“スマイルカーブ”明確化
──今年4月からトップに就いて、どのような施策を展開していかれるつもりですか。
安永 過去5年間の改革が第1フェーズだとすれば、今年度からは第2フェーズに突入します。請負化に向けて大きく舵を切り、社員全員の向く方向が変わりました。ただ、よく見てみると“近代化”しきれていない部分がたくさんある。近世にたとえるなら、鉄砲が武器の主流になりつつあるのに、いまだ刀で立ち向かおうとしていたり、近代的な軍隊が必要なのに、組織戦が十分にできないなど、問題点も散見される。そこでわたしは、「ソリューション提案で顧客の経営課題を解決する」「グループシナジーを発揮する」「自ら考え、自ら行動する」という三つのメッセージを発しました。従来の方向性を変えず、それをより伸ばすことが狙いです。
──具体的にいえば、どういうことでしょうか。
安永 まず、「ソリューション」の部分ですが、当社独自の商材を増やしていきます。正直なところ、現時点で主力と呼べる独自商材は、電子カルテなど医療業界向けITシステム、認証システムなどセキュリティ系、連結会計の経営シミュレーションといった分野のみ。電子カルテは九州の病院で実際にシステムを開発した実績とノウハウをもとに、自社商材化して横展開するものです。ただ、この3分野に取り立てて関連があるわけではないので、もっと当社らしい強みを出せるよう体系化していく必要があると考えています。
「グループシナジー」は、コンサルティング→開発→運用に至る“スマイルカーブ”をしっかり出していくことです。コンサルと運用は高い粗利が見込めますが、開発はコストが膨らんで粗利が低くなる傾向がある。上流から下流にかけて粗利率の線を引くと、ちょうど笑っているようなU字型のカーブになるため、スマイルカーブとよく言われます。これまでの当社は開発中心でしたから、コンサルと運用にもっと力を入れる。M&Aやグループ再編は、このスマイルカーブを明確にするという狙いがあるわけです。
三つ目の「自ら考え…」は、今やっている仕事が、顧客のためになるのか。もっといい方法はないのかを常に考えるという意味です。「顧客に言われたからやっている」「前例どおりにやればいい」では、付加価値は生まれません。
──一連の改革を通じた目標、すなわち“あるべき姿”とは…。
安永 独立系SIerでトップグループに入ることです。早い段階で年商300億円、経常利益率10%を目指します。このためには独自商材の拡充やグループシナジー力の向上、M&Aによる競争力の強化など、やるべきことは多い。また、この不況ですから、顧客企業の側も多くの経営課題を抱えているはず。当社はこうした課題の解決を本分とするわけですから、自身の存在価値を高める絶好のチャンスだと捉えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
経営に直接関わる仕事に携わりたい──。そう願って情報技術開発に入社した。外資系から“純和風”の会社に移ってきて、何かとギャップも多い。安永登氏は、今年4月1日付で社長に就任。前社長から引き続いて、日本IBM出身のトップは2人連続となる。目標は独立系SIerで「トップグループ入り」することだ。
不況下で、大手SIerが“選択と集中”の名のもとに事業再編を進めるなか、同社は“戦線の拡大”を進める。これまでソフト開発が中心だっただけに、「コンサルティングや運用サービスなど十分に進出できていない領域が多い」とし、積極的なM&Aや独自商材を拡充する。「他社の陣地に攻め入る」と、強気の姿勢を貫く。
その一方で、社内向けには平易な言葉で、分かりやすく経営方針を伝えるなど、野心的な戦略とは裏腹に、温厚な側面を見せる。事業環境は厳しさが増すが、改革を全力で推し進めることで目標に迫る。(寶)
プロフィール
安永 登
(やすなが のぼる)1954年、兵庫県生まれ。78年、早稲田大学理工学部卒業。同年、日本IBM入社。製造業向け営業担当などを経て、2000年、理事。ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)事業を推進。07年、情報技術開発理事。08年、常務取締役。09年4月1日、代表取締役社長就任。
会社紹介
情報技術開発(tdi)は独立系の中堅SIerである。2009年3月期の連結売上高は前年度比7.1%増の202億円。営業利益は同5.3%増の12億円と好調だった。同社が断行した一連の構造改革に加え、大型案件を抱えていたことから不況の影響を受けにくかったことなどが要因。ただ、今年度(10年3月期)見通しの連結売上高は前年度比8.8%減の185億円、営業利益は同10.3%減の11億円と厳しく見積もっている。