Special Issue

<大塚商会特集>大塚裕司社長に聞く今年の戦略

2009/02/05 19:55

週刊BCN 2009年02月02日vol.1270掲載

 2009年度(09年12月期)のスローガンは『ITでオフィスを元気にし、お客様の信頼に応える』だ。“100年に一度”といわれる“経済危機”の最中、幅広い層の顧客をサポートする同社の“強み”である『複合提案』で、国内企業が『元気を取り戻す』施策を打ち出す。このテーマに基づく同社の戦略を大塚裕司社長に聞いた。

ITでオフィスを元気にする『複合提案』で企業を活性化

IT業界を取り巻く環境

 ――2008年は、後半に入る頃から日本経済は“未曾有の経済危機”に突入しました。この1年間のIT業界を取り巻く経済情勢を分析してください。

 大塚
 08年は07年度(07年12月期)の決算発表をした時点(08年2月)で、08年度(08年12月期)の『通期業績予想』を対前年度比でかなり控えめに立てました。その時の感覚は誤っていませんでした。7月1日より、営業だけでなくサポートを含めてお客様との接点となるフロントラインを強化しました。

 下期以降は、8月に不動産会社のアーバンコーポレーションが民事再生法を申請して倒産するなど、建設・不動産業界に厳しさが見え始め、同業界全体のマインドが大幅に下がりました。これに引き続き、『リーマンショック』が世界的にまん延し、市場環境が急激に悪化した影響などを受けて、「9月は9月なりに健闘した」ものの、当社自体は第3四半期(1-9月期)累計では前年同期比で増収ではあるものの減益となりました。

 9月以降は、金融機関の“貸し渋り”などが影響し倒産件数が増え、その業種も広がりを見せています。第4四半期(10-12月期)には『日経平均株価』が最安値に陥るなど、経済全体のマインドが急降下しました。感覚的には、1997-98年に山一證券や北海道拓殖銀行が倒産した“バブル崩壊”と1973年の“オイルショック”を足したような状況といえます。

 金融機関は『日経平均株価』が9000円台を割り込むと“含み損”が出ますので“貸し渋り”などを選択せざるを得ない。08年の1-6月には、原油高などの影響で仕入れ値が急騰しましたが、輪をかけて急速に国内にも不況の波が来たため、高騰した分の価格転嫁ができずに収益を悪化させた企業が続出しました。特に、中小企業への影響は甚大で、従前より厳しい環境になっています。

ストックビジネスのありがたみ

 ――こうしたなかにあっても、大塚商会は顧客を「大企業」「中堅企業」「中小企業」に分類した場合に売上高をバランス良く獲得しています。これは“景気に左右されにくい体質”と見ています。

 大塚
 仮に、各領域で抱えるお客様の『パーク』とオフィス通販『たのめーる』などの“ストックビジネス”がなければ、当社は08年度(08年12月期)通期で前年に比べ大きく落ち込んだ可能性があります。特に、SI(システム・インテグレーション)のハードウェア流通の鈍さは顕著で、“買い控え”が重くのしかかっています。一方、業務ソフトウェアの『SMILE』事業は、受託ソフト開発が伸長して、全体的には堅調でした。

 当然のことですが、幅広い層に広がる当社のお客様も、いまの経済情勢下では“資金繰り”ができなければ倒産の憂き目にあいます。“資金繰り”を含めて企業経営が安定しなければ、経費削減や生産性向上は意味をなさない。当社の営業が『コスト削減提案』をするものの、お客様から「もう少しキャッシュを保持したい」と、IT投資などを手控える傾向があり、『山一・拓銀』当時の状況に酷似しています。

 当社が抱えるお客様の1社(口座)当たりの売上高は、「大企業」「中堅企業」「中小企業」ともに前年割れしています。その中で救いなのは、全体の口座数がこの環境下でも増え続けているということです。07年度は、1社当たりの“年間売上高”が前年度に比べ5-6%程度伸びていましたので、増収効果に大きく貢献していました。08年度は夏ごろからジワジワと“買い控え”が出始めています。国内企業全体がみんなで肩を寄せて小さくなっているように感じます。

流動比率、8年前の倍近く

 ――国内のSIerに聞くと、システム開発の『見込み案件』をクローズするまでに時間を要しているようです。

 大塚
 提案した『見込み案件』の“先延ばし”や“一部凍結”などが増えています。当社は構造上、顧客数が多く“ストックビジネス”のウエイトが高いことで安定的にビジネスが展開できています。SIだけのビジネス展開であれば、冒頭に話した通り、大幅な減収減益となっていたかもしれません。当社の現在の社員数は、98年度(98年12月期)に比べ100人程度しか増えていません。“余計な贅肉”が少ないこともあって、経済不況下で“買い控え”の影響を受けつつも、損益分岐点をキープできています。

 当社のビジネスの構造上、多少売上高が減ったとしても急激に赤字になることは考えにくい。株式上場は00年ですが、当時の“流動比率”は約70%台でしたが、直近で約130%に上昇しており、企業の財務体質は“筋肉質”を維持しています。

