日本オラクルが日本IBM出身の遠藤隆雄・新社長を迎え、8年間続いた長期政権後の「第2巻」を開く。「『ITの部品屋』からの脱皮」を図り、矢継ぎ早の買収で得た業務アプリケーションを武器に「トータルソリューションを提供する」ベンダーへの変貌を目指すという。一昨年度(2007年3月期)に売上高が目標の1000億円を突破。新宅正明・前社長が築いた“礎”の上に何を建てるのか、その動きが注目される。
日本IBMでの経験生かし トータルソリューションを
──日本IBMから移籍し日本オラクル社長に就任して早々、「オラクル進化論の第2巻」の「グランドデザインを描く」という大仕事の実行を宣言しました。
遠藤 日本IBM在籍時には、大きな変革を乗り越えてきた経験があります。1993年は日本IBMの歴史で1回しか経験のない赤字決算を余儀なくされた年ですが、当時の(北城恪太郎)新社長に社内改革を任されました。今回の日本オラクル社長という仕事も、かなりのイノベーションですよ。ですが、日本IBM時代の経験などもあって、「やってみよう」という気になったのです。
──日本IBM時代の話題を続けて申し訳ないですが、当時の窮状をどう立て直しましたか。
遠藤 日本IBMは大型コンピュータでとても利益を上げていた。圧倒的シェアと高利益が会社を支えた。しかし、93年頃になると伸び悩み、へこんできた。その間、有効な手を打てずに「大型コンピュータをもっと拡販しろ」と固執し続け、結果、赤字転落したのです。そこで、会社を再生するために、事業構造をガラリと変えようと考え、人材構造や業務プロセスなどを大幅に見直しました。
これを「1年でやれ」という指示でしたからね。今の日本オラクルが抱える課題を解決するのに比べれば、100倍は大変だったと思いますよ。“マグニチュード”は相当な大きさで、それをやり切ったわけですから。
──ところで、日本オラクルは「第2巻」を開く必要があるほど、大きな変革の時期にさしかかっているのですか。
遠藤 抱える課題は当然ありますが、そんなに大きな変革は必要ないと感じています。つまりは「(買収などで)譲り受けたアプリケーションを生かして業績を伸ばす」ということで、「ITの部品屋」から「トータルソリューションを提供するベンダー」に向かうという、極めてまともな方向性であり、何も難しい方向に動こうとしているわけではないのです。要は、全社員の意識改革が重要で、ほとんどの社員はそう思っているので、(この意識改革は)そんなに難しくないと考えていますよ。
──新社長は何かを変えることを目的にしがちで、方向性を見誤るといった例をよく見聞きします。
遠藤 日本IBMが苦しんだ時代と、今の日本オラクルが置かれている環境は違います。当時の日本IBMは「赤字」。一方、日本オラクルは「黒字」で利益率も高い。毎年成長し続けているにもかかわらず、「(意識改革など)変革は必要なの?」という疑問がある。そういうことから、日本オラクル社員の危機感の持ち方に温度差があることは理解しています。
──意識変革も大切ですが、親会社の米オラクルが相次いで買収した製品を、日本市場でいち早く展開することが重要なのでは。
遠藤 親会社で買収した製品を生かして、具体的な事業に落とし込み、主力製品に仕立てて、われわれ自身が売っていくことは、かなりのチャレンジだと思います。ただ、この会社は、すでにそれをやってきているんです。
確かに、日本IBMに在籍当時、外部から見ていて旧米ピープルソフトを買収した時は、あまり上手に移行できていないように感じていました。しかし最近、米BEAシステムズを買収した際には事業統合をうまくやれる体力がついていたのです。BI(ビジネス・インテリジェンス)大手の米ハイペリオンを買収した時でもそうですが、既存事業にスムーズに統合できた。今後は、これらの製品を積極的に活用して中核事業にする。昨年と今年に買収したものが、早くも当社の基幹製品になっているんですよ。信じられないことでしょう。
──同様の買収劇はIBMにもありました。
遠藤 米IBMが買収してきたソフトウェアは、システムの周囲を埋めるだけの“傍系”の製品じゃないですか。米オラクルの場合は、基幹製品を買収してきたので、この点が違う。
──そうしますと、あまり課題らしい課題が見当たりませんね。
遠藤 ですから、大きな課題は「社員の危機感の温度差」なんです。「フォローウインド」を受けているなかで、社長1人だけが「このままではいけないぞ」と危機感を煽らなければならないつらさ、分かってもらえますか?
