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21世紀の大塚商会へ 改革を継続していく
大塚商会 社長 大塚裕司
取材・文/川井直樹 撮影/ミワタダシ
2003/07/28 18:03
週刊BCN 2003年07月28日vol.1000掲載
ミッションステートメントを制定 使命、目標、行動指針を明確化
──社長就任から8月1日で丸2年になります。振り返ると、就任直後の2001年9月11日に米同時多発テロが発生し、世界景気がはっきりと下降局面に入りました。大塚 この2年を自己採点すると、目一杯やってきたということでは100点をつけられるのですが、計画通りにいっていないという点から見れば、50点から甘く見ても60点でしょう。

確かにネットバブルが弾けて、9・11があってと、世界経済に与えるマイナス要因の影響は大きかったと思います。そうした変動はあったのですが、私としてはバブル経済崩壊直後の92年に取締役に就任し、95年からは副社長を務めてきたなかで、株式公開の準備もし、足掛け10年にわたり社内改革を実行してきて、景気低迷にも対応できる体制を作ることに腐心してきました。
つまり、一昨年8月に社長に就任してからは、副社長時代までに考えてきた社内改革の延長線に乗って行けばよかったわけです。社長になって変わったことといえば、それまでは社内改革にしても案を具申すればよかったのですが、社長は最後にディシジョンを下さなければならない。その責任の大きさの違いですね。
この2年間はその重圧を感じながらも、フル回転で活動してきました。社長就任時には、「原点回帰」を掲げ創業時の精神を大事にしていくこともやってきましたが、社内改革を次のレベルにステップアップするために、大塚商会の憲法ともいえる「ミッションステートメント」を定めました。
このミッションステートメントは、社員の行動規範として「使命」、「目標」、「行動指針」の3つからなり、顧客との関係や事業の拡大など、21世紀に大塚商会の目指す姿を言葉に表したものです。小さな魚の群れを上から見ると、鯨ほどの大きさにもなりますが、狭い岩の間でもすり抜けて行ける。そんな柔軟性を持たせたいと思います。この3つのテーマそれぞれで改革を継続していきます。
実は、このミッションステートメントを決めるにも苦労があって、社内をヒアリングして得た膨大なデータや意見をベースに内容を詰めていったのですが、それこそ半年にわたり一字一句にまでこだわって作り上げたんです。
──景気の低迷が長引いたことで昨年度(02年12月期)の業績は減収が続き、営業利益もマイナスとなりました。ですが、ここにきて景気に回復傾向が出てきました。
大塚 今年度(03年12月期)は増収の予想です。上期には、個人ユーザー向けの販売拠点だった「αランド」を閉め、店頭販売から完全に撤退したことによる影響が残ります。しかし、下期はMRO(メンテナンス・リペア&オペレーションズ)事業の中心であるサプライ通信販売「たのめーる」などの事業拡大がカバーする予想です。昨年度にはサービス&サポート事業の売上高が3分の1程度にまで拡大してきました。
実はαランドの撤退は、私個人としても非常に残念なことだと思っています。しかし、たのめーるが好調なことに象徴されるように、販売の形態がリアル店舗中心ではなくなったということです。
ひとことで言ってしまえば、時代が変わったということでしょう。リアル店舗としてのαランドは完全に撤退しましたが、個人ユーザー向けバーチャル店舗としての「αランド.com」は残してあるのもそのためです。リアル店舗とバーチャル店舗の最適な組み合わせということは必要です。けれど、専門店としてのリアル店舗の使命は終わったかな、というのが正直な思いです。ですから、ウェブ・オン・リアル、リアル・オン・リアル…というように、顧客に対して大塚商会からのサービス提供を、リアルとバーチャルの融合により3次元的なマトリクスで行える体制を構築します。
景気全般を見ると、コンピュータ部門では、例えばCADのように市場全体がシュリンクしてしまっている分野もあり、景気の影響を受ける部分と受けない部分の差がはっきりとしてきています。これらを平準化することまでは難しいけど、景気の影響を受けにくくする構造改革も必要になるのではないでしょうか。
体験に基づいたソリューションを提供 「トータル&ワンストップ」が目標
──システム分野ではマイクロソフトがウィンドウズサーバー2003を発表しました。大塚商会でもいち早く採用を決めましたね。大塚 顧客に提案するには、まず自分で使ってみなければ分からない、という発想です。今年2月、千代田区飯田橋に完成した新本社ビルには、今まで7か所に分散していたオフィスを統合しただけでなく、ネットワーク基盤も一新しました。以前は、毎秒128キロビットのISDN回線を使ってきましたが、今回、本社の主要部門は毎秒100メガビットにアップし、地方の支社も毎秒10メガビットの回線でネットワークしています。
本社移転と社内ネットワークの一新を機会として、ウィンドウズサーバー2003のアクティブディレクトリを全社で導入することにしたわけです。マイクロソフトと協力し、β版を徹底的に評価してきました。
