トップ就任初年度の年商が2割減――。組み込みソフトに強みを持つコアは、主要ユーザーである電機・自動車メーカーのコスト削減の直撃を受ける。厳しい状況下でトップのバトンを受け継いだ簗田稔社長は、まず若い社員のパワーを最大限引き出し、競争優位性を高める方針を掲げた。コアならではの独自商材を、組み込みソフトや業務システムの分野で増やすことが業績回復のカギになると考えている。
安藤章司●取材/文 大星直輝●写真
組み込み失速、今回が初めて
──極めて厳しい時期のトップ就任ですが、まず就任後2か月余りの間に実行されたことを教えてください。
簗田 今回の、トップを含む一連の人事は、とにかく若返りを図ろうというものです。前社長の井手(祥司=現取締役相談役)は、種村(良平=代表取締役会長)と同じく創業時からメンバーですが、わたしは創業後の入社組です。年齢でいえば井手より10歳若い。創業からおよそ40年が経っており、世代交代を促進しなければ時代の流れに追いつけない。言い換えれば、若い人たちの力を最大限に引き出し、次世代の新しいコアを創り上げることがわたしの大きな使命の一つです。まずは社員にこうしたメッセージを出しました。
──今年度(2010年3月期)は、連結売上高が前年度比で約20%落ち込み、営業利益も同じく10%近く減る見通しを出しておられます。これは、相当、控えめに見積もった数字なのでしょうか。
簗田 足下の受注状況を積み上げた見通しであり、意識的に低く見ているのではありません。ただ、下期に売り上げが偏重する従来からの傾向は、今期に限っては期待できない。上期の状態がそのまま下期も続くことを前提としています。個人的にはこの見通しは必達目標であり、できれば上方修正したい。
──御社は組み込みソフトの開発で高い競争優位性を保ってきました。今回、ここが変調してしまった。
簗田 携帯電話市場が飽和してからは、電機や自動車などの領域へ組み込みソフト事業を拡大させてきました。ところが、今回の不況によって製造業が大打撃を受け、組み込みソフト開発の規模縮小や延期が相次いだ。さらに、ユーザー企業グループ内に開発人員の余剰感が強まり、内製化を進めるケースも当面は続く。ここ1~2年は辛抱するしかないと考えています。
──業績を回復させるための抜本的な対策はないものでしょうか。
簗田 特効薬的な奇策はありません。顧客満足度を高め、自らの技術水準を高める努力を怠らず、なおかつ独創性あふれるオリジナルな商材を多数つくりだすことに尽きます。
──1990年代のバブル崩壊後、情報サービス産業は壊滅的な打撃を受けました。御社も当時、売り上げが3割減ったとうかがっています。そのときの教訓が今回の経済危機で生かされなかったのか、と。
簗田 当時はまだ“組み込みソフト”という言葉が一般的ではなく、マイコンと呼ばれていました。わたしはマイコンの開発に従事していましたが、マイコンそのものはそれほど打撃を受けなかったんですよ。家電や通信機などに組み込まれる制御用マイコンは、飾りでつけるものではなく、絶対に必要な基幹部品であり、底堅い需要があったためだと思います。もちろん会社全体で見れば厳しいというのは知っていました。90年代のバブルの教訓を生かせなかったのか、という問いについては、当時はマイコンしかなく、大規模な組み込みソフトという存在がなかった、と言わざるを得ません。汎用的な業務システムの開発だけでは特徴が出せないため、マイコンをベースに組み込みソフトへと戦略的に事業を伸ばしてきた。つまり「組み込みソフトがここまで落ちる経験は、今回が初めて」というのが正直なところです。
ユーザー企業のビジネスの核心(コア)を担うことが、競争力の強化の源泉。
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