日本情報通信(NI+C)の付加価値ディストリビューション(VAD)事業が拡大している。利幅の少ないハードウェアの卸売りに依存せず、ミドルウェアやIBMプラットフォーム上で動作するSIer、ISV製のアプリケーションも積極的に流通。VADの販売パートナーが必要とする商材をワンストップで品揃えすることで付加価値の増大に努める。もうひとつのビジネスの柱であるSI・サービス事業も伸ばしていくことで収益力を高める方針だ。
トップラインを伸ばす 他社アプリも積極流通
──日本IBMのプロダクトを中心としたディストリビューション事業が本格的に立ち上がってきました。
富田 当社はディストリビューションだけを行っているわけではないのですが、トップラインを伸ばすエンジンになっていることは確かです。今年度(2008年3月期)のディストリビューション事業の売上高は、昨年度比の約2倍に相当する80億円程度に拡大する見通しです。
──単なるディストリビューションではなく“付加価値型のディストリビューション(VAD)”だと聞いていますが、どのあたりが付加価値なのでしょうか。
富田 顧客企業のITシステムは、IBMのハードウェアだけでできるわけではありません。ミドルウェアや業務アプリケーションソフト、必要に応じて他社製品も必要になるでしょう。さまざまな製品を取りまとめることが付加価値につながります。
日本IBMの国内におけるVAD事業者は当社をはじめ、JBグループのイグアスなど3社ありますが、当社のVAD事業はソフトウェア販売に強いのが特徴です。
例えば、IBMはデータベースソフトのDB2やアプリケーションサーバーのWebSphere(ウェブスフィア)などのミドルウェアを持っています。近年ではこうしたIBM製ミドルウェアを採用したISV製の業務アプリケーションが増えており、これを当社のVAD経由で幅広い販売パートナーに向けて流通させます。
──これまでIBM系ではなかったSIerやISVなどの他社製業務アプリケーションの扱い量も増やすということですか。
富田 日本IBMでも自らのプラットフォームに対応したISV製アプリケーションの拡販に力を入れています。この一環としてIBMプラットフォームに対応したISV製アプリケーションをVAD経由で仕入れる際は、IBM製ミドルウェアが割安になるなどの優遇策も打ち出しています。当社はIBM製ミドルウェアのノウハウが豊富にありますので、技術的な支援にも十分に対応できます。
先日も大手SIerの大塚商会の主力ERP(基幹業務システム)パッケージソフトの一部がDB2に対応するなど、有力SIer、ISVの間でIBMプラットフォームが広がっています。当社のVADから、最適なハードウェアやミドルウェア、アプリケーションなどを一括して調達できる。さらにIBMミドルウェア部分が割安になる仕組みもありますので、販売パートナーにとってのメリットは大きい。
──IBMプラットフォームに対応したアプリケーションソフトを開発したSIerやISVにもメリットがあり、かつIBMのミドルウェアやハードウェアの拡販にもつながるという、IBMらしい巧妙な仕組みですね。VAD経由で仕入れようという販売会社も増えるのではないですか。
富田 実はこれまで日本IBMから直接ハードウェアなどの商材を仕入れていた販売パートナーが、VADを経由して仕入れる体制へ移行する傾向が強まっています。年間のIBMハードウェアの販売量が一定金額に満たないIBMビジネスパートナーは、VAD経由で仕入れるとの日本IBMの方針があり、来年以降も当社のVADサービスを利用するIBMビジネスパートナーが増えることが見込まれるからです。
もちろん、IBMビジネスパートナーからみれば、どの会社のVADサービスを利用するのか選択できます。当社としてはできるだけ多くのビジネスパートナーに利用してもらえるよう、品揃えやサービスの拡充に努めています。この秋にもウェブで商材価格の見積もりや納期確認ができるシステムを新たに開発し、VADを利用するパートナーの利便性を大幅に高めました。
現在、当社のVADを利用していただいているビジネスパートナーは約160社ですが、日本IBMの商流変更の追い風に加えて、当社VADのサービス内容を拡充させていくことで利用社数を増やしていければと思っています。10社増えるのか、20社増えるのかはまだ分かりませんが…。
NTT向けで技術を培う 一般顧客に横展開へ
──VAD事業の拡大は、今後どれくらいの増収効果が期待できそうですか。
富田 今年度(08年3月期)が3か年中期経営計画の最終年度に当たります。来年度からスタートする新しい中期経営計画の最終年度である2010年度にはVAD事業を今年度見通しよりさらに伸ばし、120─130億円まで拡大させたいと考えています。