取り巻く環境として、64ビットプロセッサも出てきた、ウィンドウズNTのサポートも無くなる──という変化もあり、ウィンドウズサーバー2003が本命だろうと判断したわけです。顧客からのウィンドウズサーバー2003導入のコンサルティング依頼も出始めており、それならばまず自分たちで使ってみて、体験に基づいたソリューションを提供していこうという考えです。
──大塚商会はいま、「トータル&ワンストップソリューションプロバイダ」を標榜しています。
大塚 新本社に移転したメリットの1つに、社内の風通しが良くなったことが挙げられます。それまで7か所のオフィスに分散していた時は、会議を開くのも大変でした。いまは、同じ建物の中にいることでお互いの仕事振りも見えやすくなりましたし、さまざまなシーンで協力することも容易になりました。
コンピュータとコピー機の販売は自ずと違うものですが、顧客がネットワーク環境を向上させるような場合、「コンピュータだから」、「コピーだから」と言ってられません。双方が協力して、最適なソリューションを提供することが必要です。
同じように、ADSLといった回線からネットワーク機器、コンピュータのハード・ソフト、使用していくなかで発生する消耗品の供給など、「大塚商会に頼めば、何でもしてもらえる」という評価をもらうことが、トータル&ワンストップソリューションプロバイダの目標になります。
そのためにも、自らの体験によるスキルアップは重要で、ウィンドウズサーバー2003導入もその1つ。同時に、社内ネットワークの一新により、社内ではIP電話を活用するようになって、従来は2000万円かかった通信費用も、300万円まで削減しました。こうした経験も、顧客にメリットのあるソリューションを提供することにつながるわけです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
かねてより、大塚裕司社長に聞いてみたいことがあった。創業者の大塚実会長と対比して、2代目の経営哲学とはどんなものか?
「会長が徳川家康とすれば、私は秀忠、家光の役割。家康だからこそ関ヶ原を制することができたかもしれない。だが、その後、幕藩体制を確固たるものに築き上げたのは、第2代、第3代将軍の時代」。こんな答えが即座に返ってきた。そのうえで、「会長の時代とは環境の違いこそあるが、経営コンセプトはそんなに違わない」とも。
1961年の創業以来、大塚商会は「顧客満足度の追究」を経営理念に掲げてきた。その考えは今後も変わらない。「顔は十一面観音、体は千手観音で、これからも顧客からの信頼にしっかり応えていきたい」。ソフトな外見、語り口調の割には芯は強そうだ。(夏)
プロフィール
大塚 裕司
(おおつか ゆうじ)1954年2月、東京都生まれ。76年、立教大学経済学部卒業。同年、横浜銀行入稿。80年、リコー入社。81年、大塚商会入社。92年取締役、93年常務取締役、94年専務取締役、95年取締役副社長・代表取締役。01年8月、取締役社長・代表取締役に就任。02年から、サプライチェーン構築に関する世界最大の標準化団体の1つ「ロゼッタネット」の日本における提携コンソーシアム、ロゼッタネットジャパン(RNJ)の副代表を務める。
会社紹介
昨年度(2002年12月期)の連結ベースの業績は、売上高3242億8800万円(前年度比1.2%減)、営業利益79億9000万円(同2.3%減)、経常利益77億6600万円(同1.3%増)、当期純利益24億500万円(同5.0%減)。企業の情報化投資の先送りなどの影響は避けられなかったものの、経常利益は2年連続の最高益更新となった。
売上高のうち、システムインテグレーション事業は2196億9000万円(同4.7%減)にとどまったが、利益率の高いサービス&サポート事業は1033億7900万円(同7.3%増)と、初めて1000億円を突破した。
サービス&サポート事業は、オフィスサプライ通信販売サービス「たのめーる」が、イトーヨーカ堂との提携による品揃え拡充や、システムの機能強化などにより、順調に売り上げを拡大。今年度(03年12月期)はサプライ事業だけで、昨年度の300億円に対し、400億円を見込んでいる。
昨年度には、リアルビジネスとウェブビジネスの融合を図り、顧客の視点に立った商品、サービス、企業の価値を提案する「New-Web戦略」をスタート。さらに、今年2月の新本社ビルの完成に合わせ、大塚商会グループの“憲法”ともいえる「ミッションステートメント」を制定した。今年度の連結業績予想は、売上高3385億円(前年度比4.4%増)、経常利益85億5000万円(同10.1%増)、当期純利益22億円(同8.5%減)と、引き続き経常最高益の更新を見込む。
昨年には、ITを経営に生かせるマネジメント力と技術力、IT活用の成果およびビジョンが評価され、日本オフィスオートメーション協会の「2002年度IT総合賞」を受賞している。
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