オリジナル商材の開発を加速
──組み込みソフト開発も、規模が大きくなるにつれて、徐々に一般業務ソフトの開発と変わらなくなってきたという側面はありませんか。それで景気後退の影響を受けやすくなった…。
簗田 このタイミングでインタビューを受けるべきではなかったのかな?
──言葉足らずで申し訳ありません。組み込みソフトで強い御社だけに、どうしても気になってしまいました。御社でさえこのような状況なら、組み込みソフトビジネスそのものに懐疑的になってしまいます。
簗田 今回の経済危機がある種のバブル崩壊であり、それを完全に防ぐ手立てがなかったとするならば、組み込みソフトの需要変動も経済活動の帰結だと思っています。組み込みソフトに関して、当社はできる限り技術水準の高いハードウェアに近い仕事に軸足を置いてきました。ハードから遠ざかって、アプリケーション寄りになればなるほど、汎用的な開発になり、ライバルが増える。マイコン時代から培ってきたハードウェアのノウハウを存分に生かしたビジネスを展開してきたつもりです。この方向性は、間違っていないと自負しています。
だから、電機メーカーや自動車メーカーにとっての製品開発の中核から外れるような領域には手を出すつもりはありません。例えば、評価ツールや検証サービスなどは、少し景気が後退すると、真っ先に削られる可能性がある。製品をつくるうえで欠かせないコアとなる部分を外さないことが、これ以上、組み込みソフトビジネスを縮小させない重要なポイントだと考えています。
──インタビューの冒頭に、若い人たちの力を引き出すとお話しされましたが、具体的にはどういうことでしょう。
簗田 次代を担う若い人たちには、製品やサービスづくりに貢献してほしい。これまでもIT資産管理や製品ライフサイクル管理、超高感度GPS(全地球測位システム)、地デジ用の高性能電子テロップなど、さまざまな製品をグループの総力を挙げて開発してきました。開発途上ではなかなか採算ベースに乗らないものもあり、社内から一部批判もありましたが、わたしはそれでも独自商材の開発はやるべきだと判断しています。
──業務ソフトや組み込みソフトが大きく落ち込むなかでも、こうしたプロダクト系の落ち込みは少ない、と。
簗田 そうなんですよ。今期見通しでも、絶対額はまだ小さいですが、独自プロダクト系の売り上げはほぼ前年並みで、営業利益ベースでは増益を見込んでいます。好景気のときは“先行投資ばかりでけしからん”と言われたプロダクト系が、不況時には会社全体を底支えする構図になっているのです。
──プロダクト同士の連携や、製品カバー率など、まだ課題はありそうですが、今後期待できそうです。
簗田 だからこそ、若い人たちのパワーが必要なのです。誰もが知っているメジャーな製品・サービスを世の中に打ち出したい。“インテルインサイド”になぞらえれば“コアインサイド”という感じでしょうか。超高感度GPSの知財販売では、すでにいくつか商談がまとまっており、実際に“コアインサイド”の製品が出てくる道筋はついています。社名のコアは“核心”という意味。業務システム、組み込みソフト、プロダクト開発のいずれもユーザー企業の“核心”部分を担っていくことが、当社の競争力増強の源泉になると考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
物腰穏やかな経営者だ。問いに対する答えはどれも短く、インタビューは小刻みに進む。雄弁に語るのではなく、部下や社員の話によく耳を傾けるタイプ。トップに抜擢された理由がここにあると思える。
創業メンバーがそのまま経営陣だった時代は、その存在だけで求心力があった。しかし、経済危機で業績に打撃を受けるなか、コアは今、変革しなければならない。簗田稔社長は、創業以来培ってきた技術やノウハウを基盤とし、若いメンバーのアイデアを最大限引き出すことで変革を推進。社員によく語らせ、自らがよく考える環境をつくり出すことに力点を置く。
側近に聞くと、「判断がぶれない人」という。下から上がってきたさまざまなプロジェクトを吟味し、行けると思ったら素早く経営判断を下す。社員の力を結集し、総当たりで戦うしか生き残る道はないと考えているようだ。(寶)
プロフィール
簗田 稔
(やなだ みのる)1954年、青森県生まれ。77年、中央大学理工学部卒業。同年、システムコア(現コア)入社。91年、SIサービス統括本部マイコンシステム部長。97年、人事本部担当本部長。03年、理事中四国カンパニー社長。05年、執行役員中四国カンパニー社長。08年、取締役常務執行役員エンベデッドソリューションカンパニー社長。09年4月1日、コアの代表取締役社長に就任。
会社紹介
中堅・独立系SIerのコア。昨年度(2009年3月期)の連結売上高は前年度比4.5%減の250億円、営業利益は同6.4%減の11億円と、世界同時不況の影響をもろに受けた。今年度(10年3月期)の連結売上高は同20.1%減の200億円、営業利益は同9.3%減の10億円の厳しい見通しを示す。強みの組み込みソフト事業の今期売上高は前年度比28.0%減、同事業の営業利益は34.1%減の見込み。経営体制を刷新し、全社総力を挙げて改革に臨む。