岩手県を代表する有力ソフト開発ベンダーのワイズマン。パッケージソフトとクラウド型ASPサービスの巧みな組み合わせで強固な収益基盤を構築してきた。介護福祉向け情報システムでトップクラスのシェアを誇る同社。だが、政府のIT戦略本部が70兆円規模の市場創出の柱の一つに位置づける医療向けでは、大資本との激しい競争が待ち構える。湯澤一美社長に戦略を聞いた。
戦略投資でビジネス優位に
──情報サービス業界の経営環境に明るさが見えるなか、御社は今期(2011年3月期)、経常利益ゼロ円を予想しています。何に資金を使う予定ですか。
湯澤 当社は介護福祉と医療向け業務システムの開発が中心で、産業分野のIT投資とは少しサイクルが異なるのですね。国の政策に大きく左右されるビジネス特性があり、今期予想も、主に政策を見越した先行投資によって利益が一時的に減少するためです。先行投資の中身は、介護福祉の制度改正に対応するリニューアル費用やASP基盤の増強、医事会計システムの新規開発など。どれも今後、当社のビジネスをより優位に進めるための戦略投資ばかりです。
──昨年度(10年3月期)の増収増益の好決算とは対照的です。08年3月期のリーマン・ショック以前、世の中が比較的まったりとした雰囲気の時期に、御社は赤字。これも、産業分野とのサイクルの違いでしょうか。
湯澤 一概にサイクルだけのせいにはできませんが、国の政策と先行投資のタイミングが合わないと業績が悪化します。逆に診療報酬の改定時期などはシステム更改の“特需”で収益性が改善するという“波”があるのは事実です。
──収益の波を改善する方法は?
湯澤 クラウド/SaaS型への移行です。当社ではサービスを始めた時期が早かったこともあり、ASPと昔ながらの呼び方をしていますが、今は、新日鉄ソリューションズのクラウドコンピューティング基盤サービス「absonne(アブソンヌ)」を採用。クラウドを活用したASPサービスの拡大に取り組んでいます。
介護福祉の診療報酬改定は、おおよそ3年に一回のペースであるのですが、客先設置型の従来方式のシステムは、改定のたびにシステムをリニューアルするか、買い替える必要があったのですね。われわれベンダーにとってみると、そのときは大きなビジネスチャンスなのですが、改定時期が過ぎると需要が急減する。この落差を解消するのが月額で料金をいただくASP方式なのです。顧客はASP契約さえすれば、改定時期のシステム更改を気にすることなく、自動的にアップデートされます。当社にとってみれば、毎月、安定的に利用料金をいただくことで、収益を平準化できるメリットがあります。
おかげさまで、当社の介護福祉向けASPサービスは今年2月、ASP/SaaS関連の業界団体ASPICから3年連続で受賞。今年は「ベスト公共部門賞」をいただいています。
──でも、それは同時に“特需”を失うという意味ですよね。
湯澤 これは、市場の成長度合いとの兼ね合いです。つまり、かつてのように介護福祉の事業所が全国あちこちに新設され、市場が拡大している段階では、客先設置型でどんどんシェアを伸ばす。しかし、新規事業所の開設が頭打ちになった今は、段階的に月額料金のASP型へ移行していく。ただ、急に移行すると売り上げが減ってしまいます。一括購入の代金を、毎月分割して支払うようなものですから。単年度ベースでみた売り上げが急減しないよう、段階を踏んでASPの比率を増やしてきました。
たしかに特需はなくなりますが、市場の成熟期においては、収益が不安定になるほうがリスクが大きい。市場の拡大期なら新規事業所からの受注でカバーできますが、成熟期にはあまり期待できません。当社はおかげさまで介護福祉分野ではトップクラスのシェアですので、利便性の高いASP方式を推進することで、さらにシェアを高めていきます。
まずは、2012年の診療報酬と介護報酬の同時改定が狙い目。
医療・介護の相互連携などの政策を注視する。
[次のページ]