大塚商会は、来年7月に「創業50周年」を迎える。クラウドの時代に突入し「売るモノ」が変化する。大塚裕司社長は、それでも「街の電気屋さん」のごとく、「従来のスタンスを変えない」と明言する。幅広い顧客層を背景にした地道な戦略は、50周年の先も揺らぐことはない。ITインフラにサービス、保守サポートの提供と、これらを柱にした「複合提案」を定着させ、事業全体の底上げを目指す。
オフィスに必要なモノはまだまだある
──ITは「モノ売り」から「サービス売り」へと変化しています。その両面をもつ大塚商会の5年後、10年後には、何が中核のビジネスになっていますか。
大塚 基本的には変わらないでしょう。大塚商会はオフィスや事務所など、法人向けにビジネスを展開しています。法人で使う事務機器やサプライ、サービスなどを「お手伝い」しているのが、いまの姿。その「お手伝い」の幅が広がるだけで、メニューは変わらない。
──それはなぜでしょうか。
大塚 現在、「たのめーる」だけ、「電話回線」だけ、という取引先を含め、取引企業(口座開設)は約81万社。このうち、過去に1アイテムだけお取引いただいた企業が、まだ6割もあります。当社が提供しているアイテムは、コンピュータや通信回線、サービス、サポートなど、たくさんあります。いろんな商材を組み合わせ、使われることで、よりITの付加価値が生まれる。1アイテムだけの利用顧客を深掘りするだけで、新たな需要が生まれてきます。
──具体的には、どういうことでしょうか。
大塚 インターネットを使いながら、VoIP環境を整備するのは当然で、そこに情報系のデータを流し、時にはモバイルフォンでそのデータ受け取る、といったIT環境を構築することで、業務を効率化することができます。
──御社の場合は、デジタル複合機(MFP)を使ったソリューションがいい例でしょうか。
大塚 そう。MFPでスキャンやOCRしたデータを当社の情報系ソリューション「eValue」に流して電子管理したり、または非接触ICカード「Felica」などを使って旅費精算を自動化したりなど、さまざま考えられる。MFPを、単にファクスしたり、コピーしたりすることだけに使っていては、付加価値は生まれないわけですよ。顧客の大半には、まだ十分な「お手伝い」ができていない。
──つまり、まだまだやれていないところが、たくさんあるということですか。
大塚 当社では1アイテムしか取引のない企業を「O-One(オーワン)」と呼んでいます。オフィスに必要なモノは七つも八つもある。だから、7倍も8倍もビジネスの可能性があるということです
──御社のアイテムを複合的に利用・購入してもらうために、どんなことをしていく必要がありますか。
大塚 当社の顧客管理&営業支援システム「SPR(Sales Process Re-engineering)」のデータ化や個人の提案力や、ヒアリング能力といったスキルアップなどを効果的に行っていく必要があるでしょう。
──1アイテムだけの利用企業が6割もあるということですが、ここを深掘りするために足りないことは。
大塚 いや、全部足りないですよ。当社は部門の壁をなくしたことで、それぞれがお客さんの立場で提案できるようになってきました。ただ、どうしても自分の売りたいモノを優先してしまう。それが、ある面で「壁」になっている。昨年度(2009年12月期)からは「全製品をお客さんに語っていこう」と、行動スタイルを変えています。
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