新しいDB開発も視野に
──これまでは「ミドルウェアベンダー」の立ち位置で、いまの地盤を築いてきました。これからは、もっとフロントエンドの領域に参入してはどうですか。
内野 われわれは、「情報」にこだわりたいと思っています。蓄積される「情報」そのものに興味があります。そのデータを、どう可視化するかということもそうです。「情報」を形にして表現し、人と人を繋ぐことにフォーカスしてきた。それをもっと追求すると、「情報」そのものの重要性に行き着く。
当社製品の「Dr・Sum EA」はBIツールですけれど、データベース(DB)そのもの。当社はDBまで手がけているわけです。「情報」に対する思いが強いんですよ。
いまある商用RDBMSは、まだ進化の途中で、数値(トランザクション・データ)をどう安全に蓄積するかにフォーカスした“入れ物”にすぎない。企業内の「情報」には、コンテンツもありますし、テキスト情報もある。やるべきところがたくさん残っています。
──飛躍しすぎかもしれませんが、いまのRDBMSに満足せず、新しい概念の製品を開発するということですか。
内野 そんな突飛なモノはすぐにはできませんが、いまあるモノを組み合わせて提供することからはステップアップする可能性はあります。その先には、われわれ自身が「情報を溜め込む領域」をつくる(開発する)ことがあるかもしれません。チューニングや詳細な設定などが必要な“入れ物”ではなく、もっとシンプルなモノとして。
──ウイングアークに「システムプロバイダの○○」などといった冠をつけるとしますと、どんな冠になりますか。
内野 (苦笑しながら)それは難しい質問ですね。ベースは、システムインテグレータ(SIer)のポジションというよりはプロダクトベンダー。やはり素材やミドルウェア、ツールなどを世の中に出していく立場にある。SIerは別に存在しないと、われわれは成り立ちません。
──プロダクト開発中心のベンダーであることに変わりないということですか。
内野 ただ、これから可能性がある領域としてはSaaSの世界がありますね。これを推し進めると、プロダクトだけの提供だけですまなくなり、サービスも拡充する必要が出てくる。「情報」をテーマにして、「情報」にどう価値を付加したサービスを提供するかということが求められてくるでしょう。
その一つの解が、当社が提唱する新コンセプト「アウトプット・パフォーマンス・マネジメント(OPM)」。「情報」を活用するための道具立てを支援するソリューションです。
──創業当時から株式上場を果たすことを目標にしていましたので、当然、現在の年商規模には満足していませんね。
内野 日本の中に世界で戦えるベンダーが出てこなければならない。以前から、当社のようにソフトをメインにするベンダーが、それなりの規模にならないといけないと思っていました。その規模感は、年商100億円ではない。300~500億円では中途半端だし、やはり1000億円に到達しないと。このクラスにならないと世界のメガベンダーと対等に戦えないからです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ウイングアークテクノロジーズをよく知る読者は、今回のインタビューで内野弘幸社長の発する言葉の裏に潜む目論見を知ることができ、面白く感じていただけただろう。そうでない方には、微妙な表現が並んだ曖昧な内容と映ったに違いない。
株式上場を果たす前であり、最近相次ぐ出資関係などが絡んで、どうしても具体論を語りにくい。しかし、日本のソフトウェアベンダーとして世界で活躍できそうな貴重なベンダーであると記者は感じている。
内野社長は「映画『2001年宇宙の旅』を見て、本当にその時代が来るとわくわくしていた」という。少年の頃、コンピュータは万能と信じ、ITの世界へ飛び込んだ。ところが、入ってみると「そうでもない」。この閉塞感を打破することを内野社長は使命とする。「ITには、まだまだできることがある」(内野社長)。この考えと日本人の繊細さをもってすれば、きっと世界へ飛び出せる。(吾)
プロフィール
内野 弘幸
(うちの ひろゆき)1956年12月6日、東京生まれ、52歳。79年、明治学院大学経済学部卒業後、オフィスコンピュータの営業とSE(システム・エンジニア)に従事。92年、パッケージビジネスを先駆けていた翼システムに入社。業種別パッケージ開発分野で新規事業企画を担当。95年、帳票ツールビジネスに携わり、情報企画事業部長として製品の企画開発・プロモーションを主導。04年、同社から専業事業(帳票ツールの開発・販売部門)拡大のため分社独立し、ウイングアークテクノロジーズを設立、代表取締役社長に就任。現在に至る。
会社紹介
ウイングアークテクノロジーズの前身は、1993年に翼システムで帳票ツールの開発・販売の新規ビジネスを行う事業部としてスタート。2004年3月、翼システムから分離・独立し「帳票/レポーティング」分野の専業ソフトウェアベンダーとして設立された。主力の帳票作成・帳票出力ツール「SVF」は1万6000社に導入し、サーバーライセンス数で約8万5000を出荷した実績(09年2月現在)がある。