「仮想化」の事業領域を拡大
──体制を整備して、ビジネスの領域として拡大していく分野はどこでしょうか。
藤本 まずは仮想化ビジネスです。今年は、これまでにまいた種を刈り取る時期。確実に案件を獲得することにつなげていきます。
また、仮想化は一般オフィスにまで広がっています。新しい顧客が多くいるということです。その獲得に向け、提案も行っていきます。さらに、ユニアデックスの顧客に対する提案なども進めていきます。
──仮想化ビジネスには、新規参入のベンダーが増えています。差異化策はありますか。
藤本 ブレードサーバーを核とした仮想化だけでなく、ストレージやネットワークなどでも「仮想化」をテーマにビジネスを拡大していきます。先ほどの「各分野のビジネス連携」が効果を発揮すると確信しています。さまざまな製品・サービスを組み合わせた仮想化が展開できるようになる。「サーバー仮想化しかできない」「ストレージ仮想化しかできない」ではなく、さまざまな分野を網羅する仮想化の技術力を持っているのが当社の強みです。
──アライアンスについて、お考えのところをお聞かせください。
藤本 まずはユニアデックスとの連携強化です。ユニアデックスと当社の関係は、「親と子」というよりもパートナーといえますね。お互いが、「Win─Win」になることを考える。
ほかにも、さまざまなベンダーとパートナーシップを組んでいきたいと考えています。当社がビジネスとして手がけられる領域は限られています。パートナー同士がお互いの弱い部分を補い、ともに成長できるような協業を組んでいきたいと考えています。
──S&Iは、サーバーについてはIBM製が中心です。マルチベンダー化が当たり前になっている状況のなかで、他社製のサーバーは扱わないのでしょうか。
藤本 他社と同じことをやっても差異化にはつながりません。当社は、あくまでも「軸足はIBM販社」というポジションを貫きます。顧客が他社製品を希望したときは、ユニアデックスと連携でカバーできる。その点では、当社はIBM販社でありながら、ユニアデックスを含めたマルチベンダー化ができています。
──将来を見据えたとき、どのようなビジネスモデルを描いていますか。
藤本 あくまでも「インフラ構築」という基盤を手がけていることに変わりありません。
──しかし、例えば「クラウド」が主流になったときには、ビジネスモデルの変革が求められる可能性がある。どのようなポジションを確保するのですか。
藤本 当社がSaaSやPaaSを提供することはありません。ただ、PaaSを手がけるデータセンターと組んで、SaaSが顧客に広まる仕掛けを作っていきたいとは考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
藤本氏が日本IBMに在籍していた頃、何度か取材したことがある。穏やかな性格は少しも変わっていない。変わったのは、立場がメーカーから販売代理店になったこと。日本IBM時代にパートナー事業に携わった経験を生かし、手腕を発揮することになる。
S&I社長への就任は、既定路線のようにも見える。ユニアデックスは、マルチベンダー化を実現するうえで、唯一、サーバーでIBM製品だけをカバーしていないことが課題だったからだ。日本IBMとユニアデックスの両社を知り、そしてS&Iを理解する人物は、藤本氏しかいないだろう。
しかも、「外部で見ていた以上の大きな可能性」や「“とんがった技術力”でビジネス拡大」など、S&Iの魅力を改めて実感し、その魅力をさらに引き出そうする姿勢が言葉の端々にうかがえた。同社がどんな進化を遂げるか、注視していきたい。(郁)
プロフィール
藤本 司郎
(ふじもと じろう)1957年8月16日生まれ。88年7月、日本IBMに入社。システム製品xSeries&InterlliStation事業部長、パートナー事業営業開発事業部長などを歴任。08年12月、同社を退社。09年1月、ユニアデックス入社。09年4月、エス・アンド・アイの代表取締役社長に就任。
会社紹介
S&Iは07年、親会社のネットマークスが日本ユニシスに買収されたことで、日本ユニシスグループ傘下に入った。予想だにしなかった事態に、社内には大きな衝撃が走ったようだ。その後、08年にグループ会社であるユニアデックスの子会社に。こうした曲折を経て、今年4月に“藤本社長体制”になった経緯がある。