3か年中期経営計画の最終年度である2007年度(08年3月期)の日商エレクトロニクスの中間決算は減収だった。残念ながら、05年度に打ち立てた850億円という売り上げ目標は達成するのが難しくなった。利益に関しては、経常利益40億円に対して30億円の見通しに下方修正。しかし、前年度と比べると大幅な増益となった。「利益を増やしていける体制が着実に整ってきている」と辻孝夫社長CEOは強調する。「利益重視の企業」確立に向けてバックボーンとして掲げているのは“連携”。グループ会社や多くのベンダーとのアライアンスを模索する。同社はどこに向かって進んでいこうとしているのか。
成長するうえでの起爆剤は、社員の意欲が高まったこと
──今年度は中期計画の最終年度ですね。状況はどうですか。
辻 達成感はあります。今年度上期の実績は、前年と比べ減収増益で、ソリューション・サービス関連部門が売り上げ微増の大幅増益、エレクトロニクス関連部門が売り上げ大幅減の利益微減という結果でした。下期も、その流れと同様に進んでいます。今年度は中期計画の3年目で最終年度ということもあって高い目標を立てたにもかかわらず、前年度より売り上げ減というのでは喜んでいられない。しかし、利益は大幅に伸びている。中期計画の実施効果で、社員が初心に戻ってベンチャーのような気持ちでビジネスに臨むという意識が高まった点では、基盤は確実に固まったといえます。
──そのなかで課題はありますか。
辻 さまざまなベンダーと業務提携などアライアンスを組んだことにともなうバリューチェーンの強化や、BPO事業を含めたサービス事業の拡大、連結グループ企業の活用促進など多くの課題が残っています。また、グループ会社との連携などで事業領域を広げるサイクルも構築しなければならない。
──課題は解決できそうですか。
辻 多少の時間はかかりますが、基盤が固まったことで実現できるのは遠い将来ではないとみています。強化策としては、事業やファシリティの集約、部門連携経営などを検討しています。
──具体的には。
辻 どのような組織にするか現段階では決定していませんが、事業本部間を横断するような組織を模索しています。これまでとは全く異なった新しい事業に着手するというよりも手落ちになっている領域の隙間を埋めることが目的です。
既存の事業領域で利益を確保できることは今年度までの中期計画で実証できました。当社は、エンタープライズ事業本部、サービスプロバイダ事業本部、金融・BPM事業本部、エレクトロニクス事業本部などと組織をマーケット別に分類し、各本部の独立採算制を採用しています。これにより、各事業で利益をきちんと確保できるようになった。
一方で、事業本部間の連携が希薄になりつつある面は否めない。本来ならば、ほかの事業本部に任せれば獲得できた案件を見逃すというビジネス機会の損失が増加する危険性もある。そのため、各事業本部の窓口として案件をコントロールできるような仕組みを作りたいと考えています。あくまでも構想段階ですので、本当に設置するかどうか、設置するべきなのかどうか、実際は分かりません。利益を伸ばせる体制が構築できたので、これまでのような大幅増ではなくても継続的に成長させるためには既存の事業領域をきちんと押さえなければならない。それだけではなく、マーケットの流れでいえば連携による相乗効果を見い出していかなければならないと考えています。
マーケットは伸長すると予測 生き残るには顧客対応がカギ
──情報通信の国内マーケットを、どのようにみていますか。
辻 景気回復が進むことで堅調に伸びるでしょう。企業の内部統制が制度の策定から運用に移っていくなかで、アウトソーシングに対する投資がますます増えていくとみているからです。
──現在のマーケットで、キーワードは何だと考えていますか。
辻 「仮想化」です。分散から統合の波が押し寄せているなかで、仮想化に対するニーズがますます高まっています。当面、この流れは変わらないでしょう。当社にとっては追い風にもなります。Virtual Iron Software製のサーバー仮想化ソリューションや、3PAR製の仮想化アーキテクチャを備えたユーティリティ・ストレージなどを取り扱っており、順調に販売しているからです。それを裏付けるように、最近は導入ケースが着実に増えています。
また、保守サービスやシステム運用などのアウトソーシングサービスも今後は伸びると捉えています。当社は昨年11月にSIerの電算と資本・業務提携を結び、ITライフサイクルにおいてワンストップでサービスを提供できるようになった。さらに、テクマトリックスやサイオステクノロジー、アクシスソフトといったグループ会社との連携も一段と強化していきます。
──ベンダーとのアライアンスの話が出ましたが、今後も提携先を増やしていくのですか。
