不況の影響が顕著に現れるなか、トレンドマイクロの業績は堅調に推移している。とくに情報漏えい対策、個人情報取り扱いに関する規制などを背景にDLP(情報漏えい対策)製品が売り上げを伸ばしているほか、競合他社にはない独自の振る舞い検知による企業内ネットワーク監視・レポーティングサービスも導入実績を伸ばしている。さらに、新たに仮想化の商材を投入するとともに、パートナーと協力してサービスビジネスにも力を入れる。
情報漏えい対策など需要伸ばす
──今年も残り1か月を切りました。この不況下にあって、直近の第3四半期(7~9月)の売上高を伸ばしておられますね。けん引役を果たした商材・サービスは何だったのですか。
大三川 法人向けは横ばいだったのですが、新しい兆しがみえてきました。当社が扱う商材のなかでも非常にユニークなものなのですが、DLP(Data Leak Prevention=情報漏えい対策)である「Trend Micro LeakProof(TMLP)」は、第4四半期(10~12月)に入って導入件数が増えています。最近の情報漏えい事故の報道の影響とも思えますが、世界的にも英、米、カナダといった情報漏えいに対するレギュレーション(規制)を明確に定めている国では引き合いが多くなっています。従来のようになんでもかんでも社内の情報を暗号化するのではなく、重要なデータを事前に登録して、社外にデバイスやウェブなどを使って持ち出そうとした場合にそれを遮断したり、セキュリティポリシー違反の警告を立てることによって知らせたりする。これにより、情報の取り扱い方に対する教育を促すといった点で認められ、英国の病院には広く展開されています。
世界各国に工場を抱える企業では、知らないうちにネットワークに侵入され、連鎖的に不正プログラムがダウンロードされるといった脅威にさらされて困っておられるケースが多い。こうした海外拠点、産業機器やレガシーOSを利用していることによってクライアントにエージェントをインストールできない環境でも、ネットワーク監視による内部脅威の「見える化」とレポーティングによる改善、速やかな原因追究ができる「Trend Micro Threat Management Solution(TMS)」が導入実績を伸ばしています。
──2009年は、昨年発表されたクラウドベースのセキュリティ対策基盤「Trend Micro Smart Protection Network(SPN)」が本格稼働した年でもありますね。
大三川 2005年からレピュテーション(評価)技術によるウイルス防護に力を入れてきました。その集大成として今年、Webやe─mail、ファイルといったレピュテーションデータベースを連携し、複合的な脅威に対し、クラウド上からプロアクティブ(事前対策)な防御を実現するウイルス対策の新技術基盤「SPN」を本格稼働し、SPNアーキテクチャを用いた法人向け製品やコンシューマ向け製品の展開を行っています。
コンシューマ向けについていえば、実はヨーロッパでは当社の製品はそんなに有名ではないことから「チャレンジャー」として、今までにない取り組みを始めました。アスーステックコンピューターと協業し、SPNインフラを採用した製品をプリインストールした個人向けPCをグローバル展開することで合意しています。
デバイスにごく小さなエージェントをインストールするだけで、クラウドとクライアント間でのハイブリッド型のセキュリティを実現できるため、スペックの小さいデバイスでも導入することが可能です。国内でもプレイステーション3やプレイステーション・ポータブル、iPod touch、iPhoneでSPNアーキテクチャを利用したWebセキュリティサービスの提供が始まっています。また、法人向けでは、TMSなどで活用されているほか、今後は仮想化環境のセキュリティ対策製品と、当社のSPNを組み合わせることで、リアルタイム性をもったセキュリティを融合することで一気にこの分野のトップリーダーになることを狙っています。
──SPNと組み合わせる仮想化環境のセキュリティ製品とはどのような製品ですか。提供時期は?
大三川 クラウド環境では仮想化技術が非常に重要になっています。従来の物理環境とは異なり、一つのサーバーの中に仮想化技術を使って複数のOSをもった環境が生まれるため、仮想化独自のセキュリティが必要となります。
そこで、カナダのサードブリゲイド社を今年4月に買収をしました。同社は仮想環境における不正侵入検知の技術に優れ、全世界で200社以上の実績をもっている企業です。米国含め海外では「Deep Security」という名前で展開しています。今後グローバルにおける法人向けで大きく伸びる商材だと期待しています。日本でも近くリリースを予定しています。
欧米ではすでに仮想化技術の普及が始まっています。VMwareの普及度合いをみても日本の仮想化市場は欧米に比べて遅れていますが、各社が仮想化環境構築の検討に入っている段階なので、いいタイミングで商材が揃いました。
新しい世界にスピーディに対応し、顧客の環境の変化やペインポイントを理解しなければなりません。
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