作業で気づいた点をメモ書きし、ホワイトボードなどに貼り付ける。これをまとめて全社的な改革に役立てる手法だ。
任意の活動だが、すでに単体ベースの社員約4600人の半分余りが参加するまでに広がった。「一日中パソコン画面に向かって作業をしていると、隣の人が何をしているのかも分からない」。小集団活動は周囲とのコミュニケーションを増やし、創意工夫のよい機会になる。
社員のやる気を引き出すことで、「自社のアイデンティティをもっと育てたい」と抱負を語る。(寶)
プロフィール
国嶋 矩彦
(くにしま のりひこ)1946年生まれ。東京都出身。69年、東京大学工学部卒業。同年、NEC入社。99年、C&Cネットワークシステム事業部長。00年、NECソリューションズEビジネスサービス事業本部ネットワークシステム事業部長。01年、NECソリューションズEビジネスサービス事業本部長。02年、NECソリューションズ執行役員。04年、NEC執行役員常務。07年6月、NECソフト社長に就任。
会社紹介
昨年度(2007年3月期)の連結売上高は前年度比約7%増の約1210億円。ここ数年は年率5%以上で売り上げを伸ばしていく方針。大阪に本社を置くNECシステムテクノロジー(NECST)などと並び、NECグループの中核的なソフト開発会社。今年度はNECSTの一部を含む他のソフト開発子会社と同じビジネスユニットに統合。より一体的なグループ運営が行えるようになった。NECグループへの一体化を進めるため05年に上場廃止した経緯がある。外から見るとNEC本体と同一化した印象があるものの「生産革新」「カイゼン」など、ビジネス拡大に向けた独自の取り組みを積極的に行っている。