辻 当社のパワーを最大限に発揮できるようなアライアンスを組んでいくことは重要だと考えています。具体的なアライアンス案件は現段階でありませんが、今まで築いてきたバリューチェーンを相互補完できるような取り組みを進めていきたいと考えています。例を挙げれば、1ユーザー企業あたりのシステム案件金額を高めるため、SIerとの相互補完による案件規模の拡大や、即戦力人材の補強に向けたNIerとのアライアンスについては積極的に進めていきます。
──戦略的な製品やサービスのロードマップについては。
辻 申し訳ありませんが、現段階では詳細を言えません。ですが、内部投資による技術センター機能の強化と拡大を図っていく予定です。
──強化策を打っていくうえで、どのような方向に重点をおくのですか。
辻 一般的にいえば、サービスプロバイダとして「クオリティ・サービス」を提供していく姿勢が重要と考えています。「クオリティ・サービス」といっても漠然としていますので、「では何を提供するのか」と質問されると話は長くなりますが(笑)。要は顧客が期待する以上のものを提供し、細部にこだわるということです。ですので、製品やパッケージソフトで「これが、すべてに適している」という代物はない。顧客の要望と、当社の扱っている製品やサービス提供できる範囲を照らし合わせて最も適しているソリューションを提供する。これが重要なことだと判断しています。
──現時点では07年度は終了していませんが、“カレンダーイヤー”では08年に入ったということで、この1年を一言で表してもらいたいのですが。
辻 やり遂げるという意味で「完遂」ですね。言ったことは必ず実行する。そして達成する。
──今年度で終了する中期計画が達成できなかったということで、来年度からの計画も大きな目標を立てる。そして達成するということですか。
辻 いいえ。正直、この数年間は私を含めて社員は苦しい状況だったといえます。ですので、来年度は充電期間にしようと思っているんです(笑)。数値については、年度末に向けて今後詰めていきますが、あまり大きな目標を立てない予定です。とはいっても、業績を伸ばすという目標は立てますけどね。ただ、これまでのような無理をするような目標は立てない。来年度は、堅調でも着実に伸ばせる数値目標を立て、安定経営を心がけようと考えています。長い目でみても、利益が増える体制は整っていますから。
My favorite 辻社長は大の時計好き。それだけに、「妻からのプレゼントでケースをもらったことがある」ほど多くの時計を持っているのだとか。写真は、そのお気に入りの一つで、ブランドは「モンブラン」。モンブランといえば、高級万年筆の代名詞としても有名。しかも、質実剛健のラインアップが多い。まさに、辻社長ぴったりの製品か
眼光紙背 ~取材を終えて~
子会社だったフュージョン・コミュニケーションズが連結から外れた04年度。業績は、計画値に対して半分以下の556億円だった。強固な経営基盤の構築を目指し、05年度から中期経営計画を策定。07年度には売上高850億円まで伸ばすという目標を掲げた。蓋をあけてみれば、売上高見通しは580億円。「思い切った目標を掲げすぎた」と認めている。
利益についても、経常利益40億円の計画に対して30億円の見込み。しかし、04年度の業績をフュージョンが外れた場合でみると赤字だった。「利益を確保できる体制が整った」とアピールするのもうなずける。
今後は、売上高を伸ばす体制構築もカギを握りそうだ。売上高の増加による利益増も必要といえるからだ。“連携”というキーワードを掲げ、グループをはじめ、さまざまなベンダーとのアライアンスを模索している。手腕の見せ所だ。(郁)
プロフィール
辻 孝夫
(つじ たかお)1949年9月28日生まれ。73年4月、日商岩井に入社。電子システム部長代理、社長付次長などを歴任。99年日商エレクトロニクスに入社。オープンシステムビジネス本部ネットワーク事業部長、取締役テレコムインフラ営業統括部ITインフラ営業統括部担当、常務取締役事業開発部門副担当などを経て、02年6月に代表取締役社長に就任する。03年6月、代表取締役社長CEOに就任。現在に至る。
会社紹介
今年度は、中期経営計画の最終年度として売上高850億円、経常利益40億円を計画していたが、580億円の売上高、30億円の経常利益になる見通しだ。計画当初から、「思い切った数字を掲げていたため、計画値には届かないものの、社員の業績を伸ばすという意識は高まった」と、辻社長は強調する。
同社はサーバーの販売からネットワークの構築までを網羅したビジネスを手がける。SIとNIの融合が注目を集めるなか、強みを生かして他社との差別化が図れる要素を持っている。