「ITと通信の融合」が喧伝される今、マーケットは劇的に変わりつつある。そうしたなか、ユニアデックスは時代に適合したビジネスを手がけているとして注目を集めている。一見、システム構築や保守・サービス、アウトソーシングという、従来型のビジネスモデルを踏襲しているようにみえるが、その手法は「クラウド・コンピューティング」や「ユニファイド・コミュニケーション」といった時流に乗ったもの。最近では、通信事業者との提携や所属する日本ユニシスグループとの連携強化、仮想化に強いベンダーの子会社化などで新たな一歩も踏み出している。その指揮を執る高橋勉社長に成長戦略を聞いた。
S&I子会社化で課題払拭 IBMとの協業強化進める
──ユニアデックスは日本ユニシスのグループ企業。このたび、同じグループ企業であるネットマークス傘下のS&Iを子会社化しましたが、理由は何ですか。
高橋 これまで当社が抱えていた課題を払拭することが大きな理由です。当社は、システム構築や保守・サービスなどで“ベンダーニュートラル”という立場でビジネス展開してきました。特定のメーカーにこだわらない姿勢だったのです。しかし、実は弱いメーカーが存在する。それがIBMブランドなのです。IBM製品を活用した案件に関しては、ぽっかりと穴が空いていたというのが実情です。この課題は、マルチベンダー化を謳ううえで、どうしてもクリアしなければならなかった。
──確かに、S&IはIBM製品を活用したシステム構築で評価が高いと聞いています。日本IBMの資本が入っていることからも深いパートナーシップを築いていますね。
高橋 そうなんです。S&Iは実に面白い。しかも、仮想化をはじめ最新技術を駆使したシステム案件を獲得できる点でも価値の高い会社です。IBMさんにとっても重要なパートナーといえるでしょう。その点で「子会社化することが最適」と判断したのです。
またこれは、当社だけにメリットをもたらすものではない。これまでのS&Iをみると、200人程度の社員数で事業を手がけてきた。さらに成長していこうとすれば、その規模では無理が生じると感じました。多くの案件が舞い込んできている一方で、さばき切れない状況があるからです。全国展開も図れていない。そこで、当社がもつノウハウを結びつければ、さらに大きなプロジェクト案件を獲得できるのではないかと考えています。
さらに、IBMさんにとってもメリットになるとみています。これまで当社の親会社である日本ユニシスは、IBMさんからしてみればアライアンスという点では何も接点がなかった。(日本ユニシス子会社の)当社と接点が増えれば、日本ユニシスグループとIBMさんの間で新しいビジネスチャンスが生まれる可能性を秘めています。今後は、当社とS&I、IBMさんの3社で協業の強化について話を進めていきます。
──協業の内容は。
高橋 具体的なことはこれからですが、まずはS&Iが得意とするブレードサーバー、それを中心としたネットワークインフラも含めた仮想化ビジネス。それらに当社の全国的なサポート・サービス体制を組み合わせたビジネスを考えています。S&Iが全国展開すればIBM製品の拡販にもつながる。IBMさんにとっても、S&Iを通じてパートナーシップの強化策が打ち出せるようになる。そういった話し合いをしています。
──しかし、日本IBMと日本ユニシスは競合している部分もありますよね。そのあたりのハンドリングは難しそうですが。
高橋 汎用機の時代では競合していたかもしれません。しかし、現在はオープン化の時代。競争して勝つことだけを気にするわけではなくなった。ある所ではぶつかり、ある所では協業するというケースは、ほかのベンダーさんでもよくあることです。マーケット自体が競合と協業が混ざり合っている環境なんですから、全く問題ないでしょう。
──ユニアデックスとして組織体制など強化することはありますか。
高橋 どちらかといえば、S&Iの組織体制の強化に重きを置いています。当社から複数の役員がS&Iに出向し、IBMさんとの協業を含めてS&Iの成長にとってどのような絵が描けるかを検討している段階です。
──ネットマークスは子会社を自由にしていた感があった。ユニアデックスは“成人した子供を再教育する”ということですか。
高橋 大きな成長を遂げてもらうことを最大限に意識しています。また、連携することがお互いの弱みを強みに変えることにもつながると考えています。
“新しい一歩”を踏み出せた SMB市場の開拓も視野に
──S&Iの子会社化だけでなく、さまざまなアライアンスを進めていますね。昨年度をみると、KDDIとの提携をビジネスとして本格化させたほか、ネットマークスとの連携強化などがあります。振り返ってみていかがですか。
高橋 昨年度で設立から11年が経過し、設立当初から描いているマルチベンダーのシステム・サービス提供が今の環境に適合してきたと実感しています。これは、あくまでも顧客視点に立った考えをもったからで、これからも変わりません。S&Iの子会社化もニーズに応えるために踏み切りました。
──国内マーケットについては、どのようにみていますか。