 ――一方、08年に比べ09年は『経済不況』が深刻化し、先行き不透明で“不安感”に悩まされそうです。

 大塚
 国会では国の公的資金を予防的に注入する『金融機能強化法』が再可決されました。これにより、金融機関への『セーフティネット』が敷かれました。これが施行されれば中小企業への保証の網など、さまざま助成金の仕組みが動き始めます。これにより、国内経済に安定感が出れば多少市場が動くでしょう。

 逆に、“資金繰り”で企業トップが銀行を走り回ることが最大の課題になっているとしたら(同法で)“資金繰り”が見えてくれば不安感が和らぐ。ただし、世界経済全体がシュリンクするなかで、売り上げを伸ばすのは難しい。これに対し、売り上げが落ちてきた際にどうするかと考える段階で、経費削減や生産性向上などで収益を確保することが求められてきます。

 ――国の経済対策などが効果を上げ始め、“資金繰り”などが最優先で、IT投資に見向きもしなかった企業が、これを機に動き出すということですね。

 大塚
 その時に最も重要な“手段”はITです。09年は『NGN(次世代ネットワーク網)』や『WiMAX(高速無線ネットワーク)』など、通信回線の高速化に関する環境が大きく変化します。しかし、当社ではモバイルフォンを使うことで、社外からの申請・連絡・報告など業務が効率化できていますので、営業担当者に残業費を支給しています。

 そういう意味では、西暦2000年問題(Y2K)当時に起きたシステムの二巡目になる入れ替え需要やサーバー統合、先程来指摘している企業の経費削減策など、やるべき案件が出てくる可能性はあります。こうした需要が生まれた場合には、“単品売り”で勝負するのでなく『複合提案』型にすることで、ソリューションの幅とコスト削減の幅が広がります。このため、従前から強化している当社の仕事の仕方(『複合提案』)にさらに磨きをかけるため、きちんとお客様に“伝える”時間と知識力がキーになります。

 ――大塚商会の強みである『複合提案』は、ますます重要になるということですね。

 大塚
 『複合提案』により、お客様にとっての本当のメリットをうまく“伝える”ことができれば、当社の独自の強みですし、大塚商会が他社と違う取り組みで、『ITでオフィスを元気にする!』ことができます。

 09年度に向け『複合提案』を確立するために、冒頭話した通り、08年7月には部門統合や一部を現場対応型にするなど、お客様との接点を密接にし『提案のキャパシティ』を広げる仕組みにしています。


LED照明が期待の商材

クリックで拡大 ――09年度は、厳しい市場環境のため、粛々と既存事業を進めていかれるでしょうが、そのなかでもいくつか期待をかけていることはありますか。

 大塚
 09年度はいままでの既存事業を継続し、その延長線で成長を目指しますが、新規に業績を上げる要素として08年4月に業務・資本提携したライオン事務器との連携で、システム連動や物流の効率化などで少しずつ寄与してくるでしょう。08年当初に準備してきたことが実を結ぶと考えています。

 異色な商材として期待しているのがオフィスの温室効果ガスを削減することに役立ち消費電力が低い『次世代LED(発光ダイオード)照明』です。08年6月ごろからオフィス通販『たのめーる』のWebサイトに掲載し販売していましたが、大々的にアピールしていませんでした。09年の“目玉”になると見ています。この照明のメーカーでは、某自治体に導入されている99Wや150Wの高出力の製品を持っています。電球1個は高価ですが、4万時間の長寿命ですので、一般オフィスに限らず、自治体や工場の天井などへも需要が伸びると考えています。

 『グリーンIT』に限らず“環境問題”に対する需要は高まると考えられます。例えば、東京都ではガイドラインで“CO2(二酸化炭素)”を削減するよう指示が出ています。09年4月になれば、エコ関連の助成金が自治体などから交付される予定です。報道では、コンビニエンスストアのローソンがこれと同じ照明を導入すると伝えています。当社の新規口座を開設していただくお客様の獲得増にもなりますが、『エコ+コスト削減』の一挙両得で提案しやすいビジネスになりそうです。そのほかは当たり前に事業を進めるだけです。

SMILEシリーズは新製品にシフト

 ――一方、ソフトウェア事業で中核の『SMILE』シリーズは、どんな進化を遂げることになりますか。

 大塚
 大塚商会では、OSK製の中小企業向け業務ソフトウェア『SMILEαAD』は08年12月で受注を停止し『SMILE BS』に切り替えます。また『SMILE BS』の上位版の新製品が発表されますので、それらもあわせて積極的に販売していきます。

 ――09年2月から開催の自社イベント『実践ソリューションフェア2009』にも関連しますが、今期はどんなテーマを掲げていますか。

 大塚
 変わらないことが大切です。いつもお客様の目線でITを考えていくということが重要と考えています。今期のフェアのテーマは『ITでオフィスを元気にする!』です。
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