しかし、当社は純粋なディストリビューターではなく、SIerでもあります。NTTとIBMの折半出資の会社ですので、NTTグループ向けのシステム開発案件も大きいですし、一般企業顧客向けのビジネスも順調に推移しています。
ビジネス形態で分けた売上高構成比でいえば、ハードウェアやソフトウェアプロダクトなど製品販売とSI・サービスがおよそ半々。プロダクト販売のうちVADが2割弱を占めるイメージです。当社にとって収益率が大きいのはシステム構築や運用サービスですので、この分野も伸ばしつつ、製品販売事業も伸ばす。次期中期経営計画でも、今期の構成比をおおよそ維持しながらトップラインを伸ばしていく考えています。
──製品販売で売り上げが伸びることはイメージできるのですが、SIやサービスではどのように収益性を高めていく戦略を描いておられるのですか。NTTグループにはNTTデータやNTTコムウェアなど大手SIerがいます。
富田 NTTグループ向けはSI部分で大きなウエートを占めていることは確かです。当社はIBMのハードウェアやソフトウェアを活用したシステム構築を得意としていますので、この部分で力を発揮しています。ただ、安定的な収益が見込めるITシステムの運用サービスなどについては、NTTデータなどが得意としている分野ですので、なかなか当社のビジネスに結びつきにくい側面もあります。
こうしたなかでも、当社が独自で開拓した顧客層は、運用サービスに至るまでワンストップでサービスを提供できています。NTTグループ向けのシステム構築で培ったノウハウがありますので、通信業界向けのSIは当社の強みとするところです。製造や流通、金融業界でも実績がありますので、バランスよく伸ばしていきます。
──現在の構成比を維持しながら伸びていくとすると、SI・サービスで相当伸ばしていかないと、かさが増えやすい製品販売の売り上げを上回れない気がします。
富田 今年度の連結売上高は約460億円の見通しですが、2年ほど前はNTTグループ向けの大型案件があった影響で年商500億円を超えた経緯があります。それだけの大型案件をこなせる実力を持っているということです。
ただ、システム開発の大型プロジェクトを積極的に獲れるだけの開発人員を持っているかといえば、少し手薄なところがあるのは事実。現在の社員数は約700人弱ですが、今後3年程度はSEを中心に毎年10%ほど増やしていくことでプロジェクトを遂行するパワーをつけていく考えです。人員増と比例して売り上げも伸ばしていくことで、SIerとしての存在感を高めていく方針です。
My favorite 邦題は「経度への挑戦」。比較的容易に測定できた緯度に比べて、経度の測定には精密な時計が必要だった。技術開発の姿勢は「現代のIT業界にも通じる」という
眼光紙背 ~取材を終えて~
VAD事業は立ち上がってきたが、もうひとつの本業であるSI・サービスは改革の余地が大きい。製品販売の比率が増えるとどうしても利益率が下がりがち。「これをSI・サービスでどう高めていくかが課題」だという。
営業やSEなど売り上げに直接的に貢献する人員の構成比が全体の6割強。「同規模のSIerは全体の7割余りを占める」と見ており、まずはここを重点的に増員する。IBMテクノロジーをベースとしてより高度なシステム構築を手がけられる体制を強化することで収益率を高める考えだ。
ライバル企業であるJBグループに比べて規模こそ小さいものの、「通信やハイエンドサーバーの構築技術など彼らにはない技術」を多数持つ。VADパートナーにもこうした持ち前の技術力に裏付けられたサービスを提供していくことで、SI・サービスと並んで付加価値の高いビジネス展開を狙う。(寶)
プロフィール
富田 修二
(とみた しゅうじ)1944年、東京生まれ。69年、早稲田大学大学院修了。同年、日本電信電話(現NTT)入社。85年、武蔵野電気通信研究所複合交換研究部交換応用研究室長。88年、交換システム研究所交換技術研究部長。94年、理事グループ事業推進本部事業企画部担当部長。96年、理事国際本部担当部長。99年、NTTコミュニケーションズ取締役メディア技術開発センタ所長。00年、常務取締役メディア技術開発センタ所長。01年、常務取締役グローバルIP事業部長。02年、代表取締役副社長。04年、日本情報通信代表取締役社長就任。
会社紹介
NTTと日本IBMと折半出資のSIer。略称「NI+C」。昨年度(2007年3月期)の連結売上高は約430億円。付加価値ディストリビューション事業が好調であることなどから今年度の売上高は460億円を見込む。トップラインを伸ばしつつも、営業利益率は3-4%を維持する。また、今年度のVAD事業は昨年度比約2倍の80億円に増える見通し。来年度から始まる3か年中期経営計画の最終年度には同事業で120-130億円に拡大させる。