高橋 劇的に環境が変わってきている。オープン化はもちろんですが、企業が内部でシステムをもたないという傾向も出てきている。ハードウェア分野でのアウトソーシング、ソフトウェア分野ではSaaSが良い例です。これは、リソースの保有から利用という傾向が高まっているからです。「クラウド・コンピューティング」といった言葉も、今の環境を示しているといえます。また、ITと通信の融合も進んでいます。「ユニファイド・コミュニケーション」に代表されるように、データや音声、映像などがシームレスに連動する環境が当たり前になる。こうした環境に、ベンダーは対応していかなければならない。
──そのために、昨年度から新しいアライアンス強化を図ってきたと。
高橋 その通りです。とくにKDDIさんとの提携は、「ITと通信の融合」という点で非常に大きい。回線サービスの提供から、ITシステムやネットワークインフラの構築、保守までワンストップで提供できるようになった。また、ネットマークスとの連携では、ユニファイド・コミュニケーションの分野でビジネスチャンスが一段と広がった。会社設立から11年目だった昨年度は新しい一歩を記せた年だったといえます。
──業績についてはいかがでしたか。
高橋 売り上げについていえば、規模の拡大が図れたといえます。今年度も着実に伸びると確信しています。
──確かにマーケットは変化しています。そのなかで業界が抱える課題は何ですか。
高橋 業界の課題というよりも、環境の変化にともなって「顧客がシステムやネットワークをどう使っていくのか」が分からなくなっています。このことは重大な問題といえます。劇的に変わっているということは、技術革新のテンポが速いということ。そんな状況のなかで、ユーザーはITシステムや通信インフラの最適利用や運用に困っているのです。例えば、社内でシステムを所有している顧客への一貫サポートは必須です。当社ではITと通信のライフサイクルマネジメントをサービス化しており、システム構築、運用、廃棄までのコンサルティングも提供しています。
──ほかにも、課題としてSMB(中堅・中小企業)のIT化が挙げられますね。
高橋 SMBに対して積極的なアプローチを行い、IT化の普及に寄与していきたいと考えています。実は、大企業顧客が中心の当社にとって、SMBビジネスの本格化は新たなビジネスチャンスです。KDDIさんとの提携は、回線サービスという切り口からSMBに入り込むためのものでもあります。それだけではなく、最近では日本ユニシスグループ全体で(SaaSなど)ICT事業の強化を図っています。このように今後は、顧客の裾野を広げていくことにも力を入れていきます。
My favorite 愛用している日産自動車のスポーツカー「ニッサンGT-R」のキー。日産が最新モデルを発表したのと同時に予約を入れたそうだ。大のクルマ好きで、「速い車ばかり乗ってきた」。「GT-R」は国産車で最も速いといわれているだけに、少し“スピード狂”の傾向も。ちなみに、以前は「フェアレディZ」に乗っていたそうだ。夢は「レースに出ること」なのだとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ユニアデックスの将来像について、「今風でいえば、『クラウド・コンピューティング』でトップを狙うことですかね」と頬を緩める。今のビジネスモデルは一朝一夕で構築したわけではない。地道に築き上げてきた。だからこそ、主導権を握れる自信があるのかもしれない。
しかし、単独でトップを目指そうとはしていない。だから、通信事業者を含め数々のベンダーとアライアンスを進めてきた。「外資系メーカー製品の保守・サポートから始まったのが当社。外資系に馴染んでいるからこそ、アライアンスを組むのは得意。新しい時代が訪れているなかで、市場で存在感をみせるためには、積極的に協業を進めていきますよ」と語る。また、このほど日本ユニシスがSaaS事業に本腰を入れることを発表した。同事業拡大にもアライアンスは重要。ユニアデックスが中核の1社になることは間違いない。(郁)
プロフィール
高橋 勉
(たかはし つとむ)1948年8月12日、群馬県出身。71年3月、群馬大学工学部卒業、同年4月に日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。93年4月、同社のカスタマーサービス推進本部カスタマーサービス管理部部長に就任。97年4月、ユニアデックスの取締役企画部長に就任する。その後、常務執行役員や取締役常務執行役員、取締役専務執行役員、代表取締役専務執行役員などを経て、05年10月に代表取締役社長に就任する。07年4月、日本ユニシスの常務執行役員にも就任。現在に至る。
会社紹介
ユニアデックス株式会社は1997年に日本ユニシスの子会社として設立された。
複数メーカーのコンピュータシステムやネットワークインフラの構築と運用、サポートを提供できる“マルチベンダー化”が特徴。最近は、KDDIとの提携による回線サービスを含めたインフラ提供、ネットマークスとの連携強化によるユニファイド・コミュニケーション分野でのビジネス展開などで事業領域を広げている。日本ユニシスグループがSaaS事業の本格化を発表したことにともない、SMB市場に乗り出す可能性も秘めている。