新ERPでユーザーのすそ野拡大
──従来の業務パッケージ「NCくんシリーズ」は2000システム以上の導入実績がありますね。新しい「GrowOne Cube」を発売したことで、どのような位置づけになるのでしょうか。
横山 「NCくんシリーズ」は、それぞれパッケージが独立しています。業務システムのなかでも、給与システムだけ更新しようという場合もあるわけで、単独業務の高効率化を求める顧客は、今までのパッケージを入れることもあるでしょう。基幹業務からすべて刷新するお客様には「GrowOne Cube」を提案するよう営業は動いています。「GrowOne Cube」のメリットは、段階的に導入し、例えば1年後にERPとして完了する方法もとれることです。現実的には、すでに人事システムの「NC人くん」や給与システムの「NC給くん」などが入っている場合、構成の問題もあるのでしばらく併売します。新規顧客には「GrowOne Cube」を勧めますし、現行の業種・業態別のパッケージもバージョンアップを機にいずれ「GrowOne」の大きなブランド体系のなかに組み入れていくことを視野に入れています。
──新パッケージ発売に当たって専門の営業部隊は組織されますか
横山 従来のパッケージ専門営業部隊がそのまま核として動きます。新しいパッケージ展開に当たっては、当社は全国に支店がありますが、本社を中心として開発段階から「GrowOne Cubeプロジェクト」を組織し、営業、SEが一緒に拡販施策やどのように売り上げを立てるかを議論してきました。
──後継製品の位置づけとするなら、提案先ユーザーは従来と同じ規模がメインとなりますか。
横山 これまでは年商50億円から100億円のSMBが対象ですが、ミッドレンジから製品が入るとみています。導入の仕方はERPですし、少し上のレイヤーを狙うことも考えています。他のソリューションベンダーさんはSMBクラスをどう攻めるかに頭を悩ませていますが、当社は逆にこの製品をもって年商200億円くらいのところまで製品のすそ野を広げていけると思っています。実際に、その企業規模のお客様から注文が来ていますし。
──さまざまな業種向けシステムを手がけておられます。新年度、あえて力を入れる業界は?
横山 公共関連は手堅い。国公立大学の財務会計システムが一斉にリプレース時期を迎えています。以前に国公立大学を担当した人材を再び引き戻し、力を入れているところです。ちょうど今、入札合戦なのであまり詳しい内容には触れられませんが、新しいパッケージ「GrowOne 財務会計」はかなり順調に注文をいただいています。
──今年の目標売上高は? それに向けてどういった事業を強化しますか。
横山 目標は230億円。事業の強化点は昨年と変わりませんが、一つはパッケージビジネスをより拡大したい。日本のソフトウェア業界は人月単価で、どうも人売り商売的な面が嫌でね。お客様に提供する機能を評価してもらい、対価をいただく考え方で、パッケージをメインにしないと、この業界はなかなか自立しないだろうと思います。
また、お客様の情報システム部門担当の方の話を聞くと、すごく忙しいと聞きます。間接部門だけにコスト抑制の対象にされ、「人が増えない」ためです。情報システムを自社の利益のためにどのように活用すればいいか、経営サイドに相当近いところで提案しないといけない。お客様はシステムを運用する時間がないでしょうから、ASPサービスはより増加していくとみています。また、先ほど言ったようにハードはセキュリティ強化、ロードバランサーのようなアプライアンスを積極的に展開します。パッケージ、ASP、アプライアンスの三つで、引き続き成長を実現したいと思っています。アウトソーシングをとってみると、健康保険管理組合システムを運用していますが、「組合員の通知書の印刷・郵送」というお仕事をいただけるようになりました。単にパッケージのホスティングから、面白い付帯業務が生まれてきています。
──業務全般に関わるアウトソーシングをしたいとおっしゃっていましたね。
横山 現実にそうなってきていますね。これから楽しみです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
話すと、少し栃木のなまりがあって、気さくで実直な人柄が伝わってくる。「もともと俺、超文系だから(笑)。日立で設計部長だったときが一番つらかった。高校の物理の教科書持ってきてさ」と明かす。
大学は本人曰く「超文系」の文学部。お気に入りの本に挙げていただいたヘミングウェイは、英文学の先生の影響で好きになったそうだ。
「ヘミングウェイの源流を求めて」には、ヘミングウェイが立ち寄ったカフェやホテルが事細かに記されている。横山社長は、この本を携えて縁(ゆかり)の場所を回ったほどの熱心なファンだ。
創業から35年という歴史があるニッセイコム。長年、中堅・中小企業の痒いところに手の届くようなニッチなシステムを手がけてきた。同書に学ぶような「きめ細かい目と繊細な神経」は、同社にも息づいているのだろうか。(環)
プロフィール
横山 茂郎
(よこやま しげろう)1946年、栃木県生まれ。70年、慶応大学文学部社会学科卒業。同年、日立製作所入社。88年にOA事業部システム技術部長。92年にはオフィスシステム事業部パーソナルコンピュータ本部PCシステム設計部長、98年、PC事業部サーバ本部システム設計部長を務める。99年、情報・通信グループPC事業部販売推進本部長兼輸出関連管理センタ員。2001年、情報・通信プラットフォームグループインターネットプラットフォーム事業部販売推進本部長などを歴任。02年、コンピュータ営業本部長を経て、取締役としてニッセイコム入社。同年、代表取締役取締役社長就任。
会社紹介
機械式駐車設備などを手がける日精の子会社「日精ソフトウェアセンター」として1974年に設立。80年に日精コンピュータと改称後、日立の販売会社としてスタート。オフコン時代から中堅・中小向けのカスタムソフトを開発している。特定業種向けの業務パッケージを得意とし、94年より販売している「NCくんシリーズ」は約2200社への導入実績がある。09年、ERPパッケージの「GrowOne Cube」を販売開始。パッケージのほか、ASPサービス、ハード販売などを手がける。昨年度(09年3月期)の売上高は216億円。