とはいえ、「伸びしろ」より「事業構造」をどうするかが問題です。この5年間に入手した製品が50近くあります。ところが、日本市場でそれらをわれわれ自身が誠実に売ってきたかというと、まだまだです。いまだに、データベース(DB)とEBS(Oracle E─Business Suite=統合基幹業務システム)の会社なのです。そこに苛立ちがあります。売上高の「伸び」云々は結果の話で、これからは中身の問題だと考えています。それを解決するために私が来たわけです。
鋸や鉋売る時代は終わり どんな家を建てるか議論
──遠藤社長のミッションがやっと見えました。その解決を図るには、「ヒト、モノ、カネ」の何をどうしますか。
遠藤 カネはあるので、ヒトとプロセス、会社の仕組みが課題。特にヒトの部分。業務アプリケーションを売るのは、データベースを売ることとまったく違う。直接エンドユーザーに訪問して、ユーザー部門のトップに会って、顧客業務の視点で語りかけ、このソフトがいかに業務改革につながるかを説得する行為が重要になる。導入する製品の話題が出てくるのは、交渉の最後なんですよ。
家を建てようと思う顧客に対して、「こんなに切れ味の良い鋸(のこぎり)や鉋(かんな)がある」と説明しても仕方がないですよね。どういう家を建てるかを議論しなければなりません。鋸など「部品の良さを説明するヒト」でなく、「家のデザインを説明するヒト」の存在が重要です。
──先ほど指摘されていた「『ITの部品屋』からの脱皮」ということですね。
遠藤 顧客の業務を深く把握して課題を理解し、それらに対する変革のシナリオを描けること。説得しながら同感を得て、顧客から「ならば、どうやればいいの?」と「HOW」が出てきて初めてITの出番が回ってきます。「WHAT」の議論なくして「HOW」の議論をしようとしていたのがこれまでの日本オラクルなんですよ。
──いままでは、家の設計をパートナーのSIerなどが手がけ、鋸や鉋といった部品を日本オラクルが提供していた、と。
遠藤 そうそう、いままで「部品の良さ」を説明していたヒトが、「住みやすさ」や「快適さ」──などを語らなければいけない。もの凄いチャレンジでしょ? 鋸や鉋はディストリビュータみたいな工務店経由で買えばいいけれど、ソリューションとなると「オラクルベースにしたい」と顧客は最初から簡単に言ってくれない。当社は家を建てられないので、デリバリーはパートナー頼みです。しかし、顧客が「実際にこの家がほしい」と言ってくれるまでは、当社が先導役を引き受けるしかないんですよ。
──遠藤社長は囲碁を嗜むと聞いています。近く発表する「中期経営計画」では、第一手の布石をどう打ちますか。
遠藤 一手じゃ足りないから、ほんとは五手ぐらい打ちたいんだけど、それは反則ですから(笑)。一つ一つやると面倒なので、社員に全体像を見せてできるところから速やかに実行します。
My favorite 趣味は囲碁で、対局に使う碁盤と碁石が“宝物”。遠藤社長は「安物」と謙遜するが、高価な「榧(かや)製」にもみえる。取材の終盤には、今後の会社の展開図をこの碁盤を使って示してくれた。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日本IBMの役員から転じた社長ということで、構えずに取材に臨んだが、ここまで人当たりのいい人物とは想像していなかった。冗談を交えながら、分かりやすい喩えを使って淡々と説明し、メリハリのある話しぶりだ。会話の小気味良さに「陶酔してしまう」というと大げさだが、後味がいい。
囲碁が趣味で、日本IBM時代も囲碁部に在籍した。社長就任会見では、「大局観を持って布石を打つ」と抱負を語った。「社内外の情勢や全体を見渡し、次の一手を打つ」ということだが、成長著しい今の日本オラクルに最適の言葉だろう。
成長し続けた8年間を支え続けた新宅正明・前社長(現代表取締役会長)から「次のグランドデザインを描く」ことを託され、普通ならば耐えられないところだが、当人は意に介していない。むしろ、日本オラクルの“弱点”を見抜いた様子。競合他社にとっては、手強い相手だろう。(吾)
プロフィール
遠藤 隆雄
(えんどう たかお)1954年1月生まれ、54歳。1977年3月、東京大学工学部卒業後、同年4月に日本IBMに入社。92年1月に社長補佐を経て、99年に米IBMへ出向。製造・流通サービス事業部長などを経て、01年に取締役インダストリアル・サービス事業部長に就任。翌年にはアジア・パシフィック・インダストリアルサービス・セクターを担当。日本のみならずアジア地域のサービス事業を統括。06年1月に常務執行役員BTO事業担当。07年8月に同社退職後、08年6月1日付で日本オラクルの代表取締役社長最高経営責任者(CEO)、同年8月に取締役代表執行役社長最高経営責任者に就任した。
会社紹介
日本オラクルは1985年10月、データベース・ベンダー大手の米オラクル日本法人として設立された。99年2月には、米本社を除く世界のオラクル現地法人として唯一、現地の株式市場に上場(東証1部)した。
米オラクルは03年頃から、主力のデータベースやミドルウェアに加え、ERP(統合基幹業務システム)などをもつ大手ベンダーの買収戦略を加速。04年に米ピープルソフト(JDエドワーズ含む)、翌年にCRM(顧客情報管理)世界大手の米シーベルを買収。その後もBI(ビジネス・インテリジェンス)大手のハイペリオンなどを傘下に収め、計50製品ほどを手中に納めた。
日本では、これらの製品を中核にした事業領域を拡大。一昨年度(07年5月期)には売上高が初めて1000億円を突破した。昨年度も売上高が前年度比13.2%増の1141億円、営業利益が同5.3%増の387億円に達し、年々高い成長を記録している。